目覚めⅡ
「……はっ!」
意識が戻った俺は慌てて周囲を見回した。俺の記憶はウルファルドに体当たりされ、壁に頭をぶつけたところで終わって――
「痛っ! ってこっちはもっと痛いぃいいい!?」
頭に痛みが走り右手で触ろうとしたのだが、右手にそれ以上の鋭い痛みが走った。
あれ!? なんか右腕の痛みがさらにひどくなってるんだけどなんでだ!?
予想外の痛みに驚きつつ、左手で頭に触れば手のひらに血が付着した。ということはやはり意識を失う前の俺の記憶は正しいはずだ。しかし、それにも関わらず辺りにウルファルドの姿を確認することは出来ない。
いや、それどころかさっきまでいた場所とまったく違う場所にいて目の前には少し大きめの洞窟がある。
「どうなってるんだ?」
いったい俺が意識を失っている間に何があったんだ? たぶん意識を失ったまま戦い、そしてここまでメアを背負ったまま来たんだろうけど……
「いや、助かったんだし今はそんなことはどうでもいいか。それより早くメアを暖めないと!」
メアの顔はさらに青ざめている。服の濡れ具合から察するにそこまで時間は経っていないはずだが相当まずそうだ。そう判断して俺はすぐに洞穴の中へと駆け込んだのだった。
☆
「よしっ、火はついた」
マジックボックスから取り出した木でたき火を起こし、暖かさを確保する。
「それで次は……」
ちらりと横で寝ているメアを見る。
「……俺、嫌われるかなぁ」
夏とはいえ、川の水はそれなりに冷たかった。さらに昨夜の雨で川は濁っていたので尚更服を脱がす必要があるのだが、そんなことをすればメアにどう思われるか分かったものではない。しかし
「そうなったら仕方ないな」
そもそもこれは命にかかわることなのだ。もし誤解された時はそれを甘んじて受け入れよう。
すぐにそう判断し、できる限り見ないようにしながらメアの服を一枚一枚脱がしていく。そして身につけているのが下着だけになると、マジックボックスからもう一枚の新しい毛布を取り出しメアを包み込んだ。
「これでやれるだけのことは……いや、まだあるか」
水で自分の手を綺麗にし、ナイフで軽く自分の指を切るとそこから血がツー……と流れ出してきた。それをメアの口元に近づけるがやはり反応しない。ということで人差し指をメアの口に突っ込み、強引に血を飲ませる。
吸血鬼は人の血を飲むことで怪我などの治りが早くなる種族というのをティナちゃんに教えてもらった。そしてそれは心を許した者の血でであればあるほど効果は高くなるらしい。俺でどこまでの効果を見込めるか分からないがそれでもやらないよりかはマシだろう。
「ふぅ」
メアに血を飲ませ、一段落着いたところで今度は自分の服を脱いで気持ち悪さから解放される。そしてそれを絞ってたき火の近くに置いた。
「クソッ!」
俺を庇って川に落ちていったメアの姿を思い出し、怒りと情けなさがこみ上げてくる。
あの時、俺が気付けていたら防ぐことができたのでは? いや、そもそも別ルートを通るという選択もあったのではないか? そんな考えが頭の中をぐるぐるとまわる。
「はぁ……レオンたちだったら」
俺じゃなくてレオンたちだったらメアをこんな目にあわせることはなかっただろう。果たして俺はメアのパートナーとして、隣に立つ者として相応しいのだろうか?
……いや、今こんなことを考えるのはよしておこう。それより今は俺にできる最善のこと、自分の体力の回復とメアの回復を祈ることに集中しよう。
そう考えた俺は洞穴の入り口を封鎖してから、たき火の近くに腰を下ろしたのだった。
☆
「メア……」
暗闇の中、私の名前を呼ぶ誰かの声だけが聞こえる。
「メア……」
そしてまた私の名前を呼んだ。それはとても心配そうな声で名前を呼び続けている。でも不思議と私はその声に安心感を覚えたの。
……あぁ、分かったわ。きっとこの声の主は――
「う……うぅ……」
「メア!」
「優……臣……」
目を開けると心配したような、それでいて安堵したような顔で優臣がこっちを見ていた。
「無事だったのね……良かったわ」
「何言ってるのさ! 口を開いて最初に喋ることが自分のことより俺の心配だなんて……あぁ、無事だったよ、ありがとう」
「……そう、良かったわ」
「うん……君を守れなくてごめん」
「何言ってるの? 私は自分の意志でここにいるのだからこれぐらい覚悟していたわ」
「でも――」
「ねぇ、どうして私があなたを助けたか分かるかしら?」
優臣の言葉を遮り、そんなことを聞いてみた。その質問に対し、優臣は少し悩んだ様子を見せた後
「パートナーだから?」
そう答えた。
「はぁ……」
その答えに思わずため息が出てしまう。
「違うの!? じゃあ答えはなんなんだい?」
「……秘密よ」
「えっ?」
「あなたには教えてあげないわ」
「そんなぁ……」
まさかまだ気付いていなかったなんて……ふんっ、ずっと悩んでればいいんだわ! ……そしてあわよくば私の気持ちに気付いてくれればうれしいのだけれど。
これまでの優臣から考えうるに、それは無理そうね……
「んっ……」
「あっ」
体に力を入れて上半身を起き上がらせると私を見ていた優臣の動きがピタリと止まった。どうしたのかしら?
って、そう言えば身体が少しスースーするような……?
そう思い、自分の身体を見れば服を着ておらず、そして毛布がはがれて優臣に裸を晒していた。
「きゃぁああああ!?」
「ごっ、ごめんって!」
「いいからこっちを見ないで!」




