蒐集家
「クソッ!」
「どうしたの?」
思わず悪態をついた俺にテオが尋ねてくる。
「優臣との通信が切れた、というより切られたな。……厄介なことになってるな」
「通信を切るほどの結界を個人で使うとなるとかなり面倒だね」
「あぁ」
エクスの情報によればこの屋敷にこんなことができるやつはいなかったはずだ。となれば雇い主であるここの主人にすら情報を隠していたと考えるべきだろう。
……しくじったな。今回は優臣にとって最初の対人での実践であるため俺たちがフォローしながら経験を積ませるつもりでいたのだ。少なくともあいつを一瞬でも一人で行動させる気はさらさらなかった。さっきまでの優臣の動きを見る限りかなりマズイだろう。
「すぐに下に降りて結界を――」
「侵入者がいたぞ!」
「ちっ!」
「レオンどうする?」
「まずは迎撃で、その後の判断はそれからだ!」
どうにか無事でいてくれよ……
☆
「うわっ!?」
真っ白な部屋のドアをくぐると正面、そして左右にドアが一つずつある部屋に出た。そしてこの部屋であるが……様々な表情を浮かべた、たくさんの若い男女の写真が額縁に入れられて飾られており、その下には名前がはられている。
無表情、笑った顔、怒った顔、喜んでいる顔――そして悲しんでいる顔に何かに絶望したような顔……とくに最後の二つはずば抜けて多い。
「なんだここ……」
気味が悪くなり右の部屋へと入る。その部屋はドアを除いたすべてが鏡になっていた。
「はっ?」
意味が分からない。なぜこんな部屋を作ったのか製作者の気持ちが微塵も分からないし分かりたくもない。
続けて元の部屋に戻り左のドアに入る。
「……ッ!」
その部屋には様々な道具が置かれていた。それが普通の道具であったならこんなに驚かなかっただろう。そう、この部屋に置かれていたのは――拷問道具だったのだ。
怖くなりドアを勢いよく閉めて部屋を出る。気付けば怖さのあまり呼吸が乱れている。
「……」
最後に残った正面のドアを見る。正直に言うと入りたくない。入りたくないが……こんなところで止まっているわけにもいかないのだ。
「くそっ……」
覚悟を決め、悪態をつきながらではあるがドアを開ける。するとこれまでの部屋とは違いドーム状になっている無駄に広く何もない空間で、椅子に座って優雅に何かを飲んでいる男の姿が目に飛び込んできた。
一歩踏み出すと「シュンッ」という小さな音が聞こえ、振り返るとドアが消えていた。
「ふふっ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
椅子に座っている男が優しい声音で声をかけてきた。
「……」
「あれ、緊張させちゃったかな? でもその表情もいいね」
そう言うと男はテーブルに置いてあったカメラで俺を撮ってきた。
「まぁそんなに緊張しないで? 少し僕とお話ししようよ」
「そんな時間はないです。俺はすぐにここを脱出したいので」
「脱出したいの? じゃあその方法を教えてあげるから僕とお話ししよ?」
なんなんだこの男は? 二十から三十ぐらいの優そうな顔をした男がしきりに話に誘ってくる。そんな時間はないのだが……しかし少し話せばここを脱出できる方法を教えてくれるらしい。
「……それなら少しだけ」
「本当かい!? それは嬉しいねぇ。さぁ、椅子に座って! あっ、君も紅茶を飲むかい?」
「いえ、結構です。それと椅子には座りません」
「そうかい」
男は露骨にがっかりとした仕草を見せた。
「それで何を話すんですか?」
「そうだねぇ、君は人のどんな表情が美しいと思う?」
「はい?」
「あっ、別に好きな表情でも良いよ」
どんな質問なんだこれ? 意図が分からず困惑してしまう。
「それもいただき!」
そしてまた写真を撮る男。本当になんなんだ……
「……笑っている表情ですかね」
「なんでだい?」
「なんで? そうですね……なんとなくとしか」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ泣いた顔は?」
「泣いた顔? 別になんとも思いませんが」
「そうなんだ。嫌とも思わないの?」
「別にそこまでは……」
「なるほどなるほど。因みに僕は大好きなんだ、他にも絶望した表情とかも……ね?」
その言葉に思わず後ずさる。やはりあの部屋の写真はこの男が撮ったものだったか。
「ふふっ、優臣君は表情が豊かだねぇ」
「……なぜ名前を?」
「そりゃ君の仲間が呼んでいたからね。この屋敷に来た君を一目見た瞬間、感情をたくさん映し出す君に惚れちゃったよ」
「……!」
「良い! その表情も良いよ! なるほど、君をずっと眺めていたくなる気持ちが分かるよ」
男は紅茶を飲むのを止めてカップをテーブルに置き――
「いやぁ、君とこんな話ができて僕は幸せ者だよ。お礼にここの脱出方法を教えてあげよう。それはね、僕を倒すことさ! だから君もここから生きて脱出することはできないよ!」
ニコニコと嬉しそうに笑いながら立ち上がった。
「僕はディスパール。これから短い間だけど一緒に戦闘を楽しもうじゃないか!」




