初めての吸血
――彼はこの短期間で の予想以上に成長した。
他にも対象はいるが今は彼を観察するのが一番楽しい。
最後が彼で良かった、これなら期待できそう。
? ……期待? が最後に期待したのはいつ?
☆
「はぁ……はぁ……」
何か音が聞こえる。
「ふぅー……ふぅー……」
これは……人の息遣いだろうか? なにやら妙に艶めかしく聞こえる。ただ待ってほしい、この部屋には寝ていた俺しかいないはずだ。
他に誰かいるのか気になりそっと目を開けると、目の前に紅く、そして怪しく輝く瞳があった。
「ぎ――んっ!? んー!」
思わず叫びそうになるが口を押えられてしまう。何ごと!?
襲撃者の姿を確認するため手を伸ばして部屋の明かりをつけると
「っ!」
暗かった部屋が急に明るくなって驚いたのか、俺から離れた襲撃者を見るとメアであった。しかし普段と雰囲気が違うように感じる。
「……メア?」
「あら? 私はなんでここにいるのかしら?」
「俺の方が知りたいんだけど」
声をかけるといつもの、猫を被っていない方のメアに戻った。どうしたんだろうか?
「本当にごめん!」
「……とりあえずなんでこうなったのか教えてほしいんだけど。何が原因かは分かる?」
「えっと…言わないとダメ?」
恥ずかしそうに聞いてくるメア。
「できればね。それに俺たちはパートナーだろ、もしかしたら力になれることがあるかもしれない」
メアにはいろいろと助けられてきた、俺が力になれるならできる限り手伝いたい。……もし原因がドッペルならダンケルハイトさんに連絡しないといけないが。
「えっとね……ほら、私って吸血姫にして吸血鬼じゃない?」
「あぁ、そういえばそうだったね」
なんというかメアは吸血鬼っぽくないため、吸血鬼ということを忘れていた。吸血鬼なのに血を吸っているところも見たことないし。
「あんた忘れてたでしょ……私こっちに来てからまったく人間の血を飲んでいないのよね。吸血鬼って血をしばらく飲まないと体調を崩すのよ。それで今回少し暴走しちゃったって感じ」
「……これまではどうしてたの?」
「パックに詰められた血を飲んでたわ」
なるほど……ひとまず原因がドッペルじゃなくて安心した。だが分からないことがある。
「なんでこっちに来てから血を飲んでないの? 魔法陣であっちに戻れるから問題ないんじゃないの?」
メアが実家からメイド服を貰ってきたのだから戻れることは確認済みである。
するとメアはさらに耳まで赤くした。もしかして何かメアが恥ずかしがることを聞いてしまったか!?
「お父様がここから出ていくのなら自分で確保しろって……幸いお前には召喚術によって相性がいいと分かっている優臣がいるのだから、と」
確かに召喚術は相性が良い対象を召喚する魔法であるらしいからそれは間違いないだろう。
「それを俺に言わなかったのは、もしかして遠慮してたから?」
メアを遠慮させてたのなら悪いことをした、謝らなければ。と思ったのだが彼女から帰ってきた言葉は予想外のものだった。
「……ず……からよ」
「えっ?」
「恥ずかしかったからよ!」
「えぇ……」
まさかそんな理由で我慢してたの?
「私これまで直接人から血を飲んだことがないのよ! 初めてなの! 『あなたの血をちょうだい』ってお願いするの恥ずかしいに決まってるでしょ!」
「そんなの知らな――分かった、分かったから落ち着いて! エラたちが起きちゃうから!」
「落ち着いた?」
「ええ」
メアを何とか落ち着かせることに成功する。それにしても……血を吸うことの何が恥ずかしいのだろうか? 食事のようなものだと考えると別に恥ずかしがることはないと思うが。人間の俺には分からないことなのだろう。
「それで血はどうするの?」
「それは……えっと……あなたの血を私にちょうだい?」
「もちろん……って言いたいところだけど一ついいかな?」
「どうしたの?」
「吸血されたら俺も吸血鬼になるとかないよね?」
そう、これは吸血鬼の話ではよくあることだ。もしそうなら元の世界に戻れなくなるため困る。
「あら、よく知ってるわね。心配しないで、眷属になるまでたくさん飲むようなことはしないから」
やはりたくさん吸血されると吸血鬼になってしまうようだ、気をつけよう。
「分かったよ、じゃあどうぞ」
了承するとメアは近づいてきて「かぷり」と噛みついた。首にチクリとした痛みが走る。
「んっ、んっ」
久しぶりに吸血したからだろうか? メアは一心不乱に飲んでいる。
「はぁ……」
そして満足したのか頬を赤く染め、恍惚とした表情で目をトロンとさせているメアは俺の首から口を離した。
うっ……吸血されたからだろう、少しめまいがする。
「終わったの?」
「ええ、ありがとね」
「気にしないで良いよ、これからは暴走する前に言ってね」
「分かったわ。……それにしても」
「うん?」
「思ったより味は普通だったわ」
「……」
このように言われたときどんな反応をすれば良いのか分からず、結果微妙な反応しかできないのであった。
☆
「おはよう」
「おはよう、優臣。少し顔色が悪くないかい?」
日課である師匠のもとで鍛錬をしてギルドに行くとテオがご飯を食べていた。今日もテオは可愛いなぁ、本当に男なのか見るたびに自信が無くなる。
そして師匠にも言われたのだが少し顔色が悪いようだ。
「いろいろあったからね」
吸血のときメアが恥ずかしがっていたため、言葉を濁して返事をする。
「体調が悪いなら家で休んだ方が」
「いや、それは大丈夫だよ。……まだレオンは帰ってきてないの?」
「そうだね」
レオンがリアンに連行されてから三日経つがまだ帰ってきていない。少し心配になったがギルドの皆は口を揃えて
「大丈夫だろ、よくあることだし」
と言った。俺よりこのギルドに長くいる人たちが言うのだから多分大丈夫なのだろう。……この人たちの大丈夫を信じていいのか?
この後の依頼に備えて装備の調整していると馬車の音が外から聞こえてきて、ギルドの前で止まった。誰かが来たようだ。
「あっ、レオンが帰って来たみたいだね」
近くで一緒に調整していたテオが教えてくれる。その言葉通りにレオン、そしてリアンが腕を組んで入ってきた。
……なんだあの羨ましい光景は。
「ちっ」
隣にいた恭也が舌打ちをする。こいつも同じことを考えたのだろうか。
「お前ら、聞けー」
受付の前へとやって来たレオンが号令をかける。ただ疲れているのかその声は非常に気だるげであった。
「今日このギルドのリアが入ることになった」
そうレオンが言うと周りからは
「やっぱりな!」
「リアちゃん、今日も可愛いよ!」
と言った様々な声が上がる。宴のときも思ったがこのギルドの人は彼女を知っているようだ、いったいどのような人物なのだろうか?
「リアンってどういう人なの?」
恭也に聞くのを避けてテオに聞く。
「リア? 彼女はこの国の第二王女だよ」
「えっ?」
王女?
「そしてレオンの幼なじみで婚約者だね」
「はっ?」
美少女の幼なじみにして婚約者いて、さらには勇者の息子?
「……ゲームの主人公か?」
なるほど、勝ち組とはああいう奴のことをいうのだろう。
「世の中おかしいと思わないか!?」
「うわっ」
テオとの会話に恭也が入ってきた。急になんだ、コイツ。
「あんな美少女が幼なじみで婚約者だぞ、羨ましすぎる! 俺もせめて彼女が欲しいぞ!」
「いやぁ……恭也はまず性格をどうにかしないとね?」
「うっ! 分かってはいるんだけどな。……はあ、仕方がない。諦めるか」
どうやら今後恭也の性格がなおることはなさそうだ。
「私はリアンです、リアと呼んでくださいね」
リアと新しくエルピリアに入った俺、メア、シルティが挨拶を交わす。そのリアの隣にレオンが立っているがその顔は不満そうだ。
「はあ……」
そして溜め息をついた。どうしたのだろうか?
「もう諦めてちょうだい?」
「くっ……大体おかしいだろ! お前は王女なんだからこんなところにいたらいけないだろ!?」
「どうせ護衛がその辺にいるはずです。私もレオンたちと冒険したいの。それにお父様も許可してくれたでしょう?」
「お前に何かあったら守りきれるかどうか――」
「それは気にしないで。お父様も自己責任とおっしゃったし、私もそう思ってますから」
……なんというかこの世界の王女たちは行動的だなぁ。
「ねえ。こういうのって普通なの?」
小声でテオに聞いてみると
「うーん、どうだろうね? ただメアもリアも王様が許可してるから良いんじゃないのかな?」
苦笑いしながら答えた。それで良いのだろうか?
「はあ……誓約書も書かされるし」
「なんの?」
「リアがいるからといって国がこのギルドを特別扱いすることはないといったものから様々だ。これを書かないと他のギルドから文句を言われるからな、国もエルピリアも」
「へー」
「はぁ、俺は疲れたぞ……」
こうしてエルピリアにリアが加わることとなったのであった。
ということでChapter2が始まりました。読んでくださる皆様、今後も温かい目で見てくださると幸いです。




