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0-1 テンプレ君のはじまりのはなしその1

 吉村 雄悟 32歳 彼女無しのサラリーマンだ。


 彼女無しとはいえDTではない。大事な事なのでもう一度言おう、決してDTではない。


 そんな俺は今、妖しげな森の前に一人立っている。別に人生に嫌気がさしてドロップアウトをしに来た訳じゃない、そもそもこの森はグッバイ人生の名所として名高い某樹海ではないからな。


 じゃあなんでこんな場所にいるかだって? それは異世界の神々がやらかしたとばっちりを食ったためだ。そしてその倍賞を受けて俺はこんな所に立っている。





 その日俺は仕事の現場へ車で向かっていた。ナビに目的地を入力しそれに従い車を走らせていたのだが、道はだんだんと険しくなり道幅も狭くなっていく。俺は本当にこの道でいいのか迷いながらも進んでいると突然地面が無くなり車ごと落下し意識を失った。


 目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。天井はないのでお約束のセリフは言わない、というか寝てすらいない。ただただ広がる白い空間に立っていた。


「目覚められましたか?」


 状況が分からず呆然としていると突然声をかけられた。そちらを向くと一人の美しい金髪美女の外人さんが立っていた。


「吉村様、このたびは大変申し訳ございませんでした。」


 突然謝られた、なにこれ? 


「大変混乱されてらっしゃると思いますが順を追って状況をご説明させていただきます。まずは自己紹介をさせてください、私はセルフィーネと申します。吉村様が生きていた世界とは別の世界の神をしております。」


「ハァ、神……ですか?」


 別の世界? 神? それはどこのラノベの話しだ? 


 さらに混乱している俺に神と名乗る金髪美女は話しを続けた。


「実はこのたび私どもの世界で大きな事件を起こしてしまい、その影響による余波が吉村様の世界へも届いてしまいました。影響のほとんどは小さな地震や小規模な地盤沈下と軽微ではあったのですが、唯一の大きな影響である次元の裂け目の発生に吉村様は巻き込まれて亡くなってしまったのです。」


「えっ? 俺死んじゃったんですか!?」


「はい……、本当になんとお詫びを申し上げてよいのか。真に申し訳ございませんでした。」


 なんと俺は死んだらしい。じゃあ今の俺は幽霊って事か? だけどしっかり足もあるしあちこち触っても触感あるんだけどな。


「じゃあ今の俺はいったい……」


 ひとり言のようにつぶやいた言葉にセルフィーネ様は答えた。


「事件発生後、事態を確認した私は次元の間に落っこちてしまった吉村様をなんとか見つけ出し蘇生を試みましたが、ですが肉体の損傷が激しく蘇生は不可能だったためその魂だけは保護させていただきました。その後やむを得えず元の肉体の情報を基に新な肉体を再構築し、そこに保護させていただいた魂を入れさせていただき今に至ります。」


 うーん、なんてテンプレート。これは夢か何かじゃないのか? 


「今後のことなのですが、肉体の再構築を私どもの世界の物で行ってしまった為再び元の世界へお戻りいただく事が非常に困難な状況です。もし吉村様さえよろしければこちらの世界で今後の生活をお送りいただくわけにはいきませんでしょうか? もちろん今回の件の賠償と今後の人生を健やかにお過ごしいただける様準備は整えさせていただきますので。」


 ああ、完全に夢だ。最近仕事が立て込んで疲れていたしな。そういえば夢でも痛みって感じるんだ、頬をつねってもちゃんと痛いし。


 一人で頬をつねりながらぶつぶつとつぶやき、遠くを見つめる俺にセルフィーネ様は心配そうに話しかける。


「申し訳ありませんが夢ではありません。現実を受け入れどうか前向きに御検討願えませんでしょうか?」


 マジか……もはや状況を受け入れるか受入れないかではなく、受け入れざるをえないってやつだ。


「おおよその経緯は分かりました。簡単には受け入れがたいお話しですが受け入れるしかないのでしょう。ですがあまりにも突飛なお話しですので少々心を落ち着かせ考えをまとめるお時間を頂戴できませんか?」


「もちろんゆっくりお考えいただいて結構です。いくらでもお待ちさせていただきますので。」


 時間はもらえるらしい、しかし考えをまとめようにも情報が圧倒的に足りなすぎる。まずは質問事項をまとめる必要があるな。





 まとめた質問に対する回答が以下のものだ。



 Q.元の世界には帰ることはなぜ難しいのか。


 A.こちらの世界の物質を元の世界に持ち込むことはできないため再構築した体を変換しなければならない。ただ、俺の元の世界においてはセルフィーネ様の力はほとんど使えず権限も全くないため変換に非常に時間がかかる。そのため、望まれても元通りに戻すことができるのかですらも分らない。


 Q.元の世界での俺の扱いはどうなっているのか?


 A.地面の陥没に巻き込まれての普通の事故死。


 Q.自分と同じような人は他にいるのか?


 A.軽いけがをした人などはいたが、幸か不幸か今回巻き込まれて亡くなったのはあなただけ。


 Q.セルフィーネ様の世界とはいったいどういう世界なのか?


 A.テンプレ(時代設定中世の剣と魔法のファンタジー)。


 Q.そもそもその大きな事件とはいったいどのようなものだったのか?


 A.人族と魔族の戦争があり人族の勇者が魔族の王を暗殺。それに激怒した魔族の神が戦いに介入しそれに人族の神が応戦した。最終的にはそれぞれの神が直接 激突し膨大な破壊エネルギーが発生する直前にセルフィーネ様が両者を亜空間へ隔離した。だが、直後激突により発生したその破壊エネルギーは隔離した亜空間内では収めきれずさまざまな世界へと波及してしまった。



 うん、もうこちらの世界で生きていくしかないわけね。死んだのは俺一人か、どんだけ運が悪いんだよ。まあ事故死なんて日本中でも年間数千件はあるししょうがないか。しかし親には申し訳ないことになったな、もっと親孝行しておけばよかった……やっば! 


「すみません! PCとHDDを大至急破壊してください。最重要かつ最優先事項です、何とかお願いします!」


 あれはまずい、あのブラックBOXには俺のおぞましいリビドーの暴走のすべてが詰まっている。親になんて見られたら死んでも死にきれない、親孝行なんてのたまっている場合ではない。


「だっ、大丈夫です。再構築の際記憶を簡易的にスキャンさせていただいており、まことに勝手ながらこちらの判断で対処させていただきました。別世界では力がほとんど使えないとはいえ微弱な電気や熱エネルギーの発生程度はできますので。」


 俺の突然の剣幕に驚いたセルフィーネ様はビクつきながらもそう答えた後「さすがにあれは」だとか「異世界怖い」などとつぶやいていた。


 よかった、本当によかった。神すらドン引きの性癖は置いておいて俺はほっと安堵し、あらためて思考を再開する。


 もう新たな世界で生きていくしかないのだから前向きに考えよう、そのための情報を集めなきゃな。もらった回答には気になるキーワードてんこ盛りである。

思考をまとめつつ質問を再開する。


「ちなみにセルフィーネ様の世界は人間だけではないのですね。魔族? ですか、ほかにも種族があるのですか? それに神様もたくさんおられるようですが?」


「種族は大まかに分けて人族・魔族・精霊族・獣族の四種族。神は最高位に創造神である私がおりその下にそれらの種族を管轄する神四柱です。それぞれに、補佐をする眷族が数名おりますが神は全部で五柱のみです。」


「今回の事件はそのうちの二種族間の争いとなったわけですね。ちなみに他の二種族は何をしていたのですか?」


「両種族のほとんどは介入を避け静観しておりましたが一部の者たちはそれぞれの陣営へと別れ協力を行っております。ですがそもそもの戦力差が大きく妖精族・獣族ともに抑止力とはなりえていなかった様です。」


「では神様たちはどうなのですか?」


「そもそも、神というのは管轄する種族へ直接的に関与するのではなく間接的に関わって管理を行うのが役目なのです。今回の件は異例中の異例、さらに神同士が直接ぶつかり世界を壊しかけるなどいったい何が起こったのか。今回問題を起こした神は双方あの激突により大半の力を失っておりまだ意識すらも戻っておらず状況の確認は未だ行えておりません。」


「原因がわかっていないのですか、さらに伺ったところ種族間格差も広がっている様ですし神々がその役割を果たせているのか疑問なのですが?」


「大変申し訳ございません、すべては私の監督不行き届きです。」


「いえいえ、決して責めている訳ではないのでそんなに頭を下げないでください。そもそも神であるあなたが私のようなただの人へここまで丁寧な対応をしていただき大変有難く思っておりますので」

「そう言っていただけると幸いです。自身の管理する世界の者ならばともかく、管理外の別世界の方の命を奪ってしまうとは世界の管理者として大きな責任問題です。できうる限りの賠償はさせていただきますので。」


「やはり別世界間でのこういった事故というのは非常に大きな問題なのですか?」


「はい、かなり大きな問題です。今回は多数の世界へと余波が広がってしまい何らかの影響を与えてしまいましたし、これからそれぞれの世界との賠償交渉を行わなければなりません。特に吉村様の世界では魂の損失という重大事故まで起こしてしまいました。」


 うん、最初から疑問に思っていたけどそういう事か。普通に考えて神とただの人である俺とでは絶対的な格差があるにもかかわらずただひたすら平謝りだ。横柄 な態度はみじんも感じられなかったのはただの人とはいえ別世界の俺に対して誠意を持った対応を行い今後の賠償交渉に挑まなければならないという訳だ。


 部下のしりぬぐいにてんやわんやとは、神様も大変だな。しかしそういう事なら賠償請求交渉はがっつりやらせていただこう。

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