不穏な動き
「えっ? 追放?」
「あぁ。今朝エクスから連絡があって、さっき管理協会から正式な連絡が届いた。襲撃を計画、実行した奴らは『グラースの蛇』を追放されたようだ。それに合わせて大会の出場権も失った」
「そっか……」
どうやら俺が師匠と特訓している間に事は裏で進んでいたらしい。そういえばクロと話した時ときにすぐにでも望む情報が入るようなことを言っていたが……もしかしてこのことを知っていたのか?
自分の知らないところであっさりと終わったのでなんだかスッキリしないが、これで安全になったと思えばそんなことはどうでもいいか。
「……」
しかしレオンは眉をひそめて不可解だという顔をしている。
「どうしたの?」
「いや、俺は大会が終わるまでは出場を停止することを要求したんだが……」
「つまりそれ以上の処分をしたから不思議に思ってるってこと? それなら要求されたことより重い処分をすることで反省の色を示したんじゃ?」
「それはない」
力強く断言するレオン。
「そうなの?」
「あぁ、あの男は……そうか、優臣は『グラースの蛇』についてまだ何も知らないのか」
「うん」
「それなら説明してやろう。あそこはだな……」
「確かにそんなギルドに反省なんて言葉は似合わないね」
レオンから『グラースの蛇』について軽く聞いたのだが、まさに悪党の集まりと言った感じだった。
問題を起こすという点ではうちと似てると言えなくもないが……それでも問題を起こそうと思ってしているわけではないしその後の対処もしっかりとしているのでそこは違うと思いたい。
「そうだろ。だからこそこの対応が不可解で不穏なんだ」
「うーん……まぁそういうのを考えるのはレオンに任せるよ。頑張ってくれ」
「お前なぁ……」
「それで俺たちはもう大会に出ていいの? 問題も解決したみたいだし」
「あー……そのことなんだがもう少し待ってほしい」
「まだ駄目なの?」
「あぁ」
もしかしてまだ解決していないのか? それとも他に問題が発生したとか? そろそろ復帰したかったが、こういうことに関してはギルマスであるレオンの決定は絶対であるためどうしようもない。
「分かったよ。でもメアも回復したみたいだし、できるだけ早く復帰させてくれよ?」
「……分かってる」
レオンは少し間を開けて返事をした。
……こいつ俺に何か隠し事してるな? それが何なのかは分からないが、俺たちに関係があるのは間違いないだろう。まぁ今はこうして口約束を取り付けることもできたしそれで良しとするか。
「それじゃあ俺はもう帰るよ」
「ん? 依頼を見ていかないのか?」
「あぁ、今日はエラたちが友達を連れてくるらしいからね」
☆
ギルドから愛しき我が家に帰ると玄関に見慣れない靴がいくつか並べられていた。間違いなくエラたちの友達のものだろう。
「あっ、お兄ちゃんお帰り!」
「うん、ただいま」
エラたちから友達を家に誘うと聞かされた時、俺が家にいたら落ち着かないだろうと思って他の場所にいるつもりだったのだ。しかしエラたちに、友達に紹介したいと言われたのでこうして家に戻って来たのだった。
それにしてもエラたちに紹介したいと言われたとき、正直俺はとても嬉しかった。なぜなら紹介したいと思ってくれてるということは一応俺はお兄ちゃんをできているということなのだろうから。
「ほら早く早く!」
「はいはい」
急かすアリスに連れられてリビングに行くとメア、ティナちゃん、エラと他に初めて見る女の子四人が机の上にノートを開いて座っていた。
「おかえり」
「ただいま……って、うん?」
見れば少女たちが俺を見て固まっている。あれ、なにかおかしなところでも――
「本当に優臣さんだー!」
「エ、エラちゃん……本当にメアさんだけじゃなくて優臣さんとも一緒に住んでたのね!」
「えへへ……」
「えーと……?」
これはいったいどういう状況なのだろうか?
「あっすみません! 私はエラちゃんのクラスメイトで――」
それぞれから名前を教えてもらい、それから少し夏休みの宿題の休憩ということで軽く質問攻めにあった。エルピリアに入るきっかけや普段どんなことをしているかなどなど……
それらを聞いていて改めて『エルピリア』はこの街の人たちに好かれており、そして憧れでもあることが分かった。
「それで優臣さんは怪我なかったんですか?」
「そうそう、私テレビで見てた時びっくりしちゃったもん!」
そして話題は今開催中のの大会へと移る。どうやらメアが吹き飛ばされて川に落ちた時の映像を見ていたらしい。
「うん、俺はほとんど怪我はなかったんだ」
「そうだったんですか、よかったです」
「ほんとにね~。でもあの時の優臣さん、とってもかっこよかったよね!」
「ねっ! まるでお姫様を助ける王子様みたいだったもん!」
「あっ、もしかして二人は付き合ってるんですか?」
「「えっ?」」
その言葉に驚きの声を上げ、思わずメアの方を向いたのだがそれは向こうも同じだったようでメアもこっちを見ていた。
俺とメアが付き合っているか、か……ないない、それはないな。そりゃあ俺だってメアみたいな可愛い女の子と付き合えたら嬉しい。しかし忘れがちだがメアはお姫様なのだ。どう考えても身分が違う。
それにダンケルハイトさん曰くメアにはもう好きな人がいるらしいしな。
「いや、付き合ってないよ」
「えっ!? そうなんですか?」
「うん、そうだけど……」
「そうですか、お二人はお似合いだと私は思うんですけど」
「あはは、俺はそう言ってくれるのは嬉しいけどメアに悪いからそういうことはあまり言わないようにね」
「え~!」
「はいはい、この話は終わり。それじゃあ俺はお菓子を持ってきてあげるから」
「わーい!」
「あいがとうございます!」
「それなら私も手伝いますわ」
「ありがとう、ティナちゃん」
「ねぇ、あなたはお姉さまのことをどう思っていますの?」
ティナちゃんに紅茶の茶葉を渡しつつ、自分は何のお菓子があったか確認しているとティナちゃんから突然そんなことを質問された。
「それ、前にもダンケルハイトさんに聞かれたよね? だからパートナーとして――」
「私が聞きたいのはそんなことではありませんわ。率直に言いますけど、あなたはお姉さまのことは好きなのですか?」
「うぇ!?」
いきなりなんてことを聞きだすんだこの子は!?
「い、いきなりどうしたの?」
「いえ、ただ気になっただけですわ」
「そ、そうなんだ」
「それでどうですの?」
「……うーん、まぁもし仮に俺がメアのことを好きだったとしても身分が違うからね。ティナちゃんが心配してるようなことにはならないよ」
「……はぁ」
ティナちゃんが大きなため息をつく。あれ?なにかおかしなことを言っただろうか?
「もしかしてこの方は鈍いんじゃなくて、身分が違うゆえに叶わないと思って現実から目を逸らしていらっしゃるのでは? そうだとしたらなんてめんどうな……」
紅茶を入れる手を動かしつつも、なにやら小さな声でブツブツと言いながら考え込んでいる。
「あの~、ティナちゃん?」
「あなたのそういう謙虚なところは美徳であると同時に残念なところでもありますわね。もう少し自信をもてとお父様にも言われたでしょう?」
「うっ!」
「まぁ良いですわ、予想外の収穫もあったことですし。これからは礼儀作法などをもう少し厳しくしていきますわね」
「なにゆえ!?」
「今のあなたが知る必要はありませんわ」
そう言うとティナちゃんはポットとカップを持って戻っていった。
……はぁ、今でも十分厳しいのにまだ厳しくなるのか。俺、耐えられるかな?
そんな不安を胸に、ティナちゃんを追ってみんながいる部屋へと戻ったのだった。
☆
その後は子供たちがキリのいいところまで宿題を進めて、今日の勉強会はお開きとなった。




