恭也のお薬シリーズ①ーⅠ
「……お金がない」
ギルドの円いテーブルに突っ伏してそんな言葉が口から漏れる。財布の中身を確認すると、まだ月の初めにも関わらず銀貨二枚と大銅貨などが数枚しかなかったのだ。
月が変わって支援金を受け取ったが、そもそもこれは一人分だ。装備の整備に加えてエラたちの食費を考えると、全くと言っていいほど足りない。
まだメアの貯金が少しあるのが救いだろうか?
「うーん……」
レオンたちはそれぞれ別の依頼を受けていて今はギルドにいないため、依頼を受けるなら俺一人となる。
俺だけでこなせる依頼の報酬は少ないためその日しのぎにしかならない。かと言って報酬が多い依頼は内容を見た感じ一人じゃ無理だし……
「何悩んでるんだ?」
何か良い案がないか悩んでいると恭也がやって来た。……女物の服を着て。
この男、ここ数日女装をするわけでもなくただ女物の服を着て過ごしているのだ。
「……俺に変態が話しかけてくることかな」
「そうか」
そう返事をした恭也はギルドをぐるりと見回し
「どいつだ?」
と聞いてきた。この男は自分が変態という自覚がないのだろうか?
「お前だよ、お前」
なんだ、その心外とでも言わんばかりの顔は。
「女物の服を着てうろうろしてるやつは変態だと思うが?」
「おいおい、俺が意味もなく着ているとでも? 実は俺、称号のせいで定期的に女物の服を着ないといけないという呪いにかかってるんだ」
「うそだろ……」
そうだったのか……確かに俺は、何か理由があるかもしれないのに恭也のことを変態だと決めつけていた。俺は恭也のことを少し誤解していたようだ。
「恭也のこと誤解していたよ、ごめん」
「まぁ嘘だけどな」
「……」
う、うぜぇ! やっぱりこいつはただの変態だっ!!
「なるほど、金欠か」
こんな男でも何か俺でも稼げるような仕事を知っているかもという僅かな望みにかけて、お金がなくて困っていることを打ち明けた。
「なるほど、ちょうどいいな」
「どうした、ぼそぼそ呟いて?」
「いや、なんでもない。それでだな、お前でも稼げる仕事ならあるぞ」
「本当にっ!?」
「ああ、ついて来い」
いやー、恭也にはあまり期待していなかったがこれはいい意味で裏切られたな。
わくわくしながら恭也に連れて来られた場所、それは地下にある恭也の研究室であった。
「それでどんな仕事なの?」
「ああ、それはだな……薬の被験――」
「じゃあな」
「おい、待てって!」
待てと言われて待つわけないだろ! 今、被験者って言いかけただろ!? こいつの創る薬がまともなわけないじゃないか!
「絶対嫌だ!」
「銀貨10枚出すぞ」
「話を聞こうじゃないか」
「……清々しいまでの手のひら返しだな」
「これを自分にかけるか飲むかすれば効果が出るはずなんだが……今回はかけてみてくれ。あとこれに着替えろ」
恭也から服と呼ぶにはいささかシンプルすぎるように思える真っ白な服と薬の入ったフラスコを渡される。その服へとさっそく着替えると、シンプルだった形状や色が変化してまったくの別物となった。
「うおっ! なんだこれ?」
「それは今回のために特別に作らせたもので、着た人物にあった色や大きさに変化するんだ。……かなり財布に響いたがな、具体的に言うと銀貨100枚だ」
「馬鹿だろ」
こいつのエロへとかける情熱はやはり常軌を逸している……さすがエロの化身というべきか。
「で、この薬はどういう効果なんだ?」
「それはお楽しみにしてな。ただ……ふっふっふ」
やれやれ、この反応から察するにまたエロ関係か。
「お前本当にエロが好きだな」
「当たり前だろ、エロは男の友情を育むものだぞ」
「んなわけないだろ!」
「はっ? そんなことも知らないなんてさてはお前、友達いなかったな?」
「失礼な、普通にいたわ! ……ははーん、そういうお前がいなかったんじゃないか?」
そう言い返すと恭也は黙り混んでしまった。どうしたんだ……って涙目になってる!?
「お、お前……世の中には言って……良いことと悪いことがだな……それに俺はいなかったんじゃなくて……作らなかっただけだからな!」
「自分から言ってきておいてその反応はないだろ……」
「くっ、いいから早く着替えて薬を自分にかけろ!」
やれやれ、じゃあ協力してさっさと金をもらって帰るか。
フラスコの栓をとって頭から薬をかけると体から白い煙が出だした。
「おい、これ大丈夫なんだろうな!?」
「大丈夫大丈夫、すぐに収まるはずだから」
「本当かよ。ゲホッ、ケホッ」
そう喋っているうちもどんどん煙の出る量が増え、遂に自分の体さえ見えなくなってしまった。が、恭也の言った通り煙はすぐに晴れ視界が開けた。
「優臣、大丈――ああぁぁぁぁ! 成功してる! やった……やったぞーー!」
目の前に立っている恭也が大きくガッツポーズをしながら発狂しだした。急にどうした!?
「おい、大じょう……」
恭也に声をかけようとして違和感を感じる。なんだ、今の女の声は? それに恭也の目線がいつもより高く感じる。
「見てみろ優臣、成功だ!」
恭也が嬉しそうに姿見を持ってきた。それを見ると――
「姿見がどうした……って…………」
「どうだ? すごいだろ?」
「はぁあああああ!?」
俺の姿は映っておらず、スカートを履いた見知らぬ女の姿が映っていたのだった。
☆
「テメェ、やりやがったなぁー!」
あのあとすぐに確認するとあるべきものがなくなっており、かわりに胸が大きくなっていた。つまり女になっていたのだ。
「やはり俺は天才か……」
「うるせぇ、天災だよバーーーーカ! これもとに戻るんだろうな!?」
「おい、胸ぐらをつかむな。近い、近いぞ! 胸が当たってる!」
「そんなことはどうでもいいから早く答えろ!」
「戻る! 一日もしないうちに戻るはずだ!」
くそっ、やっぱり碌なものじゃなかったか! しっかり効果を聞いておくべきだった。もしくは気付くべきだったのだ、こいつがここ最近女物の服を着ていることや着ている人物に合わせて変化する服といった情報から。
……いや、冷静になってみるとこれらの情報からじゃ気付くの無理だろ。
「それにしても随分可愛くなったな、なかなかの美少女だぞ。それに服もよく似合ってる」
「なんだ? 煽ってんのか?」
「おいおい、えらく苛立ってんな。よく考えてみろよ」
「何をだよ」
「お前は今、女なんだぞ。つまり……合法的に女湯に入ることが出来る!」
「バーカ、俺がそんなことするわけないだろ。……ところで薬を頭からかぶって体も服もびしゃびしゃだから風呂に入ってきていいか?」
「今の時間は女湯は掃除中じゃなかったか?」
「マジで?」
「おい、今俺に馬鹿と言ったことを謝れ!」
チッ、いちいちうるさいやつめ。
「それで俺はこれからどうすればいいんだ?」
一応実験に付き合っているのだ、こうなったら最後まで付き合ってやろうじゃないか。
「そうだな……動き回ってくれると助かるな。外に出たら効果が予想より早く切れるかなどを確認しておきたいし」
「えー」
こんな姿で外に出たくないなぁ。
「……銀貨15枚に――」
「外に行くぞ!」
階段を上がって一階へと出る。くっ、急に目線や体型が変わったのもあって歩きづらい……!
それにしても今はギルド内に人がほとんどいないようでちらちらとしか見受けられない。ラッキー、これならこの姿を見られる人数が少なくてすむ。
「んっ?」
ゲッ、レオンと目があった。レオンやメアたちにはあまり知られたくないのだが。
「お前……誰かに似ているな。おい恭也、こいつは誰だ?」
まっ、まずい! えーっと名前はどうするか!? いや、まずは口調を――
「わ、私は――」
「優臣だ」
!? こっ、こいつ俺の名前を言いやがった! あっ、悪い顔してやがる! さてはさっきの仕返しのつもりか!
「ほう」
レオンがにやりと笑う。あっ、嫌な予感。
「お前ら面白そうなことをしてるな、詳しく聞かせろ」
くそっ、やっぱりこうなったか! こうなると分かっていたから特にこいつには知られたくなかったんだ! 誰かこいつらを止めてくれ!




