始まり
暗闇の中、必死に走っていた。しかしどれだけ走っても、追いかけてくる影から逃げることが出来ない。初めは不定形であった影は徐々に形を変えて今は人型になっている。そして勢いよく飛び掛ってきた。
「うわぁ!」
それを躱そうとしたタイミングで飛び起きた。……良かった、どうやら夢だったらしい。安心して胸をなでおろそうとすると
「ここはどこ?」
という声が聞こえたため、思わず
「わたしはだれ?」
そう口に出して言ってしまった。って、誰だよ! 「ここはどこ?」とか言ったの!?
知り合いに可愛い声でこんなおちゃめなことを言うやついたか? と考えながら声のした方を見ると、見たことのない部屋に中学生ぐらいだろうか? そして見た目で感じる年齢の割に一部の発達が著しい、おとなしそうな女の子がこちらを見ていた。
「だれ!?」
思わず叫んで大声を上げてしまったが驚かせてしまったか? と、女の子を見て確認したが特にそんな様子も見せずに部屋の外へ出て行った。
「……本当に誰だったんだ? というかまずあの子の言った通り、ここどこだ?」
部屋を見回すといつも自分が暮らしている部屋と違って簡素で着ている服も違う。何より布団がお気に入りのものじゃない。そういえば昨夜、何かあったような……何か大事なことだった気がするんだけどなぁ。
と考えていると再び足音と声が聞こえてきた。どうやら二人のようである。
「目を覚ましただと! 良かった、間に合わなかったかと思っていたからな」
ひとまず考えるのを中断してドアの方を見ると先程の女の子と男が入ってきた。男は平均より背が高そうで俺と同じくらいの年齢に見える。そして頼りがいがありそうな雰囲気で意志の強そうな目をしている。
「うん。ただあのお兄さん、記憶を失って自分が誰か分からないみたい」
「そうか……さて、なんて声をかけるべきか?」
二人を見ていると会話が聞こえてきた。どうやら女の子は俺が記憶喪失だと伝えているようだ。
……あれ? さっきのやりとりを流れでやったと思っているの俺だけなのか? 流石に勘違いされたままはまずいので
「いやいや、記憶はきちんとあるよ! そこの女の子が『ここはどこ?』と言ったので思わず『わたしはだれ?』と言っただけで」
そう声をかけると男はため息を吐いた。そしてなにやら申し訳なさそうな顔をしている。
「それは良かった。どうやら妹がからかったみたいだな」
女の子は俺が記憶喪失ではないと分かっていたが男にそう伝えたらしい。……やったのが可愛い女の子で良かった。もし男がやっていたらイラッとしていたかもしれない。
それにしても今の会話から察するにこの男と女の子は兄妹であるらしい。確かにどことなく似ているような気がする。
「俺は鷹松レオン、レオンと呼んでくれ。こっちは妹のサナだ。お前の名前を教えてもらってもいいか?」
「倉田優臣です。……ところでここはどこですか?」
そう聞くとレオンはばつが悪そうな顔をした。なんだ? 聞いたらいけないことなのか?
「落ち着いて聞いてほしい。多分ここは優臣が今まで過ごしていた世界とは別の世界だ」




