鬱憤
「今日お前らに集まってもらったのは他でもない」
管理協会に文書を送ってから三日後、朝早くにレオンによってギルドに召集がかけられた。周りを見れば本当に珍しく、リアを除いたギルドメンバーの全員が揃っている。恐らく依頼を中断させてまで集めたのだろう。
「それでだ、なんで俺たちを集めたんだ?」
前の方で待機していたバーンさんが皆の疑問を代表するように訊いた。
「それは昨夜、蛇が仕掛けてくるという情報をエクスが手に入れたからだ」
そう言ってレオンが手に持っていた魔術具を操作するとまずは喧騒が再生され、静かになった後にエルピリアに仕掛けるという男の号令が聞こえた。
「本気かよ……?」
「ちょうどいい、あいつらにはイライラさせられてたんだ」
それを聞いて様々な感想があちこちであがる。
「それは本当なのか?」
「あぁ、間違いないぞ」
「だな。号令している男の声は間違いなくセビルのものだ」
エクスとレオンが肯定したことでさらにざわめきが大きくなったが――
「おい、お前ら静かにしろ」
レオンによってピタリと静かになる。
「さて、こうなると俺たちがすることは一つだ」
目を閉じ、一呼吸おいてからレオンは大きく言い放った。
「『エルピリア』は『グラースの蛇』を迎え撃つ。なんて甘っちょろいことを言う気はさらさらない! こっちから打って出るぞ!」
「うぉおおおおおおお!」
レオンの宣言で周りは大きな盛り上がりを見せた。
「でもレオン、管理協会に話を通さないでいいのかな?」
そんな中、冷静であったテオがレオンに尋ねる。たしかにテオの言うように、勝手にこんな大規模な行動を起こすのは駄目だろう。当然、話は通すものだと思ったのだが――
「いいや、あそこは今、信用できないから通さない」
予想外の言葉をレオンは口にした。
「お前らに言っておくことがある。お前らは今、エルピリアについて流れている噂を知っているな?」
「あぁ、一般人に手を出したとかいう……」
「そうだ。そのことに対し、蛇を含むいくつかのギルドがエルピリアに対し声を上げたから当然、俺は反論の文書を数日前に管理協会に送ったんだ。その噂になった原因が蛇にあることと、蛇に対し処罰を求めることをな」
当然だ、という風に頷くメンバー。
「そして昨夜、管理協会から返事が届いた。噂については誤解を解くことが出来たが、蛇に対する処罰はなかった。向こうは俺らが送った根拠だけじゃ処罰するまでは至らないと判断したらしい。少し情報を集めれば分かることだが処罰しないということはそれをする気すらないようだ」
その説明にあちこちから「ふざけんな!」といった怒声があがる。
「恐らく管理協会はこの件に関してあまり首を突っ込みたくないのだろう。理由はまぁ……これ以上、蛇を処罰して暴走されたりするのを恐れているんだろう。他にもあそこは問題しか起こさないがその分、金も納めているし依頼達成率も良いからな。だから当然、この話を管理協会に通せば蛇にも伝わるし、うやむやにされるだろう。という訳でこの話は管理協会に通さないがお前らはそれでいいな?」
「当たり前だろ!」
「俺らは何も悪くねぇんだ! 悪いのはどう考えても蛇と及び腰の管理協会なんだからな!」
「というわけだ、テオ」
「……そうなんだ。レオンがそう決めたなら僕はそれについて行くまでだよ」
「すまねぇな。そういうわけで向こうはもう仕掛けてくる準備を進めてるから俺らは早く準備しなければならない。目標は二日後だ。急な話だがこっちは少数精鋭だし、普段からそういった準備を怠っていないはずだ。お前ら、できるな?」
「おう!」
「それじゃあ解散だ!」
レオンの言葉で一斉にメンバーは動きだし、ギルド内には静寂が訪れた。ギルド内に残ったのはいつものメンバーだけである。
「レオン、今回の作戦にリアは?」
テオが今はここにいないリアの名前を口に出す。
「知らせないし、参加させる気もない。知ったら間違いなく参加するだろうが、あいつには立場があるんだ」
「そう言うと思ったよ」
確かに王女様がこんな私的な争いに参加したらいろいろとまずいだろう。ということは……チラリと横に立つメアを見る。
「何よ?」
「いや、メアはどうするのかなって」
「当然私も――」
「不参加だ」
「どうしてよ! 私は継承権を放棄してるのだから問題ないでしょう!」
「そういうわけにはいかないのはお前が一番わかってるだろう?」
「うっ……」
「だが万が一の時のために数人、ギルドに防衛部隊を配置する。そこに振り分けるからそれで我慢してくれ」
「……」
不満そうな顔をするが何も言い返さないことから一応は納得したようだ。
……それにしても
「こういうことって本当に急に起こるんだな」
「あぁ、だから大体のギルドはこういう場所に建てられるんだ」
「どういうこと?」
「冒険者ってのは一般人と比べて力が強いし我が強い奴が多い。そんな奴らが衝突せずに過ごすことなんてできると思うか?」
「いいや」
「だろ? そしたら突発的に争いが起こることだってあるわけだ。でもギルドというのは地域と密着してるからできるだけ迷惑をかけたくない。だから町の中心から少し離れた場所に建てられるというわけだ」
「あぁ、そういうことね」
確かにフランヴィーレや他の街のギルドも人通りが多くないところにあった。いや、フランヴィーレはそうでもなかったか? まぁ他のギルドのことなんて今はどうでもいいか。
「さぁ、駄弁るのはこの辺までにしてお前らも準備に取り掛かれよ」
「おう」
こうして二日後の戦いに向けて、それぞれ準備を始めたのだった。




