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怪盗ゴーストⅠ

「どう? 面白そうじゃない?」

「確かに面白そうだけど……」


 依頼の紙を読み進めると依頼主はどこぞの貴族のようだ。だからだろう、報酬もかなり多い。

 この報酬が多いというのはかなり魅力的であるが、まずこの怪盗ゴーストとは何者なのだろうか?


「メアはこの怪盗ゴーストって知ってる?」

「いえ、知らないわね」

「そっか……あっ、バイゼル。ちょっと良いかな?」

「ん? どうしたんだい?」


 たまたま近くを通りかかったバイゼルに声をかける。もしかしたらバイゼルは怪盗ゴーストについてなにか知っているかもしれない。


「怪盗ゴーストについてなにか知らないかな?」

「ゴーストについてかい? 僕が知ってることで良いなら話すけど」

「それは助かるよ。それじゃあまずゴーストって何者なの?」

「そこからかい!? ゴーストは二、三年前に突如として現れた怪盗で、悪徳貴族や悪徳商人から盗みを働くいわゆる義賊だよ。盗んだお金は孤児院などに届けられてるんだ」

「ふむふむ」

「それでたまにキャットと呼ばれるもう一人の怪盗とペアを組んで、ファルケド王国の全土にわたって活動してるんだけど……一年ぐらい前からかな。急に活動をピタリと止めたんだ」

「なにかあったの?」

「それは僕には分からない。だけど最近になってまた活動を始めたんだよ」

「なるほど」

「ところでなぜこの依頼が出てるのかしら?」

「ん? なぜってどういうことかな?」

「だってこの依頼が出てるってことは盗みに入るってことがバレてるわけでしょ?」

「それは盗みに入る三日前に予告を出すからだよ」

「えぇ……」


 なぜゴーストはわざわざ予告を出すんだ? 確かに予告を出しての盗み出すのはかっこいいと少しは思わなくもないが、出さないほうが良いのは言うまでもないだろう。いったいなにを考えているのやら……


「それにしてもゴーストをまったく知らないなんて、これまでに依頼が貼りだされたことはなかったのかい?」

「うーん……一度も見たことないかなぁ」

「私もないわね」


 そもそもよく一緒にいるレオンたちとの会話にすら、ゴーストの話題が出たことがないはずだ。


「うーん、どのギルドも必ず依頼されてるはずなんだけど……まぁそれは別に僕が気にすることじゃないか」


 そのことにバイゼルは少し引っかかった様子を見せたが、他のギルドのことだからと気にしないことにしたようだ。


「そうだ、よかったらバイゼルも一緒にどうかな?」

「それは嬉しい誘いなんだけど今日は依頼を受けないつもりなんだ。ごめんね」


 この依頼を一緒に受けないかと誘ってみたが今日は休むつもりだったようだ。


「気にしないで。じゃあまた機会があれば誘うよ」

「うん、その時はぜひ一緒に受けたいかな」




「それじゃあメア、この依頼は二人で受けようか?」


 バイゼルと別れた後、このギルドで仲の良い人たちに声をかけたが、今日は他に依頼を受けていたりダンジョンに潜るとかで皆に断られてしまった。


「そうね、そうしましょう」


 メアも賛成したので受付に依頼書を一緒に持っていく。


「はい、確かに受け付けました。優臣さんとメアさんですね。時間と集合場所はこの紙に書いてあるので間違いがないようにお願いしますね」

「はい」


 受付嬢から受け取った紙を見ると、なんとなく分かってはいたが集合時刻は夜と記されていた。


「やっぱり夜なのね。それじゃあ今日はこの依頼に備えて、いい時間になるまで家で休んでおきましょうか」



           ☆           



「それで怪盗ゴーストはいつ現れるのかしら?」


 屋敷の裏にある人通りの少ない道でメアがそんなことを聞いてきた。


「そこまでは分からないらしいよ」


 それぞれ体を休めたりしながら夜を迎え、依頼主である貴族の家に俺たちは到着したのだが家の前にはすでに十人ほど人が集まっていた。

 そしてそこからさらに数人増えたのちに貴族に雇われている警備隊の隊長が現れ、彼によって俺たちはここに割り振られたのだった。


「そう……こうやって待ち続けるのってなんだか――」

「やられた! 奴らは上だ!」


 唐突に屋敷から騒がしい声が上がった。


「現れたみたいだね」

「思ったより早かったじゃない。それでゴーストはどこにいるのかしら」

「どこだろう……ってなんかこっちに来たぁ!?」


 屋敷の屋根から二つの黒い影が、こちらに向かって飛び降りてきた。そしてそれらは俺らを越えて着地した後、仮面を着けている顔をこちらに向けて一瞥してから背の高い方は武器を構えて残り、背の低い方は逃走を始めた。


「逃がさないわよ!」

「俺はこいつを相手にするからメアは逃げた方を!」

「分かったわ!」




「くっ、やり辛い……」


 逃げようとするゴーストと場所を移しながら戦っているのだが手ごたえがほとんどない。こちらは何度も斬りかかっているがすべて小刀で防がれ、そしてやつは大きな反撃をしてこない。反撃をしてきたとして牽制目的のものがほとんどなのだ。

 そういえば俺はこれと似たような戦い方を何度も経験したことがあるような……どこだったっけ?

 そんなことを考えながらさらに攻防を繰り返すこと十数回。


「あっ、分かった。エクスだ」


 ポツリとそう呟く。そう、エクスと戦っているときだ。あいつは当然もっと鋭い反撃をしてくるが、このやり辛い感じが似ていると思う。


「!?」

「えっ?」


 これまで一切隙を見せなかったゴーストが突然、精細さを欠いた攻撃をしてきた。それを軽く刀で弾き飛ばして腹に蹴りを繰り出したがギリギリのところで左腕に防がれてしまった。


「ちっ!」


 クソッ! 今のは絶好のチャンスだったのに!

 というかなんでゴーストはいきなりこんな隙を見せたんだ? えらく何かに動揺していたようだが。しかし俺は変な行動をしていないはずだし、周囲をさっと見てもおかしいものはなにもない。

 うーん……あっ、もしかしてあれか? ということは……少し試してみるか。


「あっ、あそこに小さい女の子が!」

「なに!?」


 俺が唐突に、傍から見ればなんの意味もない言葉を発したにも関わらずゴーストは、いや、目の前のバカ男は素晴らしい反応を見せてくれた。


「……おい、何やってんだ――」

「おっと、それ以上は駄目だ」

「んんー!?」


 油断していた俺に目の前の男は一気に距離を縮めて、俺の鼻と口に布を当てた。すると急に抗いようのない眠気が俺を襲ってきた。

 これはまさか、前にギルドであのバカ(恭也)が嬉々として語っていたあの薬――!

 そのことを思い出しながら、俺の意識は途絶えてしまったのだった。

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