2-9 テンプレ君とデュルケーム商会
話を聞き終わって考え込んでいるとコレットさんが唐突に喋り出す。
「全て私が悪いんです。」
「コレット、そんな事はないと何度も言っているだろう。悪いのは全部あのドラ息子とバカ親であってコレットは何一つ悪くない。」
「でも、そのせいで結局バンジャマンさんはお店を失ってしまったじゃありませんか。その上またこの病気で、今度はみんなにまで迷惑をかけてしまっている。どうせもう治らないのですから私などさっさと見捨てて下さい。」
「そんな事できる訳がないだろ!コレットがみんなを大切に思う様にみんなもコレットの事を大切に思っているんだ。それに私だって…」
俺はコレットさんとバンジャマンさんのやり取りを中断させ詳しい事情を聞く事にした。
話しは3年前、コレットさんが街の有力者に料理人として買われた事が発端となる。
初めのうちは料理人として再び腕を振るう事が出来る様になり充実した日々を送っていた、しかし事はそう上手くいかなかった。その家には絵に描いたようなドラ息子がおり、両親もこれまた絵に描いたような親バカぶりだったのだ。そのドラ息子が悪戯にコレットさんを手篭めにしたのだ。さらには散々オモチャにして遊んだ挙句どこぞから貰ってきた病気を移した。
病気の事が発覚すると有力者はコレットさんが息子を誘惑した挙句に病気を移したと主張し処分しようとする、そこでバンジャマンさんはその事を初めて知らされた。
元々バンジャマンさんは料理人だったロレッタさんがその料理の腕を評価されて有力者に購入された事を非常に喜んでいた。それがこんな事になっていると知り、詳しい事情を調べると激昂し処分されそうになっていたコレットさんを強引に連れ戻した。しかし相手は街の有力者、泥沼の様な争いの末コレットさんの所有権を取り戻したが強い恨みを買ってしまい商売が立ち行かなくなっていった。
その後はバンジャマンさんに初めて会った時概ね聞いていた流れとなるとの事だ。
それらの話を聞き俺は非情とも思える宣告をする。
「バンジャマンさん、あなた奴隷商には向いていないですね。もう無理をして続ける必要は無いんじゃありませんか?」
「「「「「「!?」」」」」」
「やはりそう思われますか?自分でも解っていたんです、奴隷を奴隷として扱えないのに奴隷商などやっていけるわけが無いと。この仕事に就いたのも父親が死んでデュルケーム商会を跡継げる者がのが私しかいなかった為ですしね。」
「御自分でもご理解はされてらっしゃったのですね。コレットさんの件といい皆の様子といい私は人としてバンジャマンさんの事を非常に好ましく思います、ですが奴隷商としては致命的な程に向いてない。あなたは私に奴隷を買ってくれと願い出ましたが、もし私がそれを了承しここの女性を性奴隷として購入すると言ったらあなたはきっと断るでしょう。そしてまた振り出しに戻りあなたはまた買い手を探す、そんな事を繰り返しているうちに時間はあっという間に過ぎ暮らしてなどいけなくなる。今でも既に限界にきているのでしょう?」
「全てお見通しですね、概ねあなたの言う通りです。私は皆を、大切な家族すら守る事が出来ない…なんて無力なんだ。」
「それは違います。バンジャマンさん、あなたは無力などでは無い。ただ今の仕事が向いて無いというだけのことです、こんなに皆に慕われているあなたが無力などという事があるはずがない。…というわけでバンジャマンさん、この街で人材派遣業を始めてみませんか?」
「人材派遣業?ですか?」
「そうです、簡単に言えば冒険者ギルドがやっている事のもっと小規模な物で奴隷を短期で貸し出す専門業者です。例えば今日はパーティーだが料理人や給仕人が足りないとか、今週は重量物の運搬があるが男手が足りないといった際に奴隷を貸し出し仕事をさせるのです。これならば奴隷の所有権を移すわけでは無いのでコレットさんの時のような事は起こりませんし、事前に業務内容を確認して契約するので契約外の仕事を強要される事も無い。肝心の人材確保には、奴隷商としてのツテやノウハウが活かせますので皆に慕われているバンジャマンさんにこそ相応しい仕事だと思います。開業のサポートはさせていただきますので。」
「サポートさせていただくって何故今日初めてあった様な私達にそうまでしてくださるのですか?」
「簡単な事です、それが私の生業だからです。ご挨拶が遅れました、私コンサルタント会社グランディールをやっていますユーゴ=ヨシムラと申します。」
「コンサルタント?会社?」
「はい、経営の改善や立て直しの手助けの他にプロジェクトの計画立案などを行う会社です。デュルケーム商会さんの場合新規事業の立ち上げですのでコンサルタント料金は300Z。」
「300Zなんて大金とても、ご覧の通りそんな余裕は…」
「いえ、それで話はまだ終わりではごさいません。並行して新規事業を立ち上げたデュルケーム商会へ、弊社との業務提携をお願いしたいのです。今後、弊社のコンサルタント案件におきまして調査や人材が必要な際は特別価格での派遣をお願いすると共に、その他人材確保のご協力をお願いしたい。また、別件なのですが現在手を掛けている案件で、奴隷商としてのバンジャマンさんのお力をお借りしたい事案がございます。加えてそれもお願いできれば助かります。提携による契約金は年間で500Z、バンジャマンさんへの依頼は前金で300Zで後は成功報酬によるお支払いでいかがでしょうか?」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「突然こんな事を提案されても判断し難いでしょうから今日のところ私は引き上げます。私は木漏れ日亭という宿に拠点を構えております、皆さんでよくご相談の上お返事をいただけますでしょうか。それではどうぞよろしくお願いいたします。」
そう言うと俺はバンジャマンさん達のテントを後にした。
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俺はその後いつもの服装からロータスでは標準的な服装へ着替え、撫でつけた髪をクシャクシャと手で揉んで下へおろすと歓楽街へと向かう。ロータスにおける娼館の一般的なサービス内容の調査の為だ、そうあくまでも提案計画書を作成する為に必要な調査なのだ。結局奴隷を早々に購入する事など出来そうもないし、もう心から楽しめなくたっていいから利かん棒だけでも満足させたいなどという妥協で行くのでは決して無い、仕事の為必要な事だから行くのだ。
歓楽街に着くと一軒の娼館を目指す、そうラクーンである。ムーランじゃ顔が割れている可能性があるし安心して行ける店なんてわからないけどどこに行ったらいいんだ… そうだムーランが駄目ならラクーンがあるじゃない!
そんな素晴らしい閃きがあった訳では決して無い。一般的なサービスの調査に合わせゲラール商会の娼館のサービスレベルも併せて調べる目的があるからだ、わざわざ着替えたのもバレたら恥ずかし…いや標準のサービスを受けられなくなっては困る。そう、あくまで仕事の為だ。
大事な事なので何度でも言う、俺は仕事だからしょうがなく行くのだ。
ラクーンへ着くとかしこまった受付の男が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ、本日はどの様な娘をご希望ですか。」
ヤバい超緊張する、こんな緊張初めて風俗行ったとき以来だ。
「どっ、どんな娘がいるんですか?」
「当店では様々な種族や体型、髪や肌の色の娘をご用意させていただいております。料金は人族は300Z、亜人は200Zになります。ですが本日は大変申し訳ありませんがすでにお客様についている娘が多く、現在お選びいただけるのは亜人の2名のみとなっております。一人は栗毛で小柄ながら肉感的な犬の獣人の娘、二人目は若干年齢が高めですが銀髪で胸が豊満な褐色肌の妖精族の娘となっております。」
うーん二人しかいないのか、大分遅くなってしまったからな。妖精族というのがどんなかわからんがこれまでに会った獣族を見た限り俺には残念ながら性の対象として見る事はできそうにない、となると答えは一つだ。
「妖精族の女性をお願いします。」
「かしこまりました、料金は前金でご精算いただいております。」
俺はすかさず金貨2枚を支払う。
「ありがとうございます。それではご用意させていただきますのであちらのカーテンの奥の控え室で少しお待ちください。控え室には禁則事項が書かれた羊皮紙がございますのでそちらを必ずお読みいただく様お願い申し上げます。」
そう話すと受付は奥へと下がっていった。控え室に入るとそこはテーブルと椅子だけが置かれた簡素な部屋だった。椅子に座って禁則事項を読みながら久しぶりだわこの感じなどと昔を懐かしみながら待っていると全裸の女性がカーテンを開いてやってきた。
「今晩お相手さしていただきますソーニャ言います。よろしくお願いします。」
その奇妙な関西弁を話す女性は銀色の長い髪にアメジストの様な紫色の瞳、尖った耳で褐色肌のわがままボディ。それは正にテンプレで言う
「ダーク…エルフ…」
意図せず洩れた俺の言葉にその女性が驚く。
「なんやお客さん、ウチらの部族知っとるん?この国に来てから初めて言われたわ。物知りやねんなぁ、それともお客さんも他所の国から来たん?」
「い、いや。私は他所の国から来た訳ではないよ、ただ故郷では貴女の部族の事は知られている。それでもこの目で見るのは初めてだったもので。」
「そうなん、まあそないな事どうでもええねんけど。それよりお客さん随分硬い喋り方しはんねんなぁ、硬くするんはこっちだけでええねんで。」
そう言うと俺の身体にまとわりつくと、すでにクラスチェンジしてしまっている暴れん棒をソフトタッチでサワサワして来た。
「ふふ、ちゃあんとコッチもガッチガチやん。早いとこ部屋行っていっぱい楽しもな。」
そうして俺は褐色の妖精に誘われ、享楽のラビリンスへと迷い込んで行ったのだった。




