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さくら

「それでどうするんだ?」


 クロに氷の魔法で腕を冷やしてもらっているとレオンに訊ねられた。


「どうするって何を?」

「魔力だよ。こうなるとまた制御できるようになるしかないが、以前とは違って魔力が多いから完全に制御するのはかなり難しくなってるぞ」

「あっ」


 魔力が増えて内心喜んでいたが確かにそれは問題だ。いくら魔力があっても制御できていないと意味がない。


「まぁ制御できるように頑張るしかないよ」

「そうか、何か月でできるようになるか楽しみだな」

「な、何か月!?」

「そりゃそんだけ急激に増えたらなぁ……俺たちはまだしも異人のお前はかなり時間がかかると思っておいた方が良いだろ」

「そ、そうなのか……」


 すぐにできるだろうと思っていたのだがその考えは甘かったようだ。って、うん? ということはもしかして俺、しばらくはまともに戦えないのでは?


「レオン、もしかして俺の今の状況マズい?」

「気付くのが遅いぞ……」




「お兄さん!」「お兄ちゃん!」


 スキルの確認が終わり一階に戻るとエラとアリスが走って左右から抱きついてきた。


「おはよう、体調は大丈夫かしら?」

「あぁ、問題ないよ」

「それなら良かったわ、昨日急に倒れたから驚いたわよ。この子たちなんて目の前で倒られたから大泣きしちゃったし」


 メアに言われエラたちを見ると、今も少し涙目になっている。


「そうだったんだ、ごめんね心配かけて。でも約束通り無事に帰ってきたから許してくれないかな?」

「はい……はい!」

「お兄ちゃんが無事で本当に良かった!」


 優しく声をかけると彼女たちは涙声ながらに服をギュッと握って許してくれた。


「それでメア、ここにいるということは準備が終わったのか?」


 エラたちの頭を撫でているとレオンが後ろからメアに話しかけた。何か準備があったのだろうか?


「まだだと思うわ、この子たちが心配してたからテオたちが早く戻るように言ってくれたのよ。それで戻って寮に行ったら優臣がいなかったからここで待ってたのよ」

「あぁ、なるほど……って今テオから連絡があったな。じゃあ優臣が起きたことだしあっちでそのまま準備しておくように言って……よし、行くかお前ら」

「行くってどこに?」

「そりゃあ打ち上げだろ」



           ☆           



 やって来たのは以前、大会の後に宴をした河川敷だった。


「んっ、優臣。見た限り無事そうで良かったぜ」

「本当に。安心した」


 遠目から見えていたあいたちに近づくと安心の声をかけられながら迎えられた。


「あはは、心配させてごめんね」

「いいよ別に、無事だったんだから。それとエクス、久しぶり」

「うむ、久しぶりだな」

「あにぃ、三か月も家に帰らないで何をやってたっすか!?」

「落ち着けミーナ。あらかじめ言っておいたであろう?」

「それでも長いっすよ! 自分心配してたんっすからね!」

「すまなかった!」

「……お前ら、打ち上げを始めたいんだがいいか?」

「あぁ、やってくれ」

「そうか、じゃあさっさと始めるか。今回の依頼達成と歳の近いメンバーが初めて一か所に集まったということで……乾杯!」




「肉肉肉! そしてさらに肉!」

「肉ばっかり食べてないで野菜も食べなさい」

「いや、野菜はいらない……ってあぁ!」


 打ち上げが始まってから肉しか食べていなかった恭也の皿に、マヤが野菜を入れて恭也が嫌そうな声を出した。何やってんだかアイツは。

 恭也とは違ってバランスよく食べている俺は再び桜の木の下へと腰を下ろして串に刺さった肉を食べる。


「……そういえば桜ってまだ咲いてるんだね、もう全部散ってる頃だと思うけど」


 夕焼けの中赤く染まった桜の花と前回夜に見た桜とを思い出して比べていると、ふとそんなことを疑問に思ったため近くに座っていたクロに聞いてみる。


「それはお主の世界での話じゃろ? こっちの世界は少し長く咲くからの。とは言っても……ほれ」


 クロが指差した方を見れば一本だけ全部花びらが散った桜の木がある。


「流石にもう桜の季節も終わりじゃな。今ここにある桜もまだたくさん花が咲いておるが数日もすればあんな風になると思うぞ」

「へー」

「ねぇねぇ、どうしてあれだけ散ってるの? あの木、寂しそう」


 世界の違いを再び実感していると、隣に座って話を聞いていたアリスがそんなことを言った。


「ふふっ、寂しそうか。エラもやっぱりそう思う?」


 焼かれた肉などをさらに載せて戻ってきたエラにどう感じるか聞いてみる。姉妹だから同じように感じているのだろうか?


「私は……綺麗だと思いました」


 だが返ってきた言葉はまったくの予想外の言葉であった。


「綺麗?」


 満開に咲いた桜を綺麗というのは分かる。だが逆に全部散ってしまった桜を綺麗と思うとはどういうことなのだろうか?


「えっと……あの一本だけが散ったことで、主役になって逆に輝いている……みたいな感じです」

「えー……何言ってるの、お姉ちゃん? 絶対咲いてた方が良いって! ねぇお兄ちゃん?」

「うーん、俺はどっちの感じ方も好きだけど」


 散った桜を輝いて感じるかは人それそれだろう。しかし『主役になった』というのは分かる気がする。これは数ある桜の木の中であの一本だけが散ったということが重要なのだろう。子供はおもしろい感じ方をするなぁ。


「クロはどっちが好きかな?」

「我か? そうじゃのう……エラとは少し違うがあれが散ったことによって周りがさらに輝いて見えるから、散っているのもありではないかのう?」

「ぶー! 絶対全部咲いてる方が良いもん!」


 散ったのもありという意見が多かったためアリスがはぶてた。


「アリス落ち着いて。ほら、料理がなくなったから取りに行きましょう。ついて行ってあげるから」


 アリスが機嫌を損ねかけたため、エラはまだ料理がのった自分の皿を置いて肉を焼いているシルティたちのところへ行った。


「ふふっ、主役か……エラは面白いことを言うのう」

「ああいうの、俺は好きだなぁ」


 徐々に沈んでいく太陽を横にして、そんな桜談義を俺たちはするのだった。

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