パートナーとは
「ふーむ……」
「いないのか?」
エクスたちが競技から戻ってくる前にメアから話を聞こうと思った俺は、あいと病室を訪れたのだが中から反応がまったく返ってこない。
「あい、中に入って確認してくれないか?」
「分かった」
そう言って部屋に入ったあいだったが右手に一枚の紙を持ってすぐに出てきた。
「レオン、これ読んでみろ」
「なになに……はぁ!?」
それを読んで俺は思わず声を上げた。ティナからの置き手紙でそこに書かれていたのはメアと優臣をヴァリナージュ王国に連れて帰るというものであった。
「嘘だろ……」
「いや、部屋の中には誰もいなかったぞ」
「……」
予想外の出来事に、俺は思わず頭を抱えた。
☆
「……」
部屋に重苦しい空気が漂っているため、俺は下を向いて押し黙る。それもそうだろう、正面に今にも俺を殺しにかかってきそうな雰囲気のダンケルハイトさんが座っているのだから。
「優臣よ」
そんな中、ダンケルハイトさんが思っていたよりも優しい声音で言葉を発した。あれ? もしかして怒っていない――
「最期に言い遺すことはあるか?」
あっ、やっぱり今日が俺の命日みたいだ。
「お父様、落ちついてください」
ダンケルハイトさんの隣に座っていたティナちゃんがなだめる。
「……そうだな。優臣よ、なぜ我がお前を呼んだか分かるか?」
「……」
メアを危険な目にあわせたことだろうか? それともなぜかは分からないが昨日泣かせてしまったからか?
「そんなに悩むほど思い浮かぶ原因があるのか、貴様!」
「すみません!」
「お父様、話が進みませんわ」
「……メノア様を――」
「別にもうここでもいつものように呼んでよいぞ」
「メアを危険な目にあわせてしまったことですか?」
「ふむ、それは違うな。確かにそのことについても貴様を殺したいと思ったほどだが、冒険すると決めたのはあの子だ。当然、そんなことが起こる可能性があることぐらい分かってここを出ていったのだからこれに関しては別に貴様を咎めたりはせん」
なるほど、これは違ったか。
「それなら昨日、メアを泣かせてしまったからですか?」
「そうだ。我は話を聞いてある程度把握しているが……貴様は原因を分かっているのか?」
「……いいえ」
「……ティナよ、やはりこいつが言ったというように解消して良いのではないか?」
「それはお父様が決めることではないと思いますわ」
「そうか……優臣よ」
「はい」
「貴様は昨日、メアにパートナー解消を申し出たそうだな」
「はい、俺ではメアを守ることは出来ませんから」
「ふむ、本当にそんな理由だったのか」
「そんなにって俺は本気で――」
「まぁ待て。まずメアは貴様に守ってくれと一度でも言ったのか? 我も貴様に娘を守れと言ったことはないはずだが」
「……」
確かにメアにも、そしてその父のダンケルハイトさんにも言われたことはない。
「そもそもパートナーとは助け合う存在のはずだ。守る、守られるという関係は間違っているだろう。なぜ貴様はそんなことを言ったのだ?」
なぜ? ……確かになぜ俺はそんな思い違いをしていたのだろうか?
「……だから」
「うむ?」
「大切だから……だと思います」
「ほぉ」
「パートナーとして」
「……」
そう答えると二人は驚きの表情を浮かべ、そしてすぐに残念な子を見る目に変わった。
「ティナよ、メアは本当にこやつにアピールしているのか?」
「え、えぇ」
「それであの答えとはどういうことだ?」
「……私には理解できませんわ」
「そ、そうか」
何やら小声でこそこそと話す目の前の親子。いったい何を話しているんだ?
「メアのことを大切にしてくれるのは嬉しいが、そういうことはきちんと話し合って最後に結論を出すべきだと我は思うぞ。とくにあの子の気持ちを考えるとなるとな」
「……はい」
ってメアの気持ち? メアの気持ちってなんのことだろうか?
「まぁ、あの子もそれをする前に出ていけと言ったらしいからな。あとであの子にも我から言っておこう」
「ありがとうございます」
「うむ……ところで優臣よ」
「は、はい」
「お前はメアに好きな人ができたのを知っておるか?」
「お、お父様!?」
「えっ、そうなんですか!?」
「そうだ、貴様気付かなかったのか?」
「はい」
そうだったのか……あれ、この気持ちはなんだろうか?
メアに好きな人ができたことに対して応援したいのに何かが胸につっかえているような感覚がありモヤモヤする。
「そうかそうか。だがな、そやつはどうやら好意に気付いていないそうなのだ。どう思う?」
「……メアに好意を向けられて気付かないなんて、そいつはそうとう鈍いですね。ガツンと言ってやりたいぐらいですよ」
「うむ、我もそう思うぞ」
俺の答えを気に入ったのかニコニコと笑ってこっちを見るダンケルハイトさん。
というかメアみたいな可愛い子に好意を向けられて気付かないやつがいるなんて驚きだ。そいつはいったい普段からどんな生活を送っているんだ?
「はいはい、この話はこれぐらいにしておきますわよ」
「む、そうだな。……そうだ、優臣よ。お前に一つアドバイスをくれてやろう。男なら他人と自分を比較するよりもドシッと構えていた方がよいぞ」
「……参考にします」
「うむ、我から直接話したいことは終わった。優臣、お前から我に言っておきたいことはないか?」
「いえ、とくには」
「そうか、では話は終わりだ。そうだな、時間があるならティナにこの城を案内してもらうと良い」
☆
「そしてここが訓練場ですわ」
ティナちゃんに城の中をいくつか案内してもらい、次にたどり着いた場所は訓練場だった。見れば何人もの兵士が剣を振ったりしている。
「あれ、カルティナ様じゃないですか」
ティナちゃんに気付いた兵士たちが駆け寄ってきた。
「皆様、お疲れ様です」
「なんのこれぐらい。ところで隣に立っているのは?」
「この方がお姉さまの契約者ですわ」
「ほう」
スッと兵士たちの俺を見る目が細くなった。
「よし、それならこっちに来て俺と戦おうじゃないか」
「えっ?」
「さぁ、やるぞ!」
「なんでですか!?」
「ゼー、ゼー」
訳も分からぬまま男と戦わせられた俺は肩で息をしながらその場に座り込んだ。レオンたちほどではないがこの男もなかなかの強さであり、見ればまだ余裕がありそうな顔をしている。
「なかなか強いじゃないか。君、名前は?」
「優臣……倉田優臣です」
「そうか、俺はここの隊長のギルだ。よろしくな」
「どうも」
「うん、君ならまぁ俺たちの姫さんを任せることもやぶさかではないかな」
「そうです――」
「その方、昨日お姉さまを泣かしましたわよ」
「なんですと!? やっぱり君には任せられない! 今すぐ俺たちの姫さんを返してくれ!」
「ティ、ティナちゃん!?」
ティナちゃんの言葉を聞いてギル隊長はガシッと俺の肩を掴み、すごい勢いで揺さぶり始めた。あぁ、頭がぐわんぐわんする……
「冗談ですわよ。ギルも落ち着いてくださいな」
「姫さんがそう言うなら……」
しぶしぶと俺から手を放すギル隊長。
「ギル、あなたから見て優臣さんの強さはどのくらいですか?」
「うーん、まぁ俺には当然及ばないとしても……ここにいる兵士の中には混ざれるレベルじゃないですかね」
「そうですか。優臣さん、ここにいるのはこの国でもかなりお強い方たちですの。あなたはレオンたちと比べてあんなことをお姉さまに言ったのでしょうけどあなたもなかなかの強さですのよ。もっと自信を持ちなさいな」
「ティナちゃん……」
もしかしてそのことを俺に伝えて励ますためにここに連れてきたのだろうか。それを聞いて少し元気が出てきた気がする。
「ありがとう」
「ふん、お姉さまのためですから。さぁ、良い時間になったので向こうに戻りますわよ」
「分かったよ。それでメアは?」
「お姉さまはもう少しこっちで休まれてから戻りますわ」
こうしてダンケルハイトさんによる尋も……呼び出しは無事終わったのだった。




