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ドッペル現る

 昨日は今日のために、疲れが残らないよう軽くで鍛錬を終えた。


「優臣、頑張ってね。負けちゃだめだからね」

「そうだ、必ず勝てよ」

「お兄さんファイト」


 そして今、師匠の家で仕上げが完了したところである。俺の周りにはメアやあい、レオン達がいる。


「もちろんだよ」


 負けるなんて考えるもするはずがない。当然である、『負ければ死』なのであるから。


「しっかりポーションを使うタイミングを見極めろよ」

「優臣なら大丈夫だよ」


 恭也が作ったポーション、テオの応援があるのだ。



「助かるよ、ありがとう」


 今の自分にできることはしっかりしたし、協力もしてもらった。体調も万全で最高の状態である。


「期待しておるからの」

「……勝てよ」


 クロ、レオンもそれぞれの言葉をかけてきた。


「ああ、任せろ」


 出会ってまだあまり時間は経っていないが応援してくれる仲間ができたのだ。その期待に応えてみせよう。


「優臣、そろそろ時間じゃ」

「分かりました」

「これまでの鍛錬で得られたものを発揮すればよい、お前なら大丈夫であろう」

「師匠、ありがとうございます」


 師匠からは普段使いと予備の刀を一振りずついただき、そしてアイテムボックスも貸してもらった。中にはポーションがいくつか入っている。

「ふー」と息を吐き自分を落ち着かせるため目を閉じる。正午まであと僅かなはずなのにその時間が非常に長く感じる。などと考えていると「ゴーン、ゴーン……」という正午を報せる鐘の音が響いた。

 時間だ……



           ☆           



 鐘の音が響くと同時に優臣の影が膨れ上がって球状になり、優臣を覆った。そしてそれは優臣とともにすぐに消えた。


「……どういうことだ?」


 時間になると一瞬にしてその場から消えるはずである。これはドッペルと闘う全ての生き物に共通することのはずだ。影がこのようになるなんて聞いたことがない。

 おかしい、何かが違う……ドッペルが一ヶ月も経たずに現れたことといい、あいつの身に何が起きているんだ?


「優臣、大丈夫かしら……」

「あいつならきっと勝つだろ」


 メアが不安を漏らし、あいがそれを解消するように答える。だがその声は普段より弱気なように聞こえた。やはり他のやつらも心配になっているようだ。

 気になりそっちを向くと


「ん……? メア、体調が悪いのか? 顔色が悪いが」


 あいからはメアの顔が見えないため気付かなかったみたいだが、見ると顔が少し青くなってる。


「えっ、本当に? ……とくに問題ないわよ?」

「そうか? それならいいが……」


 何事もなく無事に勝てばいいのだが


「レオン、準備しておいた方が良いかな?」


 テオがそう声をかけてきた。どうやらテオも何かが起こりそうだと考えているらしい。


「そうだな。テオは回復の準備を、他のメンバーは戦闘の準備を。時間がない、急げ!」



           ☆           



「これが結界かぁ……聞いていた通り本当に黒いな」


 目を開けると周りは黒で覆われており外の景色はまったく見えない。だからといって何も見えないというわけではなく、普通に周囲を見渡すことが出来る。どういう原理なんだ? 何かが中を照らしているようには見えないが。


「っとドッペルは……まだいないか」


 辺りを確認したがまだドッペルはいない。警戒しつつこの結界について聞いたことを少し思い出してみる。

 この結界の中は外と比べて時間の進みが早いらしく、戻ってみると数分闘ったはずなのに外は僅か数秒しか経っていなかったということが普通にあるらしい。

 なぜこんなことが起きるのだろうか? 魔法とは不思議なものである。


「それにしてもやっぱりメアはいないか」


 これも聞いていたことのため、とくに驚きはしなかった。ドッペルとは一対一で闘わなければならないようになっているらしい。召喚術も自分の実力だと思うのだがドッペルはそうは思わないらしい。けちなやつめ!


「! 来たか……」


 不意に少し離れた場所から何かが盛り上がってきた。間違いなくドッペルだろう。ドッペルが完全に人の形をとるまで攻撃が通らないようなので武器を構えて待つ。

 そしてほとんど待つことはなくすぐにドッペルは人の形をとり、それと同時に一気に距離を詰めてきた。

 いきなりかよ!




 どのくらい時間が経っただろうか? 体感ではかなり経っているように思えるが、まだ数分程度なのだろうか?

 ドッペルが完全に現れると同時に一気に距離を詰めてきたのは少し驚いたが刀を使ってうまく対処をし、少しずつだが優勢に進められていると思う。

 自分も多少傷を負ったが、それよりもドッペルの方が傷を負っているように見える。


「そらぁ!」


 獣のような腕に変化したドッペルの爪を刀で弾き、少し時間はかかったが魔法で炎の壁をドッペルとの間に作る。そして再び距離をとることができたため残り一つとなっていたポーションを飲む。この最後のポーションは特別製らしく、恭也曰く


「このポーションは疲労感・魔力・傷を大幅に回復することができるが、通常より回復する量を無理やり増やしてるから痛みなどの副作用が少ししてから徐々に表れてくる。使ったら早めに決着をつけにいったほうがいい」


とのことだ。

 もともとドッペルとの闘いは短時間で終わらせるつもりでいた。鍛錬を始めてまだ少ししか経っていないのだ、長時間にわたる戦闘は無理だと思っていたし師匠もそう判断をした。


「……終わらせる」


 決着をつけるため炎の壁が消えるタイミングでドッペルに突っ込み斬りかかる。




 斬りかかってからさらに簡単な魔法を交えつつ数度刀と爪を交わらせた。そして


「……!」


 これまでより一度に魔力を多く使っていることで多少ではあるが力が強くなることによって、再び爪を弾いたときにドッペルの態勢を大きく崩すことに成功する。


「ここだぁぁぁ!!!」


 絶好のチャンスとみてドッペルの首を狙って刀を振るう。ドッペルの腕は弾いたことによってすぐに首へと引き戻すことはできない。もらった!


 ガキンッ!


「はっ?」


 完全に頭と胴体を切り離すつもりで振るった刀はドッペルの爪によって防がれていた。予想外のことで思考を停止しそうになるがなんとか頭を回転させる。そしてこのままだと反撃にあうためなんとか魔法を放ちつつ一旦ドッペルから離れる。

 どういうことだ? 完全にとどめをさしたと思ったのだがドッペルの腕がこれまでにない速さで引き戻され首の位置にあった。

 クソッ、もう一度だ!


 勝利を確信したため気が緩んでしまったのかもしれない、次は気を付けないと……

 そう考え何度目となるかドッペルへと攻撃をしかけようとしたタイミングで、ドッペルが青の魔法を放って先にしかけてきた。

 まずっ……!


 ドッペルの魔法を急いで自分も魔法を放って相殺させるが接近を許してしまう。そして腕を振るわれたのだが


「ぐっ!」


 これまでより勢いも早さも段違いであった。そしてそれを間髪入れずに振るわれる。なんだこれ!? こいつ、今まで手を抜いていやがったのかよ!?

 なんとか二度目、三度目は防ぐことが出来たのだが四度目で今度は自分が刀を弾かれた。


「しまっ――!」


 ザクッ!!


 五度目にしてついに腹を貫かれた。だが腹を貫いてもドッペルの勢いは止まらず押し倒される。


「がっ……ぐふっ……」


 内臓をやられたのか口から血を吐き出す。痛い……身体が燃えるように熱いが……


「やられてまるかってんだよ!」


 痛みで腹以外の感覚が分からなくなりかけている身体に無理やり力をいれ、腕を抜こうとする。が、かなりの力で抜くことが出来ない。


「くそっ……たれが…………」


 それならばと魔力のほとんどを使って単純な、しかし威力はこれまで放ったなかで一番強いであろう火の球を放つ。そしてそれはドッペルの仮面へと直撃し、仰け反らせることに成功したのだがドッペルを引き剥がすまでには至らなかった。

 直撃をくらったドッペルは少しの間動かなかったが、上体を起こしてきた。見ると仮面が吹き飛んでおり顔が見えている。


「……!!」


 そこには瞳には光が宿っているようには見えない、まるで人形のような自分がいた。そしてソレが初めて口を開いた。


「時間、ヤル。強クナル、続ケロ。ソウスレバ殺ス、ナイ。強クナル、諦メル。ソノ時、殺ス。命令」

「ぁ? なに、言って――!?」


 言葉を紡ごうとすると身体に何かが流れ込んできた。これは……ドッペルの魔力か?


「おまえ……なに、しやがるんだ? ゴボッ!」


 口に血が溜まってうまく喋れない。さらに視界がチカチカとしだし、徐々に暗転し始めた。こんなところで死ぬのか、俺は?


「ゴボッ、ゴホッ……ぁぁ」

「期待スル、強クナル」


 くそっ……まだ死にたくなかった……俺にもっと魔力が……力があれば……

 そんな想いを最後に俺の意識は深い闇の底へと消えていった。



           ☆           



 ドサッと後ろで音がしたため振り返る。そこには


「きゃああああああ!」

「優臣! しっかりしろ!」


 腹と口から血を大量に溢して倒れている優臣がいた。くそっ! 嫌な予感が的中したか!


「テオと恭也はすぐに回復……ってエリムはここにいないのか! ならテオは回復魔法を、恭也はギルドに、あいはミラ姉に連絡しろ! 急げ!」

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