2-8 テンプレ君の工房計画
生産ギルドへ向かっていたが、腹空いたので屋台で適当に食事を買う。羊の肉と野菜を薄いパンで挟んだケバブのようなものだったがまあまあ美味かった。
その後道すがら武器屋をハシゴし適当な鋼の剣を三振り程購入した。それぞれの剣の銘を消し斬れ味と強度を上げ装飾を施す。正直どの程度が妥当なのかさっぱりわからないので購入した剣を元に加工する事にしたのだ。本当は盗作のようなものなのでマズイのだろうがここまで手を入れれば元の剣とはもはや別物と呼べるだろうしまあいいんじゃないか?仕上がりにも差をつけたので問題ないものを献上すればいいだろう。
生産ギルドへ着くとギーさんが待ちわびていたようですごい勢いでやってきて正直ひいてしまう。
「お待ちしてました、来られないのではないかと心配になってしまいましたよ。」
「おっ、遅くなってしまい申し訳ございません。ちょっと午前中に急遽予定が入ってしまいまして。」
「大丈夫です、さあ早速支部長室へ。」
よもや忘れていましたなんてとても言えない興奮ぶりのギーさんに連れられ支部長室へと伺う。
「おう、待ってたぞ。遅かったな、こいつが煩くて難儀したぞ。」
「支部長!余計な事は言わないで下さい、では早速献上する品を拝見させていただけますか?」
いつもの冷静さを取り戻したギーさんに促され先程加工した布に包んだ剣を渡す。
「ほうほうこれは素晴らしい!どれも良く拵えてありますが特にこの一振りは独特な意匠が凝らされある種の風格すら感じる。」
「オメェが見てもしょうがねえだろうが、さっさと寄越せ。」
支部長はそう言って静かにその剣を見定める。
「確かに良い出来だ。近年ちょっと無い出来だな。しかも他の二振りもかなりの出来だ、やはり国やギルドの管理外でこんな腕前の人間を野に放って置く訳にゃあいかんな。正直時期はあれだが無理矢理にでも押し込んでとっとと献上しちまおう。」
「そうですね、製造権の発行まで3カ月はかかるでしょうが発行されるのを見越して工房は準備してしまいましょう。それに工房さえ出来てしまえばギルドに登録は出来ますのでミスリルの製造も始められるでしょうし。実は候補地は既にいくつか選定しております、後はユーゴさんがどの様な工房を望まれるかで予算を組んでいかなければなりません。」
「私が望む工房ですか…。」
俺の望む工房か、ぶっちゃけ名前だけあればいいんだよな。製造自体は神の手でやっちゃうから特別な設備は要らないし倉庫もアイテムボックスがあるから必要無い、しいていうならダミーの倉庫でもあれば事足りてしまう。ハルームートは区画が整備されてるから商店代わりにする事も出きないし、将来的にエディ君の魔道具工房にでもできたら良いけどそれはその時に考えればいい事だ。
「正直これといった希望は無いんですよね、製造に関しては秘匿とする部分が多いのでそれに伴う設備や道具はこちらで用意いたしますので側だけあれば充分ですし。あえていうなら建物の建築に携われればという事と立地が出来るだけ商業区に近い方が助かるというぐらいですか。因みに普通だと大まかな予算はおいくら位になるんですか?」
「そうですね、一般的な工房であれば建築に白貨5〜6枚程度ですが今お伺いした程度なら3枚あれば充分お釣りが来るでしょう。土地は更地で商業区の側となると候補地の中だとこの辺になりますね、土地代金はミスリルの取引に伴うものとしてギルドよりお貸しいたしますので初期の段階では必要ありません。それから工房開設後のギルド登録料はいただいたミスリルや鉱石の情報料として無償とさせていただきますので。」
「そうですか、それなら私としても問題無くお支払い出来ますしその方向でよろしくお願いします。」
「おいおい、製造権取得による新規工房の立上げは推薦人が面倒見るのが慣例だ。そんな心配は無用だ、いいからもっと希望を言っとけ。」
「いえ、弟子という訳でも無いのにそこまであまえる訳にはいきません。支払えないのであればともかくお支払いできる額ですので支払わせてください。代わりと言ってはなんですが大工を何人か紹介していただけませんか?建物は私の故郷のものを模したものにしたいので。他にも色々とお願いしたい事もございますし。」
「うーん、そうか。なんか納得いかねぇがお前さんがそういうならしかたあんめぇ。大工の件はわかった、腕のいい奴を紹介するよ。」
「腕前はそんなに良く無くて問題ないんです。それよりも逆に若い見習いを何人かご紹介していただきたいんですよ。」
「んん、おかしな注文だな。なんでまた?」
「ゲラール商会…、そういえばわかりませんか?」
「…ユーゴさんあなた、その件に関わっているのですか?」
「なんだそれ、ギーどうなってんだ?」
「以前報告書を回したじゃないですか、ちゃんと目を通しておいて下さいよ。以前の支部長と懇意だった商業ギルドの支部の幹部と商業区の大物、その2名より協力依頼が来たとお伝えしたでしょう。こちらとしては協力するいわれはありませんが無下に断って関係を悪化させる事もないので引き受けると報告したはずです。別にウチとしては娼館がどうなろうと関係の無い話しでしたし、しかしユーゴさんが咬んでるとなると話しは変わりますね…。」
やっぱりね、思った通りだ。レイモンさんガッツリ仕掛けられてるね、この街の根回しだけ上手くいかないって言ってたから恐らくこの街の平民街の有力者だろうとは思っていたけど商業ギルドの支部幹部に商業区の大物か。思ったのより厄介なのが出てきたな、本気で計画を立てないと間違いなく失敗する。まあ今は粛々と準備を進めますか。
「いや特に今まで通りで構いませんよ、逆に下手な事をされてこちらの動きを感づかれるのも困りますし。あくまでこの事は秘密にしておいて下さい。」
「わかりました、ユーゴさんがそうおっしやられるのなら今は静観しておきましょう。ですが何かあればすぐに仰って下さいね、ギルド員を守るのもギルドの仕事ですから。」
「なんか面白そうな事やってんな、あの野郎のお友達に吠え面かかせてやれんなら幾らでも協力するぜ。」
「ええ、その時はよろしくお願いいたします。」
「ただそれがどうつながったら工房建築の大工の話しになるんだ?」
「実はちょっと考えてる事がありまして、工房建設を一つのテストケースとして試したいなと思っています。それに伴いあまり腕のある方よりは見習い程度の方の人数がいた方が助かるんですよ。後、建材の原料と大きめの倉庫を暫くお借りできると尚助かります。」
「わかりました、そのように手配しておきましょう。原料と倉庫は明後日の朝までにはご用意できると思いますよ。」
そうして工房建築について細かな打ち合わせを済ませ、土地の貸借も含めた仮契約を済ませると製造ギルドを後にした。外に出るとちょうど陽が沈み始る頃だった。
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俺はバンジャマンさんの所へ向かう前に一度木漏れ日亭へと戻った。
「おかえりユーゴ兄さん。朝の彼ら、荷車一杯の荷物を持ってやってきたよ。さっきまでユーゴ兄さんの事待っていたんだけど陽が暮れはじめた事もあって残念そうに帰ってしまったよ。」
そう言ってエディ君が真っ先に出迎えてくれた。
「そうか、待っていたのか。悪い事をしたな、まあ何か用事があればまた来るだろう。所でこれからまた例のプロジェクト絡みで出かけなきゃいけないんだ、今夜も遅くなるが留守を頼んだよ。」
「こんな遅くからまだお仕事で出かけられるのですか?本当に無理だけはなさらないで下さいね。」
奥さんが心配そうに話しかけてきた。
「大丈夫ですよ、それから今晩も食事は結構なのでゆっくりお休みください。」
「はっ、はいわかりました。」
昨夜の事を思い出してか顔を真っ赤にしてそう答えた。
「それじゃみんなの報告もまた明日の朝聞くから、行ってくるよ。」
皆にそう告げ木漏れ日亭を後にする。
結局バンジャマンさんの所へ着いたのは陽がすっかりくれた宵の口となってしまった。テントからは淡く灯がもれいい匂いが漂ってくる。
「遅くなって申し訳ありません」
テントへ入るとバンジャマンさんが血相を変えて飛んできた。
「お待ちしておりました。戻ったら用があるからと出て行かれた旨を伺い、仰られた夕方になってもお越しになられないのでもういらっしゃられないのではと心配しておりました。」
うっ、デジャブが。さっきもこんな光景を見た様な気が、まあ今日は予定が押して遅刻気味だからしょうがない。
「いや先約があった事失念いたしておりまして、そちらを済まさねばならなかったもので大変失礼いたしました。」
「いやそんな事はありません、こちらこそお忙しい所無理を言ってしまい申し訳ございませんでした。お陰様でこうして皆に満足な食事を摂らせる事ができましたし、そればかりか石鹸や衣類までいただいてしまい感謝の言葉もありません。本当に、本当にありがとうございます。」
「そんなにお気になさらないで下さい、私は選ぶにあたって必要な事だと思ったのでやらせていただいただけですから。あくまでも自分の為にやった事ですよ。では早速拝見をと言いたいところですが皆さんお食事中の様ですね、実は私も食事がまだでしてご一緒させていただいても構いませんか?」
「そんな、ご一緒だなんてとんでもない!みんな片ずけて場所を空けてくれ。」
「いやそのままで、一緒の方がいいんです。食事は大勢でワイワイと食べた方が美味しいに決まってますから。」
そう言うと皆が座る車座の中に入り込み、20代半ばと思わしき優しげな目をした柔らかな雰囲気の女性の脇に胡座をかいて座るとバンジャマンさんは諦めた様に食事を用意してくれた。
「お食事の最中に突然伺ってしまい申し訳ありません、割り込んでしまってちょっと窮屈な思いをさせてしまいますね。」
「あの、私は病気を患っております。お側にお座りになられては移してしまうかもしれませんし、その…不浄ですので。」
「病の事は伺っています、そう簡単に移るようなものではありませんし不浄などととんでもない。さあ食事を楽しみましょう。」
戸惑ったような様子の女性にそう言い聞かせ用意された食事に手をつける。メニューはパンとシチューのみと質素だがそのシチューの味には驚いた。この女性はガストンさんには及ばないまでも料理技能がLevel5に達しており流石の腕前である。
「このシチューは貴女が?」
「はっ、はい。簡単な料理でお恥ずかしいのですが。」
「いえ、その辺ではちょっと食べられないくらい美味い。いや本当に素晴らしい、その腕を振るう場所など引く手数多でしょう。まあ今はご病気もありますし治ったらその時にまた考えればよろしいでしょうが。」
その言葉にバンジャマンさんを含め周りは幾分沈痛な面持ちを浮かべ表情が硬くなる。皆死病だと思ってるだろうからな、無遠慮な奴になってしまった。まあこれだけの腕前の人間を死なせるなんて勿体無いから死なせる気なんて更々ないけど。
食事も終えそのまま一人一人の話しを聞かせてもらう事にする。
先ずは人族の女性、名前はエリアで年齢は21歳。
元々商人の娘だったそうだが破産してしまい親子諸共奴隷落ちしてしまったとの事。容姿は並だが流石に商人の娘だけあって読み書きに計算が出来バンジャマンさんをよく助けているとの事だ。
次は人族の男性、名前はデニスで22歳。
元々冒険者だったのだが大怪我をしてしまい一命は取りとめたもののその時に背負った借金が元で奴隷落ち。元D級冒険者とあって剣術技能はLevel4となかなか高くその他戦闘技能も充実している。
三人目が狐型獣族の女性、名前はタハミーネで25歳。
元々森で猟師をしていたそうだが生活に困窮して街に出てきた際騙されてしまい奴隷落ち。元猟師とあって弓術技能Level4気配察知技能Level4と高く旅路の際はデニスと共に皆の護衛として活躍していたそうだ。
四人目が犬型獣族の男の子、名前はウマルで年齢は16歳。
両親が奴隷の為生まれついての奴隷との事。好奇心旺盛で直情型、皆を守る力が欲しいとの事でデニスとタハミーネに訓練してもらっているとの事。
五人目が人族の女の子、名前はジジで15歳。
元々は農民の子だったが貧困から売られてしまい奴隷落ち。可愛らしい顔立ちをしているが内向的な性格で酷く人見知りをするが病を患った女性にはよく懐いており料理を習っているようだ。
最後に病を患った女性、名前はコレットと言い人族で28歳。
一流料理人の娘で小さな頃から料理を仕込まれていた。しかし他所の店へ修行に出ている際父の店で食中毒を出してしまい店は潰れてしまう、その際の損害賠償で出来た借金返済の為に自ら奴隷落ちし父を救ったとの事。
皆は力を合わせて1年以上も旅をしてきたとの事で雰囲気も奴隷商とその奴隷達では無くもはや家族の様になっている、この中から選んで買ってくれってそりゃいくら何でも無茶だろ。




