梅雨入り
「エラたち大丈夫かな……」
ソファーに座って外を眺めながらそんな心配をする。なぜそんな心配をしているのかといえば――
「すごい大雨だな」
そう、恭也の言うように外が朝から大雨だからである。ザーザーという音がずっと部屋に届いているのだ。
「もう梅雨の季節だからな」
「エラちゃんたち濡れてないといいね」
「テオの言うとおりそれが心配なんだよ……これだけ降ってると傘もあまり意味がないような気がするし」
「その気持ちわかるぞ、俺もサナたちが心配だからな。ところで、なんでお前たちはここに集まってんだ?」
「「「「暇だから」」」」
レオンの疑問にそれぞれが答える。
「ふざけんなよ!」
レオンの怒声がギルマスの部屋に響く。
「それなら一階で良いだろうが!」
「一階はおっさんたちがいて少し狭くてな」
「あの人たちもこの雨で外に出たくないんだろうね」
「それに比べてここは広くてソファーもあるから最高だな」
「あのなぁ、俺はお前らと違って暇じゃないんだよ!」
「えっ、まじで?」
「それはかわいそうだな」
「誰のせいだと思ってやがんだ! ……ふぅ、まぁいい。それなら俺の仕事を手伝ってくれるならこの部屋にいて良いぞ」
「嫌だ」
「断る」
「死ね」
「よーしお前ら外に出ろ。あと恭也は歯を食いしばれ」
「なんだかんだ言いつつ手伝ってくれて俺は嬉しいぞ」
「あはは、仲間だからね」
なんて心にも思っていないことを言う。本当はテオが手伝い始めるのを見たら居心地が悪くなったからである。
「仲間が困ってたら助けるのは当然だよな」
同調するようにエクスが続く。だが顔を見れば分かる、こいつも俺と同類だということが。
「いてて……それで俺たちは何をすればいいんだよ?」
腹をさすりながら恭也が尋ねる。こいつ意外と頑丈だよな……
恭也に原因があるとはいえ殴られすぎて耐性でもついてきているのだろうか?
「お前らは依頼と申請書を分けてくれ」
「申請書?」
「そうだ。申請書っていうのはだな……こういうのだ」
そう言ってレオンが一枚の紙を渡してきた。なになに……ってこれは!?
「俺のことかよ!」
そこには俺が先日シュバントと戦った村での出来事が書かれていた。内容は戦闘による牧場の破損についてである。
「そうだ、お前牧場を派手に凹ましただろ?」
「……」
頭にその光景が浮かび上がる。レオンの言っていることは障壁で防いでいるときにシュバントに踏みつけられてできた凹みのことだろう。たしかにあれはなかなかの大きさになってたな。
ただ――
「いやぁ、あれはしょうがないというか不可抗力というか……」
「分かってるさ。だが流石にそのまま放置というのもなんかあれだろ。だから監査委員会に報告するんだ」
監査委員会……たしかギルドの補助をしたりきちんとギルドが活動しているか確認するところだったはずだ。
「例えばあの村が凹みについて報告し、それがエルピリアが依頼中にやったものだと把握できればなにかしらの補償等があるはずだ」
「へー」
「ただうちは何故かそういったことが他より多いようでな。どうにかしろと委員会に言われてるし俺の仕事も増えるからそうしたいのは山々なんだが勝手に壊れるんだから仕方ないよな」
「分かる、気を付けてても壊れるんだよな」
「だがその分お金を多く納めてるし問題ないだろ」
「そういう問題じゃないと僕は思うんだけどなぁ」
「とまぁそういうわけでやることは分かったな?」
「OK」
「あぁ」
「うむ」
「じゃあ始めるか」
☆
「やっと終わった……」
んー、と背伸びをする。時計を見ればとっくに昼を過ぎている。
「レオンはこれをいつも一人で?」
こんな大量の仕事を一人でこなしていたなんてこれからはもう少し労わって――
「いや、よくジジイに押し付けているが?」
やる必要はなさそうだな。
「じゃあ仕事も終わったことだし腹が減ったから飯食いに行こうぜ」
「そうするか」
「そういえば魔石はいつできあがるんだ? そろそろ一週間ほどになるが」
少しメンバーが減って広くなった一階にてご飯を食べていたらそんなことを恭也から聞かれた。
「もう少し時間がかかるらしいよ」
昨日蓮二さんに連絡をとるとまだできていないとの返事があった。ただ製作はゆっくりではあるものの進んでいるようだ。
「そうなんだね、やっぱり難しいのかな?」
「まぁ焦ってないから良いよ。どうせ今は刀も手元にないし」
「あぁそうか、シュバントの歯と鱗を強化素材に依頼したんだったよな」
レオンの言うように俺は刀の強化を師匠から紹介された鍛冶屋に依頼したのだった。今回の依頼、そしてシュバントを売って得たお金がごっそりと減ったが、それで自分の命を守れると考えるならば安いもんだろう。
「切れ味と強度が増した俺の刀……きっと輝いて見えるんだろうなぁ……!」
「おい、顔がにやけてきもいぞ」
「まぁまぁ、仕方ないよ。僕も楽しみになる気持ちは分かるから」
「早くこの梅雨明けないかなぁ」
「少なくとも一週間は続くだろうな」
「一週間かぁ……梅雨が明けたら――」
「海だな!」
「うぇ!?」
恭也が急に話題に食いついて来て驚く。なんなんだ!?
「さらに祭りもある。つまり水着に浴衣だ! 今年は女の子が三人も増えたからな、もう楽しみすぎてここんところ夜しか眠れないんだよ」
「十分寝てるじゃねぇか!」
「恭也、お前も顔がにやけてキモいことになっているぞ」
「はぁ? 俺はキモくねぇし! 今すぐ俺に謝れ、エクス!」
キモいという言葉に反応してキレる恭也。やれやれ……
それにしてももう夏に入ったのか……今年の夏はどんな風になるんだろうな?
☆
「ふぅ」
レオンたちと別れ、朝と比べて弱くなった雨の中帰った俺は家の前で軽い溜め息を吐く。
「気持ちわりぃ」
弱くなったとはいえ横殴りの雨だったため濡れてしまった。梅雨にも季節の良さと思うがこうして濡れてしまうのは嫌である。
さて、家に帰ってきたがこの時間だとエラとアリスはまだ学校だし、メアは今日は実家に帰って遅くなると言っていたから今は家に誰もいないのか。
……ところでたまに家に誰もいないのに「ただいま」と言って入りたくなることはないだろうか? 俺はある。
ということで
「ただいま!」
誰も見ていないのだからどうせならと、普段とは違って元気よくただいまを言ってみる。流石にこれを誰かに見られたら恥ず――
「お帰りなさい。随分と元気がよろしいようですわね」
「えっ!? なんでここに!?」
靴を脱いで部屋へと続くドアを開けるとここにいるはずのない人物、メアの妹であるティナがソファーに座っていたのだった。




