目標
昨夜は遅くまで祭りがあったこともあり皆寝ているのだろう、朝の寮やギルドは静かなものであった。俺も眠く、だるい体を無理やり起こしある場所に向かった。その場所とは
「師匠、おはようございます」
「うむ。しかし一昨日あのようなことがあったのじゃ、もう少し休んでも罰は当たらんと思うがの」
「いえ、今日からまたお願いします」
「お前がそう言うのなら分かった、では早速始めるか」
「ぜえ……ぜえ……ありがとうございました」
これまでと同じような内容をするつもりでいたが師匠は素振りだけで止めた。ドッペルから猶予を貰った今、基礎からしっかりと鍛錬しなおしていくらしい。
「よいよい、それよりも素振りにこれまで以上に力が入っていたがどうしたのじゃ? 良いことではあるが少し力み過ぎていたぞ。やはりドッペルを意識してしまうのか?」
そして刀の手入れを終えたところで師匠に声をかけられた。その原因は分かっているが誰かに言うのは恥ずかしく感じる……まあ師匠ならいいか。
「いえ……いや、それもあるんですがこっちの世界に来て助けてもらったり守ってもらったりばかりで……だからドッペルを倒すために強くなりたいというのももともとあったんですが、せめて女の子に守られるんじゃなくて守る男になりたいなあって」
「……ふむ、それは――」
「分かるぞ優臣」
「うわっ!」
師匠に自分の気持ちを吐露し、新たな目標を伝えたところでレオンが会話に入ってきて俺の肩に手を置いた。どこから湧いてきたんだよこいつ。というかどこから聞いてやがった!?
「女子相手に守られるより守りたい、その気持ちわかるぞ。だがそれは言わずに隠しておいて方がかっこいいと思わないか?」
「レオンに聞かせる気はなかったよ! 好き勝手言いやがって!」
そう言ってレオンの手を振り払う。
「そう怒るなって」
「まあ新たに目標ができたことは良いことではないか。ただ気持ちに引っ張られずにもう少し力を抑えて刀を振るうようにしなさい」
「はい師匠」
「で、レオンよ。お前は何しに来たんじゃ?」
「ああ、優臣にだいたい二週間後になるんだが大会があるからそれに出てもらおうと思ってな」
「えっ、それ出た方が良いの?」
「まあ最初はこの大会に出てどこかのギルドに所属するのが普通だからなあ。もうエルピリアに所属しているとはいえ出てくれると助かるが」
「……じゃあ出ようかな」
「よし。ジジイ優臣借りてくぞ」
「もう鍛錬も終わったから良いぞ」
ギルドに帰り、あいから渡されたエントリーの紙を書いた。どうやらこの大会は新人がギルドに強さなどをアピールするものであるらしい、新人が多いならなんとかやれる……のだろうか?
そんなこんなで午後になりメアが急に泊り掛けで綺麗な湖に行きたいと言い出したため、レオンたちと近くにあるという湖に向かうことになった。
「おおー」
「底が見えそうなぐらい綺麗ね、これなら十分だわ」
そして今、目の前には広く美しい湖が広がっている。聞いてみるとこの湖の岸は浅く、膝までの高さしかないようである。これがもう少し暖かい日だったら水遊びなどが楽しかったのだろう。しかし今の季節では徐々に暖かくなってきているとはいえ入るにはまだ寒い。
「そっちに行ったぞ!」
「任せろ! 行けエリム」
レオンが鹿らしき動物を追い立てている。その鹿らしきものは口から緑の魔法によるものであろうが風をはいている。あれを鹿と呼んでいいのだろうか? それをレオンが躱しつつ恭也……というか恭也のペット? が捕まえ、そして俺とテオでとどめを刺した。
「いやー捕った捕った」
「中々の大物じゃないか?」
レオンが仕留めた鹿をアイテムボックスにしまう。
「それ腐らないの?」
「一ヶ月ぐらいなら時間を止めていられるからな」
「へー」
時間を止めるってどうやってと思ったが突っ込むのは止めておこう。魔法で、とかで軽く片づけられそうだし。それはそれとして他にも
「それで恭也の隣にいるのはなんなんだ?」
さっきから気になっていたことを問う。恭也の隣にいるそれはさっきは赤かったが今は青色に変色している。
「こいつはスライムのエリムだ。気が合ったから使い魔にしたんだ」
「召喚じゃないんだ?」
「違う違う、テイムだな。俺の称号『探求者』で手に入れることができたスキルの一つだ。俺の飽くなきエロへの探究心によってこの称号が現れたのだろうな!」
「……いったいエロのなにがそこまで恭也を駆り立てるのさ?」
確かにエロは良いと思うがここまでとなると気になる。
「? エロを求めるのに理由はいらないだろ」
「……は?」
「優臣、こいつはエロに関してはもう手遅れだから放っておけ」
レオンにそう言われ恭也のエロに関してのことは考えることを止めた。
……それにしても恭也は探究者なのか。そういえば他のメンバーは何の職業や称号なのだろうか?
「こいつ最初はエリムの名前をエロスライムにしようとしたんだぞ。流石にエリムが可愛そうだから変えさせたら次はエロイムとか言い出すし。エロから離れてもう少し考えてやれと言ったんだがな……」
「でも実際エリムはエロで気が合ったからセーフだろ、な?」
と恭也がエリムに聞くと、エリムは横に震えた。
「僕には嫌がってるように見えるんだけど」
「そんな馬鹿な!」
狩りが終わったあとは皆で釣り大会などをしながらのんびりと過ごし、日が沈み始めたあたりでテントを張って夕食を食べ、そして男女別れてテントの中となった。
「どうだ優臣、こっちに来て二週間近くになるけど慣れたか?」
「いや全然。特に魔法がない世界だったから驚くことばかりだよ」
「そうだよなあ。俺もこっちに来たときは驚いたが、小さいころだったからかすぐに慣れてしまったな」
「そんなこともあったねえ」
「あの頃のお前は今みたいにエロの化身じゃなかったのになあ……どうしてこうなった?」
「そりゃエクスのせいだろ」
「納得した」
「ふふっ。そうだ優臣、怪我は大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫だよ」
「お前も大変だよなあ。ドッペルはただでさえきついと聞くのに、さらに訳の分からないことになってさ」
「嫌になりそうだけど勝って生き残るためにも頑張るさ」
「ふぁ……あ、ごめんね」
声がした方を見るとテオが口に手を当て、目を擦りながら可愛く欠伸をしていた。……可愛すぎて本当に男なのか今でも疑問に思う。
「ん、少し早いが今日はもう寝るか」
「おっけー」
「おやすみー」
☆
「……ん?」
寝たと思ったがすぐに目が覚めてしまったらしい。そういえば今日は月が紅くなると言っていたし、少し外に出て見てみるか。
「へぇ……」
確かに月は徐々に紅く染まり始めている。
「すごいな……あれ?」
湖の方に目を向けると誰かが立っていた。どうやら俺と同じような人がもう一人いたようだ。それが誰なのか、気になったがそこまで行くほどの気力がなく、そして何よりも眠気が襲ってきたのでテントへと戻った。
今日は月が完全に紅く染まるところを見るのを諦めてしまったが次に赤く染まる時、つまり一か月後はしっかりと見たいと思うのだった。




