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テオの気持ち

 彼と公園で会ってから1週間が経った。名前を知らない彼は、毎日のようにここにやって来ては時間がくるまで僕に付き合ってくれていた。


「もう戻るの?」

「あぁ」


 僕は充実した日々はまだまだ続くと思っていた。でもそれは彼の言葉によって唐突に終わりを告げたのだった。


「親父の王都での用事が済んだみたいだからな。それに妹たちがいるし」


 話を聞いたところ、彼にはまだ小さな妹が二人いてクリューンの祖父のところに残しているらしい。


「そうなんだ……それは寂しくなるね」


 思わずそんな言葉を漏らした。そんな僕に彼は予想だにしなかったことを言ってきた。


「それなんだけどよ、お前、うちのギルドに来ないか?」

「えっ?」


 突然、掛けられた言葉に僕は驚いた。


「実は俺の親父がギルマスなんだけどさ、もしかしたら跡を継ぐかもしれないから。その時のことを考えて、俺も今から仲間を集めておこうと思ってよ」

「いやいや、なんで僕なんかを。僕なんてその辺にいるただの子供の一人だよ? 強くて有名な人の子供とかを誘った方が良いんじゃないかな?」


 ただ純粋にそう思ったことを彼に聞いた。本当に自分が誘われた理由が分からなかったからだ。


「理由? そんなの俺がお前と冒険したいと思ったからだ」

「僕と?」

「あぁ、お前といる時間が楽しかったからな。それに……」


 彼はそこで言葉をいったん止めて僕の目をじっと見てくる。


「なんとなくだけどお前は強くなると思ったからだ」

「そんな曖昧な理由で……」

「良いんだよ、未来(さき)のことなんてほとんどの奴が分からねぇんだ。だったら自分の感覚を信じてみても良いだろ」


 正直、この突然の誘いは僕にとって魅力的なものだった。


「それにクリューン(こっち)に来ればあいつらにからまれることもなくなるぞ」


 このこともあるし、僕も彼と一緒にいるのはとても楽しかったからだ。でも


「ごめん、僕は王都に残るよ」


 僕は彼の誘いを断った。冒険者がどんなものかよく分かっていなかったし、それに僕も彼と同じように両親の商いを継ぐつもりだったからだ。


「そうか」


 彼は小さく驚いた表情を見せただけで、断った理由は聞いてこなかった。


「残念だけどもし気が変わったらこっちに来いよな! じゃまた明日な!」


 そう言って、彼はいつもの時間になったので公園から走り去っていった。そしてその後を追うように僕も家に帰った。

 そして翌日、彼が「また明日」と言ったということは明日まではこの街にいるのだろう。そう思った僕は嬉しさと寂しさの両方の気持ちを抱えて公園にやって来た。

 しかし、彼はいつもの時間に現れず、さらに最後まで来ることはなかった。結局僕は、彼と彼が誘ってきたギルドの名前を知ることはなかったのだった。




 残念に思いながら家に帰ると、玄関でお母さんが僕を待っていた。


「おかえり。テオに会わせたい人がいるから付き合ってもらっていいかしら」


 断る理由もないので素直に頷いて身支度を整える。そしてお母さんについて行った場所が店の応接間ではなく、家の方だったのでどうやらお客さんは二人とかなり親しい人のようだ。

 そう思いながらドアを開けて中に入るとお父さんと優しそうな雰囲気の男の人が談笑していた。


「来たな。テオ、挨拶をしなさい」

「初めまして、テオです」


 お父さんに言われ、挨拶をすると男の人はにっこりと笑った。


「落ち着いてしっかりした子だね。僕は鷹松晋冶だよ」

「そうだろ。テオ、こいつはエルピリアのギルドマスターをしてるんだぞ」

「エルピリアってあの?」


 エルピリアはクリューンにある有名なギルドだ。冒険者やギルドについてほとんど知らない僕でも知っているほどのギルドで、確か元勇者様が創設したはずだったような……


「そうだ。父さんも若い頃はこいつと冒険したりしてたんだぞ」

「懐かしいねぇ」

「ところでラーラとお前の息子は?」

「すぐに来るはずなんだけど」


 晋冶さんが困り顔を浮かべるとチャイムが鳴った。それを聞いてお母さんが玄関に向かってすぐにドアが開く音と話し声が聞こえてきた。


「まったく……今日は用事があるから汚れるようなことは止めなさいって言っておいたわよね?」

「だからもう謝っただろ。母さんは相変わらずしつこ……あいたっ!?」


 恐らくラーラさんとその息子だろう……ってあれ? その息子の声に聞き覚えがあるんだけどもしかして……


「遅くなってごめんなさいね」


 部屋のドアが開くと僕の母と少し気が強そうな綺麗な女の人、そして最後に今日公園に現れなかった彼が入って来た。


「んぁ?」

「やっぱり君だったんだね」


 彼は僕に気付いて間の抜けた声を上げた。


「あら、二人は知り合いなのかしら?」



           ☆           



「気付いてやれなくてすまなかった……」

「ごめんなさい。辛い思いをさせて本当にごめんなさいね」


 そこからは僕たちは大人たちにいろいろと聞かれた。その際に、()()()は僕が隠していた他の子供たちにいじめられていたことを話してしまい、それを初めて知った両親にずっと謝られている。

 そしてそんな彼だが……レオンは母親に怒られていた。


「殴ったですって!?」

「あぁ」

「『あぁ』じゃないでしょ! 怪我させたらどうするつもりなの!」

「しょうがないだろ。あっちから殴って来たんだし」

「それでもねぇ……!」


 どうやらレオンが今日現れなかったのは彼らにからまれていたからだったみたいだ。


「まぁまぁ。落ち着いて、ラーラ。レオン、僕は君に他の子より強いから滅多のことでは喧嘩はしてはいけないと言っているよね」

「……」

「君はその力を人を傷つけるためじゃなくてリアンちゃんを――」

「分かった、分かったって」

「うんうん、君は賢い子だから分かってるよね。じゃあこの話は終わりにしよう。とにかく君が大きな怪我をしなくて良かったよ。そうだろ、ラーラ?」

「……えぇ、そうね。相変わらずあなたは無茶するんだから。本当に無事で良かったわ」

「うわ、母さん!」


 レオンが驚いた声を上げたのでちらりと確認すれば母親に抱きつかれていた。


「でもそれはそれ、これはこれ。今からあなたが喧嘩した子たちのところに謝りに行くわよ」

「えぇ~!」

「文句を言わない。ダン、私たちはこの街のことは分からないからあんたたちもテオ君を連れて一緒に来なさい」


 ラーラさんが僕の父にそう言った。

 それからは僕をいじめていた子らの家を一軒一軒周った。レオンたちは彼らに謝り、そして事情を知った彼らの親は子と一緒に僕たちに謝ったのだった。




「ふぅ……」


 一段落着いて再び我が家に戻り、椅子に座った晋冶さんが小さく息を吐いた。


「なぁ」

「なんだい?」


 父が晋冶さんに話しかけた。


「突然ですまないがエルピリアでうちの息子を預かってくれないか?」

「どういうことかな?」

「俺らは仕事にかまけすぎて今回のテオのことに気付いてやれなかった。そんなのは親として失格だ。だからすぐにでも環境を変えたいが、商売は人の繋がりでなりたってるから急に変えることは出来ない」

「うんうん」

「だからそれが整うまでエルピリアに置いてもらって欲しい」

「なるほどね」


 父の言葉を聞いて晋冶さんは苦笑いした。


「君は一緒に冒険していた時からまったく変わっていないみたいだね」

「?」

「僕としてはテオ君をうちで預かることに問題はないよ。ただテオ君ももう物事を考えられる歳だ。それに今回は君たちが彼の気持ちに気付かなかったのが原因だろう? だったらまずはしっかりと彼の意見を、気持ちを聞くべきじゃないのかい?」

「っ! ……そうだな。テオ、お前はどうしたい?」

「僕はお父さんの仕事を継ぐものだと思ってきたし、それも変わってないよ。でも――」




 こうして僕はエルピリアに入ったのだった。その理由はレオンといる時間が面白かった、ただそれだけだ。

 それからは冒険者として過ごすために特訓を始めた。何が得意か分からなかった僕は、まずは基本の剣をギルドの人たちに教わった。その結果、どうやらレオンが言ったように僕には才能というものがあったようだ。このことに嬉しくなり、剣を極めようと特訓を開始したがそれはすぐに諦めた。なぜならレオンがすでに子供にして、大人に勝てるほどにまでになっていたからだ。

 彼に追いつけないと悟った僕はそれならばと後衛の、とくに弓の特訓に力を入れた。しかし後から入って来たエクスには飛び道具、恭也にはポーション製作の技術などを抜かされた。

 そのたびに僕は自分の才能のなさを恨んだ。特訓はすべて全力でやったし、それに応えるように能力も上がっていった。それでもエクスも恭也も僕の成長速度を超えていったのだから。

 このことに当然、僕は悔しさを感じた。でもそれを顔に出さないように笑顔でいることを気を付けたし、誰にも言わなかった。理由はみんなに嫌われたくなかったのと、まだ魔法では僕の方が上だったからだ。

 しかし、遂にそれも脅かされるようになった。それは最近ギルドに入って来た優臣の存在だ。彼は技術不足だがそれを莫大な魔力量で補っており、総合的に見たらまだ新人なのにもかかわらず、すでに僕の足元にまで迫ってきていた。


 僕は彼のことも含めて皆が大好きだよ。友達として彼らと一緒にいると毎日が楽しいからね。でも冒険者仲間として、と言われたらすぐには答えられない。なぜなら彼らと冒険をするたびに自分の才能の、実力のなさを思い知らされるからだ。

 そして大切な友達、仲間に対してこんなことを少しでも思ってしまう自分のことが、僕は大嫌いだった。

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