ひらめき
「ねぇレオン。なにか手伝おうか?」
「いや、もう終わるから大丈夫だ。ありがとな」
打ち上げが終わりギルドで一人、今日のまとめをしているとテオがやって来た。やれやれ……テオはこうして手伝いに来てくれるのに下で騒いでいる酔っ払いどもときたら。
「あれ、そうなんだ? 思ってたより早かったね」
「今回はやることが少なかったからな」
「なるほど。……僕が提案したあの条件をまさかそのまま組み込むとは思わなかったよ」
「あぁあれか」
そう、テオの言うあの条件とは今日あいつらに伝えたルールだ。俺はテオにどんなルールがあいつらの弱点を明確に浮き彫りにし、そしてあいつらが気付くことができるか相談していたのだった。
「優臣たち怒ったんじゃないの?」
「それどころか殴り掛かろうとしてきたぞ」
まぁあいつらの拳が俺に届くなんて今後も含めて絶対にありえないだろうがな。
「それで目論見通りになりそうなの?」
「優臣は大丈夫だろう」
あの試合の後、優臣は何かに気付いたような感じがあった。いや、それは恭也にもあったか。ただ――
「優臣はってことは恭也は?」
「いや、あいつも気付いてる。というかとっくの昔に気付いてるだろう。ただあいつの性格を考えるな……」
あいつは自分の興味があることはとことん追求していく。だから薬に関する知識などをあそこまでつけられたのだろう。あれは間違いなく天才の部類だ。
しかし逆に興味がないことにはとことん無気力であり、余程必要に迫られない限り後回しにするか、もしくはしない。
「あー……たしかにね」
「そろそろ自分の価値に気付いてほしいんだがな」
あいつはまったく自覚していないみたいだがやつの称号はかなり強力だ。そこにやつの知識が加わり、そして望みさえすれば創れない薬はないんじゃないかと思えるほどに。
「せめて自分の力だけで自分の身を守れるぐらいにはなって欲しいよね」
「まったくだ」
溜め息を吐き、背もたれに寄りかかって返事をする。どうしてこのギルドにはクセがあるやつばかり集まるのか。少しは俺やテオを見習ってほしいものだ。
☆
「二人ともおはよー」
「おはようございます」
「おはよっ!」
挨拶をするとエラとアリスが元気に返してくれた。
一階に下りると彼女たちが朝食の準備をしており、そして――
「じゃあ今日は私がメアさんを起こしてくるね!」
――どちらかがメアを起こしに行き、俺が朝食を作る役割を交代するまでが毎朝のいつもの光景になりつつあった。
「エラ、今日は何かな?」
さっきから味噌の良い匂いがしているから味噌汁はあるだろう。
「今日は味噌汁と焼き魚とご飯です。魚の下処理は終わってます」
「分かった。じゃあ俺は魚を焼こうかな」
「それなら私は配膳をしておきます」
「うん、ありがとね」
「おはよう……」
人数分の魚を焼き終わり、すべての配膳が終わったところでメアが目を擦りながら一階に下りてきた。
「おはようございます」
「おはよう、ちょうど終わったところだよ」
「そう、ありがと……」
小さく欠伸をしながら席に着くメア。この生活を始めてから変化がたくさんあったが彼女が朝弱いのは変わらないようだ。
「じゃあ食べよっか」
「「「「いただきます」」」」
「そういえば二人とも学校はどう? 慣れたかしら?」
「うん!」
「はい、久しぶりにあった友達と初めはぎくしゃくしていましたけど今はもう元通りです」
「そうか、それは良かった」
二人が再び学校に通い始めていくらか経つが今のところ問題ないようでなによりだ。
それより問題があるのは俺の方だ。この有り余って未だに一人じゃ手におえない魔力どうするかなぁ……
「二人とも学校の時間は、ってあら。時計が止まってるわね」
考え事をしているとメアがそんな声を上げた。見れば確かに時計の針が止まっている。
「あぁ、本当だ。電池切れかな」
壁から時計を外し後ろを確認するとランプの光が消えていた。ということは電池切れだろう。
「……やっぱり藤堂さんの言うとおり消耗が早いな」
この掛け時計は藤堂さんから貰ったものなのだがこの世界のものにしては珍しく電池を使っている。というのもこの世界には魔力がある。故に魔力が電気の代わりをはたしており電気があまり必要とされてこなかったようなのだ。
ところがここ最近になって俺たちのいた世界の物を開発する上で、分かっている理論通りに造ろうとすると電気の方が都合が良いということになり急ピッチで研究されだしたらしい。
そうして電池も作られたのだがこの世界においては僅か数年前に開発されたものであるためまだまだ性能がもとの世界に追いついていないとのことだった。
「それなら魔石の物に変える?」
「うーん……でもこっちの方が落ち着くから変えないかな」
メアたちには悪いがやっぱり長年電池で使ってきたから俺はこっちの方が落ち着くのだ。ただそうは言っても家にあるほとんどのものは魔石を使った物なのだが。
魔石の方はといえばもとの世界の電池と同じぐらいに発展している。魔力がなくなればいわゆる電線のようなものを伝って各家に送られてくる魔力で充電もとい充魔することができる。
因みにであるが自分の魔力で充電というのはできないらしい。なんでも属性、そして魔力にある各個人の癖というものが邪魔してしまうのだとか。だから送られてくる魔力は機械によって無属性化され純粋なものとなっているそうだ。
そう考えると俺の魔力の受け渡しと似ているかもしれないな。あれも相手に渡す時にできるだけ属性を含ませないようにしているのだ。ただこんなことを機械を使わず生身でしているのはどうやら俺だけであるため試行錯誤の毎日なのだが。
「あっ!」
「どうしたの?」
「あっ、ごめん。何でもないよ」
急に声を上げてしまったためメアに怪訝に思われてしまう。ただ今はそんなことはどうでもいい。なぜなら俺の魔力の問題をどうにかできるかもしれない案を思いついてしまったのだから。
となれば早速行動に移したい。ということでこの案を実現できそうなところを尋ねてみるかな。
☆
「という感じなんですけどどうですかね?」
急に訪れたにも関わらず蓮二さんは快く迎え入れてくれた。そして俺はメアと話していて思いついたことを蓮二さんに話したのだった。その内容は――
「なるほど、優臣君専用の魔石ねぇ……」
メアたちと話していて思いついた案、それは俺専用の魔石を作ることであった。
俺の考えでは家具に用いられているものと似たようなものを想定しているので魔力を預け、そして引き出すこともできるものである。
これなら戦闘中に誰かに魔力を受け渡したいときに魔力を預けた魔石を渡すだけで良いので直接相手に触れる必要はなくなり、よって行動を制限されるようなことは少なくなるはずだ。
「人専用の魔石はまったく出回ってないから無理だと思われがちだけど過去に実験の成功例があるから作成は可能のはずだ」
「よしっ!」
「それにほとんどの人にとって無意味の物でも君の魔力量なら確かに意味あるものになるだろう」
これで魔力問題の解決手段を一つ入手――
「ただ……その……聞きにくいんだけどお金は大丈夫なのかい?」
「えっ? そんなに高いんですか?」
「材料費や製作費その他諸々を軽く計算してみたけど銀貨50枚はいくと思うよ」
「銀貨50枚!?」
市場に出回ってる魔石はそこまで高いものではないからいっても銀貨4、5枚だと思っていたのだが!?
「優臣君『専用』という点やそもそも人専用という物が普段作られていないからね。あと素材も高いんだ」
「その辺の魔物の魔石じゃ駄目なんですか?」
「家具に使われているものならそれこそゴブリンの魔石をたくさん組み合わせて一つにしたものとかなんだけどね。ただ人専用となるとそれじゃ駄目だったらしい」
「それなら何なら大丈夫だったんですか?」
「ドラゴン」
「えっ?」
「ドラゴンの魔石なら製作できたらしい」
まさかのドラゴンかよ! それなら高いのも納得である。
「それでそのドラゴンの魔石はいくらぐらいなんですか?」
「そうだねぇ……ドラゴンに分類されるものの魔石ならなんでもいけたらしい。そして優臣君はできるだけ安く済ませたいだろう?」
勢いよく頭を縦に振る俺。
「だったらやっぱり銀貨20枚かな。これがドラゴンの物で一番安い魔石の値段だね」
銀貨20枚……俺たちの一ヶ月の生活費ぐらいかよ。うーん……
「あの……もしなんですけど、もし自分で魔石を用意したら安くなりますか?」
「えっ、そりゃあその分は安くなるけど。……って優臣君、まさか!?」
「分かりました。それなら俺、ドラゴン討伐してきます」




