4ロリ
隊長から飯をもらい、それを口にほうばる。考えてみればここ三日間ほどほとんど何も食べてこなかった。
胃にやさしいといっていたのも離乳食のようなどろどろになるまで煮込んだ米など質素なものであったためだ。食べている間にここにくるまでに起きたことを隊長から聞かされた。
食料や日常品を探すために隊を組んで住宅地を散策していたところ、ロリに襲われていた俺を見つけたため、助けてくれたとのことだ。ここは少し郊外に属する病院だそうで、この地区を担当する「ロリコン」達の本拠地となっているらしい。付近の住民も見つけ次第、この病院で過ごさせるそうで百人ほどの人たちが過ごしているらしい。
とりあえず、身に起きたこととここがどんな所かがわかったため、安心する。そして安心した上で確認をとる。
「あの…」
「ん、なんだ」
「それで、その子は…」
「ああ、説明しとかんとな。ほら、自己紹介しろ」
反対側のベッドに座って話を聞いていた少女は地面に降り、あいさつをする。
「はじめまして!私は伊集院 鏡花と言います!よろしくお願いしますね!!」
「あ、はい…霧島 空です。よろしく…鏡花ちゃんでいいかな…?」
「はい!ありがとうございます!じゃあ私はそらにぃでいいですか??」
「そ、そらにぃ…」
とても礼儀正しく、すこし驚く。その様子はただの少女であり、昨日までのあれとはかけ離れていた。
隊長は鏡花ちゃんの頭をわしわしと乱暴に撫で、説明をする。
「こいつはなぁ、俺の娘だ。年は18。たぶんおめぇとそんな変わらんはずだ」
「な!?18!?自分と一つしか変わりませんよ!!しかも、年上…」
「何だお前。まだ17なのか?…まあいい。それでこいつは8歳辺りからか、なぜか成長が止まってしまった。
それと同時にあの外にいるやつら、ロリと同じような力を得てしまったんだ」
「同じ力…」
「お前、なんかこういう症状をどこかで見たことはあるか?」
少し目を瞑り考える。鏡花ちゃんは少し不安げな顔つきで空を見ていた。
「一応私が知っているロリに関することをお教えします。ロリが人間から生まれるわけではないということはご存知ですよね。人間から生まれるロリ、つまり幼女は普通に存在します。ですが、その者たちは普通に成長し、大人へと変貌していきます。ロリはどこからか誕生し、そして幼女の姿から変わることなく、生きていく。そもそも根本が人間とは違うはずなんです。人間とロリの配合で出来た子は今まで居たという事例は聞いたことありませんし…」
「ふむ…」
隊長は空を見続け、その話をまじまじと聞く。
「ロリの骨格と幼女の骨格が違うことはご存知ですか?」
「ああ、知っている」
「ちなみに、鏡花…さんは」
「鏡花ちゃんがいい!」
鏡花ちゃんは少し怒鳴る。一応年上なのでそこは考慮したかったのだが…
「あ、えっと鏡花ちゃんの骨格は調べてみました?」
鏡花ちゃんは鏡花ちゃんと言われて、微笑む。
「ああ、骨格は…ロリそのものだった…」
「そう、ですか…」
「だが、俺の娘だ!生まれてこのかた片時も離れずに一緒に生きてきた。ずっと鏡花は鏡花だった。何も変わらない。何も…」
「お父さん…」
隊長は少し感情的に話す。どうやら本当に隊長の娘でこの子が人間なのだということがわかる。
「隊長…でいいですよね。失礼ですが…隊長の奥さんは人間ですか?」
本当に失礼なことだったが聞いておく必要があった。
「ああ、人間だ。成人の女性だ。写真もある」
そう言って隊長はペンダントに入っていた写真を見せてくれる。そこには可憐な、どこか鏡花ちゃんに似ている風貌をした女性が居た。確かにこの人は成人しており、人間の女性であることが見て取れた。
「ありがとうございます。ですが、そうなるとなぜ鏡花ちゃんがロリ…いえ、ロリ化した少女なのかがわからないです。私もこのような症状は聞いたことがありません」
「そうか。結局はなにもわからずじまいか。いや、ありがとう」
隊長は少し残念そうにしながらも、ペンダントをしまい、また問いかけてくる。
「そういえばお前はなんであんなところにいた?この辺りじゃ見かけない姿だが…」
「あ、はい。私はここから南の方角にある街からやってきました。私の目的はロリの親玉を見つけ出すことです」
「親玉だと?聞いたことねぇな」
隊長は興味深そうに聞き入る。鏡花ちゃんもなにか真剣なまなざしで俺を見ていた。
「はい。12年ほどまえですか。人間がロリに屈するまでの日、ロリたちは集団となって行動していたと聞きます。しかも全国各地で。その動きはとても考えられた侵略行動でとても生物的な習慣といいますか、生まれ持ったものとは違ったように見えたらしいです。そう、例えば蜂のなかには仲間に蜜の場所を教えるために行う行動として、八の字ダンスというものがあります。それは誰からか教えてもらうのではなく、生まれもっていたものの一つで、蜂はみんな知っている行動です。それは形が違えど、どの生物でも持っているものでロリが何かしら持っていたとしてもおかしくないことなのです。ですが、それが侵略に対するプログラムだとしてもあの日に行われた侵略行為では高度すぎてそれだけじゃ出来ようがないのです。ですから、もしかしたらロリの中にリーダー格のロリがいて、そいつがすべて指示を出していたのではないのかと思うのです。いま外をうろついているロリは単独行動がほとんどなのでそのことから考えてもグループで行動すること自体がおかしいのではないのかと」
「うむ、なるほどな…」
「???」
隊長は考える。鏡花ちゃんは考えられない。
「だからもしそんなロリがいれば、何かしら今の状況を打破できるのではないかと思い、旅をしています」
「わかった。お前も一応ロリコンだろ?」
「は、はい」
「いろいろ装備を整えたり、情報を得たりするまではここに居てもいい」
「え、本当ですか!?」
「ああ、ちょっとは役立つこともあるだろう」
「あ、ありがとうございます!!」
頭を下げ、感謝する。正直、このような待遇は予想していなかった。今やどこも危険が迫る中、安全なところを提供してもらえるだけとてもありがたかった。
「そらにぃ、ここですごすの?やったぁ!!」
「あ、ああ。ありがとう」
鏡花ちゃんも喜んでくれた。が、今思うとこの姿、ただの幼女であった。昨日はあんなにロリと同じような雰囲気を醸し出していたのに…
「あの隊長」
「ん?なんだ」
「あの、鏡花ちゃんの力についてなのですが…」
「ああ」
「それって、強靭な肉体とその…」
「ああ、それだ。その二つを鏡花はもっている。だが、もともとは持っていなかった。成長が止まったことに気づいた辺りからか。後者はその辺りから使えるようになった」
前者の力はそのままの意味合いだ。人間では考えられない腕力や脚力を持っている。
問題は後者の力…それは「淫乱体質」である。簡単に言うと相手を虜にし、自分に酔わせる。一度虜にされてしまえば、あとはロリの自由。何も逆らえずに、ロリのために尽くす人生を送ってしまう。だが、ずっとではなく継続的にそれを受けなければ、元に戻ることがわかっている。正直昨日は危なかった…
「まあ鏡花はまだしっかりとコントロールできないらしくてな。まあ許してやってくれ」
「ごめんなさい…」
鏡花ちゃんは恥ずかしそうに頭を下げる。
「いや、いいよ。大丈夫だよ鏡花ちゃん。それよりも頭を上げてほしいな。君は悪くないんだから」
「え、でも…」
「いいって。それよりこれから一緒にここで生活していくんだから仲良くしようよ。ね?」
「う、うん!!」
なかなかかっこいい切り替えしだったのではないかとすこし感動する。隊長も表情には出さないがありがたそうにしていた。
「ああ、お前の荷物は荷物置きの中に入れてあるから、安心しろ。とりあえずもう少し休んどけ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、俺は戻るから。あ、鏡花は一応お前の看護師だ。何かあったときは言ってやってくれ。お前の内臓結構今やられてるからな。腹の傷はまた開いちまうといけねぇし」
「あ、はい」
「よろしくね!そらにぃ!!」
鏡花ちゃんは満面の笑みで微笑みかけてくる。
「あ、それと…」
ドガーーン!!
隊長がなにか言いかけた際にどこからか爆発音が鳴り響く。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
病院内は少し揺れ、すぐにアナウンスが入る。
『ロリが進入した!!繰り返す、ロリが進入した!!進入口は表ロビー!!数は3匹!!直ちにロリコンはこちらに来てくれ!!一般人はα、β、γに身を潜めろ!!繰り返す…』
「なんだと!?なぜバレた!!くそ、俺はロビーに向かう!空、お前は隠れていろ!!鏡花は…この近くだとβだな!!早く行け!!」
隊長が怒鳴り声を上げる。すぐに遠くからは銃撃音と怒声と悲鳴が鳴り響く。鏡花ちゃんは俺に近寄り、隊長に言う。
「だめ!!私はそらにぃの看護師だもん!!そらにぃを守らないと!!」
「な、何言ってやがる!言うことを聞け!!そいつは動けねぇ、俺らがなんとかするからお前は避難しろ!!」
「そうだよ鏡花ちゃん!俺は…そう!そこの荷物置きの中にピストルもあるし、大丈夫だよ!!」
「え…でも…」
「大丈夫!またあとで遊ぼうね!」
「う、うん…わかった!絶対だよ!!」
決意を決めた鏡花ちゃんは隊長の下に駆け寄る。そして隊長は鏡花ちゃんに指示を出し、戦場と化しているロビーの反対側に指を刺す。鏡花ちゃんは病室を出る際に少しこちらを見て、そして走り出した。隊長はそれを見届けてから、俺に荷物置きのなかにあるピストルとバックを出して置いていく。
「お前もロリコンだ。自分の身は自分で守れ!また後で向かいに行く」
「が、がんばってください!!」
「ああ!!」
隊長も病室をでて、そして扉を閉める。鍵を持っていたらしく外から鍵をかけ、病室には俺一人になった。
遠くからは先ほどと変わらず銃声が聞こえてくる。アナウンスもいつのまにかなくなっており、嫌な静寂が
病室を包み込んだ……