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恭也のお薬シリーズ②

「ふぅ」


 昨日のあの光景を思い出してしまい俺は息を吐いた。もしも、もしも何かが違っていたら彼のようになっていたのは自分かもしれない。そう考えると恐ろしくなってしまいブルリと体が震えた。

 結局あの後は時間が少なくなったため、街の中にある地下二階へと続く魔法陣に俺の魔報を登録してから地上へと戻った。これをしておくと次回からは入り口からすぐに地下一階の街に転移することができ、さらには下の階を探索中にピンチなどになった場合に魔報に魔力を流すとすぐに街に戻ることが出来るようなのだ。便利なものである。


「気持ちを切り替えないとな」


 今の気持ちのままだといろいろと支障をきたしそうなため、先程ポロリと吐いた息よりも大きな息を吐いて気持ちを切り替える。

 さて、そんな俺が今向かっている場所は恭也の工房である。昨日のダンジョン探索でポーションの数が少し心許なくなってきたためいくつか買っておきたいのだ。


「上のショップにあれば楽なのになぁ……」


 そう、ギルド内にショップがあるにもかかわらず工房に向かっているのはそこにポーションが置かれてないからだ。俺の場合、普通のポーションだと回復が追い付かないため特別な、俺専用のポーションが必要になる。しかしそのポーションは恭也曰く常人には少々危険なもののようなのだ。

 そのため恭也の工房にて管理しているようである。


「さて恭也は……おっ、いるな」


 工房の前のドアに着き、横の小さなライトの色を確認する。恭也がいるときは緑、いないときは赤に光る代物であり現在は緑に光っている。



「よっ……ん?」


 ドアを開けようとドアノブを回して押し込んだがガチャッという音を立てて開かなかった。どうやら鍵を閉められているらしい。


「おーい、恭也」


 ノックをしたり魔報に連絡とってみたがまったく反応がない。


「なにやってんだ?」


 再び恭也の魔報に連絡をとるがやはり無反応である。


「どうしようかなぁ……あっ」


ここで恭也にまったくの無反応だった時にやっても良いと言われていたあることを思い出した。それは――


「そらぁ!」


 ドアの破壊である。俺は脚に魔力を纏わせて思いっきりドアを蹴りつけた。するとガキッ! という鈍い音が響いてドアが開いたので中に入るが恭也の姿は見当たらない。ということは奥の部屋にいるのだろう。

 そう当たりをつけて奥のドアを開けると


「うぉっ、いてっ!?」


 中から勢いよく何かが飛び出してきた。それを避けることはできたが勢い余って頭を横の壁にぶつけてしまった。


「いてて、いったい何なんだよ?」


 何が飛び出してきたのか振り向いて確認するとエリムがいた。しかしエリムの色がいつもの鮮やかな青色から赤色に変色している。どうしたのだろうか?

 そんな俺の疑問をよそにエリムはピョンとその場で跳ねて向きを反転し、ゆらゆら横に揺れながら壊れて開きっぱなしになっているドアから外に出ていった。


「外に出ていったけど……まぁいいか」


 エリムを見送り、奥の部屋を見れば恭也が床に寝転がっていた。……なぜか全裸で。


「なにやってんだあいつは……?」


 困惑しながら近づくと恭也は全身をびしょ濡れにしたまま寝ていた。


「おい起きろー」


 このままでは風邪をひくと思い、声を掛けたり揺さぶったりしたがまったく目を覚ます様子がない。


「起・き・ろ!」


 流石に様子がおかしいので頬を軽く叩いて起こそうとすると恭也はニヤァと嬉しそうに笑った。


「なに笑ってんだコイツ……きもいな。笑ってないで起きろ!」

「ぶはぁ!?」


 最後の手段として小さな水球を作り出して恭也の顔に落とすとようやく目を覚ました。


「起きたか?」

「あれ、優臣じゃねぇか。俺、美人で巨乳のお姉さんに胸でビンタされてたはずなんだが……夢だったのか? でも頬は確かに少し痛――」

「気のせいだろ。それでお前はなんで全裸で寝てたんだ?」

「そうだった! おい、エリムはどこだ!?」

「エリムなら外に出ていったけど」

「なにぃ!?」


 慌てて起き上がり外のドアを確認する恭也。


「まずい、まずいぞ!」

「そんなに慌ててどうしたんだ? っておい待て」

「なんだ! いいからその手を離せ!」

「いやいや、お前はその格好で外に出るつもりか?」

「当たり前だ!」

「えぇ……」


 この男、俺がすぐに止めなければ全裸で外に飛び出すつもりだったらしい。


「お前に恥はないのかよ?」

「恥ぃ? そんなものはとっくに捨てたしそもそも命の危機の前にそんなものは必要ない!」

「命の危機? とりあえず何が起きているのか説明してくれないか? 服を着ながらな」



           ☆           



「はぁ」


 恭也の話を聞き終えてこの言葉しか出てこなかった。

 どうやら恭也は新たに創った薬をエリムに与えたのだが、その一つ前に与えた薬の効果がまだ残っていたらしい。そしてその二つの薬の組み合わせがまずかったらしくエリムは人間でいう酔っぱらった状態になってしまったそうだ。その状態のエリムに恭也は襲われてしまったらしい。

 だからこいつ眠っていたのか。


「それで何の薬を使ったのさ?」

「一つは前からある睡眠薬、そしてもう一つの新しく作った方が鎧や武器など相手の装備だけを溶かす薬だ」

「ふーん」


 意外と普通の薬で逆に驚いてしまった。いつもならこいつはエロが目的の薬しか創ってないからなぁ。しかしそれなら命の危機はないのではないだろうか? いつもこいつがそんな状況になるのってそういう薬を創って……ん?


「……少し気になったことがあるんだが?」

「なんだ? 時間がないと言ってるだろ」

「その装備を溶かす薬だけど範囲はどこまでだ? いや、その薬の本来の目的は本当にお前が話したものなのか?」

「……」

「……」

「ピュー」

「おい!」


 やっぱり違ったのか! こいつ口笛を吹いて誤魔化そうとしやがったな!


「チッ。そうだよ、その薬の本来の目的は服や下着の衣類品を溶かすのが目的だったんだが副産物として鎧まで溶かせるようになったんだよ。さぁ、さっさとエリムを捕まえに行くぞ。睡眠薬は襲われながら中和する薬を与えたからそっちの効果はなくなっているはずだ」

「……断る」

「なぜ!?」

「絶対めんどくさいことになるじゃん! そんなことに俺を巻き込むなよ!」

「俺たち友達だろ!?」

「あっ、そんなこと言うんだ。じゃあ今から俺とお前は友達やめてただの知り合いだから」

「冗談だから許してくれー!」



           ☆           



「それでどこに行ったんだろうな?」

「なんだかんだ手伝ってくれるんだな」

「うるせぇ」


 俺たちは現在一階に向かっている。恭也を手伝っているのはこいつがさっきのようなことを本気で言う奴じゃないと分かっているからだ。それになんだかんだ世話になっているしな。


「エリムがどこにいるのか分からないのか?」

「分からんから聞くしかないな。おーい、バーンのおっさん」


 ギルドの一階で椅子に座ってくつろいでいるバーンさんに恭也が声をかける。


「エリムを見なかったか?」

「あぁ、見たぞ。女子寮の方に向かっていたな」

「ひっ」

「どうした? そんな怯えたような声を出して」

「いや、なんでもないぞ。ありがとな」


「やばい、死へ一歩近づいたぞ。……優臣、今寮に誰がいるか知らないか?」

「寮ねぇ」


 そういえばメアが今朝何か言っていたな。確か


「メアがあいの部屋で女子会をするって言っていたような。メアとあいとクロとシルヴィ……だったかな?」

「やばいやばいやばいやばい……俺の命日は今日になるんだ。……そうだ優臣、最後の頼みがある」

「走りながら諦めんなよ! っておい! 何立ち止まってんだよ!」

「いや、強化薬飲んでないから体力切れに……」

「この引きこもりが!」

「うるせぇ! ぜぇぜぇ……引きこもりでも問題ないだろ! あとで追いつくから先に行っててくれ」

「へいへい」


 体力が尽きた恭也を置いて階段を駆け上がる。どこにいるん――


「きゃあああああ!」


 あいの部屋があるところから悲鳴が聞こえてきた。遅かったか!?


「大丈夫か!」


 あいたちが無事か確認しようと俺はドアを開けた。


「きゃああああああああああ!」

「あ」


 ドアを開けると先程より大きな悲鳴と――エリムに纏わりつかれて服を溶かされている四人の姿が目に飛び込んできた。


「いやっ……これはだな」


 その光景に狼狽えているとエリムは四人から離れて一つにまとまり、俺の横をすり抜けていった。


「ぃゃ……」

「エッチ」

「なんじゃ、じっと見おって。そんなに我の艶姿を見たいのか?」

「いいからさっさとドアを閉めろ!」

「すみませんでしたー!」


 あいに言われて急いでドアを閉める。やってしまった……この状況は予想できたことなのに急いでいてそこまで頭が回らなかったのだ。


「ってエリムはどこに?」


 見ればエリムはピョンピョンと跳ねながら今度は男子寮の方に向かっている。


「くっ、待て! って、あっ」


 エリムの向っている方からテオがやって来た。


「テオ、避けろ!」

「うん?」


 テオを確認したエリムがテオに飛び掛かり、纏わり――


「よっ」


 つくことはなくテオの氷の魔法によって氷漬けにされキャッチされた。


「良かった……」

「良くないわよ」

「えっ?」


 テオがエリムを捕まえほっとしたのも束の間、後ろから冷たい声が聞こえ振り返ると服を着替えて顔を真っ赤にしたメアを筆頭に三者三様の反応を見せているあいたちが立っていた。


「どういうことかしら?」


 あっ、俺終わったわ……



           ☆           



「あん? 何してんだお前ら」


 用事から帰って来たであろうレオンが俺と恭也を見て驚く。それはそうであろう、メアたちの前で正座しているのだから。


「それで今回の件はどういうこと? 恭也」

「新しい薬を創ったんだけどちょっと組み合わせが悪くてエリムが酔ってしまって……それでこうなったんです」

「ふーん……それで優臣は? エリムを捕まえるために来たそうだけどその前に私たちに連絡すれば良かったんじゃないの?」

「その通りです……でも急いでいてその考えは頭に浮かばなかったんです」

「はぁ、とりあえず恭也は服弁償しろよ?」

「もちろんそのつもりだ」

「優臣は……どうしようもないし許すか。ただし今回の記憶はすぐに消せよ? もし消さなかったら――」

「もちろん! すぐに消します! というか今忘れました!」

「それでクロたちも良いかしら?」

「問題ない」

「我もじゃ。むしろ我は楽しかったくらいじゃぞ」




 こうして今回のエリムの暴走、というか酔っ払い事件は幕を閉じたのだった。

 それにしてもあの光景を忘れろ……か。メアたちには悪いが今回のことはどうあっても忘れられそうにない。それはそうだろう、美少女たちのあんな姿を見て忘れろという方が無理な話である。

 ただ彼女たちの前で話題に出すとどうなるか分かったもんじゃないから、ひっそりと俺の記憶に留めておくことにするかな。

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