閑話 懺悔
やあみんな、僕だよ。えっ、誰だかわからないって? それは心外だ。
そうだなぁ……じゃあこれから僕の昔を少し簡単に語ろうじゃないか。それで当ててくれないか?
じゃあ始めるよ、いいかい?
☆
僕は当時、いや今もなんだけどね? 一生懸命働いていたんだ。
そんな僕は一つのあることをコツコツとしていた、それは貧しい子供たちへの募金だ。お金に余裕があったからね、だから毎月バラバラの額だけど募金をしていたんだ。
これを知っている友達は良いことをしているねと言ってくれた。だけど昔から仲の良かった親友の彼はそうは思わなかったみたいだ。
彼は言ったのだ。それは偽善、君の自己満足であると。
僕は彼のことを一番の良き理解者であると思っていたからそう言われるのは驚いたんだ。
「自己満足? どこがだい?」
「君は募金をすることで『良いことをした、子供たちを助けた』という満足を得るためにやっているように俺には見えるがな」
「そんなことはない!」
他の人がそう言ったのであったらここまで怒らなかっただろう、一番の理解者と思っていた彼に言われたからここまで怒ってしまったのだろう。
「本当かい? じゃあその子供たちのところへ今すぐ行ける飛行機がもしあったら、君は行って自分の命を懸けてまで世話をするのかい?」
「……そうだね、間違いなくするだろう」
「そうかい、もしその言葉通りにできたなら君は本物だろう。俺にはそうは見えないけどな。……すまない、どうやら疲れているみたいだ。悪かったな、意地悪を言ってしまって」
そう言って彼は去っていった。まさかこれがあの世界での最後の会話になるとは今でも笑っちゃうね。
僕は酷い気分でバスに乗って家に帰っていたんだ、その時のバスには僕のほかに小学生くらいの女の子が二人と年老いたおじいさん、そして運転手が乗っていた。何気なしに窓の外を見るとバスの周りが光っていたんだ、あの時は驚いたね。そしてバスはまばゆい光に包まれたんだ。
ちなみにだけどこのことは当時すごく話題になったらしい。しかし街中でもあったにも関わらずその光景を見た人はいなかったのか、光に包まれたなどの情報は上がらず神隠しと騒がれたらしいけどね。
そして気付いた時には森の中にいたんだ。どこか分からなかったため若く体力のある僕と運転手で周りを散策し、危険がないと判断したからバスに残っていた三人を連れて人のいるところを探し始めたんだ。この時どう判断すべきだったのか、僕は今も考えては後悔をしている。
しばらく歩いただろうか? 唐突に後ろから鳥の鳴き声が騒がしくなったんだ。そしてガサガサという音がしたため振り向くと何がいたと思うかい? そこには大きなトラがいたんだ。
「うわあああ!!」
あっちの世界で見たことのない大きさのトラであったため思わず悲鳴を上げてしまった。そして僕が驚いた原因を見た他の人たちも悲鳴を上げたんだ。
その時真っ先に動いたのは運転者だった。
「ここは私にまか――」
彼は多分「任せてください」と言いたかったのだろうが言い終わる前に、目の前の獣の爪で引き裂かれすぐに息絶えてしまった。
「ガルルルル」
そう唸ると後ろを歩いていた老人も切り裂き、女の子二人の上に覆いかぶさった。そして一人の女の子を大きな腕で抑え込み、もう一人の女の子に覆いかぶさったのだ。
その光景を見た時、僕は恐ろしくなって逃げ出してしまった。女の子の悲鳴と泣き声をバックにしながら。
そして逃げる途中、すぐにあるパーティに出会ったのだ。それこそが当時、勇者であった晋冶さん。いや、あの時は晋冶君になるね。今思うとあの頃の晋冶さんは荒んでいた……って今はそんなことはいいか。とにかく僕はすぐに彼らに助けを求めた。
あとは聞いた話なのだが着いたとき獣は女の子たちを犯し終わった後であり、まさに食べようとしていたところであったらしい。そこを晋冶さん一撃で首をはねたことで女の子たちは無事だったそうだ。それを聞いたときは嬉しかった。
そして僕は異人支部によって保護されることになったのだが。そこからがきつかったね。
「僕は……僕は……」
女の子たちを見捨てて自分だけ逃げてしまった自分が嫌になったのだ。いろいろと考えた、僕はまだ親孝行をしていないから死ぬわけにはいかなかった。ということから、気が動転していたからなど。とにかくあの時の僕の行動になんとかして他の理由づけをしようとした。
それでもやっぱり、あの時『自分を狙わず女の子を狙って良かった』『とにかく逃げなきゃ、助からなきゃ』という自分のことしか考えてなかったということを思い知らされたよ。
酷く苦しんだよ、彼の言うとおり僕は偽善者だったということを思い知らされたからね。口では何とでも言えても実際にそういう状況になってみないと分からないということをはっきりと体現したんだから。
部屋に引きこもって一週間は経っただろうか? 晋冶君が唐突に部屋にやって来たんだ。
「何をしているんですか?」
「……何も。僕という人間が分からなくなったんだ、これまでしていたことが偽善だったなんて。……あの時、僕は命を懸けてあの子たちを守るべきだったのに」
「他人より自分が大事だと思うのは普通だと思いますよ? それに自分を犠牲にしてまで助けるのは間違っているんじゃないでしょうか? 偽善、いいじゃないですか偽善でも。口だけでやらないよりはましだと僕は思いますよ。……そもそも偽善じゃない本当の善はあるんですかね?」
「……なにが言いたいんだい?」
「いえ、とくになにも。僕は今自分の思ったことを言っただけにすぎませんし。それよりお誘いをしに来たんです、この異人支部に所属する気はありませんか?」
「悪いがそんな気分じゃ――」
「あの子たちのことで気に病んでいるんじゃありませんか?」
「!?」
「なら働いてお金を稼ぎ、あの子たちを支援すれば少しは気持ちも晴れるんじゃないでしょうか?」
「でも――」
「それに元の世界に戻りたくはないのですか?」
「戻りたいさ!」
「それならなおさら所属してください、あなたには戦闘より研究の方が向いていると思うんです。ここでは元の世界に戻る方法を中心に、異人をを手助けする研究などもしています」
「……そうか、そうかい」
「どうですか?」
「……やらしてもらおうじゃないか」
☆
こうして僕はここに所属することになったんだ。
それからはいろいろと研究や開発をした、魔力の消費量の軽減やドッペルの研究など。そうそう、ドッペルと言えば大変な子がやってきたね。
無理であることは分かっているが僕はもう誰も、とくに子供たちを不幸にしたくないし殺させたくない。そのために僕は、僕にできることを全力でする。
だからあの時つい、いろいろと話しすぎちゃったんだけど、どうやら嫌われていないようで安心したよ。えっ、嫌われてるんじゃないかって? ……いやいや、そんなことないはずだよ!
……不安になってきたから今度それとなく聞いてみようかな?
あれから二十年……は経っていないがあの時の子たちも成人し、それぞれ家庭を持っている。
贖罪の気持ちでしていた支援ももう十分と言われ、あの時逃げてしまったことを謝ったら彼女たちは許してくれた。その時僕はてっきり恨まれていると思っていたのだ。しかし彼女たちから最初は恨んでいたが今は恨んでいないと言われたとき、どう対応すればいいのか困惑したものさ。
そして僕も家庭を持って子宝にも恵まれ、今では家族ぐるみでの付き合いになっている。そうそう、僕の妻はとても可愛いんだ。彼女は――
おっと、部屋がノックされた。誰だろうか?
「入っていいよ」
返事をするとリーン君が入ってきた。
「どうしたんだい?」
「蓮二さん、今大丈夫かしら?」
「休憩中だし問題ないよ」
「そう、それなら今週の休みに彼女たちと集まるでしょ? だからそれについて話したくて」
「なるほど、分かった」
ということらしい。すまないねみんな、これから僕は最愛の人と話すんだ。この話はここでおしまいということで。
それじゃあね。




