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昇華

 エラたちの勉強会があった翌日、俺は市場へと買い出しに来ていた。


「おばちゃん、これ三つ」

「はいはい、毎度あり!」


 すっかり顔なじみになった店でハックス……殻がついている牛肉をいつものように買う。

 そして他にもいろいろと買い揃え、何か目新しい物がないか探していると


「グスッ……グスンッ」


 わきに逸れた狭い道でエラぐらいの年頃の女の子が泣いていた。


「どうしたの?」


 気になって声をかけると女の子は顔を上げた。


「実は弟が……助けてください」

「うーん、力になれるかは分からないけどそれでもいいかな?」

「もちろんです」




 少しの間、女の子について行くと少し開けた場所に出た。そして女の子はそこでピタッと歩みを止めた。


「どうしたの?」

「……ごめ――」

「危ない!」


 俺たち目がけて前方から飛んできた複数の魔法を、障壁を発動させて女の子ごと守る。


「ひっ!?」

「大丈夫! 安心して」


 怯える女の子に声をかけて落ち着かせようとしたが障壁から出て、もと来た道へと走っていった。

 

「エルピリアの優臣だな?」


 正面から声が聞こえ、向きなおすと屋根の上に一人の男が立っていた。そして急いで辺りを見渡せば他にも男3人に女2人が俺たちを取り囲んでいる。


「誰だお前らは!」

「エルピリアの優臣だな?」

「……そうだ」

「そうか」

「それでお前らは――」


 再び誰なのかを聞く前に、奴らは一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「くっ!」


 魔法の威力が低いため、一気に魔力を削られる心配はないが全方向から絶え間なく攻撃されるとなると反撃する隙もない。


「くそっ、誰かに――!」


 エルピリアの面々に助けを頼もうと思い、魔報を使うが誰ともつながらない。

 ……おかしい。この辺は電波が普通に通っているはずだ。となるとこいつらが何かしやがったな!?   一人でこの状況をどうにか打開するしかなくなり、何か策を考えようとしたところに


「っ!」


 ある一つの魔法が障壁に直撃した。


「そうか……そういうことか」


 その魔法は一回しか見たことはなかったが、それでもその一回で十分記憶に残るものだった。なぜならそれはメアを崖の下に吹き飛ばしたあの風の魔法だったのだから。


「お前らはグラースの……いや、元グラースの蛇の奴らだな!」


 その言葉にピタリと一斉に攻撃が止んだ。


「よく分かったな」

「当たり前だ」


 俺があの出来事を忘れるわけがないだろう。


「お前らの目的はなんだ?」


 睨み付けながら問い掛けると男は小さく笑いながら口を開いた。


「そんなのお前らが大会に出られなくするために決まってるだろ」


 は? どういうことだ?


「なんでそんなことを!」

「そりゃあまたお前らに優勝されると迷惑だからだよ。この大会で優勝すりゃ俺らをバカにする奴らはいなくなるんだ。それなのに優勝するのは毎回毎回エルピリアだ!」


 そう話す男の声が段々と荒くなっていき、


「ただでさえ邪魔なエルピリアが新人を獲得して、さらにそいつらが強いだと? ふざけんな!」


 ついに感情が爆発したのか、ダンッ! と思いっきり踏み鳴らした。


「だからお前らをつぶすことにした」


 堂々と悪びれた様子も見せずに目の前の男はそう言い切った。

 そのあまりにも身勝手な理由に怒りがふつふつと湧いてくる。それと同時に胸の中にドロドロとしたドス黒い何かが現れたのを感じるが今はそんなことはどうでもいい。


「おっぱいの大きい姉ちゃんと獣人の姉ちゃんは新人のくせに隙がなかったが、お前らは違ったからな。命まではとらないでいてやるよ。だが両手両足、しっかり折らせてもらう」

「……のは……か?」

「あ?」

「メアを崖の下に吹き飛ばしたのはお前らか?」

「ん? あぁ、あの時にお前といた女のことか? それなら確かに俺がやったな」

「ぶっ殺してやる!」


 そう叫ぶと俺の視界に真っ黒な靄がかかり、そこで意識を失ったのだった。




 ……なんだ? ピクリ、と襲撃犯のリーダーの男は優臣の雰囲気が変わったのを感じ取った。

 さっきまではどこにでもいるような普通な感じの男だった。しかし今、障壁の中にいる奴からは強い殺気が放たれている。

 突然気を失い、ダランとしている今のうちにやっておかないと嫌な予感がする。あの障壁は厄介だが6人で一斉に攻撃すれば割れるだろう。

 そう判断したリーダーの男は残りのメンバーに号令をかけた。


「お前ら! あいつが気を失っているうちに片をつけるぞ!」


 その言葉に四人が障壁に斬りかかり、リーダーの男と女の一人が魔法で攻撃を仕掛けた。しかし――


「ぐあっ!」


 四人の攻撃が届くことはなく、反対に障壁から突如現れて伸びた氷の棘にわき腹や腕、脚などを貫かれた。


「くそっ!」


 脚は無傷だった二人は急ぎで、脚を貫かれた二人は足を引きずりながらなんとか優臣から距離をとろうとする。

 しかしその行為は無駄であると嘲笑うかのように、優臣は()()()()()()()()()ゆらゆらと二人に近づく。そして地面から氷の棘を発生させ、それぞれの手と足を貫いた。


「ぎゃぁああああ!」

「この野郎!」


 リーダーの男が障壁に風の刃を放ち、傷がついた場所に女が水の槍を正確に投擲するとパリンッと音を立てて優臣の障壁が割れた。

 それをチャンスとみて、ポーションで傷を癒した前衛二人が再度斬りかかる。女は正面から飛んでくる魔法を喰らってその場に倒れたが、男はそれらを避けて一気に距離を詰めた。


「もらったぁ!」


 そして短剣を優臣の肩に突き刺そうと腕を大きく振り上げた。が、優臣はそれを躱し、手に黒い靄のようなものを纏わせて男の背中を殴りつけた。


「ぐっ!」


 勢いよく地面に叩きつけられ呻き声を上げる男。なんとかその場から逃げ出そうとして、うつ伏せになりながらも移動しようとするが――


「ぐぁあああああ!」


 その姿を見てニヤリと小さく嗤った優臣に勢いよく腕を踏みつけられた。そして次はお前だと言わんばかりに赤い瞳で屋根の上の二人を見る優臣。


「この……化物め……!」


 勝てないことを感じ取ったリーダーの男と女は、その場から逃走しようと後ろに振り向こうとする。


「ぎゃっ!」

「おい、どうし――」


 しかし、体勢を崩して二人とも屋根から転がり落ちた。


「ぎゃぁああああ! 痛ってぇ、痛ってぇよ! なんだこれ!?」


 男が自分の脚を見て喚いた。だがそれもそうだろう、自分の脚に小さな石ころほどの穴が開いていたのだから。


「誰だ! 攻撃したのは!」


 男は注意深く優臣のことを観察していたから優臣がまったく動いていなかったことを理解している。となれば攻撃してきたのは他の人物しかいない。だから大きな声をあげたのだが、当然その人物が現れるはずもない。

 ギャーギャーと喚く男とその隣に転がっている女に優臣はゆっくりと近づき、それぞれの手と脚を思いっきり踏みつけて折った。


「あっ――!」


 痛みで気を失う女とリーダーの男。

 さっきまで戦闘が行われていたその場所には静寂が訪れ、そこには気を失った襲撃犯6人が転がっている。優臣は感情を失った紅い目でそれらを一瞥(いちべつ)し、動かないことを確認すると気を失ってその場に倒れこんだ。




「……」


 その様子を遠く離れた場所から、最初から最後まで観ていた人物の影が一つ。事が終わったのを見届けるとそこから消え去ったのだった。

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