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何気なく白い靄の中を歩いていた…目先10cm見えないこの霧は
行けども行けども晴れることはなかった…自分は歩いているのか?地面を掴む足の感覚はあるが、膝下が不明瞭で確信が持てなかった。
しばらくすると辺りに女性の声が響き渡った。
『不思議な気配の貴様、この場所に何様だ?』
俺は歩きながら訳を話さなかった…いや、話すことは出来なかった。
「それは…何故俺は?…ここは何処だ?わからない…」
思い出したいが、記憶すらこの霧の様に霞んでしまった…俺はいつから歩いていた?
『なんだと?……殺してやろうか…』
「グッ!」
殺す…という女性の凄みに押されて俺はその場に膝をついた…手だ…手が見える…
俺が自分の四肢をマジマジと確認していると彼女は言った。
『くっ…ふふふ、記憶が無いのか?』
彼女の少し緩んだ笑い声が聞こえ、先程の強張りが少し和らぎ再び俺は立ち上がる。
場所も記憶殆ど霞んでしまった…気を緩めると自分がここに居るという事実さえ霞んでしまいそうだった。恐ろしいが、この女性に助けを求める他に道はないだろう。
「そう…そうなんだ…申し訳ないが、ここが何処か…俺が誰か…貴女がわかる限りで構わない…教えて頂けませんか?」
『ここは私の領地…貴様は突然、私の領地に沸き…その気味の悪い気配を撒き散らして歩いていた…もっとも気配は大分薄れてきたがな…』
領地…か…彼女も俺については歩いていた事以外わからないらしかったが、俺とは違い、場所等は把握しているらしい…が、先程の威嚇は凄い物だった…情報収集は諦めて霧から出る事を優先しよう
「そうですか…貴女の領地に踏み込んだ事はお詫びします…どうかこの霧から出る方法を教えて頂けませんか?…」
『ほう…侵入を許せと申すか?…』
まだ死にたくはない…俺は彼女の問いに対し、身震いし、答えることが出来ない。
『…お前次第だな…』
どういう意味だ?働けとでも言うのか?
「俺次第…?」
『そうだ…お前の素性に、妾も少しばかり興味が湧いた…お前の記憶を除く…妾に少しでも有用な情報があれば侵入を許し、生きて出してやろう…フフフ…拒否権はないけど…』
「くっ…」
俺は彼女の声に悪寒を感じ、腹を抑えてうずくまる。
『アハハハ!…ム?…なんだこの世界は…フフフ、そうか…これがあの…異世界!』
異世界?…
「痛っ!頭が割れそうだ!」
『そうか…そんな方法が…フフフ…ハハハ…フハハハハ!…試さなくては!』
なんだ…グゥ!頭が…割れそうだ!
「ガバァ!」
俺はその場に倒れ…意識が薄れていった。
『いいだろう…研究の片手間だが、お前がこの世界で最低限の生きる事の出来る訓練をしてやる…お前の記憶にはそれだけの価値が…』
ダメだ…声も出ない…もう意識が持たな…