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不可解な特訓

「優臣はおるか?」

「あれ、師匠じゃないですか。どうしたんですか?」


 レオンに大会に戻る日をもう少し遅らせるよう言われ、しばらく暇となった俺はギルドに来ていた。大会中といえどもいくらでも依頼は舞い込んでくるし、何よりもそれをこなさなければお金に余裕がないからだ。

 そういうわけで掲示板に貼られている依頼書の品定めをしていると珍しく師匠がギルドにやって来た。


「おぉ、おったな。少し儂に付き合ってくれんかの」

「師匠からそんなことを言うなんて本当に珍しいですね。時間はたっぷりあるので大丈夫ですよ」

「そうか、それではついて来なさい」




 転移装置で転移し、そして師匠に言われるがままについて行ってたどり着いた先は険しい山の麓だった。山には草木が生えておらず、地表が露出している。そして上の方では何かがギャーギャーと鳴く声と羽ばたく音が聞こえてくる。


「あ……あの師匠? ここは?」

「ここはテンラゴ山じゃ」

「はぁ……それでどうしてここに?」

「依頼とお主の特訓を兼てじゃな。ほれ、先程から声が聞こえておるであろう」

「これ、なんの鳴き声なんですか?」

「まぁそれは見てのお楽しみということじゃ。ほれ、行くぞ」




「……」


 俺は目の前で繰り広げられる戦いに目を奪われていた。最小限の動きのみをする師匠と、師匠を迎え撃とうとするあのモンスターの名前はたしかガイナルド……茶色く岩のように固い鱗で覆われたドラゴンだったはずだ。

 師匠を近づけまいとガイナルドはブレスを吐くが師匠は数歩だけ横にずれて躱し一気に肉薄し、一瞬で鱗の隙間を縫ってガイナルドの右側の足首を斬りつけた。それによってガイナルドの身体が傾いたのを見逃さず、すかさず右側の下がってきた翼の根元を切り裂いた。これでもうあのドラゴンは飛ぶことは出来ないだろう。

 そのことを悟ったのか、怒り狂ったガイナルドは尻尾を叩きつけようとするが再び軽くかわされる。そして今度は左足を斬りつけられ、前に倒れこんだところを師匠によって首を切り落とされた。

 数分の戦いだったが、俺には一瞬のように感じた。それほどまでに今の師匠の戦い方はきれいであり、目を奪われたのだった。


「ふう、これとやるのは久しぶりじゃったが儂もまだまだいけるの」


 ガイナルドをマジックボックスに入れた師匠が戻って来た。

 今のが久しぶりに戦った人の動きなのかよ……恐ろしいことに師匠は今の戦いの中で魔法を一度も使わなかった。

 確かに師匠は魔法を苦手としている。それこそ、その度合いはレオン以上だ。それでも魔法を使った方が戦い方の選択肢が増えるため、使った方が有利に戦えるのだ。それなのに師匠は魔力による身体強化だけでドラゴンに、それも一人で勝ってしまった。

 ……これが魔法を使わない、純粋な剣技での戦いならレオンを圧倒すると言われる師匠の実力か! レオンは個人戦でならすでにあの年で世界トップレベルと言われている。そのレオンに条件付きとはいえ勝てる師匠もまた強者だったようだ。

 これまで特訓で師匠と戦うことは何度もあったが……どうやら今までの実力はほんの一片にすぎなかったらしい。


「それでは優臣よ。次はお前が戦うのだ」

「えっ? いやいや、無理ですよ! 死んじゃいますって!」

「危険と判断したらすぐ助けに入ってやる」


 そんな状況になるのが嫌だから拒否してるんだけどなぁ……まぁ師匠が助けてくれるならいいか。


「分かりましたよ。絶対助けてくださいね」

「うむ。あっ、そうじゃ。魔法は『青』と『黄』のものしか使わないように」

「……」


 青と黄? ……。


「師匠、どういうことですか!? 俺がその2つをまったく使えないことは知ってますよね!」

「……だからじゃ」

「嫌ですよ! いったい何を考えてるんですか?」

「……」


 俺の質問に顔をしかめるだけで何も答えない師匠。

 確かに師匠の特訓は厳しいが、それでもこんなに危険と思えるものはこれまでで一度もなかった。それなのにあまり来ないギルドに突然来てまで俺にこんなことをさせようとしているのだ。そして俺の質問に対して何も答えない。どうにも俺の知る師匠らしくはない。ということは裏に誰かがいると考えるべきか?

 ……もしかしてレオンか? あいつならこんなことをさせても別におかしいとは思わない。いったい裏で俺に何をさせようとしているのかはまったく分からない……分からないがあいつがこういう無茶をさせるときは大体何か理由があるときで、きっと今回もそのはずだ。というかそうであって欲しい。

 釈然としないが裏にいるであろうあいつの考えに乗ってやるか。


「優臣。儂も――」

「いえ、師匠。やりますよ」

「……そうか」

「はい。それじゃあガイナルドを探しに行きましょうか」



           ☆           



「管理協会から連絡があったよ。明日だって」

「そうか」


 集めた資料を管理協会に提出し、そしてそれをもとにグラースの蛇と話す機会を設けるよう言っておいたがすぐに日にちが決まったようだ。


「それにしても嫌なところに目をつけられたね」

「あぁ」


 グラースの蛇……エルピリア(うち)と似たようなところが多いギルドだ。他と比べてはぐれ者が多いところや度々問題を起こすところなどなど。

 だがしかし、大きな違いが一つある。それははぐれ者の種類だ。うちは己のもつ力の理解を得られずに避けられてきた奴が多いのに対し、あっちは素行が悪いがために疎まれている奴が多い。つまり端的に言えば非常に厄介なギルドである。


「いったい何が目的なんだろうね」

「さぁな。奴らの考えることはさっぱり分からんが警戒しておくに越したことはない」

「うん、そうだね」


 何を考えてこの大会中に喧嘩を吹っかけてきたのか知らないが、きっちり落とし前はつけさせてもらうからな……!

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