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第1話 「Everyday is busy and fun.」〜忙しくも楽しい毎日〜

 この話は「創世のファンタジア」に入れようと思っていた話なのですが、とある理由から外伝という形で出す事にしました。


 本編とリンクした話ですので、本編が終了するまでにこの話は終わります。

 そんなに長くはないと思うので良ければお付き合いください。


 この話の主人公は、「Loon's (ルーンズ)」とあるように、ルーンからきた留学生5人です。

 

 なぜ外伝にしたのかは後書きで。

 

 9月。

 これは勇児がザール王国で遺跡発掘をしていた頃の話である。


 入学式を終え、ガボラ達5人は『王立軍学校(おうりつぐんがっこう) 初等部』の生徒となった。


 着物姿も様になり、毎朝お幸の作ってくれるお弁当を携え、背中に大きな風呂敷を背負いながら、瞳と一緒にニコニコと5人揃って学校へと向かう子供達。

 お幸は門前で子供達に手を振りながら、子供達と勇児が子供の頃に思いを馳せた。


 源助と勇児は毎朝5時には起床し、八雲か源造に稽古をつけてもらってから、まだ足りないの?と言わんばかりに朝食を食べてから学校に向かう。


 一方、瞳はいつもギリギリまで寝ているので、朝食を寝ぼけまなこで食べ終えると、慌てて学校に向かう。


「お兄ちゃんまってぇー!」


「早くしないと遅れちゃうよ!」


 半べそをかきながら慌てる瞳と、急かす源助。それをニコニコとしながら見ている勇児。


 そんな光景が篠崎家の朝の恒例であった。


 ある時、瞳が学校に行く準備が終わっておらず、朝になってバタバタとしだした時があった。

 結局、遅刻ギリギリで瞳の支度が整ったのだが、間に合わないと思った源助が玄関で瞳に


「間に合わないからおんぶしてやるよ。」


 と言ったら瞳が泣きそうな顔で


「勇ちゃんの方がいい…。」


 と言った時は、その場にいたみんなが大笑いした。


 勇児は笑いながら瞳をおんぶするわ、源助は源助で


「なんだよそれ。」


 と言って笑いだすわで朝から大変だった。


 今、お幸は自分が幸せだと思う。


 幼い頃に家族を失くし天涯孤独となったが、紆余曲折を経てルーン王国で料理人をしていた時、源造と出会って2人の子供の母となった。


 他人がどう思うかなんてどうでもいいし、そもそも考えた事もないが、忙しさに追われる毎日に何の不安もないし、新しく来た子供達の世話をするのも楽しい。

 日々、忙殺されていく生活の中で、子供達の笑顔は一服の清涼剤とも言える。

 

 夫の源造も子供達が来てから何やら楽しそうだ。


 出会った瞬間、子供達に「怖い。」だの「喰われる。」などと言われてはいたが、今では子供達の方から我先に源造に「遊んで〜。」と行くのだから、当然と言えば当然かも知れない。


 時に…いや!ほぼ毎日、源造と子供達は白熱した戦いを繰り広げる。


 そう、それは食事の時間だ。

 今の篠崎家に「遠慮の塊」という言葉はない。


 唐揚げやコロッケ、天ぷらなどの子供の好きなおかずの時は、最後の一個を巡って壮絶なバトルが繰り広げられるのだが、源造はそれに必ず参加するのだ。


 子供達は源造の参戦を心から歓迎はしていない。だからといって文句も言わない。

 ただ目の前にいる敵を全て蹴散らし、自分が栄光を手に入れる事のみを夢見て、我がこぶしを振るうのだ。


 子供達は知っているのだ。最後の1個は戦いでしか得られないと言う事を……。

 そして、敗者達の羨望の眼差しを受けながら、堂々と食べる最後の一個がどれだけ旨いかを……。

 

 本編をお読みになられた方はご存知だろう。

 この戦いの後、寝る前にはもっと激しい戦いが待っている。

 言わばこの戦いは前哨戦なのだ。


 だからといって手を抜くわけではない。出来ればここで勝利を手にし、その勢いのまま、本番を迎えたいと言うのが本音だ。


 食事も終盤を迎え、大皿に乗った唐揚げが次々と姿を消していく。

 ガボラはご飯を食べながら、バトルルールの確認作業に入る。


ルールその1


 「お茶碗にご飯が残っていないとバトルには参戦出来ない。」 


 篠崎家の食卓では、おかずだけを楽しむと言う贅沢は許されない。おかずはあくまでご飯とセットだ。


 ガボラはチラホラと周りのお茶碗の様子を伺う。


 子供達が全員と源造は参加確定だが、問題は大人チームの源助、お幸、瞳だ。


 お幸と瞳はまず参戦しない。瞳は甘い物が好きなので、おやつの時は警戒しなければならない相手ではあるが、おかずには参戦しない。


 問題は源助だ。ヤツの行動は掴めない。何しろ何が好物なのかもわからない、データ不足の状態なのだ。


 ガボラが周りの様子を伺っていると、モチラとアイラと目があった。2人はガボラに不敵な笑みを浮かべると、黙って視線を外した。

 バトルはすでに始まっているのだ。


ルールその2


 「最後から2個目を食べた者は参戦出来ない。」


 これはそのままだ。2個立て続けにおかずを食べると言う暴挙は、篠崎家の食卓では許されていない。


 最後から2個目の唐揚げをつまみ上げたのは、瞳だった。子供達は慌てて自分のお茶碗を確認する。


ルールその3


 「参戦時にお茶碗の上に他のおかずがあってはならない。」


 参戦時のお茶碗の上に、たとえ昆布の切れ端一つでもあってはならない。

 それは「私は最後の1個を食事の締めにしたい。」という意思表示なのだ。

 その証拠にモチラが慌ててご飯を口に運んだ。

 ガボラとアイラはニヤリと笑う。


 今日の白菜の漬物でも残っていたのだろう。明らかな凡ミスである。


ルールその4


 「参加者は大皿に自分の箸を置き、口の中を見せる。」


 瞳が最後から2個目の唐揚げを自分の小皿に乗せた瞬間、子供達は一斉に箸先を大皿に乗せ、口を開ける。

 全員、口の中は空っぽだ。


 源造もゆっくりと箸を置き、口にを開けた。

 源造の口の中も空っぽだ。


 さぁ!いよいよバトルの開始だ!


 参加者は5人の子供達と源造の6人。子供達は立ち上がり戦闘態勢に入る。


 審判員(ジャッジ)のお幸がゆっくりと言った。


 「じゃーんけーんポイッ!」


 勝負は一瞬で決まった。


 力強く握りしめられた5本の小さな手の中に、大きく広げられた大きな手が一本。燦然と眩しく輝く。


 源造はニコニコ顔で箸を手にすると、眩しく輝く最後の1個に手を伸ばす。

 子供達に見せつけるように、わざとゆっくりと持ち上げながら口元に運ぶと、ゆっくりと大きな口を開ける。


 最後の唐揚げが源造の口の中にに収まっていく光景を、子供達はただただ見ていることしか出来なかった。


 敗者に出来る事は勝者に羨望の眼差しを送る事だけだ。


 唐揚げを口の中に放り込んだ源造は、お茶碗を持ち上げ真っ白なご飯を口の中に放り込む。

 うまそうに唐揚げとご飯を食べた源造は言った。


 「最後の1個は格別に旨いなぁ。」


 子供達は席に座ると箸とお茶碗を手に持ち、一斉に漬物の皿に箸を伸ばす。

 他のおかずなどもうない。敗者は漬物でフィニッシュするのが鉄の掟だ。


 余談になるが後年、子供達はこの漬物を「敗者の漬物」「漬物は敗者の味」と名付けた。


 お幸は子供達を見送ると、家の中に戻った。

 やる事はたくさんある。まずは食器洗いから…。そう思ったお幸が台所に入ると、源助が慣れない手つきで食器を洗っていた。


 「あら?珍しい。どうしたの?」


 お幸に声をかけられ、源助が言った。


 「母さんも子供達が来てから忙しいだろ?俺に出来る事があればしようかなって思ってさ。」


 お幸は源助の横に並ぶと源助の顔を見た。いつの間にかこんなにも大きくなったのかと感心する。

 お幸は源助と並んで食器を洗い始めた。


 「どうしたの急に?ガボちゃん達がお手伝いしてくれるから、そんなに忙しくもないわよ。」


 「そうなんだ。ガボとモチとタルは少しづつ木刀に慣れてきたよ。モチなんか、最初は兵隊さんの格好が出来ると思ってたらしくて、がっかりしてたけどね。」


 「朝練の方も頑張ってるのね。」

 

 「木刀の素振りが終わったら忍術なんだけど、今は鬼ごっこから始めてるよ。それが終わったら道場の掃除だね。」


 「鬼ごっこ!懐かしいわね。源助と勇ちゃんもやってたわね。」

 

 「そうだね。だんだんきつくなっていくんだけどね。」


 「そうね。」


 そう言うと2人は笑った。


 「それにしても、いい子達が来てよかったわ。」


 「そう言えばさ、子供達が来てから大皿料理が増えたよね?なんで?」


 「あれは源ちゃんから頼まれたの。子供達が遠慮なく食べられるようにしているのと、わざわざ遠慮の塊を作るためにね。」


 そう言ってお幸は笑った。


 「あぁ!じゃんけんか!父さんあれには絶対参加するよね。遊んでるのかと思った。」


 「それもあるわね。でもああやって食べるご飯は美味しいでしょ?それにああいった事で仲良くなりやすくなるじゃない?」


 「さすが親父様。考えてるんだなぁ。」


 源助はいたく感心している。


 「源ちゃんは何でも楽しくしちゃう天才なの。勇ちゃんが帰って来たらびっくりするわね。」


 「そういや勇ちゃん今頃どうしてるかな?向こうは暑いだろうなぁ。」


 「そうねぇ。帰ってきたらお汁粉作らなきゃね。今度はお鍋2つは作らなきゃ。」


 お幸は食器を洗いながら笑った。


 外伝にした理由は「夢」です。


2,3日前に見た夢の中で、5人の子供達がでてきました。

 「オイラ達の話はいつ書くんだ!」

 ガボラに怒られました。


 「俺を格好良く書け!」

 モチラに脅されました。


 「あちしはお腹いっぱい、おいしいものが食べたい!」

 アイラにお願いされました。


 「僕達の出番はいつ?」

 タルルに質問されました。


 「・・・・。」

 メルルは悲しそうな顔で私を見ていました。


 目が覚めてから私は考えました。

 どう考えても本編に入れられません。

 無理やり詰め込んで、話の流れるを切るわけにも行きません。


 考えた結果、外伝として書こうと思いました。

 で、書いたのが本作です。


 話も短く、不定期にはなりますが、本編と共に目を通していただくと嬉しいです。


 今回は23時に配信しましたが、今後は22時配信にして、寝る前の一時にコーヒー片手に読んで頂ければなと思っています。


 よろしくお願いします。


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