ヒーロー
「またこのパターンか……」
テオを謎の黒い球から守ろうとしたが間に合わず、一緒に飲み込まれた俺は謎の空間へと放り出されていた。
「なんか嫌な感じだなぁ」
辺りを見渡すが周囲には何もなく、ところどころ光っているが全体的に薄暗い。そして何より嫌な空気が漂っている。重いというかジトッとしているというか……とにかくなんとも言えない雰囲気である。
「うーん……」
一先ずここから出るために行動しよう。
そう決めた俺は一緒に飲み込まれたのに近くにいなかったテオを探しに、一際強い光が見える方へと歩き始めた。
……して
「ん?」
光の方へ歩き始めてから少しして、誰もいないのに突然声が聞こえた。初めはぼそぼそと小さな声だったが徐々に大きくなり始め――
どうして僕には才能が……
また負けちゃった
悔しいと思う自分のことが僕は嫌いだ
――様々なネガティブな声が辺りに響き渡った。そしてそれと同時に金属がぶつかる音が鳴り響き渡り、気付けばまた別の場所へと放り出されていた。
辺りを見渡せばそこはまるで王都の競技場のようであり、音のする方を見れば中央でテオと見知らぬ男が戦っていた。
「まじか」
男は相当な実力者らしく、あのテオが互角……いや、少しだが押されているようにすら見える。
「テオ!」
観客席から中央の競技場へと飛び降り、テオの援護に向かおうとしたがどこからともなく現れた鉄籠に捕らわれてしまった。
「くそっ!」
なんとか抜け出そうとして鉄格子を握るがまったくびくともしない。そんな俺に気付いた男がテオの攻撃を避けながら俺の方へと近づいてきた。
「優臣!」
「おっと、お前はこっちに近づくな」
「くっ」
テオも近づこうとしたが男によって制止させられる。
「えーと……優臣だったか」
男が俺を見ながらニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。
「なぁ、お前はここはどんな空間だと思う?」
「はぁ? 知らねぇよ」
「そうか。じゃあお前はここで声を聞いたか?」
「声? あぁ、ネガティブなものばっかりだったけどな」
それを聞いて男はさらに笑みを深める。
「なぁ、お前はあいつからどんな風に思われてるか知ってるか?」
「さっきから何なんだ?」
「そう怒るなって。そうだな……それならお前はあいつのことをどう思ってるんだ?」
「そんなの仲間に決まってるだろ」
「他には?」
「……可愛いとか」
さっきから訳の分からないことばかりを聞いてきているが、こいつは何がしたいんだ?
「そうかそうか」
男は満足げに頷く。
「それならお前はあいつのことを悪く思ってないんだな」
「当然だろ」
「なるほど。だがあいつは違うみたいだぞ?」
男の言葉に珍しくテオが焦りの表情を浮かべた。
「ま、待って。それ以上は――!」
「教えてやろう。ここはあいつの心を映した場所だ。周辺が暗いのはマイナスなことばかりを思っているからで、聞こえた声がそれだ。こいつはお前のことをよく思っていないのさ」
☆
「おい、男女!」
「なんか言ったらどうだ!」
「男のくせにそんな顔しちゃって」
「そうよそうよ! あんたさえいなければ!」
両親が仕事で忙しいので今日も一人、公園で遊んでいると男女数人のグループがやって来ていろいろと僕に言ってきた。
(はぁ、今日もだね……)
彼らは僕より1、2歳ほど年上で、この辺りで一番大きなグループだ。
ほんの前までは僕も友達と仲良く遊んでいたけど、僕が彼らに絡まれるようになってからはそんなことはなくなり、ほとんど一人でいるようになってしまった。
彼らは毎日のように公園で遊んでいる僕にいろいろと言ってくる。それに対し、僕が何も言わずに笑顔でいると彼らはそれが面白くないのか帰っていく。
そんな日がしばらく続き、これからもまだまだ続くと思っていた時に一人の男の子が現れた。
「おい」
「あ? なんだお前は?」
後ろから声が聞こえ、振り返れば一人の男の子が立っていた。目つきが悪いその男の子は初めて見る顔だから恐らくこの辺りには住んでいないのだろう。そもそもこの辺りに住んでいたらこのグループに絡んでこないはずだし。
「そんなよってたかってこいつをいじめて楽しいか?」
「お前には関係、うっ――」
グループのリーダー格の男の子が何かを言い返そうとして言葉に詰まった。そして――
「ちっ。お前ら、違うところに行くぞ」
舌打ちをしてその場を去って行った。
「おいお前、大丈夫か?」
目つきの悪い男の子がぶっきらぼうに聞いてきた。
「うん、いつものことだから。それに手は出してこないしね」
「そうか……それにしても一人の女子をよってたかっていじめるとかクズだな」
グループが去って行った方を睨みながら男の子は苛立たしげに言う。
「あはは、助けてくれてありがとね。それと――僕は男だよ」
「良いってこと……は?」
僕の顔をまじまじと見る男の子。
「そんなにじろじろと見られると恥ずかしい、かな」
「あぁ、わりぃ」
気まずそうに顔を逸らす彼。
「それでお前は今からどうするんだ?」
「もういい時間だしお家に帰るよ」
「そうか、一人で大丈夫か?」
「うん、ありがとね」
こうして今日初めて会った子と手を振りながら別れた。
これが僕と彼との出会いだった。そしてこの時はまさか彼と長い付き合いになるとも、彼が僕の親友になるとも思っていなかった。




