混沌Ⅰ
「優臣君、中に入っても良いかい?」
「はい」
あれから少し経ってから藤堂さんがドアをノックして聞いてきた。いろいろと思っていたことを口に出したからだろうか、先程より気持ちが軽くなったように感じる。
「どうだい、明日から頑張れそうかい?」
「ええ、この部屋を貸していただきありがとうございました。おかげですっきりしました」
「それは良かった。それでこれからいろいろ準備をしてもらうけど良いかい?」
「分かりました」
藤堂さんに連れられて部屋に戻る途中
「それにしてもまずは無事にここまで来てくれて良かったよ。運が悪いとこっちに来たときの出現場所が海や樹海のど真ん中だったりするからね。来たばっかりで碌な抵抗もできずに亡くなってしまった人たちを見る度に心が痛くなるよ……」
と言われたが想像したくないわ! 目が覚めたら樹海の中とか嫌すぎる。
って、あれ? こっちに連れて来た人がすぐに死んだら連れてくる意味がないと思うんだけど……ドッペルは何がしたいんだ?
最初の部屋に戻ってくると藤堂さんは、首から提げていた小さな金属板に話しかけた。
「終わったから彼を連れてきてくれるかい」
そういえばリーンさんも同じ事をしてたな。あれは何だろ?
「それは電話みたいなものですか?」
「そうだね。連絡板や連絡魔法など呼び方は人によって違うけど、これは特別な金属に通信の魔法がかけられていているんだ」
「へー」
通信の魔法かぁ、他にどんなのがあるんだろ?
そんな風に藤堂さんととりとめのない話をしているとドアがノックされ、藤堂さんが入室を許可すると綺麗な水晶玉を持ったリーンさんと一緒にレオンが入ってきた。リーンさんはそれを机の上に置いて再び退出していった。
「あれ、なんでレオンが?」
「おいおい優臣、また後で会うと言ったのを忘れたか?」
「別に忘れたわけではないけど……本当にすぐだったから」
「レオン君はこれから行う作業に必要な人物だからね、それじゃあ早速始めようか。まず優臣君、君にはギルドに所属してもらわないといけない」
「はい?」
「君はドッペルを倒すために鍛錬するだろ? その手伝いを魔研異人支部ではなく各街にそれぞれいくつかあるギルドが行うことになっているんだ。個人でやっても構わないけど優臣君は戦闘技術をもっていないだろ? 他にも君のためになることもあるしね」
藤堂さんの説明によるとこの国はファルケド王国といい、俺たちみたいな別の世界から来た人たちを『異人』と呼んで保護をしているらしい。そして資金の提供などいろいろと援助してくれているらしいがそれを受けるにはギルドに所属しておく必要があるそうなのだ。
「聞いた感じけっこう手厚く保護しているように感じますね?」
「ここまでしてるのはこのファルケド王国ぐらいじゃないかな? 他国では異人と分かれば捕らえて強制的に自国の兵士にしたり、侵略者として殺したり、逆に神の御使いとして利用するというところもあるからね。待遇が良くても利用されると面倒だよ? その点この国はそんなことをしていないから安心して暮らせるよ」
それは怖いわっ!? しかしどうやら俺は運が良かったらしい……今だけはこの世界にいるらしい神たちに感謝しておいた方が良いかもしれないな。
「そういえばさっきから異人支部と言ってますけど、普通の支部とは何が違うんですか?」
「本部や普通の支部は魔法の研究や他にもいろいろ手広くしているけど、異人支部は帰還の魔法といった主に異人に関係する魔法や道具の開発をしているのさ。さらに他と比べて異人の職員が多く、異人支部の支部長は異人しかなれないんだ」
「なるほど。あっ、そうだ。ギルドには所属します」
「よし決まりだ。じゃあ早速いろいろ書いてもらおうかな」
渡されたいくつかの書類に記入し、藤堂さんに確認をしてもらった。
「どれどれ……うん、良いよ。じゃあ次はこの優臣君に書いてもらった紙に魔力を流してもらおうかな。レオン君、頼むよ」
「了解です。おい優臣、手を出せ。今からお前の手を通じて魔力を流すからそれで感覚を掴め」
そう言ってレオンが俺の手を取ると、体の中で何かが流れるような動きを感じた。
「何かが体を流れてるような感じがするけど、これが魔力の流れかな? むずむずして変な感じだな」
「ちゃんと感じられてるようだな。変な感じについては次第に気にならなくなるはずだ。とりあえず一回紙に流しろ」
「そうだね。じゃあ優臣君、今の感覚を今度は君だけでやってみてくれないかな?」
そう言って藤堂さんはさっき書いた紙を再び渡してきた。上手くできるかな?
とにかく今の感覚を再現しようと集中し、魔力を体にめぐらすようなイメージをしながら試みた。すると先程と同じような動きを感じ、紙が淡く光った。
「無事にできたみたいだね。練習すれば自然とできるようになるから頑張ってね」
「分かりました、ところで魔力を流すことにどんな意味が?」
「魔力は全員持っていると言ったけど全く同じ魔力を持っている人は絶対にいないんだ。そして例外もあるにはあるけど普通は他人の魔力を使うことはできない、だから偽造防止のためだね。次は職業を決めようか」
そう言うと藤堂さんはリーンさんの置いていった水晶玉を指し示した。
「これは『アウラの瞳』、通称:『瞳』と呼ばれるものだよ。全てを見通すとされる鳥、アウラの素材をメインにして作成された物なんだ。これに魔力を流すと適性のある職業、どの属性をもっているかがこの水晶に映り、そして選んだ職業に就けるんだよ。この水晶は質が良いとは言えないからこれぐらいしかできないけどね」
「ということはその瞳に映った職業に就いたら良いんですよね?」
「まぁ今はそうだね。一度決めたらずっとその職業じゃないといけないということもないしね。あっ、転職した場合その職業で得たスキルはその職業限定のものだから引き継がれないけど、元の職業に戻ればまた使えるから安心してね」
それは助かる、いろいろな職業を試すことができそうだ。
「それと自分に適性のある職業に就くとスキルを得やすくなるんだ、その職業に関連したものや他にもいろいろとね。あぁ、もちろんこの水晶に映らなかった職業に就くことも出来るし、その就いた職業のスキルを得ることもできる。ただし適性の場合よりスキルを得づらくなっているけどね」
自分が就きたい職業に適性がなかったら嫌だなぁ……
「が、スキルは自分の気持ちや想いを強く反映して発現するためその適性結果を覆すこともできる。実際にそういう例はあるからね。当然それなりに努力は必要だが悲観することはまったくない」
「そして」と藤堂さんは一拍置いた。
「スキルは強力だけど、だからといってそれに胡坐をかいていては駄目だよ。結局一番重要なのはそれまでの積み重ねだからね」
「分かりました、気をつけます」
「そうだね。……おっと、優臣君はどの職業に就くか決めたいかい? 職業はたくさんあるからアドバイスを聞いた方が良いと思うけど」
「まだ決めてないです、確かにアドバイスは欲しいですね」
「だよね。ということでレオン君、優臣君にアドバイスよろしくね。じゃあ瞳に魔力を流してみようか」
「「了解」です」
さっき紙に流した時と同じようにしてっと……
「何か文字が映ってきましたね。えっと『主』が光で『副』が赤と緑? どういう意味ですか?」
「それは君が持っている加護だね、属性みたいなものだよ。『主』には光と闇、『副』には赤と青、緑と黄がそれぞれ対になって存在している。それらの色はそれぞれの属性を大まかに表したものだよ。光なら『聖』で闇なら『魔』、赤なら『火』で青なら『水』みたいなね。あと『魔』といっても人も普通に加護をもっている」
『魔』って……すごく邪悪そうな感じがするんだけど。
「そして全ての生き物は、最初から『主』のどちらかは必ず持っているけど『副』は0~2とばらばらなんだ。もちろん増やす方法はあるんだけどそれがまた大変なんだよね」
「なるほど」
なんか初めから多いと得した気分になるな。
それじゃあ次は……職業か。なるほど、職業は縦二行に分かれて表示されるのか。剣士に舞踏家、魔法使いとかがあるのかぁ。
他にも……あぁ、下にもスクロールできるのか。どれどれ……おっ、料理人とかもあるのか。
思っていたよりたくさんあったけどそろそろ終わりかな? それじゃあレオンにアドバイスを……
ん? なんだこれ。一番下に称号ってあるな。
称号は……『混沌』?




