絶体絶命
「――僕はディスパール。これから短い間だけど一緒に戦闘を楽しもうじゃないか!」
その言葉が終わる前に、距離が離れているため速度の速い風の魔法を放った。敵であると分かった以上、長々と話を聞く気はない。今は少しでも時間が惜しいのだ。
しかし放った魔法はディスパールによって蹴り上げられたテーブルに防がれてしまった。
「おやおや、人の話は最後まで聞くべきだと思うよ?」
「命を狙われている状況でそんな余裕あるわけないだろ。こっちは必死なんだ」
すぐに二発目、三発目を放ったのだが――
「ふふ、そうなんだ。あっ、その必死な表情も可愛いね」
きれいにかわされ、それどころかカメラをこちらに向け写真を撮ってきた。
「……」
この一連の行動に腹が立ちそうになるが深呼吸をして自分を落ち着かせる。相手のペースに乗っちゃ駄目だ。
「ふー、あの部屋に連れていく前にかなり良い写真が集まったね……それじゃあ――」
ディスパールは満足したのかカメラをしまい、まるで道化のように大袈裟に両腕を空に掲げ、
「仕上げのメイクといこうかな!」
にこりと笑みを浮かべて言い放った。
「いっ!」
すると突然、腕に小さな痛みが走った。見ればツー……と血が腕を流れている。どうやら後ろから飛んできた魔法が、俺の腕に軽く切り傷をつけたみたいである。
「くっ……」
訳が分からないためその場を離れる。いったいいつ魔法を放ったのだろうか? 相手の動きが変わったため警戒してじっと見ていたのに、まったくその瞬間を捉えることができなかった。
「ふふふ、まだまだいくよ!」
「あはははは! いつまで耐えられるかなぁ!?」
しばらく魔法を見て理解したが、どうやらドーム状に展開されている結界から魔法が飛んできているようだ。
何度か攻撃を仕掛けようとしたが至るところから飛んでくる魔法によって近づくのを阻まれたため、自分の周りに結界と同様のドーム状の障壁を緑の魔力を使用して展開し、中から観察することによって突き止めることができた。
ここまでは良かった。良かったのだがここからが問題なのだ。常に全方位から魔法が飛んできて攻撃に転じるタイミングが上手く掴めないのだ。
幸い魔法の威力は低いらしく初めは余裕があったが、今は少しずつ削られて障壁を貫通して少しずつ傷が増えてきている。
「あぁ、楽しいなぁ! ねぇねぇ、あとどのくらいなら耐えられるのかな? まだ君を殺すわけにはいかないんだけど……あぁもう我慢できない! 少しだけ! 少しだけでいいからかわいい鳴き声を僕に聞かせてくれ!」
……この男、本当にウザいなぁ!
障壁を展開したまま動けたら良いのだがまだ調整が難しく、一度そうしようとしたら危うく消えかけてしまった。
「あははははぁ! あはははは……ん?」
一か八かポーションを飲んで攻撃に転じようかと悩んでいると、「ドンッ!」という音と共に結界がビリビリと震えた。何事かと思っていると先程よりさらに大きな音と振動が起き、そして
「優臣、聞こえるか!?」
ザザザッという音が魔報からし、レオンの声が聞こえてきた。
「レオン!」
「よし、聞こえたな! 今大丈夫か!?」
「今はなんとか!」
「くっ、思っていたよりもかなり早くここが見つかったみたいだね!」
こうなることを状況を想定していなかったのかディスパールの焦った声が聞こえ、攻撃も激しさを増してきた。それに対応するため俺は魔力回復のポーションを飲み、障壁に注ぐ魔力をさらに増やしレオンの言葉に耳を傾ける。
「よく聞け、二手に別れてロデスの部屋の前まで行ったテオたちによると結界が展開されていて侵入できないらしい。そのテオたちが今こっちに来たがどうやらここの結界と部屋の結界は同質のものらしい」
ということはまだ捕まえられていないのか。
「シルティが解析したところこの結界は外からの攻撃にはかなり強固だが、中からの攻撃は比較的通るらしい! こっちからも攻撃し続けるが破壊できるか怪しい。だからお前は術者を倒すか、結界を壊すかしろ」
「……あぁ、やってやるよ」
と、ここで再びレオンとの通信がぶつりと途切れた。どうやら不安定になっていた結界が安定したらしい。
術者を倒すか、結界を壊すか……この状況で結界を破壊できるとは思わない。結界まで少し距離があるため、結界に近づいて破壊しようとした瞬間を狙われるだろう。障壁を展しながら移動できたら良かったのだが、生憎そこまでのレベルにはまだ到達していない。となるとやはりディスパールを倒すしかない。
「ふぅ……」
魔力、さらに体力回復のポーションを飲んでどちらも障壁の中で無理矢理回復させる。そして目や首に他の部位より多めに魔力を纏わせ、少しでも防げるようにする。
あとはいつディスパールに突っ込むか……だが、
「……」
5……4……3……2……1……今だ!
心の中でカウントダウンをする。タイミングが掴めないなら無理やり作って自分を奮い立たせるまでだ! 0のタイミングで障壁を一気に大きくし、そこに風の魔法を打ち込んだ。内側から魔法を打ち込まれて破壊された障壁は、辺りに暴風を巻き起こした。
「ちぃっ!」
これによって体勢を崩し、魔法の狙いを上手くつけられなくなったディスパールへと一気に距離を詰め、そして刀がもう届くというところで刀を抜き、魔力を流して勢いそのままに斬りつけた。
「うっ!」
後ろに大きく離れたディスパールを見れば横に斬られた痕があり、そこから少しではあるが血が流れている。後ろに下がられたため当たらないかと思ったが、浅く入ったようだ。
この機会を逃すまいとすぐに追い打ちをかけ、刀を振るったのだが「ガキン」という音が響く。見れば
剣に防がれている。
「やってくれたね、優臣君」
常にニコニコと笑みを絶やさなかったディスパールが無表情になり、これまで一切使ってこなかった剣を振ってきた。
師匠に比べればスピードが遅いため対処はできるのだが、そのかわり一撃が重いため徐々に追い込まれてしまう。巻き返そうと僅かな隙をついて刀を振るがこれも防がれてしまう。
よくない状況のため一度リセットしようと魔法を発動しようとする。が、魔法に意識を向け僅かに力が緩んでしまったのだろう。大きく刀を弾き返されてしまい、上体ががら空きになってしまった。
「しまっ――」
「楽しかったよ、優臣君」
これまでで一番の笑みを浮かべたディスパールが足に魔力を纏わせ、回し蹴りをしてきた。これをもろにくらうのはマズイと判断し、急いで左腕をその間に滑り込ませる。目論見通り防ぐことには成功したが、重い一撃であったため吹き飛ばされ結界に身体を勢いよくぶつけてしまう。
「がっ……」
すぐに立ち上がろうとするが頭はふらふらしてうまく身体を動かせず、呼吸も上手にできないためまるで体が自分のものじゃないみたいに感じる。さらに左腕を動かそうとすると激痛が走ることから、多分左腕は折れてしまっているだろう。
刀を地面に刺し、膝をついて地面に倒れてしまわないようにする。もしここで気を抜いてしまえばすぐにでも倒れてしまうだろう。
「いやぁ、思った以上に頑張ったね。びっくりしたよ……でももう終わりみたいだね」
こちらにゆっくりと歩いてきながらディスパールは嬉しそうに話しかけてきた。
「さぁ、もうお休み」




