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1-12 テンプレ君説教する

 店員に再びあの二人を呼んでくる様に頼みエディと待っているとバタバタと二人競う様に戻ってきた。そしてエディの泣き腫れた目をした顔を見てがなり始める。


「貴様! エディ様に何をした!」


「エディ様! あぁお可哀想に、あなたっ! これは一体どうゆう事!」


 二人共再びギャアギャアと絶叫する、正直ウンザリだ。


「いい加減にしろ、このバカタレどもが!」


 グッと堪えていた怒りを吐き出す様に怒声をあげるとなんだかおかしな響き方をした。二人は勿論エディ迄ビクッと震えて硬直してしまった。俺も内心驚いてしまったが都合良く二人とも黙ったしそれは取り敢えず置いておこう。


「お前たちは一体何をしていたんだ! こんな子供一人に責任被せてやいのやいの騒いでいるだけじゃないか。エディ君はお前たちの理想を叶えるための道具でも人形でもないんだぞ。お前たちエディ君の姿をちゃんと見て話しをちゃんと聞いた事あるのか? どっちも自分の無責任な理想や想いを押し付けるだけで本当のエディ君の姿を見ようとも話を聞こうともしていない。夢見がちな世間知らずの馬鹿共が行き当たりバッタリで子供を連れ回した挙げ句の果てがこのざまだ。人生舐めんのも大概しろよ。」


 硬直はとけた様で元騎士が反論して来た。


「事情もよく知らん部外者が勝手な事を言うな。全てはエディ様を思ってのことだ、そのためにはオーリック家を再興させ全てを取り戻さなければなら」


「だからそれが押し付けだって言ってんだよ。一体誰がそれを願った? エディ君がそんな事一度でも頼んだ事があったか? それは誰のものでもない、お前だけの願望なんだよ。そしてそれをこんな小さな子供に背負わせて自分は自己満足に浸って騒いでるだけだ。大体お前、再興のためのビジョンなんてあんのか? エディ様はきっと何かを成し遂げられるとか言って結局エディに丸投げなんだろ? ふざけんじゃねえよ、今日の暮らしもままならねぇ様な無様な状態で再興も何もあったもんじゃねえだろうが。その結果の全てをおまえはこんな小さな子供に背負い込ませてんだぞ。」


 今度は元メイドが食い下がる。


「だからこそ私の身を売って生活をお支え」


「勘弁してくれ、こっちは恩の押し売りかよ。私の人生捧げますって勝手に捧げられた方の身にもなってくれよ。悲劇のヒロインごっこならよそでやってくれ。エディ君は優しいからこれからの長い人生、その罪悪感を死ぬまで引きずって生きていかなきゃいけなくなる。そして自分の責任だと背負う羽目になる。そうやってこんな小さな子供何でもかんでも背負わせんなって言ってんだよ。んな事して満たされんのはテメェのクソみてえな自尊心だけだ、結局のところ一人の少年の心に深い傷負わせるだけだろうが。餓鬼が世の中知ったふりして調子に乗った揚げ句さらに小さい子供に守られてたんじゃどうしよもねえぞ。」


「がっ、餓鬼だと!? 我らはすでに成人した大人だ!」


「年さえ取れば大人になれる程世の中あまく無えんだよ。年齢とともに成長が伴って始めて大人って言えんだ、そんな事も分んねえから餓鬼だって言ってんだよ。実際エディ君の方が何十倍も成熟してるぞ。こんな小さいのに既にこんな成熟せざるを得なかったエディ君が不憫でしょうがないよ、その責任の全てはテメェらにあんだろうが。そんな事すらわかってない餓鬼が一丁前な口聞いてんじゃねえよ。」


 二人共何事か言いたげだが言葉が見つからない様で歯噛みしている。


「だいたいお前らギルドで騒いでた時もエディ君の話なんか一つも聞いていなかったじゃないか、お互いに自分の考えを押し付け合ってただけだろう。もういっぺん三人でしっかりと話し合って来い、俺は木漏れ日亭って宿に泊まっている。こんだけ言われてもまだわかんねぇならもう救いようねえぞ!」


 そう言うと俺はエディにコッソリ目配せし微笑みかけたのち部屋を出た。会計は長時間の部屋のチャージ代もかさみ30Z。冒険者ギルド登録に必要な金の一人分が賄えてしまう額だ、はあ本当何やっているんだろう俺。そしたら突然店長なる人物が目を潤ませながらやってきて握手を求められた。


「いや、実に感動いたしました。私、感極まって……。今後共ご贔屓いただける様よろしくお願いいたします、できる限りの協力は惜しみませんので。」


 どうやら一部始終見られていたらしい、顔から火が出そうだ。


「恐縮です、お恥ずかしい姿をお見せしました。」


 恥ずかしさから言葉少なに逃げる様に店を後にする。


 街へ出るともう陽が暮れようとしていた。時間的にはムーランにルージュしに行くにはちょうど良いがあれだけの啖呵切っておいて宿で待たない訳にはいかないよな、気分も利かん棒もすっかりなえきってるし。遅くなるなんて言ってきちゃったけど今日は取り敢えず宿にもどるか。


 肩を落としトボトボと宿への帰路についた。





 宿へ着くと今日も泊まりの客が確保できた様だ。


「ただいま帰りました、予定が変わってしまって帰るのが早まってしまいました。急で申し訳ないんですけど食事をお願いなんてできますか?」


「おう、おかえり。なんか昼に嫁さんが大層なもんもらったみたいで、何時も申し訳ないな。食事は大丈夫だ、酒もまだ残ってるしな。ただ俺は夜ちょっと宿を開けるから迷惑かけるかもしれん。まあ嫁さんに任すから大丈夫だろうけどな。」


 俺は部屋に戻り荷物を置くと再び食堂に戻った。食堂ではさっきの客が先に食事していた。髭面のデブ、俺の中の寅さんと馬さんがガウヒンガウヒン言っている。なるべく其方が目に入らない様にワインを飲みながら食事をする。


「やめて……ください。」


「良いじゃねえかお姉ちゃん、一晩いくらなんだ? 買ってやっからこの後部屋に来いよ。」


 声に反応してそちらを見ると野郎奥さんの尻撫でやがった。


「あんた何して」


 主人が何やら叫んでいるが気付いたら俺は魔力全開で思いっきり髭面デブ親父をブン殴っていた。そいつはキレイに宙を舞い吹っ飛ぶ、うわぁ漫画みたい。トラウマって怖いね、奥さんの尻撫でた後の下卑た面見た瞬間頭が真っ白になっちゃったもん。


 とりあえず今晩こいつと同じ宿に泊まるなんて考えられん。


「ご主人、申し訳ない。コイツの部屋は?」


「あっああ、あんたの部屋の向かいだ。」


 呆然とした主人と奥さんは置いておいて髭面デブ親父の部屋に行き荷物を一纏めにすると食堂へ戻る。


 髭面デブ親父はまだ意識が戻らない様で昏倒しているが死んではいない様だ。昼間買った高級ポーションを取り出し振りかけてやるとブン殴った後の陥没が治っていき鼻血が止まった、鑑定を見る限り怪我は治った様だ。取り敢えず腹にトゥキック、反吐を吐きながら意識を戻した様なので頭をわしづかみにして怒りを込めて忠告する。


「テメェ二度とこの宿に近づくんじゃねぇぞ。今度見かけたらポーションのサービスはねぇからな。」


 何だか声がまた変な響き方をして男は硬直する。なんにせよちょうど良いのでそのまま男の懐に銀貨5枚を入れ、頭を掴んだまま表へ放り出し纏めておいた荷物を投げつけてやる。


 宿へ戻るとまだ場が凍りついていた。


「暴力沙汰を起こしてしまい本当に申し訳ありませんでした、出て行けと言われればすぐに出て行きますので。」


「いや、お客さんがやらなきゃ俺がやってたから気にしないでくれ。お客さんが来てくれた日も実は似た様なことがあってあんな感じだったんだから。」


「そうだったのですか、それでも私がすべき事ではなかったはずです。言い訳ですが実は……」


 そうして浴場での出来事を少し茶化す様にして話す、こういう場合自分の恥ずかしい事や失敗の話をすると場が和む。


「という訳で頭が真っ白になってしまったもので、本当に申し訳ありませんでした。」


「いやお客さんも大変だったな、初の浴場でそんな目に合うなんて。滅多にあるもんじゃないんだかおかしな奴はいるからな。」


 そんなこんなで若干場の雰囲気も和んだため、俺は食事を再開する。


「しかしこんな事があっちゃあ今から宿を開けるなんて訳にはいかんな。」


 そう言って主人が難しい顔をする。


「あなた、今日はもうお客さんしかいらっしゃらないし大丈夫よ、心配しないで行ってらして。」


 奥さんは予定通り外出する様に促す。


「しかしお前。」


「お客さんなら信頼できるし安心でしょ、私は大丈夫だから。」


 柔らかな表情で奥さんは答えた。こんな事があっても俺なら大丈夫とは随分信頼されたもんだ。


「ああ、わかった。お客さんすまないが予定通りちょっと開けさせてもらうが大丈夫か?」


「私なら大丈夫ですよ、安心して用事を済ましてきてください。」


「そうか本当申し訳ない、それじゃちょっと出てくるから。」


 そう言うと主人は手早く準備をして出かけていった。何やら嫌な予感がする、厄介ごとに巻き込まれたくないため詳しく突っ込む様な事はしない。今日は昼間っから厄介ごとのオンパレードだ、これ以上巻き込まれたらたまらん。俺は食事を速やかに済ませるとそそくさと部屋へ避難した。

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