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予感

 そろそろ二回戦の時間のため控室を出る。トーナメント表に名前が書いてあったことを思い出し、一回戦のところを見るとバイゼルと書いてあった。

 そうだそうだ、バイゼルだった。さて二回戦は誰かなっと……




「これより二回戦を始めます! リアン選手と優臣選手入場!」


 二回戦からは同時に入場するようである、反対側から美少女の女の子が入場してきた。見たところ体の出るとこは出ているのだが冒険者となるにはいささか腕や足が細いように思える。得物は……あれはレイピアか?


「リアン選手は一回戦を見事な魔法で圧倒しました! 対する優臣選手は冷静に相手を分析することで一回戦を勝利しています!」


 一回戦は圧倒したということだが、彼女の体格を見る限り負ける未来があまり見えてこないが……接近戦ならなおさらそう思えてくる。

 それにしても遠目からでも分かるあの上品というか清楚というか独特な雰囲気……最近どこかで感じた気がするんだよな、どこだったかな?


「両者準備が整ったようです、始め!」


 開始の合図と同時に魔法を放ち、後に続くように接近を試みようとしたのだが


「げっ!」


 相手が地面へと風の魔法を放ったため大きな土煙が上がり姿が隠れる。えっ、これどうすればいいんだ!?

 ひとまず土煙を晴らそうとこちらも風の魔法を使おうとすると


ボフッ!


 という音とともに、相手が土煙を割ってすぐ正面へと現れた。うっそだろ!? あの距離を一瞬で!?


「くっ!」


 正面下から放たれたレイピアの一撃をなんとか体を横にずらすことでぎりぎり躱す。そして刀を横へ振り反撃をするがレイピアを引き戻していた相手は刀を弾き、すぐさま二撃目を放ってきた。

 予想外の速さにこれを躱すのは不可能と判断し、一撃でも食らえば致命傷となりうる喉の前へ左腕を滑り込ませる。


「ッ!」


 案の定、そこを狙われていたようで防具、そして腕を貫かれたがレイピアの先端はギリギリではあるが喉に届いていない。

 

「ここだ!」


 確かに彼女の速度は圧倒的であるがレイピアは俺の腕に刺さっており、これを抜くのは少しではあるが時間がかかるだろう。だがその少しの時間さえあればいい。

 距離をとられて態勢を整えられる前に勝負を決めようと、左腕の痛みを堪えながら刀へと魔力を一気に流し、斬りかかろうとした。

 しかし


「えっ?」


 レイピアを女の子とは思えないような力で一気に引かれ、俺の腕から引っこ抜かれてしまった。

 さらに予想外の力を一気に加えられたため体勢を前へと崩してしまう。


「しまっ――!」


 反応はできたが身体がそれについていかない。彼女の体重を乗せた刺突と、俺の前へと倒れる勢いによって俺の防具を貫き、心臓の位置へとレイピアが突き刺さる。


「……!」


 痛みを軽減する結界のおかげで少しはマシのようだが、それでもかなり痛い。


 ……それにしてもこの状況どこかで――。ああ、分かった。ヤンデレに刺されるやつだな。はは……は……

 と、最後に酷くしょうもないことを考え、意識は途切れた。




「……はっ!」


 気付けば医務室のベッドに寝かされていた。どうやら負けてしまい、ここへと転送されたようだ。


「どこか違和感を感じるなと思うところはあるかい?」

「とくにないです」

「分かった。じゃあ出ていいよ、お疲れ様」


 医者からのいくつかの質問に答えて部屋を出るとあいとクロが立っていた。


「お疲れじゃ」

「お疲れ、負けたな」

「負ける気はしなかったんだけどね……」

「人を見た目で判断するなってことだな。まあ一回戦を勝てただけでもオレは十分だと思うぜ」

「そうじゃな。お主はこの短期間でかなり強くなったと我は思うぞ。これほどの速さで成長する奴はなかなかおらんのじゃないかの?」

「へー、クロにそこまで言わせるなんてやるじゃねぇか。さて、後はオレたちと仲良く観戦といこうぜ」


 多分元がしょぼいからそう見えるんじゃないだろうか? それでもそう言われたことは嬉しいけど。

 それにしてもどうやら二人は、俺が負けて落ち込んでるんじゃないかと思って慰めに来てくれたようだ。


「……あい、クロ、ありがとう」

「ん? なんのことだ?」

「いや、なんでもないよ」



           ☆           



「優勝はシルティ&リアン選手!」


 優勝者が決まると同時に大きな歓声が沸き起こった。この大会は毎年人数が多いため施設内に複数ある闘技場にて同時進行され、準決勝から大きなメインの闘技場で行われるようだ。

 そして時間の関係上、一試合十五分まで、その時間内に勝負が決まらなかったらそれぞれ持ち点十点の審判三人でのポイント制となっているのだが……シルティとリアンのそれぞれの合計ポイントが同じであったため同時優勝となったのだ。


「ダブル優勝になったね、どうするのレオン?」

「……どうもしないぞ俺は。さあシルティを迎えに行ってさっさとギルドに帰り、花見をしながらで二人のお祝いだな」


 そう言うレオンの顔は少し苦々しいものであった。めでたいのにどうしたのだろうか?



           ☆           



「「「かんぱーい!」」」


 徐々に暗くなっていく中、レオンの音頭にてエルピリアのメンバーのほとんどが参加した宴が始まった。周りを見ればエルピリアの他にも、それぞれ集まって騒いでいる人たちがたくさんいる。

 なぜギルドにいったん帰ったのに、わざわざ野外でするのかと思ったが着いてすぐに分かった。桜がとてもきれいなのだ。

 ここに咲いている桜は日中に光を吸収し、夕方から朝方にかけて光るものであるらしく着いた時には薄らではあるがきらきらと光り始めており、それが夕日と重なってひどく不思議な空間を作り出していた。


「それにしてもシルティはすごかったな。どこで剣を習ったんだ?」

「晋冶さんから」


 それぞれご飯を食べながら思い思いの話をして過ごし、そして話題が今日の大会へと移った。レオンの言った通りシルティの剣技はとても洗練されており美しいとさえ思った。決勝の相手はリアンであり、あの少女もやはりというか非常にレベルが高かったため、打ち合いがまるでそれぞれ踊っているかのようにも見えた。


「晋冶さんかー、今何してるんだろうね?」


 とテオがしみじみとした感じで呟いた。そういえば晋冶という名前、ダンケルハイトさんの口からも聞いたな。同一人物なのだろうか?


「ふん、勝手にしてればいいさ」

「またレオンは……気持ちはわかるけどさ~」

「チッ」

「その晋冶って人って――」

「呼んだかい?」

「うわっ!」


 誰なの? と聞こうとしたタイミングで知らない男の人が会話に割って入ってきた。


「晋冶さん! お久しぶりです」

「うん、みんな元気そうで何よりだよ。レオンも元気にしてたかい?」

「あんたに言うことは何もない。サナたちと話してろ」

「……そっか」


 どうやらこの優しい雰囲気の人が晋冶という男らしい。


「それでなんであんたがここにいるんだ?」

「それは――」

「――レオン」

「……はっ?」


 レオンの名前が呼ばれた方を見るとリアンがいた。リアンは闘技場で勝負した時と違ってドレスを着ているの。しかし動きやすさを重視しているのかはたまた別の理由があるのか裾が膝までしかない。

 ってなんであの子がここにいるんだ? いや、別におかしいことではないのだろうが……ってあれ? あの子いま、レオンの名前を呼んだよな?


「何故お前がここにいる!? どういうことだ!」

「城に寄ったらリアちゃんが君に会いたいって言うからね、連れてきたんだ」

「許可出ないだろ!?」

「普通に出たよ? 僕たちが護衛に着いたからっていうのもあるんだろうけど」

「レオン、なんで城に来てくれなかったのですか? 待っていたのに」


 悲しそうな表情で言うリアン。何が起こってるんだ? というかこの二人知り合いだったのか!?


「……忙しかったんだよ」


 リアンからの質問をレオンが答えた、しかしどうも焦っているように見えるが。


「一年前の約束、覚えてる?」

「覚えてな――」

「来年の大会で優勝して、かつ許可が出たらギルドに入れてくれるって約束しましたよね?」

「……」


 どうやらしらを切ろうとしたようだが畳みかけられて苦々しい顔になるレオン。


「今日も城で待ってたのに来てくれなかったからからこっちから来ちゃった」

「そんな可愛い言い方をしても俺は騙されんぞ! ここは一時撤た――」

「そうはいかないよなぁ、坊ちゃん?」


 どこからともなく現れたバーンさんに取り押さえられるレオン。


「テメエ!? 離せ!」


 しかしレオンの方が力が強いようで徐々に起き上がってきた。火事場の馬鹿力というやつだろうか?


「そうはいかねえ! 坊ちゃん一人の犠せ――じゃなくて幸せでここの平和は守られるんだ。お前らも手伝え!」

「「「おおー!」」」

「今犠牲って言いかけただろ!? お前らこんなことして良いと思ってんのか!?」

「俺たちも悲しいが仕方のないことなんだ、犠牲になってくれ」

「ついに犠牲って言いやがった! しかも笑いながら! このやろー!」


 レオンの必死の抵抗も数の前には敵わなかったようで、人の波が割れたそこには簀巻きにされて転がされているレオンがいた。何やってんのこの人ら?

 そして転がされているレオンの前にリアンがやって来た。


「どうぞ。これでどうかここで暴れるのを抑えていただけませんか? このようにこいつも逃げることができませんし」

「別に暴れる気はなかったのだけど……ありがとうございます」


 ニコッと笑うとレオンの首の下の蓆を掴み、引きずり始めた。

 うわあ……何重にも巻かれてるから痛くはないだろうけど酷い絵面だなぁ。


「止めろリア! 俺が悪かった!」

「話は城で聞きます」

「今聞け! ……バカ! 下着が見えてるぞ!」

「えっ? ……レオンのエッチ」

「俺のせいじゃねぇだろ!」


 徐々に遠ざかっていく二人の姿と声。えっと……


「あれ、いいの?」

「大丈夫だよ、よくあることだし。それにレオンも大丈夫だと理解してるはずさ……多分」


 最後に小さい声で多分って言ったけど本当に大丈夫なのか?


「あの二人が相変わらず仲が良さそうで安心したよ」


 今の光景を見てそう言い放つ晋冶さん。この人には俺とは別の何かが見えていたのだろうか?


「さて、君が優臣君だね? ちょっと向こうで話をしないかい?」

「えっ?」




「晋冶さんも異人だったんですね。そうだ、助けていただきありがとうございました」

「ああ、いいよいいよ。彼はいい人だし優秀なんだけどねえ、娘のことになると暴走するから。とにかくあの子から連絡がきて良かったよ」

「あの子? レオンですか」


 下は人が多いため比較的静かな土手に座り、お互いに自己紹介をしてから話を始めた。


「そうだね、苗字から分かるように僕はレオンの父親なんだ」


 やはりそうだったらしい。自己紹介の時、鷹松晋冶と言われてそうなのだろうと思ったが。


「ただ称号のせいで自分の子どもたちになかなか父親らしいことはしてあげられなくてね……よくサナたちを悲しませるからレオンには嫌われてるんだよね」

「称号……」

「僕の称号が何か気になるかい?」

「えっ、はい……自分も称号ですから。……それも望まなかった」

「……どういうことだい?」


 ぽつぽつと称号が選ばれたときのことを話す。


「それは……大変だったね」

「そうですね。でも良いこともあったんです。これのおかげでメアたちに会うことができましたし」

「……そうか、それは良かった。じゃあ次は僕が話す番だね。僕は『勇者』なんだ、『元』がつくけどね」

「えっ?」

「勇者としての務めを無事に終えたらしくてね、『勇者』からこの称号になったんだ。でもスキルとかはそのまま残ったから今も依頼がたくさん来るんだよね。務めが終わったらのんびり過ごせると思ってたんだけどね」

「……」

「仕方ないとは思うんだけどね……妻とあの子たちのことを考えると少しね。……おっと、つい愚痴っぽくなっちゃったね。……そうだ、君はエルピリアの名前の意味を聞いたかい?」

「いえ、聞いてないはずです」

「そうか、じゃあ君に伝えておこう。このギルドの名前の意味は――」




「お兄さん」


 晋冶さんと別れ、なんとなく土手に寝転がっているとエラがやってきた。


「ん? どうしたんだい?」

「いえ……あの、お話は終わりましたか?」

「うん」

「なら戻ってきたら? みんな晋冶さんは戻って来たのに優臣はなかなか戻ってこないから心配してるわよ」

「そうだよお兄ちゃん!」


 エラに続いてメアとアリスもやって来た。


「ああごめん、ちょっと考え事を」


 そう言って土手から立ち上がる。話に夢中になっており、その後は寝転がって考え事をしていたため気付かなかったが桜がさらに美しくなっている。すっかり暗くなったことでさらに輝きを増しているが、派手さはまったく感じず、幻想的で温かさを感じる。


「わあ!」

「ここから見ると違った風に見えるわね」

「そんなことより早くご飯を食べたーい!」

「あはは、アリスは花より団子って感じだね。じゃあ下に戻ろうか」


 確かに不安に思うこともあるが頼りになるおもしろい仲間がいるんだ、この世界でもやっていけるだろう。

 この美しく幻想的な光景を見て、不思議とそんな予感を感じるのであった。




 この世界は彼が住んでいた元の世界、国とは全く違う。死がより身近なものであるし理不尽なこともより多い。

 しかし楽しいことも多いし不思議なこともたくさんある。

 ……彼はこの異世界をどのように生き抜くのだろうか?



これでChapter1本編は終了となります。拙い文章ですがここまで読んでくださった方ありがとうございました。見てみれば初投稿をしたのが一年以上前なのにまったく進んでいないという状況……

今年は去年と比べてペースが上がると思いますのでどうぞこれからもよろしくお願いします。

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