吸血姫の妹
「待て」
今の話を誰にも話さないよう言われ、退出を促されたのだが止められてしまった。まだなにかあるようだ。
「なに、お前にはメアを預けるのだ。だから少し金をやろうと思ってな」
そういって懐から一つ袋を出した。
「この中に金貨が入っておる。これぐらいあればひとまず足りるであろう?」
見ればパンパンに膨らんでいる。あれ、どのくらい入ってんだ!?
「えっと……いらないです」
「なに、いらないのか? 我の私産だから気にすることはないぞ?」
欲しいけどそんな大金を受け取ったらあとが恐いから嫌なんだよ!
「そうか、お前がいらないというならそれでもよかろう。出てよいぞ」
今度こそ部屋から出してもらえた。
「ふう」
あー! 緊張した! まさかメアが王女で、吸血鬼の国の王様と会うことになるなんて。人生何が起こるか分かったもんじゃないな。
「優臣様、メノア様がお待ちしております。ついてきてください」
「は、はい」
部屋から出るとメイドが一人おり、俺についてくるよう言う。ずっと待っていたのだろうか? 大変だなあ。
それにしても……と、廊下を歩きながら考える。メアもドッペルの被害者だったのか。ドッペルとはいったい何なのだろうか? 考えれば考えるほど分からなくなる。
「優臣、待っていましたよ。皆、下がっていいわよ」
メイドに連れられながら考え事をしているといつのまにか庭園に出ていた。テーブルの上には紅茶やお菓子が準備されていた。
「お疲れ優臣。ごめんね、こんなことになっちゃって」
メアが先程も見た防音の魔術具を発動して声をかけてくる。
「メア……じゃなくてメノア様――」
「あら、優臣。これまで通りメアで良いのよ」
「そう? じゃあメア、別に気にしてないよ。そもそも俺が召喚術を発動したからこうなってるんだし」
「よく分かっているではありませんの。あまりパッとした男ではありませんのに」
「ティナ?」
「ぷい」
もしかして嫌われてる? なんでだ?
「もう……ごめんね? 悪い子じゃないのよ、この子はティナ……そういえばまだきちんとした自己紹介をしてなかったわね。私はメノア・フラスティーレ・ヴァリナージュ、この国の第一王女よ。あらためてよろしくね、ほらティナも」
「カルティナ・ルプス・ヴァリナージュ、第二王女ですわ。お姉さまがメアと呼ばせているようですので私もティナで結構ですわ」
「それで優臣、お父様とはどのような話をしたの?」
メアがカップに入れられた紅茶を飲みながら聞いてくる。
「メアを預けるからよろしくみたいな内容だよ」
少し曖昧に誤魔化す。別に嘘は言っていないしセーフだろ。
「お姉さまはすごいのですからこの男がいなくても大丈夫ですわよ」
「メア……わたしはあなたが思っているほどすごくないと言って――」
「お姉さまはもっと自信をもってください! 王女と巫女の業務をこなし、武術も得意と文武両道! さらに優しく、民にも愛されて――」
ティナちゃんがすごい勢いで語りだした。
「この子にすごい愛されてるね」
「ティナは大げさなのよ……私よりすごいところもたくさんあるのに。でも好かれてるのはやっぱり嬉しいいわね」
メアに耳打ちすると苦笑いしながら、しかし嬉しそうに返事が返ってきた。
「――でも完璧そうに見えて隠し事は少々苦手でそこが可愛らしいというか……って、あー! お姉さまと何を話していましたの!」
「ティナもすごいのよって話してたのよ」
「お姉さまにそう言ってもらえるなんて嬉しいです!」
ティナちゃんがここにきて一番の笑顔を見せる。
「それにしてもお姉さまと離れてしまうのは少々寂しいものがありますわね」
「ならお父様から転移の魔術具を借りましょ。簡単な物ならお父様も貸してくれるでしょ」
「それならいつでも会えますわね!」
そのあともいくらか会話をしてお茶会も終わり帰ることとなった。メアはというとダンケルハイトさんに呼ばれて今ここにはおらず、ティナちゃんと二人きりである。
「貴方、お姉さまのこと任せますわよ。もしお姉さまになにかあったら許しませんから」
任せると言われてもあの話を聞いた限りかなりきつそうである。……だがこの子を安心させるためにもこう言うべきであろう。
「分かったよ、任せて」
「あれ? 二人とも何を話してるの?」
三つの魔術具が持ってメアが戻ってきた。
「なんでもありませんわ。それよりお姉さま、それが」
「ええ。こっちはティナの部屋にでも設置しておいてね」
「分かりましたわ」
そう言ってメアがティナにセットになっている片方を渡す。
「じゃあ優臣、帰りましょう」
「分かった、ティナちゃんまたね」
「お姉さま、また帰ってきてくださいね。そして貴方、しっかりとするのですわよ」
メアが魔術具を起動させるともとの広場に戻ってきた。あたりはすっかり暗くなっている。
「やっぱりお父様はすごいわね、きちんと戻ってこれたわ」
「すごいことなの?」
「個人でできるのは数えるほどしかいないんじゃないかしら?」
「ほー」
ダンケルハイトさん親バカに見えたけどすごいのか……
「ティナったら昨日私が少し解放した魔力を辿って見つけたらしいの」
ギルドに帰る道すがら、どうやって遠く離れているメアを見つけたのかを話になった。
どうやら昨夜外に立っていたのはメアだったらしく、月が紅く染まる夜、吸血鬼はその光を羽根に当てるらしい。そのときにメアが魔力を解放したため位置がバレたそうだ。
場所を隠し通す気でいたようであるが本当にその気はあったのか?
ギルドが見えてきたところで
「優臣、メア! 大丈夫だったか!?」
ギルドの前に立っていたあいがこっちに駆け寄ってきた。
「まあね、大変だったけど」
「心配したんだぞ。帰ってきたらいないし、目撃者に聞いたら急に女の子が現れて三人で消えたとかいうし」
「迷惑かけてごめんね」
「無事だったからいいさ、中に入ろうぜ」
「優臣無事だったか! 良かった、間に合ったか……」
「ただいま、間に合ったってなにが?」
「レオンが伝手を使ってちょちょいとね。それでいったい何があったのかな?」
テオによるとレオンがなにやらしてくれていたらしい。
「私を連れ戻しに来たみたいなの、迷惑をかけてごめんなさい」
「まあ優臣が五体満足で帰ってきたし別にいいさ。それよりお前ら腹減ってないか? 飯にしようぜ」
「さんせーい」
レオンの一言で晩飯の空気になる。お茶会をしたとはいえお腹が空いてきていた、今日は何にするかなって、うん? 五体満足で帰ってきてよかった?
……レオンのちょちょいが間に合わなければ俺どうなっていたんだ?
☆
「で、情報通りだったんだね」
「ああ、ヴァリナージュ王国の銀髪の吸血鬼にして吸血姫。やっぱりメアのことだったらしい。かなり情報が少なかったがな」
「ダンケルハイト王だっけ? 相当娘を溺愛していると聞いたから優臣がどうなるか分からなかったけど」
「間に合ってよかったぜ」
本当に間に合ってよかった、まさか距離がかなりあるのにこんなに早く見つけるとは思ってもいなかった。おかげで頼りたくない人物に頼ってしまった。
「しかし姫様かあ、どうするんだい?」
「……何が?」
「だってリア――」
「言うなテオ! それ以上は俺の精神衛生上何も言うな!」
必死に目を背けている事実をテオが言おうとする。そうなる予想はできているが考えたくもない。
「そんな必死にならなくても」
「まあメアとリアなら仲良くなれるだろうからそこは心配してないが」
「レオンも大変だねぇ」
「ああ大変なんだ。だから助けてくれ。なんだったらギルマスに――」
「もう僕眠いから家に帰るね、おやすみレオン」
「あっ待て、テオ!」
頼りにしようとしたら逃げられてしまった。この状況から逃げたい気持ち、すごく分かるがそれは酷いだろ!?
誰か俺を助けてくれ!




