気付き
「あの~、ここから出してくれませんか?」
目を覚ますと俺は鉄格子の嵌められた部屋でベッドの上に寝かされていた。
状況が理解できず、鉄格子を隔てた部屋で制服着て椅子に座っている男に、ここから出すようにお願いしてみる。
「いやぁ、それは無理かな。あぁ、でももう到着するみたいだからそれまで我慢してね」
「到着?」
どういうことだと思っていたら正面の部屋のドアが開き、レオンとエクス、そしてテオに恭也が現れた。
「エルピリアのギルマスのレオン君だね?」
「そうだ」
「うんうん。そして彼は君のギルドメンバーで間違いないかな?」
「あぁ」
男の簡単な質問に答えるとレオンはこっちに近づいてきた。
「えっとレオン。これは――」
「あーあ、遂にやっちまったか」
「!?」
な、なにをやったというのだろうか?
「まさか警備に世話になるとはな。だからあれほど少女には手を出すなと……」
「はぁ?」
こいつは何を言っているんだ?
「エクスですらそんなことはしないのにな」
「おい、お前は吾輩を何だと思っているんだ」
「ちょっと二人とも……」
「あぁすまない。ちょっと悪ふざけがすぎたな。それじゃあこいつをここから出してもらってもいいか?」
「そうだね」
そう言って男は腰にぶら下げていた鍵を穴に差し込み、ドアを開けた。
「おら、出ろ優臣。迷惑かけたな」
「いえいえ、これも仕事ですから」
☆
建物から連れ出された俺はそのままレオンたちとギルドに戻って来ていた。
「えっと……」
「すまなかった!」
ギルマスの部屋に着き、全員がソファに座るなりレオンが謝ってきた。
「なんのこと?」
「お前に連絡が遅れたことだ。エクスからお前とメアに気を付けるように伝えてくれという連絡が来たんだがその時にはもう……」
「吾輩がもっと情報を集めることができていれば」
「あぁ……まぁ無事だったから良いよ。別にレオンが悪いわけじゃないし……って、何があったか知ってるの?」
「少しだけな。元蛇の奴らに脅されていたやつが警備に事情を話したらしいからな。俺らはそこから聞いたんだ」
「そうなんだ」
たぶんあの時、弟が……と言っていた子のことだろう。無事だったみたいで安心した。
「とにかく無事で良かった。今日はもう休め」
「うん、そうさせてもらうよ。あっ、でも一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「あいつらと戦闘をしたはずなのにまったく怪我がないし、その時の記憶がないんだ。最近他にも記憶が飛んでることがあるし……何か知らないか?」
「……知らねぇな」
「僕も知らないよ」
「吾輩もだ」
「お、俺も何も知らないぜ!?」
「……ねえ、こいつは何か知ってるみたいだけど?」
「恭也、お前なぁ……」
「えっ俺!? なんでバレたんだ!?」
「お前はこういう時に嘘をつくのが下手なんだよ! バカ野郎!」
「それでお前らは何を知ってるんだ?」
「……はぁ、気付いたなら仕方ないな。気をしっかり持って話を聞けよ」
「これがその時のお前だ」
「……」
メアが川に落とされたときの映像をレオンに見せられたが、そこにはウルファルドを無表情で殴り殺す俺の姿があった。
「どうだ?」
「違う! 俺はこんなことは……!」
「分かってるから落ち着け」
思わず立ち上がった俺の肩をレオンが抑える。
「俺もお前がこんな戦い方をしないことは十分理解している。だからここからは推測での話になるが……それでも良いなら聞くか?」
「もちろん」
「お前がこれまでに戦いの最中で意識を失ったという話は俺たちもいくつか把握している。そしてそれらに共通することとしてお前が青と黄、黒の魔法を使うことと目が赤くなっていたということがある。優臣、お前が使える魔法はなんだ?」
「全部だけど」
「あ~、聞き方が悪かった。お前が最初から使えた魔法はなんだ?」
「それは赤と緑、そして白だね」
「そうだろ? それなのにお前は意識を失っている間は反対の属性を積極的に使っている。そしてお前の瞳の色が赤に変化する。反対の属性に赤い目……そこから導き出される答えは一つしかない。お前……『ドッペル』に浸食されてきてるな?」
「浸……食……」
ドッペルに浸食? それはどういうことだ?
「浸食ってどういうこと!? それって俺はどうなるのさ!?」
「分からない。何度も言っているがお前はドッペルに関しては初めてのことが多すぎてまったく分からないんだ」
「そんな……」
俺はいったいどうなるんだ? もしかして俺はこのまま徐々に消えていってしまうのか?
「すまない、もっと早く気付いてやれれば」
「いや、いいんだ……」
これは自分の身体に起きていることなのだから、本来なら俺が最初に気付くべきだったことだ。
「こっちで何か抑えられる方法がないか探りつつ、それをジジイに手伝わせていたがそれも効果がなかったみたいだな」
師匠が……あのらしくない特訓の内容はそういうことだったのか。
「お前が知ったらショックを受けるだろうと思って教えずにやってきた。でもこれからは――」
「いや、いいよ」
「ん?」
「これは俺の問題だ。俺一人でなんとかするよ」
「できるのか?」
「分からない」
「それなら少しでも人数がいた方がいいだろ」
「でもこれ以上、俺個人のことに付き合わせるわけにはいかないよ」
「……もしそれでドッペルに完全に浸食されたら?」
「それも仕方ないよ。だって誰にも分からない――ぐぁ!?」
話していたレオンが突然、俺に殴り掛かってきた。
「テメェ、いきなりなにすんだ!」
「目は覚めたか?」
「はぁ!?」
「いつもの『なんとかしてみせる』といった気概のお前はどうした? 今のお前はお前らしくないぞ」
「レオンの言うとおりだよ。どうして僕たちに頼ろうとしないの?」
「またいつ浸食されるか分からないからだよ! もし暴走したら今度はお前らに攻撃するかもしれないんだぞ!?」
「なんだ、そんなことを気にしていたのか」
「そんなことって――」
「もしお前が暴走したときは吾輩たちが止めてみせようではないか」
「そんな簡単に言うけどさ!」
「なんだ、俺たちが信頼できないのか?」
「……」
信頼しているさ! まだ半年しか経っていないが、それでもたくさん一緒に行動してきたんだから。そして大事な仲間と思っているからこそ迷惑をかけたくないってのに……!
「どうだ? まだ何かあるのか?」
「……のか?」
「ん、なんだ?」
「俺はここにいていいのか?」
「当たり前だ。うちは仲間は誰一人見捨てない主義なんでな。他の奴らにも文句は言わせねぇよ」
「そうか……ありがとう。それならこれからも手伝ってくれ。いや、手伝ってください」
レオンはニカッと笑い
「おう、任せろ」
そう答えながら拳を突き出してきた。
得体の知れない俺を受け入れてくれたエルピリアに感謝しつつ、俺は拳を合わせたのだった。




