ものがたりのしゅじんこうたち
「で、何か言うことはあるかね?」
部屋に男の声が響く。部屋には金や銀、宝石をあしらえた家具や鎧が多数置いてあり、かなりのお金をかけてあることがうかがえる。
「申し訳ございません! こんなことになるなんて思ってなかったんです!」
「まさか金貨百枚を持ち歩いている奴がいるなんて! 確かに女の方は身分が良さそうでしたが隣にいた男の恰好があまりにも平凡でしたから!」
「そうかそうか」
男が椅子から立ち上がり、腹をたぷたぷと揺らしながら男二人に近づく。
「君たちにはこれまでたくさん働いてもらったからな、許してやらんこともない」
「では!」
「ふん!」
男が脂肪と煌びやかな指輪がついた手で男二人を殴り飛ばす。
「だが今回の件だけは許せん! 我も弟もあれらが届くのを楽しみに待っていたのだ! それをお前たちは商品と誤解して! しかも金貨百枚という安値で売っただと!?」
「申し訳ございません! 申し訳ございません!」
男たち二人は顔に切り傷やなどをつくり腫れさせながらも必死に謝り続ける。
「こいつらを牢屋にぶち込め!」
男は魔報を使って私兵を呼び、男二人を捕らえさせた。
「待ってください!」
「何卒チャンスを! もう一度チャンスを!」
男二人は最後まで謝り続けていたがそれが聞き届けられることはなく、声は徐々に遠くなっていった。
「ふう」
「兄ちゃん、おではすごく残念なんだな」
座り直した部屋の主に男が話しかける。この男も部屋の主と同じように醜く太っている。
「弟よ、我も残念だ。せっかくかわいい物を見つけたから親に高い金利で金を貸しつけて破産させ、我の物にしようとしたのに」
「あいつら最期まで娘たちに手を出すなって言ってたんだな」
「愚かな奴らだったな、娘たちを差し出せば命はとらないでやったのに。金を貸し付けるときだってそうだ、脅さなければ借りなかったからな。それでお前から何か言うことは?」
と、ここで部屋の主が一人の男に話しかける。その男はこれまで一言もしゃべっておらず、そして仮面をつけていた。
「……さっきの奴らが話したと思うが?」
「ああ!? ……そうかつまり事実ということだな? 勝手なことをするんじゃない! 我らがどれだけ楽しみにしているかお前には再三聞かせただろ!」
「……」
「黙ってないでなにか言ったら――うっ!」
「に……兄ちゃん、やばいよ」
激しく喋っていた男が仮面の男の殺気に当てられ言いよどむ。
「とにかくお前には高い金を払ったんだ! 次はしっかりやれ! あと俺らを守ることも忘れるなよ! 分かったらさっさとこの部屋から出ろ!」
「そうなんだな!」
男に退出するように言われ仮面の男は部屋を出ていった。
「兄ちゃん、おで女の子たちと遊べないの?」
「心配するな弟よ、必ずあの男を使って奪い返すからな。あいつは何を考えているかいまいち分からんが強さは本物だからな」
「あと話に出てきた女の子もついでに欲しいんだな!」
「ああ、あいつらが絶賛していたやつか。どうもかなりの美少女らしいぞ。……我らの邪魔をしたのだ、体で払ってもらわなければなあ……一緒にいるであろう男の方は邪魔だから殺すか」
「そうだなお兄ちゃん! おで今からわくわくしてきたんだな!」
「弟よ、我もだ。ただ奴によると面倒なことにエルピリアのメンバーらしいのだ。だから準備をしっかりせねばな、それにあいつの力試しでの私兵の損害もまだ完全に回復しておらんし。……時間がかかりそうだが終わった暁には必ず、代償を払ってもらおうじゃないか。はっはっは!」
「ぶえっへっへ!」
男たちはその大きく出た腹を揺らしながら楽しそうに笑った。
☆
「あ、レオン! 今大丈夫か!?」
「どうしたそんなに慌てて、問題ないぞ」
「実は家に少女が二人いるんだけどテオと診てもらえないかな!?」
「……」
「レオン?」
「はあ……まさかお前を先に通報することになるとは思わなかったな。少女たちを三人で見ようってお前……何変なことに誘ってんだ? それにメアがいるのによく誘拐しようと思ったな」
「ゆうかい? 違う! 誘拐じゃないぞ! いいから来てくれ!」
「ふむ……その声から察するに本当に違うようだしかなり急ぎのようだな。ちょうどテオもギルドにいるし連れて行こう」
ピッとレオンは魔報を切った。焦った……レオンみたいな勘違いは勘弁してほしいものだ。
「メア~、レオンたちが、げっ」
メアにレオンたちが来てくれることを伝えようと部屋に入るとメアが少女たちの体を拭いていた。
「さっさと部屋から出なさい!」
小さくではあるが明確に怒気を孕んだ声で言われたためすぐにドアを閉めた。体を拭いてるって知らなかったんだよ……
「ふう」
部屋の前で待っていると息を吐きながらメアはすぐに出てきた。
「あの子たちは?」
「帰ってきてベッドに寝かせたらすぐに寝たわ、相当疲れてたんでしょうね。ただかなり汚れてたから体を拭いていたのよ」
「なるほど」
レオンに魔報で連絡してからテオとクロ、シルティを連れてすぐにやって来た。この早さだとかなり急いでくれたのだろう。
「で、どういうことだ?」
「説明は後でいいかしら、とりあえず診てほしいのよ」
「かなり疲労が溜まってたみたいだね、あとは傷が所々にあったから魔法をかけといたよ」
少女たちを診てもらってから現在、テオから話を聞いている。クロとシルティは少女たちの身体をもう一度きれいに拭くためメアの部屋に残った。
「で? 俺はてっきり職業ギルドに行ったと思ってたんだが?」
レオンが説明するよう促してくる。
「ああ、実はだな――」
「なるほど」
あらかた説明し終えるとレオンは何かを考え始めた。
「激昂した男たちを仮面の男が止めたと。……その仮面の奴は男で間違いないのか?」
「ああ、体格は男としては少し小さいかもしれないが声は間違いなく男だったな」
「そうか……それは良いことを聞いた、ありがとな。しかしそいつと戦わなくてよかったな」
「仮面の男を知ってるの?」
「ああ。ないとは思うがそいつと戦ってたらメアはともかく優臣は死んで……いや、殺されはしないか」
「えっ、あいつそんなに強いの!?」
「強いぞ。でも俺の方が強いがな! はっはっは」
その自信はいったいどこからくるのやら。
「何かあったら我らを呼んでもよいぞ」
「来る」
「クロ、シルティもありがとね」
説明と少女たちを綺麗にする作業が終わったためシルティたちは帰っていった。
「メア、どう? 交代するよ」
「まだ寝てるわ、お願いするわね」
メアは部屋から出ていった。窓から外を見るとすっかり暗くなっている。
「……」
少女たちはすうすうと寝息を立てている。出会ったときとは違って綺麗になっており、俺が買ってきた服に着替えさせられている。それにしても綺麗になった今、顔を見ると整っていることが分かる。
ふむ、この少女たちは顔が少し似ているが姉妹なのだろうか?
「ん……」
「んん……」
おっと、どうやら少女たちが目を覚ましそうだ。
「ここは……?」
「おはよう」
「ひっ!」
「……」
少女たちに笑顔でおはようと声をかけたはずなのに怯えられてしまった。これは精神攻撃か何かかな? ……とりあえずメアを呼ぶか。
「えっと、助けてくれてありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「いいのいいのこれぐらい。……でもお礼なら私よりこっちのお兄ちゃんの方によく言っといてね、この人がいたから気付けたのよ? あっ、私はメアよ。こっちは優臣」
メアが俺におびえている少女たちに、悪いやつではないことを伝えてくれる。ナイスだ、メア!
「優臣さん、ありがとうございます」
とまだ少し怯えながらお礼をされた。ま、まあ? 出会ったばかりだからこれぐらいの反応は普通だろうし?
それから話を聞くとどうやらあの男たちの他にも怖い思いをさせられたらしい。
……なるほど、この少女たちが精神攻撃を仕掛けてきたのはあいつらが原因か。この借り、必ず返してやるからな!
「それであなたたち。名前は?」
「「……」」
「? どうしたの?」
「「ぐすっ……」」
「えっなに!? 私、何か悪いこと言ったかしら!?」
少女たちを泣かしてしまったことでメアがおろおろしだした。
「優臣交代して!」
「はいはい」
少女たちが落ち着いてきたところで再び問う。
「名前はなんて言うんだい? もしかして何か嫌な名前でもつけられたの?」
「違うの……違うの……私たちには名前がないの」
「名前がない? それはどういうことだい? 親につけてもらわなかったのかい?」
「違う! 私たちの親は素敵な、大切な名前をつけてくれたの! でも奴隷になったときに名前を奪われたの、だから『お前』とか『これ』とかでは呼ばれてたけど、自分の名前は分からないの……」
「……メア、どういうこと?」
訳が分からなくなってメアに尋ねる。名前を奪われるとはどういうことなのだろうか?
「……自分の名前を記憶から消す薬を使われたのよ多分。そういう薬があると聞いたことがあるわ、主に心を壊すためらしいわね。もちろんそういった薬を使うのはもちろん作るのも犯罪だわ」
……こんな少女たちに酷いことをする奴らがいたものだ。
「ただそれが使われたとなるとかなり大組織ということになるわ。この薬は作り方も材料もかなり特殊だったはず、かなりのお金とルートが必要になるはずよ」
「なるほど」
「あの……私たちはどうなるのでしょうか?」
「親はいないのよね、家は? 他に家族は?」
「家もなくなったと聞かされました……家族は私たち姉妹だけです」
「そう……とりあえずこの家にいなさい。私があなたたち買ったんだから誰にも文句を言わせないわ。さて、そうなるとなんて呼ぶかよね。私たちが名前をつけていいのかしら?」
「……はい、私たちにもう一度名前をください!」
「優臣、考えて」
「あのさぁ……」
そこはメアが考える流れじゃないの?
「私、昔からこういうのは苦手なのよ。ティナにもよく『それは……』とか言われたのよ」
あのメア至上主義者にそこまで言わせるとなるとかなりのものなのだろう。ただ俺も急に言われたとあってすぐに思いつくものではない。どうしようか?
……そうだ。
「君がエラ、君がアリスだ。どうかな?」
「響きは良いと思うわ。で、なんでその名前にしたの?」
「俺の世界にある物語の主人公の名前からとったんだ。一般的にエラはお姫様となって幸せになったとされていて、アリスはこの子とイメージが合ったからかな。活発そうでいろいろなことに興味を持ちそうな感じがしたからね」
「そう、あなたたちはどう思うかしら? 正直に言って良いのよ」
姉の方にエラ、妹の方にアリスとつけることを提案した。メアの反応は良さそうだが肝心の彼女たちはどうだろうか?
「「……」」
涙を浮かべた後、二人して泣き出してしまった。そんなに嫌だったのか!? と焦ったがどうやら違ったようだ。
「名前をつけてくれてありがとう……ございます。『エラ』……大事にします!」
「優臣さんありがとう。『アリス』嬉しいよ?」
そんな二人を見てメアが姉妹を抱きしめた。
「薬を使われてもよく今日まで自分を保つことが出来たわねあなたたち、あなたちはすごいわ。これまで泣くことも許されなかったでしょうから今は思いっきり泣きなさい……」
「メア……さん……」
「うわーん!」
☆
「すっかり眠ったね」
「まだまだ子供だからよ」
エラとアリスが泣きじゃくり、そして泣き疲れて再び眠ったため毛布を被せて部屋を出た。
「こんなことになるなんて予想外だったね」
「メイドを雇いに行くつもりがね。優臣、ごめんなさい。勝手なことをして」
メアは俺に向かって謝った。やれやれ、彼女は何を謝っているのやら。
「メアのお金なんだから自由に使えばって何度も言ってるだろ? それにあそこでお金を使うのが俺もベストだったと思うよ」
「そう……よね、ありがとう」
「もう遅くなったし寝よう。メアの部屋のベッドは空いてないから俺の部屋を使うと良いよ」
「優臣は?」
「俺はソファで寝るよ」
「風邪ひくわよ?」
「じゃあ毛布を一つもらっていいかな? 確かに風邪をひくのは嫌だからね」
「本当に使っていいのね?」
「もちろん、女の子に寒い中ソファで寝させるなんてことさせるわけないだろ」
「そう、ありがとね」
そして自分の部屋へと戻り、俺は毛布を回収した。
「じゃ、お休み」
「ああ。また明日」




