ドッペルゲンガーⅡ
ドッペルゲンガー? それって……
「ドッペルゲンガーってあの『自分とそっくりの姿をしている』ってやつで間違いないですか?」
「ああ、間違いないよ。ただ優臣君が見たのは影だったはずだ。あれはあっちの世界では影だったけど、こっちでは自分に似た姿なんだ。まあ顔は堅い仮面に隠されて普通は見えないし、髪の色など多少違うところはあるけどね」
やっぱり知っている通りのものなのか。ただ俺が知っているのと微妙に違うところがあるような……仮面とか。
「因みにだけど昔、仮面を叩き切った人がいたらしくてね。現れた顔は自分と同じだったらしいんだ。そしてその人はそれからすぐに死んでしまった。それが原因で死亡したかは定かではないけどまるでドッペルゲンガーの現象みたいだということで、元の世界からこっちに来ていた人がそう名付けたらしいよ? 長いからみんなドッペルって呼んでるけどね」
どうやらあれが現れたのも最近のことではないようだ。
「ドッペルはいつから出現するようになったんですか?」
「記録によると君たちの世界に現れるようになったのはだいたい50年前からで、こっちの世界ではそれよりもう少し前から稀に現れていたようだね」
「なんで急に現れたんですか?」
「それは全く分っていないんだ、研究を進めてはいるんだけどね。ただ優臣君に限った話じゃなく、元の世界では何の予兆もなく現れるんだ。もしかしたら観測できていない異変が元の世界に起きているのかもしれないし、はたまた神の気まぐれかもしれない。こっちの世界には神が何柱かいるらしいから、もしそれが本当なら理由や原因を知っているのはその神様たちぐらいかもね?」
藤堂さんは自嘲気味にそう言った。しかし魔法の次は神かぁ……気になるがこんなことをする神は碌な神じゃないだろうから、いたとしても会いたいとは思わないが。
「ドッペルって人間以外にも現れるんですか?」
「そうだね。人だけじゃなく生物全般に現れるみたいだよ」
へー、動物のドッペルってどんな感じなんだろうか? 人間と同じ感じなのかな?
「他に何か聞きたいことはあるかい?」
「そういえばドッペルに怪我をさせられた部分が、元の世界ではありえない早さで治ってきてるんですけど何故ですか? 他にもドッペルに襲われた記憶を失くしていたことについて知りたいのですが」
「記憶のことについてはよく分かっていないんだ、まだデータが少ないからね。傷についてだけどそれは多分ポーションのおかげだろうね、もしくは魔法かな」
「魔法……」
「君はもう魔法を見たかい?」
「いえ、まだです」
「それなら見せてあげよう、驚くと思うよ?」
魔法を見せてもらい、そして話をいくつかして一段落したところで藤堂さんが姿勢を正した。
「……優臣君、今から君の今後に関わるとても大事な話をする」
「何ですか?」
「ドッペルによってこっちの世界に連れて来られた人は、必ずドッペルと戦わなければならない」
「……それって絶対に戦わないといけないんですか?」
「うん、今まで例外は一人たりともいないはずだ。戦わないという選択をした人達もいるらしいけど全員謎の失踪をしているらしい」
はあ? 何だそれ!?
「でも俺、戦い方とか知らないんですが」
「そう、だから君には選択をしてもらう。鍛錬して生き残るか、何もしないか」
「それ選択になってないじゃないですか、当然鍛錬します。そもそもそれを聞いて何もしないという人はいるんですか?」
「何もしないというか……自殺した人がいたんだよ、元の世界に戻れないと知って」
なるほど……って
「元の世界に戻れないんですか!?」
「今はまだ戻れない。別の世界に行く魔法は研究しているけどいろいろ問題があるんだ。元の世界に戻ってもあっちには魔力がないから、ちゃんと目的地に着いているか確認ができないことや世界を越えるときに安全なのか、とかね」
「それっていつ完成するんですか?」
「分からない、一年後かもしれないし十年後かもしれない。或いは僕らが生きているうちに完成しないかもしれない」
申し訳なさそうな顔をしながら藤堂さんは言った。別に藤堂さんが悪いわけじゃないからそんな顔をしなくても……
ただ、と藤堂さんは付け足した。
「この世界はいろいろと不思議に満ちていて元の世界とは違った楽しみがあり退屈することはないはずだ。僕たちも全力で研究し、きっと魔法を開発する。だから、僕たちを信じて魔法が完成するのを待っていてくれないだろうか?」
……ここまで言われたら「いいえ」とは言えない。
「もちろんです」
「……そうか、それは良かった」
藤堂さんはホッとしたように椅子の背に倒れ掛かった。
☆
話がまとまった後、俺は藤堂さんについてくるように言われ地下へと来た。
ここは鍛錬する場所だろうか? サンドバッグなどがたくさんある。
「ここは?」
「ここはただの身体を動かす場所さ。……優臣君、君の鍛錬はすぐにでも始まると思う。だが気持ちが入らなければ意味がないものだ。少しの時間しか取れないが好きにやってくれていい。大声で叫ぶも良し、サンドバッグを殴るも良し、はたまたただ座ってるだけでもね。僕は部屋の外にいるし、防音対策もしっかりしてあるから」
そう言って蓮二さんは部屋の外に行った。なにをしてもいいのか。それなら……
「ふざけんなよ! どうしてこうなった!? 俺が何かこうなるような事をしたのか? してないだろ!」
そう大声を上げながら俺は近くにあったサンドバッグを殴った。ジンジンと手が痛む。しかしそれでも俺は殴るのをやめなかった。
最初はドッペルに対する怒りしか湧かなかった。しかし徐々に家族や友人に二度と会えないかもしれないという寂しさやこれまでしてきたことは全て無駄だったと、見えない誰かにあざ笑われているようにさえ思えてきた。
「ちくしょう……ちくしょう……!」




