鍛錬開始
メアとの契約を終え問題なく動くことができるまで休憩をした後、ミラさんの店で昼食をとることになった。
「そういえばメアに質問があるがいいか?」
と訊くレオン。
「なにかしら」
「お前は吸血鬼なのか?」
「どういうこと? あの模様は吸血鬼なんじゃないの?」
「模様は確かに吸血鬼だった」
「だが」とレオンは繋げる。
「吸血鬼の容姿には同じ特徴がある、金色の髪に燃えるように赤い目だ。メアは確かに吸血鬼独特の赤い目だが髪が銀色だ、疑問に思うだろ?」
「私は間違いなく吸血鬼よ。もともとは金色だったけど銀色に変っちゃったのよ。原因は…………事故ね」
そう少し寂しそうにメアは答えた。
「そうか……ギルマスとして仲間のことはきちんと知っておく必要があるからな。気を悪くしたならすまなかった」
「別にいいわ、レオンの言うとおりだもの」
なるほど、ギルマスも大変なんだな。
そして昼食を済ませた後、今日からさっそく鍛錬を始めるとのことで今移動している。
「優臣は刀で良かったんだよな?」
「そうだね、ところで今どこに向かってるの?」
「刀ならジジイに習うのが一番だと思ってな、ほらここだ」
案内された場所は大通りから少し外れた場所にある大きな屋敷だった。敷地内には松らしきものが植えてあったり小さな池には鯉であろう魚が泳いでいる。
「ジジイいるかー?」
「まだジジイじゃないと言っとろうが!」
レオンが大声で呼ぶと奥から白髪で厳しそうな目をし、威圧感のあるおじいさんが出てきた。
「相変わらず元気そうだな、今日はジジイに頼みがあって来たんだよ」
「お前は人にものを頼むときの態度などを知らんのか? ……それで?」
「こいつに刀の扱い方などを教えてやって欲しいんだよ」
「初めまして倉田優臣です」
「ふむ……」
目の前のおじいさんが何かを考え込み始めた。そして
「別によいが何故儂を薦めた? 儂はもう前線を離れておるが」
「こいつはドッペルと闘わなければならないからな。刀やドッペルの扱いならジジイに任せるのが一番と思ったからだ」
「なるほど、ドッペルと……優臣君、儂でよいのかな?
「ぜひお願いします」
「儂はシュヴェルト、よろしくの優臣。じゃあ早速鍛錬開始といくかの」
「はい!」
☆
「し……死ぬ……」
「私も思ってたよりきつい……」
まずは体力作りということで走り込み、そしてそれが終われば刀を使っての鍛練となるがこれがかなりきつい。
メアも一緒に走り込みをしたのだが、その際に一瞬にして動きやすそうな服装に変わっていた。何かそういう魔法でもあるのだろうか?
そして鍛錬の合間には召喚術についてを聞いたりした。先程の契約の言葉は契約者によって違うちょっとしたことから魔力の受け渡しの効率がよくなるということなどだ。ただ召喚術を使える人は少ないらしく、よって情報も少ないため慣れていくのが一番のようである。他にも
「今日の鍛錬はここまでじゃな。よく食べ、そして寝るように」
「はい、師匠……」
シュヴェルトさんについては師匠と呼ぶことにした。師匠という言葉が一番しっくりきたからだ。それにしても本当にきつい!
「そういえば途中からレオンたちの姿が見えなかったんですけどどうしたんですか?」
「あいつらは簡単な模擬戦をしておるぞ。そうじゃな、見てみるか」
道場を覗いてみるとレオンとテオが木剣を持って打ち合いをしていた。
「すご……」
「これが簡単な模擬戦って……剣じゃ私、あいつらに勝てないかも……」
「メアは槍があるからいいのではないかの? 優臣も刀ではあるがあいつらと打ち合えるように鍛え上げてやるから覚悟しておくように」
「は、はい……」
ドッペルと闘う前に鍛錬で死んでしまうのでは? という考えがよぎったが考えないようにしよう。
「テオ、すまんが優臣に疲労回復の魔法を軽くでいいからかけてやってくれんか?」
「了解です」
テオはニコリと笑って打ち合いを止め、魔法を俺とメアにかけてくれた。助かった……
「ありがとう」
「シュヴェルトさんの鍛錬はきついからね~、頑張ってね」
「あら、あなた回復系の魔法を使えるの。珍しいわね」
「まあね」
「回復魔法って珍しいの?」
「緑の属性をもっている人のごく一部しか使えないわよ」
「へー、テオってすごいんだな」
「ありがとね」
と照れ臭そうに笑うテオ。
「じゃあ今日はここまでにしておくかの。これから準備があるのじゃろ?」
「ああ。今から優臣とメアをエルピリアの寮に案内する。だから必要なものを揃えないとな」
☆
「ここが寮だ」
「ってギルドの横じゃん!」
「近くていいだろ?」
確かにギルドから直接寮に行けるというのは便利であるように思えるが。
「ここが優臣の部屋で」
「ここがメアの部屋だな」
入って右側が男で、左側が女らしい。間違えないように覚えておこう。
「今は寮にほとんど人は入っていないしメアはあとでギルド内で紹介するから挨拶して回る必要はないぞ」
「メノアよ、メアと呼んで。よろしく」
メアのギルド登録などしていたら夜になり、メアの自己紹介と昨日よりさらに小さいが簡単なパーティーが行われた。
「レオン、このギルドは誰か入るたびにパーティーをするのかい?」
「まあ他のギルドより入る人数が少ないからな。それに楽しいことはやった方が良いだろ?」
「それは分かるけど……久しぶりにきつい運動したから眠いな。レオン、俺はもう風呂に入って寝させてもらうぞ」
「私も寝るわ」
「おう、明日の朝に遅れんなよ」
「ほーい」
「じゃあ俺はこっちだから、これからよろしくな。じゃあおやすみ」
「あ、ちょっと待って」
別れをすませ部屋に戻ろうとするとメアから呼び止められる。どうしたのだろうか?
「私、朝苦手だから起こしに来てくれないかしら?」
「えっいや……他の女の人に頼めばよかったんじゃ?」
「忘れてたのよ」
「えー……」
「まあまあ、契約者同士だし良いでしょ? よろしくね、なかなか起きなかったら部屋に入ってきてもいいから」
「ちょっと待って」
そう言うとメアは部屋へと向かっていった。マジで?
☆
恭也は少し騒いだ後、研究の続きをするとかで地下に戻っていった。またしょうもないものを創ってんのか、あいつは。まああいつはほっといて、さてテオは……いたな。
「テオ」
「なんだいレオン」
テオに話しかけながら椅子に座る。周りは酒を飲んだり、ゲームをしたりして騒がしい。
「お前はメアについてどう思う?」
「それは女の子としてかな? 他の女の子を気にしているとばれたら帰れなくなるよ?」
「怖いこと言うなよ!?」
「あはは、ごめんごめん。それで相談したいのは彼女の髪の色についてかい? それとも立場かな?」
「両方だ、金色の髪じゃない吸血鬼とは初めて聞いた。メアは事故と言っていたが……どう思う?」
「さあ、どうかな? 少なくとも何かを隠しているように感じたけど……よく分からないや」
なるほど……じゃあ
「じゃあ召喚されたときに『きゅうけつき』と言っていたことについてだが」
「あの最初の仕草や言葉遣い、僕はリアに似てると思ったけど。だからメアが言った『きゅうけつき』は種族名の『吸血鬼』じゃなくて、称号の『吸血姫』の方だったんじゃないかな?」
「……やっぱりそう思うか。もしそうならはっきりと王族と言ってくれたら助かったんだが、そうしないところを見ると隠しておきたいらしい……吸血鬼の国の情報なんてあまりないからな、エクスがいれば任せたんだが少し自分で調べてみるか」
ただそれならなぜ吸血姫を名乗ったのか謎だが。隠したいなら言わなくても良いだろうに。
「これから大変なことになりそうだね」
とテオが苦笑いする。
「まったくだ」
本当にまったくだ。召喚術の特性として召喚するには相手の同意の意思が必要である。つまり今ここにメアがいるということは彼女自身が同意したことに他ならず、よってそこは多分大丈夫だろう。フォローは必要だろうが……
「だが新たに歳の近い仲間が増えることは素直に嬉しいがな。これからさらに楽しくなる予感がする」
「だね。今でも楽しいのにこれ以上となるとわくわくが止まらないよ」
ギルドマスターという立場は大変だが、それと同時に楽しくもある。さて、エルピリアはこれからどうなっていくのか。酒を飲みながらふと、そんなことを考えた。




