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おっさん、銃を乱射する

長らくお待たせしました。

ストック切れとネタ探しで手間取り、ようやく十話ほど書き上げたので投稿します。

とりあえず書きたいように書こうと開き直り、整合性を合わせるのは書籍の方でで頑張ろうと思います。

このままだと、書籍の方が追いついてしまうので焦っているこの頃


 防壁から飛び降りたゼロスは、落下する合間にウィンチェスターM73のレバーを下方向へと動かし次弾装填する。

 ついでとばかりに無詠唱による魔法を付与すると、真下に群がるゾンビの群れに向かって撃ち込んだ。

 弾丸はゾンビの頭部を貫き、地面に着弾すると同時に魔法陣が展開発動。轟音と共に発生した衝撃波で周辺にいるゾンビを数体吹き飛ばし、着地地点を確保した。


「お~、意外に飛んだねぇ。見た目以上に軽いのかな?」

「こんなところで、いきなり【エア・バスター】かよ。相変わらず派手にやるよなぁ~……」

 

 アドはM14を撃ちながら、呆れるように言った。

 その間にも威力が強化された弾丸は一発で複数のゾンビを粉砕し、無残な残骸が辺りに散乱する。

 本来ノーマルのM14は弾数が20発装填である。これはマガジンによって変わるものだが、この魔導銃は違った。

 通常のマガジンに弾が約50発装填できる。これは、薬莢が存在しない分だけ弾は倍込めることが可能なためだが、そのぶん構造が複雑化するデメリットがある。

 チャンバー内の魔法式が発動し、指向性を与えた魔法の爆発力で弾丸を撃ち出す方式なのだが、制作者の予想外だったことは余剰魔力が魔法付与機能により弾丸の破壊力増幅させてしまう。膨大な魔力を持つゼロスにとって魔力チャージの加減が難しい。

 発生した余熱は本来薬莢を排出する場所から放出される。内部加熱とチャンバー内の破損を防ぐための措置だが、これも欠点があり火傷に注意しなくてはならない。


「……なんで、こんなに威力が高いんだ?」

「銃自体が魔法で強化されているし、その魔法付与機能のおかしな働きで、威力強化された弾丸がそのまま射出されるからじゃないの? よくわからんけど」

「アンタが作ったんじゃないのかよ。なんで知らないんだ、よっと!」

「作ってはみたけど、実戦で使うのはこれが初めてなんだよねぇ~。銃に応じて威力にばらつきがあるし、魔法式が偶発的にどんな効果を生じさせるかは未知数なの、さっ!」

「暴発、しないよ、なっ!」


 ルナ・サークの街の外に連続して響き渡る銃撃音と爆発音。

 軽口を叩き合いながら、二人はゾンビを作業でもするかのように蹴散らし、その上で群れを惹きつけながら防壁から距離をとるように動いた。


「う~ん……コイツらはどうも、人間が多い方向に群がる傾向があるようだねぇ。向かってくる奴等が少なくて楽だけど、思ったよりも倒せないから外側から削るしかない……。よし、コイツも使ってみるか!」


 おっさんが手にしたモスバーグM500。

 ポンプアクションをして装填したあと、手加減をした【エクスプロード】を付与し、群れて迫ってくるゾンビに向けてぶっ放す。

 このショットガンに込められた弾は地球のものと同じ散弾方式で、詰められた弾も特殊弾である。魔法付与が容易に出来るように作られたものだ。

 だが、その魔法が範囲魔法だったらどうなるか?


 ――ドドドドドドドドドドドドドドオォォォォォォォン!!


 答えは、至近距離で絨毯爆撃のような爆発力と化す、だ。

 ショットガンの弾は薬莢に小さな特殊弾がぎっしり詰め込まれている。その弾丸全てが【エクスプロード】の効果を付与され、銃身からばらまかれた。

 しかし、ショットガンは射程が短い。至近距離でそんな爆発を連続して引き起こされれば、当然ながら連続する小爆発の余波で、ガンナー自身にも被害が及ぶことになる。

 散弾一個分の威力は小さくとも、数が揃えばダイナマイトの連鎖爆発と同規模だった。


「あちっ! あちちちち……」

「なんで、散弾にエクスプロード使うんだぁ!! 死ぬかと思ったろぉ!!」


 短い射程で低威力の広範囲魔法が連続で炸裂するのだ、その余波である爆風は『熱い』で済まされるものではない。爆風だけでも普通に死傷するほどある。

 いや、普通に考えても生存など先ず不可能なのに、その威力に耐えられるおっさん達は、深刻に人間をやめていると言わざるを得ない。


「雑魚が一掃できたんだから、いいじゃないか」

「一声掛けてくれと言ってんだ。それでもあまり効果がねぇし!!」

「いや~、無駄にゾンビの数が多いしねぇ~。付与魔法ではエクスプロードも威力は半減以下だ。まぁ、一気に駆逐できるなら迷わず殺るべきだろ?」

「俺も巻き込まれてんですけどぉ!?」

「死んでいないならいいじゃん。人命優先が第一だよ」

「……あんた、俺のことを『自分と同レベルなら、巻き込んでもいいんじゃね?』なんて思ってないか? 『この程度なら死なんでしょ』って割り切ってないだろうな?」

「………」

「嘘でもいいから否定してくれよぉ!?」


 おっさんは酷い人だった。


「しかし、ある程度損傷させると再生能力が働かないみたいだねぇ。魔力的な何かが関係しているのか? 再生と言うよりは修復……わからんゾンビだ」

「誤魔化しやがった……。これで馬鹿みたいな再生能力が健在なら、俺等じゃどうにもならねぇだろ。さっさと全滅させて飯にしようぜ」

「そだね……。ある程度派手に暴れてから、後始末を勇者君達に押し付けよう。めんどうだし」

「酷ぇ……」


 走り回りながらもマガジンを交換し、会話中でも銃を撃つことは忘れていない。

 この時点ですでに三分の一のゾンビが駆逐されている。背後から迫るゾンビも後ろを見ずに肩に担ぐように斉射し、あっさりと撃退。

 聖騎士や衛兵が時間を掛けても倒せなかった化け物を、たった二人で戦局を大きく覆してしまった。まさにバランスブレイカー。

 しかも、ゾンビ達の肉体リミッターが完全に働いていない、底なしの運動能力ですら余裕で躱し、未だに傷すら負っていない。

 そんな超チート二人の、お世辞でも戦いとすら呼べない蹂躙劇を目の当たりにし、防衛戦に当たっていた多くの戦士達は絶句した。

 言葉すら出なかった。


『なんだよ、あの威力! とても銃の威力じゃないだろぉ、もはや殲滅兵器だよ!! 魔導士、凄ぇよ。凄すぎるよ!! 神官共はなんであんな連中と敵対してんの!? 勝てねぇよ、あんな武器を持つ国には絶対勝てねぇよ!! ピチュられるよ、軍団規模の戦力を簡単にピチュできるよ!! 俺達、あっさりサクッとピチュられちゃうよ!? 神の威光? 勇者が絶対正義の使徒だって? なにそれ、おいしいの!? 圧倒的な火力の前に勇者なんて無意味じゃん!! 勇者、要らねぇじゃんか!!』


 本日、勇者マナブ・ヤサカは、己の存在が無意味で無価値あることを知った。

 どれだけ個人能力が高くとも、その優位性を根元から無残に叩き折る圧倒的火力の前では意味をなさない。何しろ戦争は一人でやるものではないからだ。

 可能な限り敵より優位に立ち、兵数や武器を揃え、戦術と戦略を持って自軍の損耗を押さえ、相手側に一方的な被害を与えることが理想だ。

 武器を強化するのも戦略の一つであるが、ルナ・サークの街の外で殲滅戦を繰り広げる二人の前には、神聖騎士団など時間稼ぎにもならない。

 剣と魔法で戦う旧時代の戦法など、現代戦と兵器の前では一方的に叩かれるだけだ。

 いや、現代兵器というには語弊があるが、技術面で既に大敗北である。

 高い技術力と高性能・高威力武器の前では、数の優位性などは簡単に覆され、少数の兵による機動力という優位性を生かされ、損害を食らうことになる。所謂ゲリラ戦だ。

 状況にもよるが、銃という武器にはそれが可能とする。

 そこに魔法が加われば目も当てられない。


 何しろ魔法は手榴弾や迫撃砲のように持ち運びする必要がなく、魔導銃一丁だけで全てが賄えてしまう。メーティス聖法神国の最新火縄銃など玩具でしかない。弱点は弾切れだけなのだ。内部機構の破損や誤作動を期待するだけ無駄である。

 神聖魔法でも魔法付与は可能だが、身体を魔法障壁で覆ったところで高威力の銃弾の前には紙同然。徹甲弾であれば簡単に貫通することだろう。

 例え体を重厚な鎧で守っても、圧倒的な威力から生じる衝撃波だけで楽に人は殺せる。

 熱量だけでゾンビを焼き尽くした光景を目の当たりにし、その程度のことは容易に想像できてしまう。防ぐ程度ではこの火力から身を守るなど不可能だ。

 しかし、これはあくまで学の脳内での結論であり、実際のところは彼の考え過ぎである。


『あの二人、たぶんソリステア魔法王国と繋がっている……。あんな反則武器を開発できるのは魔法国家しかない。なんの理由でこの国に来たかは知らないけど、話を聞く必要があることは確かだ。にしても……この時点でメーティス聖法神国は、もうアウトじゃん』


 魔法の武器=ソリステア魔法王国という図式が脳内で組み上がり、そこに転生者とおぼしき二人の男達の存在が学の思考を混乱させ、ついでに圧倒的な火力がメーティス聖法神国の終焉を想起させていた。

 そんな学君の心境など知らぬとばかりに、ゼロス達は派手に暴れ回っている。


「Ha―hahaha! Come On、Come On、腐れゾンビ共ぉ! おいちゃんのデザートイーグルとトカレフが火を噴くぜぇ!」


 群がるゾンビを軽々と飛び越し、いつの間にか両手に拳銃を持ったおっさんは、腕をクロスさせながら中央に降下。デザートイーグルとトカレフを至近距離でぶっ放す。

 掴もうと腕を伸ばすゾンビを蹴り飛ばし、銃のグリップの底で頭部を殴りつけ、ダンスでも踊るかのような身のこなしで金属の弾丸を叩き込んだ。

 

「なんでノリノリなんだぁ、あのおっさん!」

「ギュオアァァァァ!」

「邪魔すんなやぁ!!」


 襲ってきたゾンビをゼロス同様に武器交換したアドは、昨日の遊びで貰った魔導銃【ZB26】で地面へ叩き伏せる。無造作にー薙ぎするたび、数体のゾンビが宙を舞った。

 この隙にZB26を構え直し、範囲魔法【フレア・バースト】を付与。

そして一気に掃射した。


 ――ガガガがガガガがガガガガガガガガガガッ!!

 ――Dododododododododododo!!


 掃射音と共に弾丸が射出され、付与された魔法が発動。

 周囲のゾンビを爆炎の中へと呑み込んでいく。

 ゾンビ達は二人に近づけない。近づけたとしても圧倒的な威力で強制退場させられ、炎系統の魔法で火葬されていった。


「オォアァアアァァァァ!!」


 不運にも犠牲となったゾンビ化騎士が、雄叫びを上げつつ剣を振るい、猛然とアドに迫った。

 だがアドは簡単に身を逸らして避け、ZB26を左肩に担ぎ上げ、右手にグロック17を構えると、銃口を騎士ゾンビに向けた。


「……地獄で会おうぜ、baby」


 ――ダァン!


 一発の弾丸がゾンビを、原形を留めず爆散させる。

 ぶっちゃけ、二人は酔っていた。

 銃の感触に酔っていた。弾丸を撃ち出す感覚に酔っていた。

 敵を駆逐する快楽に酔いしれていた。トリガーハッピー……所謂ヒャッハー状態だった。

 聖騎士や衛兵達には止められない。勇者ですら止めることはできない。

 ヒャッハーなチート二人は、決して誰にも止められない。止まる気もない。

『汚物は消毒だぜえ~!』と言わんばかりの一方的な蹂躙劇。襲う側と守る側にとって、この二人は台風そのものであった。

 見た目は魔導士なのだが、騎士達が苦境に立たされたゾンビを楽々と倒している。

 自分達では手に負えないことぐらい嫌でも分かる。否定したくとも理解させられた。

 今見ている光景は、傍観者達に体験したことのない未知の恐怖を刻みこんだ。


「こ、これが戦いなのか……?」

「敵だけを一掃する……。名誉や誇りも……ゴミのように消し飛ばす力……」

「こんなの、一方的な虐殺ではないか!」

「敵はゾンビだけどな……」

「圧倒的すぎる」

「もし、あの武器が我々に向けられでもしたら……」

「こ、こんなものは戦いではない……。ただの蹂躙だ! 認められない! 認めるわけにはいかない!!」

『まぁ、そうだよな。一発撃ち込むだけでゾンビが数体ぶっ飛ぶんだ、これが敵だったら、自分達があのゾンビのようにボロボロにされる訳だし』


 ようやく口を開いた聖騎士達の批判の言葉に対し、学は諦めにも似た感想を持った。

 彼等の知る銃は火縄式で殺傷力がそれほど高くはない。有効に使うには数を揃えねばならず、よしんば数を揃えられても望むような戦果は期待できない。

 何しろ火縄銃は射程距離も短く、一回撃つごとに弾込め作業を行わなければならず、天候に左右されるという弱点もある。

 武器という観点で言えばゼロス達の魔導銃と同義なのだが、その威力と利便性の前に犠牲となる者の数は火縄銃の比ではない。


『最も、どんなに言い繕っても火縄銃は殺しの道具なんだよね。向こうが自分達よりも性能の良い武器を持っていただけ。そこに優劣なんて意味はないけど』


 騎士達は名誉や誇りを重んじる。

 しかし、そこには必ず他国よりも上であるという自尊心を持ち、心のどこかでは傲りのようなものを抱いていた。

 他国を攻めれば必ず戦利品を求め、村や街を襲えば金品を奪い、女子供を攫い強姦し、建物は全て焼き払う。戦場での蛮行が許されるており、彼等もその蛮行を当然の権利だと当たり前に受け入れている。これは多くの歴史が証明している事実であり現在進行形の現実だ。

 その行いに正義なんて言葉は意味をなさない。等しく罪人だ。それは宗教国でもあるメーティス聖法神国でも変わることはない。

 強者だから許される特権を行使する理不尽な行いは、どこの歴史を調べても必ず出てくるものだ。最初から清廉潔白な人道主義の国など存在しない。

 騎士達が本当に恐れているのは、自分達が強者であるという優位性が失い、滅ぼされる側に立場が逆転することだ。


『相手が自分達より弱いなんて、そんなのは幻想だよ。勇者一人でどうにかなるなら、聖法神国はとっくに世界を統一してるさ。あんな武器が作られたのは、それだけこちらの武力が脅威だったから少数で多数を倒す必要性が出てきたからだよ。この国は周辺の小国を追い詰めすぎたんだ……』


 学君は深く考えすぎていた。それはともかく、戦っている彼等にも家族はいる。

 戦争に出て戦利品を獲なければ、中には生活できない者も少なからずいるのだ。命懸けの戦場へ送り安い報酬だけで扱き使えば、民の不満が高まる。

 戦争では略奪が概ね認められるのは、略奪により彼ら兵士の不満を解消させる手段の一つでもあった。だが、相手側が必ずしも弱いとは限らない。

 小国でも戦力で上回ることも充分にある。彼等はそのことを、今日、この場でまざまざと見せつけられた。例えそれが、『この二人が異常なだけ』という事実を知らなくとも、目の前で繰り広げられる殲滅戦は彼等の自信を根元から叩き折っていた。

 ついでに学は、ゼロス達をソリステア魔法王国の人間と完全に決めつけている。

 困ったことに学の考えを否定できる要素が全くなく、逆にそれを肯定する無慈悲な光景だけが目の前で繰り広げられていた。


「アレが魔法……? まさか、奴等はソリステアの……」

「それは分からん。だが、あんな武器を作れるのはあの国しか……」

「この国でもあの武器を作れないか?」

「魔導の知識は我等の国では違法だ。作るなど不可能だな……」

「悪魔の力だ……」

『文明の力だよ。お前らは相手に脅威であることを示せても、相手が自分達にとっての脅威を認めない。こうなることは必然だったさ』


 自身を押し殺し、他人に合わせて物事を見てきたからこそ学には分かる。

 メーティス聖法神国は傲慢すぎた。

 技術は求められるからこそ効率化し発展する。時間は常に流れており、世界は常に変わり続けている。そこから目を背けていれば、いずれ破滅の道を歩むことになる。

 ソリステア魔法王国は魔導士の国。つまりは学問の国と言える。

 勤勉であるからこそ発展に力を注ぎ、民の生活を重視して無駄な戦争は起こさない。どこまでも合理的で感情や信仰心だけで物事を判断しない。

 確かに四神は存在するが、その四神が人間の味方であると誰が保証するというのか。

 所詮は人外の存在で、その思考も人と同じであるはずがない。

 学も滅多に口に出さないが、そんなところも冷ややかな目で見てきていた。


「これは………どう考えても詰んでいるでしょ。ソリステア魔法王国とは戦いたくないな。絶対に負ける……」

「勇者ともあろうお方が、随分と弱気ですね」

「リナリーさん、いつの間に来てたの?」

「先ほど、負傷者の治療が一段落つきましたから。それで、あの二人は何者ですか?」

「さぁ? たぶん転生者かな。ソリステアの協力者だと思うね」

「では、あの二人を捕らえることが出来れば……」

「無理、ありゃ~俺でも勝てないよ。圧倒的すぎて全滅するのが目に見えてる」


 学はゼロス達が戦い始めたところから一部始終を見ていた。

 驚異的な身体能力に、圧倒的な威力の魔法。それに構造すら分からない非常識な武器。

 さらに勇者と同じくアイテムBOXを所有し、用途に応じて武器を変更することができる。タチの悪いワンマンアーミー二人が現在進行形で派手に暴れ回っているのだ。

 何よりも、彼等は勇者よりも遙かに強いということが問題だった。


「勇者全員で相手にしても絶対に勝てないから、放置した方がいい。四神はなんであんな連中を受け入れたんだろうね」

「にわかに信じられません。勇者よりも強い存在など、いるとは思えませんね」

「実際にいるじゃん。現に目の前で派手に暴れ回っているよ?」


 学は防壁下の戦場を指さす。


 ――ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!

 ――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガがッ!!


「やっぱ、ゾンビにはコレが効果的っしょ!」

「ミニガン……もしかしたらとは思っていたが、マジで作ってやがったよ。趣味も大概にしてくれよなぁ!」

「見ろぉ~、ゾンビがゴミのようだぁ!!」

「ある意味でゴミだけどな。これ、処理する方は大変だぞ……。放置すれば疫病が蔓延しかねないぞ」

「そんなの、僕達の知ったこっちゃないねぇ。後始末は彼等のお仕事しょ♪」


 小型ガトリング砲ともいえるM134。通称ミニガンを派手に撃ちまくり、どこかのゲーム主人公な気分を味わっているおっさん。

 呆れるアドもまたM60軽機関銃をおっさんから受け取ると乱射し、ゾンビを駆逐していた。もはや半数にも満たない数にまでゾンビは減っている。

 その光景を防壁の上から見て絶句するリナリー司祭。


「……勝てると思う? 俺達が相手しても厄介なゾンビが、短時間で簡単に蹴散らされているんですけど……」

「……すみません、無茶だと理解しました。騎士でどうにかなる相手ではありませんね」

「あんな馬鹿デカくて重そうな武器を振り回し、恐ろしい速度で動き回る連中だよ? 勇者の俺達でも雑魚同然さ。関わり合いになりたくもない」

「国としては、そうもいかないのですが……」

「厄介事を俺達に押し付けないでほしいよ。外交は上の連中の仕事でしょ……以前に言ったことを覚えてる?」

「えっと、ソリステアが技術大国という話ですか?」

「そう、どうやら手遅れみたい。既に凶悪な武器が作られていたようでね、こちらの優位性は完全になくなった。決め手の火縄銃も玩具同然、お手上げぇ~」


 瞬く間にゾンビが処理されていく光景を見て、リナリーは恐怖に身を震わせた。

 倒れゆくゾンビの姿が騎士達の姿に替わり、無数に転がる骸が凄惨な戦場の様子を嫌でもイメージさせる。その光景はまさに地獄と言ってもよい。

 武器が剣から銃に変わる時代の瞬間を、それがもたらす結果さえも彼女はその目で見てしまったのだ。


「な、なぜあのような武器が……」

「小国が大国の脅威を前に知恵を絞り、必要だから生まれた技術さ。あの武器が作られた原因はメーティス聖法神国にもある」

「そんな……こんなことって」

「自分達が正しいなんて思わない方がいいよ。一方的な独善は反発を生み、逆に厄介な敵を生み出しかねないんだから」

「マナブ様の言ったとおり、もう詰んでいるのですね……」


 四神教を信奉するリナリーには、銃という武器を扱う者が悪魔に思えてきた。

 以前に学が言っていたことは漠然とした想像内のものだと思っていたが、実際にその光景を目の当たりにすると、とても驚異という一言で終わらせてよい話ではなかった。

 なまじ火縄銃を知っているだけに、より効率化された武器は手に負えないものであると理解させられる。宗教国家としては悪夢だ。

 戦場が無慈悲で残酷で、冷徹で凶暴で、凶悪で残虐で、神の信仰が入り込む余地などまったくない地獄に変わり果てる。神の威光や騎士道精神など何の価値も持たない。

 栄誉や誇り、栄光という綺麗なものは一切無く、あるのは死という確固たる現実だけ。

 まるで英雄の辿った偉業や、信念を持った勇敢なる者達の功績など無価値で、世界はこんなにも残酷であると嘲笑っているようだった。

 しかも、それを行っているのが人間なのである。誰もが絶望の本当の意味を知った。

 あまりに凄惨で陰惨すぎたのだ。


「これが……地獄…。これが絶望……」

「一切の望みの無い光景だよね。けど、この絶望的な光景を今までメーティス聖法神国は行ってきたんだよ。潰してきた人達はきっと、こんな気分を味わって死んでいったんだろうね」

「私達は、このような非道な真似はしていません!」

「それは大国だから――強い勝者だから言えるんだよ。歴史の中で小国をいったい何度潰してきたんだ? そこに住む人達は背教者として冷遇され、奴隷にもされ、あるいは無慈悲に殺されたんじゃないの? 剣も銃も人を殺す道具だよ。やっていることは何も変わらないさ」


 世は正義と悪で物事を判断できるわけではない。

 国同士の対立、宗教観や思想の違い、政治的な判断、統治者の野心、様々なファクターが存在し複雑に絡み合う。戦争はそのたびに引き起こされる。

 未熟な文明と、暗愚な為政者が揃うだけで国家同士の戦争は起こりやすい。


「なんの理由か、あの二人はゾンビ退治に参加してくれているけどさ。ここまで圧倒的な力の差を見せつけられたら敵対意思を見せない方がいい。例え向こうが善意のつもりでも、この場にいる全員が恐怖を感じているんじゃないかな? 馬鹿な真似をしないで欲しいと伝令を頼むよ」

「わ、わかりました……」


 神の教えに従い正義を執行するという栄誉と守護者の誇りは、圧倒的な火力の前に無意味な幻想でしかなく、たった一度の攻撃を見て彼等の自信と矜持を消し去った。

 目の前で殲滅戦の非道さを見せられては、誰も戦いたくないと思っただろう。

 どんな形でも戦えば相手が死ぬ。ただ一方的に敵を蹂躙し殲滅する力が、いずれ自分達に向けられるかもしれないと疑心暗鬼に陥る。

 しかし、自分達が手に負えなかったゾンビを簡単に駆逐する力を前に、どう対応して良いのか分からない。分かることは戦えば確実に死ぬという事実のみだ。

 聖騎士達は、地面に転がるゾンビの残骸に自分自身の姿を重ねたのか、その表情は優れなかった。

 そうこうしている内に、既にゾンビの大軍という脅威は収まりつつある。


「さて、そろそろ弾が尽きると思うし、こっからはファンタジーの定番でいこうか」

「いや、ゼロスさん。俺の方はまだ弾は残っているけど?」

「もう剣で充分相手に出来る数だけでしょ。しかし……ゾンビの中に子供が含まれているのは、なんだかやりきれないなぁ~」

「ゾンビから出てくる黒い霧、直ぐに消えちまうけど原因はいまだに不明だし……」

「死霊ではないのは確かだねぇ。う~ん……さっぱり分からんし、こんな魔物いたかなぁ? 死霊に操られていると思っていたんだが、普通のゾンビも少ないしねぇ~。この二種類の差はいったい何だろうか?」

「少なくとも俺の記憶にはないぞ?」

「僕もないねぇ~。【ソード・アンド・ソーサリス】には存在しなかったし、新種と見た方がいいかな? だとすると……面倒なことになりそうな気がする」


 普通のゾンビが魔力弾を受けると、憑依した魂や精霊に近い霊的な存在が消し飛ばされ、活動を停止させる。

 しかし、黒い霧によって動いているとおぼしきゾンビは、四肢を吹き飛ばしても一定時間は活動を続ける。少なくとも霊的な何かで動いているわけではないように思える。


「もしかして、血液だったりして。俺が以前読んだ漫画では、血液を媒体に呪詛を送り込んで使役するタイプなんてのもあったぞ?」

「血液……いや、まさかねぇ……」

「ゼロスさん、なんか気づいたのか?」

「もし……仮に、だよ? 血液そのものが魔物であった場合はどうなんだろうね?」

「それって、細胞単位でのモンスターってことか? バクテリアみたいな……」

「感染体の内部に潜伏して存在を維持しているんじゃないかな? 外界に晒されると魔力は拡散するから、魔力を奪うために死体を動かし他の生物を襲うんだよ」

「つまり、魔力が無いと生きられない訳か。元が死体だから多少の傷口は塞げても、粉砕されたら修復できない。存在する限り魔力は常に消費していくから、獲物を求めて移動し続ける……か。それって、ウィルスと変んねぇじゃん……。やっぱバイオハザードじゃねぇか!」

「まぁ、何にしても、やることは変わりないけどねぇ」


 インベントリ内に魔導銃を収め、二人は腰の剣を抜いた。

 ゼロスはショートソードの二刀流で、アドは湾曲した刀身の大型なショーテルを手に、街門に群がるゾンビに向かって走り出す。

 

「んじゃ、終わりにしますかねぇ!」

「同感。腹も減ったし、さっさと昼飯食って帰ろうやぁ!!」


 無傷で残るゾンビに標的に、最後の殲滅戦を仕掛けた。

 上で見ていた学が目で追いきれないほど加速し、街門の前に集まっているゾンビの中へと突入を敢行。

瞬間、かつて人間であった者の残骸が爆発したかのように飛散した。

 

『は、速い!? 目で追いきれないって……えぇ!?』


 傍観していた学は、更に驚愕する光景を目のあたりすることになる。

 二人の男達が剣を一振りするごとに斬撃が飛び、門の前で扉を破ろうとするゾンビが解体されてゆく。勇者である学ですら目で追えない速さで、だ。

 銃の威力ならまだ分かる。魔法に銃という異世界の技術を組み込み、非常識な火力を実現させたものだが、それは理論上作り出すことが可能な技術だ。

 だが、この二人の体力は説明が不可能なほど非常識だった。


『な、なんで……あんな速度で動けるんだ!? 魔力で身体強化したとしても、とても人間の体では耐えられるもんじゃないぞ!! いや、俺達も非常識な存在だけど、あの二人はそれ以上に非常識だ!! アレ、縮地にしても、瞬間的な加速だけであの距離を詰められるものじゃない! つまり……ノーモーションから一気に加速した!? あり得ない!!』


 二人が突撃を開始した瞬間、その姿を一瞬で見失った。

 次に見たときには砂塵が後から舞い上がり、門の前に群がるゾンビがバラバラに吹き飛んだ光景である。つまり一瞬で高速移動し、門の前に群がるゾンビを解体したことになる。そんな真似は勇者にも不可能だ。

【縮地】という技は本来、相手の目線の隙を突き、一瞬で死角に入り攻撃に転じる瞬発力を生かした歩行技のはずであった。少なくとも学はそう教えられた。

 瞬間的な速度なら一時的に加速させることも可能だが、音速で動くなど人間――いや、他の動物ですら不可能である。可能であっても魔力反応など何らかの予兆が出るはずだった。

 また、こんな無茶な真似をすれば全身の筋肉が断裂し、二度とベッドから起き上がれない体になってしまう。魔力で強化しても重傷は確実だ。


『ざ、斬撃で……ゾンビが爆発してるし、どんだけの威力なんだ!? どこのアメコミヒーローだよぉ!!』


 一振りでゾンビを斬り倒し、余波で発生した衝撃波で粉々に粉砕しているのだ。

 更に恐ろしいのは、防壁に斬撃の亀裂が走り、遅れて痕が抉られたかのように爆発する。

これは空の刃ですら途轍もない重さと速さがあることを示す。

 防壁に次々と剣による余波の爪痕が刻まれてゆく。

 生身でこんな攻撃ができるということは、単騎で城塞都市を滅ぼせることが可能であることを如実に示しているからだ。

 

「な、なんじゃこりゃ――――っ!?」

「人間じゃねぇ、化け物だぁ!!」

「ア、アイツらは……敵じゃないだろうな!? もし敵だとしたら……」

「俺達では絶対に勝てない……」

「やつらゾンビに関して、何か知っているんじゃないのか?」

「となると……奴等と話をしなくちゃならないが、暴れられたらどうするよ」

「な、なに……俺達には勇者様がいる。もしもの時には勇者様が戦ってくれるさ」

『やめてよ、俺にそんな過度の期待と重責を押しつけないでくれぇ!! 死んじゃうから、俺なんか一瞬でピチュられちゃうからぁ!!』


 勇者であるという理由から、不本意な期待と責務を押し付けられた学君。

 もう、彼は涙目だった。


 戦闘開始から約三時間あまり、脅威であったゾンビの群れは予期せぬ乱入者によって鎮圧される。

 おっさん達が参戦した時間は三十分にも満たなかった。


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