仮面の男、再び
「はぁはぁ……レオン……やってやったぜ……」
唐突に現れた優臣に声をかけるとニヤリと笑いながら親指を立てた。余裕があるような態度をとっているが、起き上がらず床に寝そべったまま言っていることから強がっているのは確実だろう。
「あぁ、よくやった。テオ、恭也」
「任せて」「分かってる、エリム!」
優臣の傷を癒すためテオと恭也に指示を出す。優臣とともに現れて気絶している男を拘束したテオと恭也は、すぐに優臣を回復し始めた。
それにしても……こいつはどうやってあれほどの結界を破壊したのだろうか? 確かに内側からの攻撃に弱いとは言ったが、それでもそこそこの堅さはあったはずだ。探るように優臣を見ると刀身が砕け散った刀が落ちている。が、それだけで詳しいことは何も分からない。
……まぁ、この依頼が終ってからゆっくりと聞くことにするか。今はこいつが無事だったことを喜んでおこう。
本当によくやってくれたな、優臣。
☆
「任せて」「分かってる、エリム!」
ディスパールを拘束し終えたテオと恭也が近づいてきた。エリムが俺の首から下を包み込み、そして恭也はエリムに何かの液体を飲み込ませた。ひんやりしていて熱をもっている身体に気持ちいいがそれと同時に少し痛い。
「これは?」
「エリムには薬などの効果を上げるスキルがあるから、体力回復のポーションを飲み込ませてお前の傷の中に入り込んで素早く吸収するようにしてるんだよ」
「へー……」
見れば小さな傷などが目に分かる速度で治っていっている。
「優臣、君はいったいどんな戦い方をしたの? 右腕も酷いけどそれよりも左腕の状態がかなり酷いね、ボロボロだよ。骨折した上にさらに負荷がかかったように見えるけど」
回復魔法をかけながら傷を見ていたテオが心配そうに聞いてきた。
「骨折は蹴りを防いだ時だろうけどその後はよく分からないや、それよりも早く親玉を捕まえに行かないと」
「そうだな、お前がもう少し回復したら行こう」
「そんな悠長にしてて逃げられたら――」
「心配はいらない、何のための結界だと思っているんだ。それにドアの前にはメアとシルティを、屋敷の周りには外の敵を片づけた他の班が待機している。他にも……いや、それよりも外にいた奴等と屋敷の中にいた奴等を合わせて52人だったからあとはロデスとその弟だけだろう」
「そうなんだ……」
いったいそのレオンの自信はどこから来るのだろうか? 手に入れた情報が違っていて他にもいるかもとは思わないのだろうか?
「うん、応急処置は終わったかな」
テオのその声に腕を見ればすっかり元通りになっている。
「おぉ、すげぇ! ありが痛ぁ!?」
ボロボロだった腕が元に戻ったのを見てテンションが上がった俺は勢いよく腕を上げたのだが、途端に鈍い痛みが襲ってきた。
「何やってるの!? 応急処置って言ったよね!?」
「いや、つい……」
「まったく……気をつけなよ?」
「はい……」
「バカだな優臣は。ほら、これでも飲んどけ。痛み止めだ」
「ありがとう恭也」
痛み止めを飲み、刀を回収しようとして刀身が砕けていることに気付いた。結界に叩きつけるという無茶苦茶な使い方をしたからだろう。結界を破壊するまでなんとか持ちこたえてくれたことに感謝しつつ柄をマジックボックスへとしまった。
「優臣準備できたか? じゃあお前ら、行くぞ」
☆
「優臣! 無事だったのね」
「安心した」
拘束したディスパールを他の班に引き渡してから親玉がいる部屋の近くまでやって来ると、ドアの前で待機していた二人が近寄ってきた。
「いやぁ、心配かけちゃったね」
「本当よ!」
「でも無事だったなら良い」
「ありがとね」
「お前ら、感動の再会は後にしろ」
「そうね」「分かった」
「じゃあ入るぞ」
レオンが両開きのドアを開けると無駄に広い部屋の中に三人の男がいた。太っている男が二人いて片方は一人は椅子にどっぷりと座っている。そしてもう一人の普通の体型の男は――
「お前は!」
エラとアリスと出会ったときにいた仮面の男であった。クソッ! まだ一人敵が残っていたのか!
「どうした?」
「前に話した仮面の男がいるんだけど」
「あぁ、やっぱりあいつだったか」
「そこでこそこそと話してないでこっちに来たらどうだね?」
椅子に座っていた男がのっそりと立ち上がり問いかけてきた。
「それで何の用かね、エルピリアの諸君?」
「それは言わなくても分かっていると思うが? ロデス男爵」
「ふっ、そうかね。だがレオン君、君に理由もなく貴族である私を拘束――」
「それなら心配はいらない」
そう言うとレオンはマジックボックスから何かが書かれた紙を取り出した。
「これは王直々に書かれたお前とその弟を捕らえろと書かれたものだ。だから遠慮なくやらせてもらう」
「そうか、王直々に……ふふふ、はっはっは!」
ロデスは顎についた肉をたぷたぷと揺らしながら笑い出した。なにやら嫌な予感がする。
「では取引をしないか、レオン君。我は――」
「そうだ優臣、お前に良いことを教えてやろう。この世界にはオークという生物がいるんだが、あそこにいる二人はオークにそっくりだ」
「は? ……はぁ!?」
レオンがロデスの言葉を遮ってなにやら急にアホなことを言いだした。今この状況で相手をバカにするとかこの男はいったい何を考えているんだ!?
「おい、ジェント」
「はい」
どうやら仮面の男はジェントというらしい。その男がロデスに呼ばれ、前に出てきた。
「あの我をバカにした男を捕らえろ。見逃してやろうかと思ったが、いたぶってから殺してやる」
「分かりました」
ほら怒らせちゃってるじゃん!
「お前ら下がってろ!」
レオンの合図で俺たちはすぐ後ろに下がる。それと同時にレオン、そして仮面の男はお互いに仕掛けた。部屋の中央で「キーン!」という甲高い音が響き、そして「ドスッ」という鈍い音が響いた。見ればレオンの持っていた剣が弾き飛ばされ天井に刺さっている。
「くっ!」
すぐにマジックボックスから新たな武器を取り出そうとしたようだが、仮面の男に取り押さえられ床に押さえつけられて魔術具で拘束されてしまった。
「レオン!」
「来るな! お前らじゃどうにもならない!」
テオが声を上げ、マジックボックスに手を突っ込んで助けに向かおうとしたが、レオンはそれを制止した。
確かにレオンはエルピリアで一番強いらしいため、その男が勝てないやつに俺らが勝てるとは思えない。だが、だからといって見捨てるわけにはいかない。それにこっちは数がいるのだ、うまくやれれば……
「おっと君たち、動かない方が良いと思うがね?」
「くそっ」
だがそんな俺の考えを見越したかのように、ロデスはこちらを牽制し、レオンに近づいてレオンの後頭部に足を乗せた。
「そうだ、それでいい。レオン君、さっきは散々バカにしてくれたな? そんな相手に負けるってどんな気持ちだ? 教えてくれると嬉しいがなぁ」
ロデスはニヤニヤと笑いながらレオンの頭をグリグリと踏みつける。
「ぐぁっ! こんな……こんな違法に奴隷を買う奴に負けるわけにはいかねぇのに!」
「あぁ、やっぱりそのことかね。ふふっ、泣き叫びながら我に身を捧げる幼き子のなんて可愛いことか! 最近、我のものであった少女が二人ほど横取りされたのには腹が立ったがな」
ロデスの述べる言葉に怒りを覚えているとレオンがこちらに頭を向け、そしてニヤリと笑った。何を笑っているんだ?
気になりレオンの目線の先を見るとテオに向けられており、そのテオはいつのまにか小さな何らかの魔術具を手に持っている。
「さぁ、ジェント。私はレオン君で遊んでいるのであいつらを始末して来い。いや始末するのは男だけで良い! さぁ、やれ!」
「……了解した」
ロデスの言葉に身構えた。しかし、仮面の男がこちらに攻撃を仕掛けてくることはなく、それどころか――
「は?」
命令したロデスの右腕を切り飛ばした。
「ぎぃゃぁ゛あ゛ああ! 何をやっている、ジェント! 気でも狂ったか!」
大量の血を流しながら叫んでいるロデスを意に介した様子も見せずに仮面の男はロデスを、そして踏まれていたはずのレオンはいつの間にか拘束から抜け出してロデスの弟を拘束している。
「テオ、止血してやれ」
床に転がされたロデスを見ながらレオンはテオに指示を出し、テオは魔法で傷をふさいで止血した。
えっ、いったいなにが起こってるんだ?
「どうした、そんなアホ面さらして?」
魔術具から解放されたレオンがのんびりと歩いてきながら聞いてきた。
「えっ、いや、えっ? 何が起こってるの?」
「何も起こってないぞ、もう終わったからな。おい、ジェント! それらは任せて大丈夫か?」
「あぁ」
「分かった。さぁお前ら、依頼達成だ! 仕上げをしたらギルドに帰るぞ!」




