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邂逅

 闇ともいうべき空間にのみ込まれたと思えば、目の前の景色が変わっていた。周囲にあった家は一切なくなり、かわりに広大な光景が広がっている。


「ここは……」


 ところどころ違うところはあるものの俺はこれと同じ経験をしたことがある。そしてこの得も言われぬ空気もだ。

 これを経験したのは忘れたくても忘れられようのないあの時である。つまり


「ドッペルか……!」


 急いで左手の甲を確認すると以前見たあの模様が現れている。やはり間違いないようだ。

 いきなりすぎる! ただ魔石がギリギリ完成していたのは不幸中の幸いと言えるだろう。急いで魔石に魔力を流して調整をする。


「さて、どこにいるんだ?」


 前回はすぐにドッペルが地面から現れたが今回はまったく現れる様子がない。

 しかし何もかもが前回と違うのだ。こうなるともうドッペルが出現する方法が変わっていてもおかしくないだろう。

 そう考えた俺は、細心の注意を払いながらこの結界を探索することに決めたのだった。




「何でできてるんだ?」


 この空間に生えている木……なのだろうか? それに触れながら疑問に思う。

 形は間違いなく木だ、そして触った感じもそこら辺によく生えているものと同じだ。しかし色が上から下まで真っ黒なのだ。さらに木だけではなく、空に浮かぶ雲から川に流れる水までもがだ。

 まったくもって不気味な空間である。


「いた」


 小さな林を抜け、目の前に広い原っぱが現れる。そしてそこにドッペルがこちらを向いて立っていた。


「ついてくる」

「っ! あぁ、分かった。その前に聞きたいことがあるんだがいいか?」


 急に話しかけられて驚いたがすぐに気持ちを落ち着かせてそう尋ねる。

 今すぐ魔法を放ってもよかったがこいつには聞きたいことがあるのだ。


「後にする」


 今すぐは拒否されたが、後で聞いてくれるらしい。正直ついて行くのは不安しかないがこいつの言葉を信じて俺は後に続くことにした。


 少し歩いて周りに何もない広い所でドッペルは振り向いた。


「聞きたいこと、なに?」


 こいつ、前回よりなんか喋り方が滑らかになっているように感じるが……気のせいか? まぁ、今はそんなことはどうでもいいか。それより聞きたいことだ。


「……どうしてお前たちはうまれたんだ?」


 急に出現する存在、ドッペル。間違いなくこの存在は俺たちより後にうまれたものであり、さらに生殖行為によってうまれた存在でもない。

 それならなぜこの存在は俺たちの姿をとって現れるのだろうか?


「分からない」


 しかし返ってきた答えはその一言だけであった。それなら……!


「じゃあ目的はなんだ?」

「目的は人格……存在を奪う」


 存在を? なんでそんなことをされなきゃ――


「それが通常。俺の目的、お前を強くする。ならなければ殺す」

「えっ?」


 そう言えば前回もこいつは俺が強くなることを期待していたな。


「それはどういう――」

「終わり」


 まだ話を聞きたかったがドッペルは一方的に話を切り上げ、勢いよく襲いかかって来た。クソッ!

 飛び掛かって来た奴の大きな鉤爪に変形した右手を刀で受け止め、ガキンという音が響く。すぐに刀を滑らして攻撃をいなし、振り向きざまに地面に手をついたドッペルの首を狙うが左手の鉤爪に防がれてしまう。

 まだまだぁ! 足元を薙ぎ払うように振るわれた右腕を飛んで避け、左手で魔法を発動して放つ。が、軽く避けられてしまった。

 お互いに距離を置いて体勢を整える。そしてすぐにまた一進一退の攻防に戻った。




 ドッペルの左右の鉤爪によるラッシュを障壁で防ぎながら不快感を抑える。

 ドッペルは表情が変化しない、というから無いからやつがどんな風に思っているのか全く分からない。少なくとも余裕を残しているとは思わないし、思いたくもないが。

 魔力回復のポーションを飲み、障壁に魔力を一気に流し込んで勢いよく破裂させる。その衝撃で体勢を崩したドッペルに魔法を撃ちこむと、躱されることはなく腹部に直撃した。そしてガクッと地面に膝をついた。

 よしっ、前回と比較して魔力量は圧倒的に今回が多いのだ。さらにポーションもあるので障壁の展開も何度もできる。それに比べてドッペルは魔力量は平均的なのだろう、障壁はほとんど展開してこない。

 この状況を好機とみてすぐに追い打ちの魔法を放つ。しかし


「んっ」


 展開された障壁に防がれてしまった。まだ展開できる魔力量が残っていたのか。すぐに叩き割ろうと刀に魔力を流して異変に気付いた。奴の右手に魔力が集まっていっているのだ。

 何をするつもりだ? 障壁を展開したまま魔法は使えないはずだが……しかし疑問に思っている間にも魔力はどんどん集まっている。


「くっ……」


 これはまずいと思い、すぐに大量の魔力を使って障壁を展開する。このドッペルは常識外れなのだ。万が一にもということがある。

 その嫌な予想が的中し、ドッペルは障壁を解除すると同時に右手の黒い魔力を俺に向かって放ってきた。


「うおぉぉぉ!」


 障壁がピシ……ピシ……と魔力の塊が当たった場所から嫌な音をたてる。それをさらに魔力を流して修復するが、直したすぐそばからひびが徐々に広がっていっている。


「まだだ!」


 とにかく今を、今を耐え抜くためだけに流す魔力の量を増やす。しかしそれでも嫌な音は収まらず、ついに障壁が割られてしまった。


「うあぁぁぁ!」


 カッと目の前が眩しくなる。大量の魔力のぶつかり合い、そしてその大量の魔力が込められた障壁が割れたことによる衝撃で俺は大きく後ろへと吹き飛ばされた。


「ぅ……あぁ」


 痛みでうめき声をあげながら、土煙の中よろよろと刀を支えに立ち上がる。やつはどうなったんだ?  すぐに確認したいが土煙を払うための魔力すら残っていない。ポーションで魔力回復したいところだがこれ以上飲んだら体への負担が大きすぎるため飲めない。つまり非常にまずい状況だ。


「……」


 少しでも動けるようにしておこうと息を整えているうちに徐々に煙が晴れ、そしてドッペルの姿が現れた。


「っ!」


 思わず息を呑む。表情がないと思っていたドッペルが初めて苦しそうな表情を浮かべ、膝をついていたのだ。

 すぐに追い打ちに行きたいが体が動かな――


「ここ……まで。……また」

「えっ」


 苦しそうにそう言うとドッペルは膝をついてこちらを見据えたまま地面へと消えた。結界がポロポロと崩れだし、外から光が差し込み始めた。

 そして結界が完全に崩壊し、投げ出された場所はギルド『エルピリア』の一階であった。


「ぎゃあぁぁ!? 何だ、お前急に!? どっから現れた!? というかなんでそんなにボロボロなんだよ!?」


 どうやらたまたま一階でくつろいでいた恭也の目の前に投げ出されたようだ。


「悪い……休ましてくれ」


 薄れていく意識の中、恭也にそう伝えて目を閉じる。

 もう少し……もう少し強ければここで終わらせることが出来たかもしれないのに……という悔しさはある。でもまぁ、今は死ななかったことを喜ぼうかな。

 そして次こそは……次で……必ず……

これにてChapter2本編は終了です。もしここまで読んで下さった方がいましたらとても嬉しいです。

ここから2、3話ほど短い閑話をはさんでから本編に戻りたいと思っています。

そしてChapter3からは人間関係が大きく変わる予定なので、気になる方がいましたら引き続き読んでくださると幸いです。

それでは最後にここまで読んでくださりありがとうございました。

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