0-2 テンプレ君のはじまりのはなしその2
提示された賠償の条件は以下のとおりである。
1. 若干能力の補正された健康な肉体
2. 一生遊んで暮らせるだけの金銭
3. 安全に暮らせる家と安定して食物を生産できる畑
うん? ずいぶんしょぼい条件だぞ。なぜここはテンプレではなくリアルなんだ? がっかりにもほどがある。普通ここは好きなスキルをって場面じゃないのか?
そんな俺の不満そうな気配を察したのかセルフィーネ様より説明が入る。
「まず肉体なのですが、もともとの肉体との差異が大きいと魂との乖離が生じてしまうためにあまり変化を加えることはできません。さらに吉村様の場合魂が別世界の者のためこちらで変質きませんので魂に肉体を合わせるしかないのです。正直なところこちらで用意した肉体に別世界の魂を入れるということ自体前例がなく今後魂と肉体が馴染んでいった結果、どうなるかも予想できておりません。ただ、現状を見るにある程度の安全が担保できる程度の能力の必要性は感じたため可能な限りの補正はさせていただきます。」
「すみません、元の世界の肉体に基づくという事は私は魔法が使えないという事なのでしょうか? それから追加でスキルなんて物はいただけないですよね?」
「こちらの世界でご用意させていただいた肉体なので魔力自体は宿っております。ただ先程も申し上げた様にこちらでご用意させていただいた肉体と別世界の魂の組み合わせというのは前例がないため、どのような結果になるのかは予想できません。後スキル? ですか、あぁ特殊能力ですね。こちらも同様の理由によりこちらで付与させていただくのはリスクがあまりにも大きいため難しいと思います。ただし言語能力だけは必要でしょうし極端な影響を及ぼす可能性は低いでしょうからなんとかさせていただきます。」
うわぁ、身体も能力も弄れないしスキルもなしか。若いイケメンになってハーレムチートでウッハウハは不可能……、テンプレプリーズ! 現実なんてしょせんこんなもんだ、諦めるしかないのか。
「次にお金ですがこれは賠償金としてお考えください。額面はおおよそ一国の国家予算程度はご用意させていただきます。最後に家と畑ですがこちらは今後の生活を健やかにお過ごし頂ける様にご用意させていただきます。住む場所と食べるものが安定すれば今後の生活におきましても安心してお過ごしいただけると思いますので。害意のある者や力は進入不可能な強力な結界を張らせていただきますので万全な安全性をお約束させて。いただけるでしょう。」
確かに筋は通っている。聞いた話しだけならば生涯を裕福な生活を送って安全に過ごせるだろう。元の世界の保障基準で考えれば破格の条件ではある。
だがしかし、ここは異世界なのだ。さらに言えば文明レベルは中世程度、この世界の常識は全くわからないし生活水準も現代日本で生活している俺が満足できるレベルとは到底思えないんだよな。
金もあるにこした事はないんだろうけど国家予算程の貨幣が突然生み出されたらインフレを引起こしてしまうんじゃないか? まあいきなり市場に放出する様な馬鹿な使い方はしないから大丈夫だとは思うが微妙に使いづらいな。
家も同様に安全性は魅力的だが立地条件や街の雰囲気などがわからない以上もらいづらい。それにこれ、神様的には引きこもり推奨って事だよね。
『神公認引きこもり』
響き的に言ってもなんだかすごいがヒッキーはちょっとな、ネットないだろうから絶対暇だし。
ともかく判断するには情報が足りない、そもそも行ってみないとわからない事が多すぎる。ここは今の段階でまとめて受け取るのは得策ではない様な気がする。
それらの事をセルフィーネ様へ伝えると途端に難しい表情になった。
「吉村様を今後も都度サポートさせていただきたいのは山々なのですが基本的に私が一人の方の手助けを続けるという事は非常に難しいのです。さらに私には眷族がおりませんので安心して代わりを任せられる者もおりません。今回の事が異例中の異例であり、神の役割というのは基本的に直接的な関与をしてはならないのです。特に私の場合特定の種族を管轄し管理しているのではなくその管理者を管理する側であり継続的なサポートをするにしてもそのノウハウを持っておりません。さらには今後、各世界との賠償交渉および事件の原因究明、力を失った神たちの代理の指導など相当な時間を取られるためにかなり多忙となり時間的な余裕はほとんどなくなってしまう事が予想されます。あくまでもこちらの側の都合で大変申し訳ありませんが、万全なサポートをさせていただく体制をこちらでご用意できかねる状況となっております。そのため今回は継続的なサポートが困難と判断し、一括での賠償およびフォローのため今回の条件をご提案させていただいたのです。」
なるほどね、だからあれだけ好条件の提示だった訳ね。でもこちらもはいそうですかと受け入れらんないよな。セルフィーネ様とてここで俺と妥結しておかないと今後の賠償交渉に影響が出るのだろう。交渉の主導権はこちらにあるしその辺ゆさぶってみるか。
「ではある程度のお試し期間を設けていただけませんか? それくらいあれば情報も揃うでしょうし。」
「そっ、それはちょっと……」
俺の話しを聞いてセルフィーネ様は明らかに狼狽えながら難しい表情になった。やっぱ俺との早期妥結は最重要案件らしい。
セルフィーネ様はしばらくウンウンうなりながら長考に入った。
どうでもいいが美人がうなりながら考え事をしている姿はなかなかそそる物がある。俺がそんなゲスい事を考えながら視姦しているとセルフィーネ様は清水の舞台から飛び降りる様な決心をした顔で口を開いた。
「わかりました、吉村様には私の加護を差し上げます。それにより私の力の一部を使用する事ができるでしょう。」
えっ? そんな事ができるのか? しかしそれじゃあ今までの説明と矛盾が生じるよな。
そんな俺の疑問を察しセルフィーネ様は話しを続ける。
「いろいろ矛盾を感じられると思います、ですが加護を与え神の力を貸与する事は解釈の拡大によるグレーゾーンながら黙認されております。実際私は与えた事はありませんが、各種族の神は時折与えているようでしたし私も指摘は控えておりました。そして加護による力はあくまでも貸与であり付与ではございません。そのため、身体や魂に手を加える必要はないのです。何度もご説明させていただきましたが私の力の直接的な影響は少しでも減らしたいと考えておりましたがこの際やむをえないでしょう。多額の金銭および家と農地に差替えて私の加護を差し上げましょう。」
そんな裏技があったのか、ってか解釈の拡大による行使ってどっかの憲法みたいだな。とりあえずかなりの決心をしてもらったみたいだしお礼しつつ内容の確認だな。
「格別の配慮をいただきありがとうございます。ところでセルフィーネ様よりお借りできる力とは具体的にはどの様なものなのでしょうか?」
「そうですね、私も加護は初めてなのでどの程度の力にした物か悩んでおります。まあ、目と手の力の一部ではどうかとは考えておりましたが。目の力は見たものの情報を得る事ができますのでこの世界で暮らし始めて生じる不明な事柄への助けとなるでしょうし、手の力は物を作成や復元できますので生活水準を満たすために必要な物を作り出すことができるでしょう。ただし、神の手は無から有を生み出す力・物質の極端な変質・生物の魂や生態へ干渉する力などは神の権限に達してしまいますので使用できないでしょう。せいぜい無機物の変形や加工程度ではないかと思います。」
ここに来てテンプレカムバック! 大声で『おかえり』と叫びたい。俗に言う[鑑定]と[錬金]ってやつでしょ、これ。いや粘った甲斐があったってもんよ。ただテンプレと言えばもう一つ大切な物があーるじゃないか、そう[アイテムボックス]。ここは最後の一粘りをしてみるか。
「無理を言って申し訳ございません、その様なお力をお借りできるとは非常に助かります。ただ、わがままついでにもう一つだけお願いがございます。荷物の持ち運びや倉庫代わりに亜空間の様なものを造れると尚助かるのですが、なんとお願いできませんでしょうか?」
「亜空間創造ですか……、そうですね生物の出入をでき無い様にすれば構わないでしょうか。加えて安全保障のために結界創造の力もあったほうがよろしいかもしれません。ただしどちらも魔力依存ですのでそう大きな物や強力な物にはならないと思います。最後に無一文という訳にはいきませんので当面の資金と身分証も併せてご用意させていただきます。」
おぉ、なんかたくさんオマケがついて来た。なんだかやけっぱちと言う雰囲気もうっすら感じられるが非常に助かる。
「条件は以上で問題ありませんでしょうか? まあ、これ以上の条件を求められてももう提示できませんが。」
「何から何まで本当に申し訳ございません。条件はこれで問題ありません。」
「では早速契約を行いましょう、こちらの契約書にサインをお願い致します。」
セルフィーネ様がそう言うと目の前に文台と契約書が現れた。俺は契約書に目を通し契約内容をよく確認したのちサインをした。そしてその契約書をセルフィーネ様へと渡す。
「この度はまことに申し訳ございませんでした、あらためてお詫び申し上げます。私どものイザコザに巻き込み吉村様の人生を大きく狂わせる事になってしまいました。さらにはこちらの都合を押し付ける形で急かす様に契約を結ばせてしまった事こころ苦しく思っております。」
安堵の表情をうかべながらも申し訳なさそうに謝罪をしてきたセルフィーネ様へ俺は微笑みながら答える。
「そう気に病まないでください、こちらとしても無理な我儘を聞いていただきましたし感謝しておりますので。」
「そう言っていただけるとこちらとしても助かります。それでは早速お送りさせていただきます。吉村様は人族の括りに近いと思いますので人族の比較的生活しやすいと思われる街の側へとお送りいたします。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
話しが終わり頭を下げると俺の身体は強い光に包まれた。あまりにも眩しく目を瞑ると祝福の声が響いた。
「あなたを心から歓迎し新たな人生を祝福いたします。ようこそわれらが世界ロータスへ」