称号の反転、祝福と呪詛Ⅰ
「冷たいお茶でいい?」
「うん、ありがとう」
家の中へと通してもらい、冷たいお茶を貰った。外の暑さとは打って変わって、中は心地いい涼しさだ。
「急に来るなんて珍しいですね。いつもは連絡をくださるのに」
「孤児院で野菜をたくさん貰ったからおすそ分けと思ってね」
「えっ、ありがとうございます」
テオがマジックボックスからいくつか野菜をだし、それをサチがまた自分のマジックボックスへとしまった。
「それでこの人は……」
そして俺の方を見てきた。そりゃそうだろう、お互いに全く知らない者同士なのだから。
「あっ、待ってください分かりました。もしかして優臣さんですか?」
「えっ、うん」
「やっぱり! 私はサチです。優臣、これからよろしくお願いしますね」
俺が誰か当てて嬉しかったのか、ふわっと笑うサチ。
「うんうん、たしかにあいたちがいろいろと言ってた通りの人っぽいです」
えっ? なにそれ怖いんだけど? いったい俺はどんな風に伝わってるんだ?
「それってどういう――」
「ふふ、それは秘密です。でも安心してください? 悪い風には言ってなかったので」
聞こうとしたが、サチは自分の口に人差し指を当ててそれ以上追及しないように言ってきた。気になるけど……別にあいたちに悪いように思われてるわけじゃないからいい……のかな? うん、そう思うようにしよう。
「なんだ、メアたちは来てたんだな」
「えぇ、それももう何回も来てくれてますよ。それなのにエクスたちときたら、優臣の名前は出すのにまったく連れてくる気配がないんですもの」
「いやーどうにもこいつはもうずっと前からうちにいた感じがしてさぁ」
「なるほど……うちにそんなに馴染んでるなんて優臣はすごいですね」
「いやぁ、それほどでも……うん?」
はたして今のは喜んでもよかったのだろうか? エルピリアに早く馴染んでいるということは、それはつまり俺はもとからこいつらと同じ変人に近しかったということになるわけで……
「おい、優臣。なんか失礼なことを考えてないか?」
「あっはっは、俺がそんなことを考えるわけないじゃないか」
「ところでサチ、そろそろこっちで暮らす気はないのかな?」
テオが心配そうにサチに尋ねる。
「そうですね……」
「えっと一ついいかな?」
「どうしましたか?」
「そもそもどうしてここに住んでるの?」
気になったことをサチに聞いてみる。ここは街からも少し離れているから不便だと思うのだが。
「そうですね、優臣にはまずそこから話しますか。少し長くなりますが良いですか?」
「もちろん」
「それでは……今から数年ほど前のことです」
☆
数年ほど前、私は別の街の別のギルドに所属していました。そこはとくに大きな功績をあげないけど、問題も起こさない至って普通のギルドでした。
そのギルドに加入し、まず初めに職業を選択することになったのですがこれがすべての始まりでした。選択肢の中に『祝福』という称号があったのです。このギルド初の称号持ちになるということでギルマスを含むたくさんの人に称号を勧められ、私は称号を選択しました。
それから一年ほどでしょうか。歳の近い人たちとパーティーを組み、年齢の割には大きい成果を上げることも多々ありました。そしてその度に多くの人に私は褒められたのです。なぜならその成果を上げることができたのは、私の強力な称号があってこそだと皆が考えていたからです。
私自身は、『祝福』の強力な効果の制約からか魔力の一切を攻撃に用いることができませんでした。しかしその代わりに味方に強力なバフ効果を付与できるフィールドを展開できたのです。それも身体強化、魔法に用いる魔力量の減少、体力・魔力を徐々に回復させる……などいくつもの効果を同時にです。
しかしそれと同時に私を良く思わない人たちもいました。それが一緒にパーティーを組んでいた二人の女の子です。その子たちは同じくパーティーを組んでいた二人の男の子が好きだったのですが、その男の子たちは私のことが好きだったらしいのです。自分で言うのもあれですが私は顔がよく、そして強力な称号も持っていたから他の男の子にも好かれていました。
はっきりと気持ちを聞いて、もし好きと言われたならば断われば良かったのかもしれませんが私にはそんな勇気はありませんでした。今のパーティーメンバーという関係が壊れてしまうかもしれないと思っていたからです。
そんな風に過ごしていたら、ついに事件が起きてしまったのです。
ある日、私たちはゴブリンの討伐依頼を受けました。簡単な依頼でよくこなしていましたから、今回も大丈夫だろうと思って油断していたのが間違いだったのです。群れの中に知能の高い変異種が紛れており、罠を仕掛けていたのです。罠に先頭の男の子がかかり、私たちのパーティーは一気に崩壊しました。男の子二人は意識を失う重傷を負い、私たちはゴブリンの下卑た嗤い声を耳にしながら服を破かれて捕らわれてしまいました。
その絶体絶命のときに私は強く思ってしまったのです。「私にもっと力があれば……この危機を脱する力があれば……」と。
すると突然、私たちを取り囲んでいたゴブリンが倒れました。初めはなにが起こっているのか分かりませんでした。しかしそれでも、逃げるなら今しかないということは分かったのですぐに奪われていたマジックボックスからナイフを取り出して私たちを縛っていた縄を切り、男の子二人を連れて無事に街まで戻ることが出来たのでした。
ここで終わりなら良かったのですが、それから妙なことが起こりはじめました。私の周囲の人が寝込み始めたのです。最初は原因が分からなかったのですが、私が新しくスキルを獲得したか確認したことでそれは判明しました。私の称号が『祝福』から『呪詛』へと変化していたのです。いえ、これはもう反転という方が正しいでしょう。すべての効果が逆になり、そしてさらに強力になったことで私は制御できず、味方をもその効果を付与する対象としてしまったのです。
私はすぐに称号を取り消そうとしました。もし代償を要求されても出来る限り払うつもりでいました。しかし、代償はあったものの取り消すことは出来なかったのです。なぜなら「称号の取り消しはできない」、それこそが代償だったからです。恐らく人を祝う力で害することを望んだ罰なのでしょう。
そこからの私は酷くみじめでした。力を制御できずに迷惑をかける私を、周りの多くの人は助けてくれず、邪魔者扱いしました。他にもあの依頼でひどい目にあったのは、あの時すでに私の称号が変化していて力が出せなかったからだとの噂も流れました。あとで知りましたが、この噂を流したのはパーティーの女の子二人だったのです。目的はパーティーの男の子に私を嫌わせることでした。男の子二人はその噂を信じた様子ではなかったですが、それでもパーティーを外れるように言われました。
数部屋間をあけられたギルドの寮の端に部屋を移された私は途方に暮れていました。このままでは皆に迷惑をかけてしまう。両親のところに戻りたいけど、それもまた今度は親に迷惑をかけてしまうと。
そんなどうしようもない状況の私を救ってくれたのがエルピリアでした。ギルマスがエルピリアに私のことを話してくれていたのです。私ではどうにもできないからどうにか彼女を救ってほしい。それができなくても心安らげる居場所を与えて欲しいというふうに。
そして迎えに来たテオたちが私に言ってくれました。「『エルピリア』には希望と自由の意味が込められている。そんな意味を持つこのギルドの目的は、君みたいな人に帰る場所を作ることなんだ。ここに閉じこもっていても良いことはないんだから、僕たちのところにおいで」と。
その言葉に救われた私はギルマスにお礼を言って別れ、エルピリアに所属しました。それからは蓮二さんの協力もあって、二週間という破格の早さでデバフの範囲や効果を弱めてくれる障壁を展開させる魔術具を開発してくれました。そして装置が完成したのだから街から外れたところで暮らさなくてもいいとみんな言ってくれたのですが、もしものことを考えて私が断ったので現在ここに暮らしているというわけです。
☆
「そんなことが……」
「そんな顔をしないでください。たしかに苦労した時期もありましたが、今は毎日を楽しんでいますから」
思わずそう言葉を漏らした俺に向けられた彼女の顔は、眩しい笑顔に満ち溢れていた。
気がつけばついに100話目に。
ここまで続けられるとはまったく思っていなかったので、自分でもびっくりです。




