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ホームセンターにて

 なんだか、頭の奥を刺激するいい香りをかいだ気がした。耳元で、何やら聞き心地のいい声が聞える。

「・・・くん。裕也君起きて」

 俺は、ゆっくり目を覚ました。

 響子ちゃんの息が俺の右頬にかかる。

 響子ちゃんは、俺の頭の両側に手をついて、俺の耳元から顔を上げたところだった。

 息を吹き返したというか、酸素を求めて急に深呼吸した途端、空っぽの気管支に一挙に空気が入り込み、俺はむせた。

「大丈夫?」

 俺は、上半身をひねって起こすと、むせながらOKという風に何度もうなづいた。

 俺が起きると、他のメンバーは、ふらつきながらも立ち上がっていた。

 柿崎隊員は、運転席の方に向かい、荷台と運転席の間にある窓から運転席を見た。

「運転手さんは?」

 響子ちゃんが聞く。

 柿崎隊員は黙って首を横に振った。

 トラックは、さっきの触手の一撃で運転手を失い、制御不能になって横転したんだ。

 運転手が向かっていたこの建物は一体なんだろう。

 俺が幌の後ろの方を振り返った時、もう鈴木さんは外に出ていた。

「鈴木さん、ここは一体何の建物ですか」

 俺は聞いた。

「どこかのホームセンターみたいだな」

「ホームセンターなら、、ガスバーナーや、草刈機の燃料があるはず」

 とトラさん。

「ガソリンとの混合燃料か」

 伊集院さんが言う。

「また、奴が来る前に手分けして武器になりそうなものを調達しましょう」

 柿崎隊員が言う。

「たしか、ここはスーパーマーケットと一緒になっていたはずだ。女子2人は、食料と飲み物を調達してくれ。トラさんと鈴木君で2人のフォローを頼む。柿さんと裕也君は、俺と一緒に武器調達だ」

 柿さんだって。

 伊集院さん、「柿崎さん」と言おうとして、「崎」を省略したのかな。でも、なんとなく響きが気に入った。柿崎隊員もまんざらではない様子。

 伊集院さんの指示通り、俺達は二手に分かれて物品調達に走った。

 草刈機のコーナーに行くと、先に円盤型の刃が付いているエンジン式の草刈機が置いてあり、その近くにガソリン入りの混合燃料があった。

 さらに、コーナーを見ていくと、芝焼用のバーナーが置いてあった。調理用のガスバーナーとはスケールが違う。長さは1m以上あり、筒の口径も7、8センチはある。見た感じはショットガンみたいな感じ。ガスのカセットを筒の後に取り付けるようになっている。

「こっちに灯油用バーナーもある。火力はガスバーナーより強い。たぶん、外に灯油スタンドがあるはずだ。そこで灯油を調達しよう」

「伊集院さん、やけに芝焼きバーナーに詳しいですね」

 と柿崎隊員。確かに。

「女房の実家が農業やっててね。実家に帰るたびに俺はいつも雑草駆除させられてるんで、こういうのに詳しいんだ」

 なるほど。

 俺と柿崎隊員は、伊集院さんに教わって、芝焼用ガスバーナーの使い方を覚えた。

「銃を使うのは、最後の手段。それまでは火で何とか奴を食い止めるんだ」

 伊集院さんは、容器コーナーに行き、5リットルのポリタンクと取り付けノズルを2つ、それに生活雑貨コーナーに行き、ポリタンクが入りそうなリュック、チャッカマンを2つ調達した。

「できるだけ全員がバーナーを持つんだ。灯油用バーナーは2つ。他はガスバーナーだ」

 トラックの突っ込んだ所に戻ると、響子ちゃん達も帰ってきていた。

「これから灯油用ガスバーナーの灯油を調達に行く。灯油は外の灯油スタンドまで行かなきゃならない。誰か、俺と一緒に来てもらう必要がある。立候補はいるか?」

 伊集院さんの言葉に、柿崎隊員が手を挙げる。

 さっき、奴の鋭い切っ先を見たばかりだってのに、カラ勇気じゃね?俺には手を挙げる勇気はなかった。

「どうしてわざわざ、そんな危ない思いして灯油を取りに行くんだ?このガスバーナーだけでいいんじゃねえか?」

 と鈴木さん。そうだよ、そのとおり。

「いざという時のために全員が火器を持つべきだ。ガスバーナーは全部で5つ。2人があぶれる」

「第一、もしトラさんのいうように火が危ないものだと学習して硬直化されちまったらどうする?こんなもの何の役にも立たない」

 鈴木さんのするどい突っ込みが続く。

「もし、火が弱点でなければ、我々の武器は柿さんの持っている銃だけだ」

「ガスバーナー5つで足りねえか?」

「その5つは誰が持つ?鈴木君はガスバーナーはいらないかい?」

 鈴木さんは黙った。そして、柿崎隊員に聞いた。

「柿さん、どう思う?」

 鈴木さんも柿さんて言った。

「わたしは、響子さんがバーナーで2度あの触手を撃退したのは、やはり弱点だからだと思います。学習しても、炎だけは防御できない。他で説明できない点はありますが、弱点であれば、あの怪物が何匹いようとバーナーで撃退できる。それなら全員が武器となるバーナーを持つべきです」

「時間がもったいない。多数決で行こう」

 伊集院さんが提案する。

「灯油バーナーはいらないという人は手を挙げてくれ」

 鈴木さん、トラさん、晴香ちゃんが手を上げる。

 げっ、手を挙げそびれた。

 しかも、響子ちゃん、手上げてねえし。

 そうだよな、これで手をあげたら、火で2度撃退しておきながら、弱点じゃないかもと表明するようなもんだからな。でも、もう、外行きたくねえ。ああ、でも今更手上げられねえよな。

「決まりだ。じゃ、柿さん、頼みます」

「伊集院さん、念のために銃を持って行きましょう。火が弱点なら、触手は逃げるだけで硬化しない。ガスが切れたら終わりだ」

「そうだな。でも、弾が切れても終わりだ」

 くそ、俺の出番か。

 ええい、ナンツ軍曹の決断力だ!

「俺、行きます。ガスバーナーも持って行きましょう」

 ああ、言っちまった。

 でも、それが俺の決断。

 灯油があれば全員に武器が行きわたる。伊集院さんが、俺の肩をつかむ。

「助かる。千人力だ」

 伊集院さん、握力ありすぎ。しかも俺は千人力なんてないぜ。なんつったってヘタレだから。

 でも、伊集院さんと柿崎隊員がいればなんでもできるような気がした。

 俺は、説明書を見ながら、ガスバーナーにガスカセットをセットした。

 その様子を、じっとそばで響子ちゃんが見ていた。

「気を付けてね」

 ドキッとした。なんでかな。なんか、自分の決心を固くする楔みたいなのが打ち込まれた気がした。

「伊集院さんと柿さんがいるんだぜ。大丈夫に決まってるじゃん」

 俺は、にやりと笑って言った。おっと、俺も柿さん呼ばわりしちまったい。

 他のガスバーナーもガスカセットをセットして、残る人全員にガスバーナーがいきわたった。

 灯油バーナーのうちの一つはタンク付き。もう一つはデカイ筒みたいなタイプ。伊集院さんは、台車にタンク付きバーナーと、ポリタンク2つを積んだ。

 一番近くの出入口は横転したトラックに塞がれていたので、他の出入口に急ぐ。

 他の出入口に着くと、自動ドアのスイッチを扉近くに探す。伊集院さんは、スイッチを捜し出すとオンにした。柿さんがドアに近づくと、開いた。柿さんがOKというように伊集院さんにうなづく。

 伊集院さん、なんでそんなこと知ってんの?ここでバイトでもしていたの?たまにいるんだよな、こういう何でも知ってる人。あなたの職業何?って聞きたくなっちまう。

 風除室の内側の壁際に体を付けて、外の様子を見る。

 広い駐車場に、ぽつぽつと車が止まっていて、所々に屋根つきのカート置き場が設置されている。そのカート置き場近くに灯油スタンドがあった。

「・・・今なら触手の姿は見えない。行くぞ」

 伊集院さんはそう言うと、台車を転がし、灯油スタンドに全力疾走した。俺と柿さんも続く。

 伊集院さんはスタンドに着くと、ポリタンクの蓋を2つとも開け、スタンドの灯油ノズルをポリタンクに突っ込んだ。

 ふと気付くと、太陽は西に沈もうとしていた。もうすぐ夜が来る。

 俺は、ガスバーナーのツマミを回し、点火した。うおっ、調理用とは口径も違うので、炎の勢いもすごけりゃ、音もゴーゴーすごい。

 柿さんは、道路側を見はっているので、俺は、建物側の方を見た。

 このホームセンター、2階と3階が駐車場になっていて、屋根までの高さが相当ある。ファミレスとは比べ物にならないが、あの屋根を越えて、いつ触手が姿を見せるかと思うと気が気ではない。だが、ガスバーナーのゴーゴー言う音が、逆に俺を安心させてくれる。

 ふと、ガスバーナーの焦げ臭いにおいに混じって、妙な臭さが鼻につくのに気付いた。

「柿さん、なんか匂いませんか?」

 俺は、視線を建物側に向けたまま、背後の柿さんに声をかける。

「匂い?」

「なんか・・・。トイレくさ」

「そういえば・・・」

 そのとき突然、遠くで爆発音が響き、俺は首をすくめた。

「怪物への総攻撃が始まったようです」

 柿さんが言う。

 伊集院さんは、一瞬音がする方を見たが、給油を止めない。

 この攻撃で、あの触手の野郎をやっつけられるとは信じていないんだ。それは俺も同じだけどね。

 腹に響く砲弾の音は、あまりいい気分ではない。

 そのとき、空を切る音がかすかに聞こえてきた。

 室一で聞いたあの音だ。俺は空を見上げた。すると、轟音はみるみる近づいてきて3基の戦闘機が俺達の真上を通り過ぎた。マッハで真上を通り過ぎると同時に、衝撃派が全身を震わした。

 次の瞬間、3機の戦闘機からミサイルが放たれた。まるで映画でも見ているようだった。住宅の並ぶはるか彼方に轟音とともに炎が舞い上がる。

 柿さんを見ると、厳しい表情で炎の上がった方角を見ていた。

 その表情から、柿さんが攻撃に参加した自衛隊員達の安否を気遣って、胸の痛みをこらえているのが鈍感な俺にもすぐ分かった。

「よし、終了だ!行くぞ」

 伊集院さんが叫ぶ。

 もう一度、ざっとあたりを見渡したが、触手の気配はない。俺達はこうして、最初のミッションを終了した。


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