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VSガイナルド

「む、いたぞ」


 ゴリゴリと岩が削れる音の方へと向かうと、ガイナルドが横になって岩を貪り食っていた。


「……無理はするでないぞ」

「もちろんですよ。それじゃちょっくら行ってきます」


 岩陰に隠れながら後ろに回り込み、右手に刀を出現させる。そして一気に近づいて足首を斬りつけた。が――


「グルルゥ?」


 ガキンと音を立てて弾かれた。クソッ、鱗の隙間に刃を通すのを失敗したか。


「ギャオオオオ!」


 俺の存在に気付いたガイナルドが立ち上がって大きな咆哮し、空気が、地面がビリビリと震える。

 弾かれた衝撃で痺れている右手を庇うため即座に後ろに下がり、場所を指定して魔法を発動させる。威力には期待しておらず、気を逸らす目的で発動させた魔法であったのだが――


「グォ!?」

「えっ?」


 ガイナルドの腹下に発生させた岩の棘は貫きはしなかったものの、僅かではあるが身体を浮かせた。あれっ!? いつのまにか威力が上がってる……?

 予想外のことではあったが、これはラッキーだ。これならあいつとやりあうことも出来そうである。

 そうと決まれば――


「ほいっと」


 魔法はガンガン使っていっても良いだろう。というわけでまずはガルナルドの足元に位置を指定し、地面を凹ませる。突然できた穴に足を奪われ、体勢を崩したガイナルドの足首を再び狙おうと近づこうとした瞬間――


「痛っ!?」


 ガイナルドが大きく翼を動かして穴から抜け出し、体勢を立て直した。そしてそれと同時に地面の細かい砂が舞い上がり、こちらに飛んできた。


「~~~っ!」


 すぐに目を閉じたが間に合わず、砂が入った痛みで思わず目を擦る。


「ガァアアアア!」

「あっ」


 一瞬だが作ってしまった隙を逃さまいとガイナルドはすぐさま強烈なブレスを放ってきた。


「間に合えっ!」


 涙で滲む視界の中、目の前に位置を指定して巨大な壁を、さらに自身に障壁を展開させる。

 ドガンッ! というブレスが壁に激突した強烈な音が響き渡る。壁だけで抑えきれたかと思ったが、そうはいかないらしい。嫌な音を立てながら壁に亀裂が走り、そしてガラガラと崩壊した。


「くっ」


 壁で勢いは弱まっているはずなのにそれでも障壁にぶつかったブレスはかなりの威力である。防ぐことには成功したが、予想よりも魔力をもっていかれてしまった。

 即座に青の魔法で目に入った砂を洗い流し、ガイナルドを睨み付ける。また翼で砂を巻き上がらされたら厄介だ。となれば……


「そらぁ!」


 自分が足を滑らせない程度に青の魔法を発動させて水を撒き散らし、辺りを湿らせる。これで砂が舞い上がるのを抑えることは出来るはずだ。


「グルルゥア!」


 そんなことはどうでもいいと言わんばかりに大きな体で突進してきたガイナルドを躱す。そしてそのまま魔法でガイナルドの頭の上に岩を落としたが、割れたのは岩の方であった。

 ……やはり鱗はかなり固そうだ。こうなると鱗の隙間か腹側からじゃないとまともに攻撃は通らないと見ていいだろう。さて、どうやって倒そうかな。




 あれから何度か攻撃を仕掛けてはいるが、なかなか思うように戦いが進まない。何度か腹側を狙った攻撃をしたことで魔法は躱されるようになってきた。それならばと刀で斬りつけるが、ガイナルドは巨体の割に素早く動くため狙った場所からずれてしまう。


「くそったれ!」


 どうすればあいつに決め手となる一撃を喰らわせられるんだよ。そんな大きさのくせしてちょこまかと動き回りやがってよ……

 あぁ、なんか無性に腹が立ってきた。目の前のやつもそうだが、さっきから上で聞こえる何かの鳴き声もうるさくて気が散るんだよ!

 あっ、そうだ。うん、よし決めた。目の前のこいつを殺したらすぐに上の奴も殺しに行こう。邪魔をしたんだから殺されても文句は言えない――


「優臣!」

「っ!?」


 ガイナルドの突進に気付かず、ぼーと立っていた俺の前に師匠が飛び出してきた。そして刀をガイナルドの首に一閃すると頭は胴体から離れ、勢いそのまま地面を滑った。


「大丈夫か!?」

「えっ……と」

「何故戦いの最中にあんな棒立ちをした! 一体何を考えておった!」


 師匠は声を荒らげ、もの凄い勢いで怒っている。いや、これは怒りだけではないような……


「答えなさい!」

「えっと……」


 あれ? 俺は今何を考えてたっけ? 何かおかしなことを考えていた気がするが思い出せない。


「よく覚えてない……です。何かを考えてたはずなんですけど……」

「……それは本気で言っておるのか?」

「はい」

「……そうか」


 本当になにを考えていたんだ? もしかして疲れで意識でも飛んでいたのか?


「……それで体にどこか怪我はしておらぬな?」

「えぇ、師匠が助けてくれたおかげです。ありがとうございました」

「いや、礼はよい。それより今日はこれでもう特訓は終えるかの。それでせっかく遠くまで来たんじゃ。ここで昼を食べて帰ろうではないか」

「それ良いですね! あっ、でも俺昼飯持ってきてないです」

「安心しなさい。メアからこれを預かっておる」

「メアから?」


 師匠がマジックボックスから取り出したバスケットを受け取り、中を見れば大きさがばらばらなおにぎりが入っていた。


「あの師匠。もしかしてこれって……」

「うむ、メアが()()()作ったそうじゃぞ。よかったではないか」


 やっぱりかー! あの魔力適応の病で寝込んで以降、メアには料理の腕前を伝えないようにしつつ、なんだかんだと理由をつけて一人で料理を作らせないようにしてきた。

 それなのに師匠が今言ったことが本当ならばこれはメア一人で作ったものであるようだ。というか恐らく事実だろう。エラたちが一緒に作ったならば2,3個は大きさが同じものがあるはずなのだから。


「どうした、食べんのか?」

「えっ、いや! 食べますよ、うん食べます」


 おそるおそるおにぎりを手に取る。

 ……おかしい。俺が今手にしているのはおにぎりのはずなのにだんだんと爆弾に見えてきたぞ。

 できれば見なかったことにしたいが、せっかく作ってくれたものを食べないわけにはいかない。


「師匠、もし倒れたらあとのことはお願いします」

「うむ……はっ?」

「いただきます!」


 覚悟を決め、おにぎりに勢いよくかぶりつく。すると口の中に肉と砂糖の甘さが広がった。

 これはしぐれ煮か。少しぱさぱさしていたりこげたりしているところはあるが他におかしなところは何もない。


「う……うぅ……」

「な、なんじゃ突然!? なにを泣いておる!」

「いや、人間って成長するんだなって思いまして」


 まさかメアがこんな普通のものを作れるようになるなんて……

 俺のこれまでの人生の中で、今日は一番人間の成長を感じた日となったのだった。



           ☆           



「戻ったぞ」


 明日の準備をしているとジジイが部屋にやって来た。


「どうした? 仕事を手伝って――」

「優臣のことについて知っておることを話せ」

「……その様子だとなにかあったのか。分かった、そこに座っててくれ」




 椅子に座ったジジイからあらかた話を聞いて「やはりか」と思う。優臣が『青』と『黄』の魔法を急に扱えるようになったことや殺気を放ったこと、途中から戦い方が暴力的になっていったことなど。どれも俺の知るあいつがとる行動ではない。そしてさらには記憶の混濁ときた。


「何を知っておる」

「まずはこれを見てくれ」


 優臣たちが奇襲を受けた時に残っていた大会の映像をジジイに見せる。


「……これは誰じゃ?」


 全部見終わったジジイが唸るような声で俺に聞いてきた。


「言わなくても分かるだろ」

「……これは本当に優臣なのか?」

「そうだ。そして目が」

「赤くなっておったな」


 やっぱりジジイは気付いたか。


「そうだ。そこから俺が考え出したのは『ドッペルの暴走』だ。いや、暴走というより乗っ取りの方がもしかしたら正しいかもしれない」

「乗っ取りじゃと? なぜ……いや、そう言えば優臣は最初に」

「これが本当にそうかは分からない。すべては俺の推測だ」

「……そうか。それで?」


 何をしてほしいのか早く言えとジジイは促してきた。


「ジジイはドッペルを倒してその力を身につけてるだろ。制御の仕方とか知らないのか?」

「知らん。そもそもドッペルの力は倒して手に入れるものじゃ。ドッペルが生きておるのにその力を扱えるなど聞いたこともない」

「そうだよな……」

「うむ。だが何もしないというわけにはいくまい。儂も特訓の方法を変えてどうにか制御できるようにならないかやってみよう」

「助かる。それと……このことはあいつには言わないでくれ」

「なぜじゃ?」

「もしあいつに伝えたことで不安定になったらさらなる暴走をしてしまうかもしれないからだ」

「……ふむ、分かった。そういうことなら受け入れようではないか。儂はさっそく家に帰って同じような者がこれまでにいなかったか調べてみるかの」


 そう言ってジジイはさっさと部屋を出ていった。

 ……いったいあいつの身に何が起こっているのか。知っている奴がいたら教えて欲しい、と俺は心の中でぼやくのだった。

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