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おっさん、四神と(一人足りないけど)邂逅す

【聖域】。そこはかつて、創造神(観測者)に従属する神達が世界を管理するために創られた位相世界である。

 世界に隣接するかのように存在するその領域は、無限に存在する世界の星々に必ず一つは存在する。

 だが、生物が存在しない星には管理する神はいない。

 神々の役割は生命、特に魂の管理こそが重要であり、常に監視業務が行なわれている。

 なぜ彼等がそのようなことをするのかは分らないが、【神】と呼ばれている存在は誕生した瞬間から本能的に自分の使命を認識しており、定められたプロセスに準じて行動を開始する。

 それが一つの世界であろう、三千世界であろうと、管理者は自分の役割を忠実に遂行して観測を行ない、希に発生するイレギュラーに対応する業務を無限とも言える時間を続けてきた。


「暇だわ……。本当に暇」


 そう気怠げに呟いたのは、蒼い髪のやけに肉感的な女神【アクイラータ】である。

 女神と言うよりは、むしろ痴女と言った方が正しい。シースルーのドレスを身にまとっているが、体のラインがモロ見えである。

 彼女は無駄に豪奢なソファーに寝そべり、テーブルに置かれたクッキーに手を伸ばす。


「……暇なのは仕方がない。もう……異世界に行けないから」

「【ウィンディア】……それは言わない約束でしょ? まったく、たかが線路に石を置いたぐらいで出入りを禁止するなんて、向こうの連中は心が狭いわ」

「まったくだぉ~、おかげであたし達がすこぶる暇なんだぉ~……。あぁ~、武寺屋のケーキが食べたいのだぁ~!!」

「……聖約を破ったのは私達。今更言っても後の祭り……」


 アクイラータのぼやきに応えたのは、赤い髪のゴスロリ幼女神【フレイレス】と、緑色の髪のどこかボ~っとした、見た目が中学生くらいのセーラー服少女神【ウィンディア】である。

 その傍らではやけに寝癖のついた金髪のナイスバディのパジャマ神が、口からよだれを垂らして眠っていた。彼女の名は【ガイアネス】、眠ることをこよなく愛する引きこもりである。

 多くの民から【四神】と言われ崇められているが、実際は排他的で我が儘なやる気なしの俗物であった。

 

「この世界の情報をあげたんだから、多少のことぐらい目をつぶれば良いのに、けち臭いったらありゃしないわ」

「たかが百五十人くらい死んだからって、別に問題ないのだぉ! 尻穴が小さいのだぁ~、暇、暇、暇ぁ~~~っ!!」


 事の発端は彼女達の時間で十七年前、ある世界の管理神がこの世界の情報を求めてきた。

 話によると、『長いこと監視しているだけだと暇だから、自分の管理する世界の子供達と遊ぶ場所を創造したくなったんねぇ~』とのことだ。

 だが、アクイラータ達には自分達の管理する世界の情報を渡すことができない。正確には情報を集めて他の神に与える権限を持っていなかった。

 そこには彼女達の無意識下に刻まれたプログラムが存在し、アクイラータ達の力が及ぶのは自分達の管理権限がある一つの小さな世界だけであった。仮に情報を渡すのであれば、自分達よりも高位の管理者権限が必要であった。その管理権限を持っている【神】は、当時地中深くに封印されていた。

 目覚めさせれば自分達が執拗に狙われ、跡形もなく滅ぼされるのは確実である。


 そこで出てくるのが【聖約】である。

 異界の管理神とアクイラータ達の間に盟約を交わし、お互いが求める利益を共有する。

 異界の神が求めた物は『ファンタジー世界の情報と、その情報を得るために管理システムにアクセスする許可』である。対してアクイラータ達が求めた物は『異世界に自由に渡航できる権利』であった。

 当然だがその中にも細かい契約事項が存在する。

 簡単に言うと、異界神側は『情報を得ることを許可するが、情報収集する上で世界には干渉しない』という条件が発生し、アクイラータ達も『異世界に観光することは許可するが、その世界で力の行使は許さない』という条件がお互いに発生する。

 かくして互いの話し合いの元、この【聖約】を結ぶこととなる。


 勇者達の世界に興味があった彼女達は、異界神が創造した【箱庭】を通り、異世界観光を大いに楽しんだ。

 それはもう、羽目を外すほどに浮かれまくり、数多くの異世界の品々をこの世界に持ち帰る。

 だが、身勝手で自己中な彼女達が約束を守るわけがない。当然だが問題をやらかす。

 それは、某都心のラッシュアワーで混み合う列車の中で起きた。

 彼女達は満員電車の中で辟易し、やがて『この電車、今事故を起こしたら面白くね?』という、物騒な思考に切り替わったのだ。

 元より四元素の妖精種をベースにした亜神であるため、悪戯好きな習性が根幹に根付いている。

 そんな彼女達が行なったのは高速で走る列車を強制的に加速させ、線路に石を置き、更にレールを歪めるという洒落にならない真似を実行した。

 当然だが事故は起きた。死者百五十七名、重軽傷者併せて三百三十一名と、未曾有の大惨事となったのである。人口密集地で、しかもカーブ付近であったことが被害を更に拡大したのである。

 このイレギュラーな事象干渉により、時間軸の修正に神々が奔走することになる。事件自体はなかった事になったが苦情は殺到した。

【聖約】を破った彼女達は、無論異世界から追い出され、二度と渡航できなくなってしまった。

 

「……自業自得……フレイレスが悪乗りしなければ今頃……」

「アクイラータも賛成したのだぁ~っ! あたしだけ責められるのは不公平だぉ!!」

「ウィンディアも、カーブ付近が被害を更に大きくできると作戦を立てたわよね? 私が悪いわけじゃないわ」


 そして始まる責任のなすり合い。実に醜い。

 この件に関して、彼女達は幾度となく喧嘩をした。それはもう、数えるのが馬鹿らしくなるほどだ。唯一異世界を渡航できる権限が残っていたガイアネスなのだが、残念なことに彼女は引きこもりだった。

 愛用の枕とパジャマを手に入れて以降、ぐぅ~たら生活を満喫している。

 他の三人は必死に異世界の商品を買いに行かせようとしたが、引きこもり体質のガイアネスは要望を滅多に応える気はなかった。理由は『めんどくさい』からだそうだ。

 そんな彼女の権限を利用し、四神達は【異界神の箱庭】に復活する間際の邪神を捨て、最後の希望であったガイアネスも異世界渡航権限を失った。

 自業自得と言うより、ただの馬鹿である。


「やめましょう……。これ以上は不毛だわ」

「勇者達が役にたたないんだぉ~。早く高度文明期に突入して欲しいのにぃ~」

「……もう、召喚はできない。創造神の道具は使い切った」

「「「これも転生者が悪い」」」


 酷い責任転嫁である。

 自分達がやらかしたことを棚に上げ、どこまでも自分の都合の良い方に考える。

 そんな彼女達だからこそ決して思いつくことがない。この状況が異世界の神々に仕組まれていたことであるなどと……。


「んぅ……異常重力振、発生……これは……邪神?」

「「クララが起きたぁ!?」」

「クララって……誰?」


 寝ぼけ眼をこすりながら、眠れる布団の美女はむくりと起きた。

 髪にもの凄い寝癖を残しながら。

 そしてガイアネスは周囲を半ば眠たげな表情で眺め、右を向き、左を向き、何考えているか分らないような虚ろな表情で上を向いて――。


「お休み……」


 ――二度寝を始めた。


「寝るなぁ!! 何でそんなに寝坊助なんだぉ、睡眠は一日三時間が普通だぉ!?」

「フレイレス……あなたは黙ってなさい! ちょっと、ガイアネス……今、あなた、かなり重要なことを言わなかった? 邪神がどうとか……」

「……誰ぞ……我が悠久の眠りを覚ますのは……。……その罪、万死にあたいせん……」

「ガイアネス……キャラ、崩壊してる。誰の真似?」

「……名もなきファラオ」

「「だから、誰?」」


 二度寝の邪魔をされて、ガイアネスは酷くご立腹のようだ。

 やけに香ばしいポーズをしながら起き上がるが、髪はボサボサで寝癖が酷く、はだけたパンダのパジャマと怪獣スリッパが酷く残念だった。

 髪を整えれば美人であろうはずなのに、少し垂れ目がちな寝ぼけ眼な目元には目脂が残り、今の彼女の姿はかなり痛い。

 それでも放たれる殺意は本物だ。


「用件が済んだら寝ても良いから、早く言いなさい! 邪神がどうしたのよ」

「ふあぁ~~~~~っ、むにむに………。ん~~、強力な重力波振動を感じた。たぶん……邪神だと思う。……お休みぃ~~~~~……ぐぅ」

「……相変わらず寝付きが良いだぉ。それより、邪神って……あいつが復活したの!? 早く逃げないとぉ~~~~~っ!?」

「落ち着きなさい! ここからでは分らないわね。でも、ガイアネスの感知能力は確かだから」


 大地を司るガイアネスは、この世界に起きている異変を感知する能力がある。

 しかし、残念なことにその力が有効的に使われた試しはない。普段から爆睡してばかりだからだ。


「詳しいことは……私が、調べる……」

「お願い。今邪神に暴れられたら、私達ではどうしようもないわ。創造神の残した武器はもうないし……」

「簡単に壊れる道具をつくる創造神が馬鹿なんだぉ! もっと頑丈な武器を創れば良いのにぃ~~っ、これも勇者がヘボだったからだぁ~~~~~~っ!!」


 四神は邪神の存在を酷く恐れている。

 その大きな理由が、邪神こそがこの世界を管理する創造神の後継者であり、彼女達の力では決して太刀打ちできない絶対者であるからだ。

 正当な管理権限を取り戻すために四神達を追い回し、その結果として世界が一度滅亡しかけたのだ。その時の恐怖は今もトラウマとして残っていた。

 圧倒的な攻撃力を誇る旧時代の兵器群を簡単に蹴散らし、大地を引き裂き、海を沸騰させ、世界を混沌に染め上げ崩壊させた化け物であった。

 まるで捕食者から逃げ惑うネズミのように、彼女達は長い時を怯えながら逃げ廻っていた。

 勇者の犠牲により再び封印されるまでの間、彼女達は追い詰められていたのである。

 もし捕らえられたら内部に吸収され、彼女達の持つ管理権限を残らず奪われる。妖精種がベースとはいえ彼女達は死に怯えていたのだ。


「見つけた……でも、邪神じゃない」

「邪神じゃないのかぉ? なら、何が起きてるのぉ~?」

「邪神ではないとしたら、転生者の可能性が高いわね。なら、今ここで始末すれば……」

「私達は……安泰。強い転生者は数が少ないと思う」

「そうね。なら、私達だけでも倒せるかも知れないわ。厄介な連中はさっさと始末するに限るし」


 邪神の存在も脅威だが、彼女達には転生者も厄介な存在であった。

 強力な力を保有する転生者が何人いるかは覚えていないが、今の内に転生者の数を減らすことで後々の憂いが解消することになる。何よりも腐っても神であるために決して弱くはないのだ。

 ガイアネスを残した三柱神は、すぐさま重力波の発生している土地に向けて転移をするのであった。そこに彼女達の思惑をぶち壊す存在がいるということも知らずに―――。


 残されたガイアネスは、一人幸せそうに夢の中へと落ちていった。

 こんな時、引きこもりは得であるということを後に知ることになる。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


【闇の裁き】による暴虐的な破壊の光景を眺めながら、ゼロスとアドは言葉をなくしていた。

 広範囲殲滅魔法――禁術を使用したことに後悔はない。これは必要なことであると充分に納得している。

 しかし、納得はしていても心の内全てがそうであるとは限らない。人は後悔をする生き物だからだ。

 確かに【ヘルズ・レギオン】を止めるには、圧倒的な破壊魔法は実に有効な手段であろう。

 それでも実際に使用してその暴力的な破壊の光景を見たとき、後悔しないということはない。

 誰もが自分のしでかした行いに疑問や罪悪感、もしくは焦燥感を持つものである。自らの意思で実行したのであれば尚更のことだ。

 例えば、一般人が興味本位で核の発射スイッチを押したらどうであろう。

 その結果、数十億もの尊い人命が失われ世界が焦土と化したら、死ぬまで罪の意識に呵まれるであろうことは間違いない。

 もし簡単にミサイルの発射スイッチを押せる人間がいるのだとしたら、人として大事な物を捨てていることに他ならない。

 なんの責任も覚悟も、躊躇いすらなく人命を奪うことができるとすれば、それは既に人ではなく悪魔と言っても過言ではないだろうか。

 武力が必要なときもある。しかし、それを行なう決断をするには身を切るような痛みと責任が伴うのだ。

 ゼロスとアドが感じているものもまた、そうした感情である。そんな感情に呵まれているだけ、二人はまだ人間であるということだ。


「酷いな……。俺、核ミサイルのスイッチを押す決断をした大統領の気持ちが理解できた」

「……僕もですよ。罪悪感が酷い……正直、吐きそうだ」


 超重力場崩壊による破壊の嵐は、今もまだ続いている。

 敵を消滅させるまで止まらない【闇の裁き】は、核弾頭すら超える圧倒的な暴力だ。

 たとえ、この攻撃により多くの人命が救われたとしても、目の前で引き起こされた罪の象徴的な光景は忘れることはできない。

 人であるからこそ重い十字架を背負うこととなった。


「俺、以前に【暴食なる深淵】を使って、しばらく食事がのどを通らなかった……。覚悟はしていたんだけど、実際に背負う罪の重さに耐えられなかったし」

「引き金を引く罪と命の重さ、それを忘れたら人じゃない。覚悟をしようが咄嗟の判断だろうが、どちらにしても苦しむことになると思うがねぇ」


 震える手で煙草をくわえると、【灯火トーチ】の魔法で火をつける。

 魔物に【闇の裁き】を行使したとはいえ、実際にその光景を眺めていると背負うべき重さというものを軽く見ていたことを自覚する。魔法とは武力であり兵器と同等の責任を伴うのだ。


「ファーフラン大深緑地帯で使用したときは、逃げることで精一杯で感傷に浸る余裕もなかったが、実際にこの光景を見ると感情を持っていることが辛いねぇ……」

「生きるか死ぬかではなく、今回は一方的な虐殺だからなぁ~……。自分が思っている以上に覚悟が必要だと自覚しましたよ」 

「強力な力は持っているだけで危険だ。だからといって国に身を委ねるのもまた無責任、兵器扱いされるのは遠慮したいですしねぇ」


 規格外の魔導師にとって、強力な破壊魔法の使用には責任が課せられる。

 判断を他人にゆだね国の魔導師になりでもすれば、下手をすれば戦争の引き金にされかねない危険がある。強大な力とはそれほど魅力である。

 少年が銃や剣に憧れるように、権力者には存在するだけで魅力的な禁断の果実だ。誰もがその力を求め手に入れようと画策することだろう。

 何度も自分の存在の規格外さを忘れかけ、こうした事態が起きて再び思い出す。


「俺達、この世界から敵対されるんじゃないっスか? やばくないか?」

「【賢者】は孤独だ。だからこそ我が道を行くしかない……。いざとなれば逃げればいいさ」

「いや、ゼロスさんは【大賢者】だろ。なにランクダウンしてんだ?」

「認めたくないものだ。自分自身の、凶悪なまでの魔法による破壊力を……」

「ツッコまねぇよ?」


 冗談を交わして気を紛らわせようとするのだが、現実は残酷なものである。

 安全圏にいるはずなのだが、時折爆風に飛ばされてGの一部が吹き飛んでくる。これが人間であったらと思うと笑えない惨状だった。


「【グレート・ギヴリオン】……倒せたと思うか?」

「どうだろうねぇ。三十メートルクラスの規格外だよ? 桁外れの防御力だろうし、何よりも魔王に進化する前だ。仮に生きていたとしたら……」

「魔王、【ギヴロード】と戦うことになるのか……。二人だけで勝てるのか?」


【ソード・アンド・ソーサリス】のレイド戦で、悪い意味で大反響が巻き起こったイベント、通称【Gの戦慄】。参加プレイヤーが少なかったために幾つもの街が滅んだ惨劇として有名だった。

 その最大の原因が【魔王ギヴロード】である。

 上位プレイヤーでもあるレジェンド・レアの重装備ナイトを拳一つで軽々と吹き飛ばし、放たれた魔法攻撃によって数多くのプレイヤーが死に戻り、規格外のスピードで【殲滅者】を含む上位プレイヤーを翻弄した。何よりも恐ろしいは圧倒的な防御力だ。

 希少素材をこれでもかと使い制作した装備をつかうも、なんとか傷をつけるのがやっとという完全なバグキャラで、ゲームバランスを完全に無視した災厄の化身として名を馳せた。

 その大きな理由が、【殲滅者】全員が参加したレイドイベントで、唯一倒すことができなかったという、ある意味で最高の栄誉を勝ち取り有名となった魔物として、モンスターの頂点に君臨する最強の敵と認識されることとなる。

 ゲームでなく現実にそんな不条理な化け物が現れでもすれば、今のゼロス達では止めることなどできるはずもない。だからこそ【闇の裁き】で魔王が誕生する前に倒そうとしたのだ。


「アド君……君は奴に勝てると思うかね?」

「絶対に無理。断言でき……なに!?」


 会話中に突如として感じた強大な魔力反応。

 その魔力を察知して二人が上空を見上げると、合計三つの魔方陣が空に現れた。しかも魔法文字で構成された魔法陣ではなく、今まで見たこともない未知なる存在であった。


「魔法陣? いや、しかし……」

「見たことのない魔法式だねぇ、解読ができない。これはもしかすると……」

 

 魔法陣から現れたのは、蒼い髪が目を惹くシースルードレスを着た女性と赤髪ゴスロリ幼女、緑髪のセーラー服JCであった。

 見た限りでは色物だが、それを忘れさせるほどの膨大な魔力を感じ取れた。


「ゼロスさん……アレは……」

「四神かねぇ~。一人足りないようだけど、なんの用があるのやら」


 肌に感じる魔力の気配から、明らかに敵対意思を持っていると思った。


「見つけたぉ~~~~~~っ、転生者!! いま倒してやるから覚悟し――」

「【グラン・オーバー・エクスプロード】」


 ――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 ゼロス、いきなりの先制攻撃。

 範囲魔法最大級の威力が三柱の女神を飲み込んだ。


「いきなり何をするのよ! これだから人げ――」

「【ダークネス・ノヴァ】」


 ――チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 アド、問答無用の追加攻撃。

【暴食の深淵】ほど威力はないが、【グラン・オーバー・エクスプロード】に匹敵する威力の重力崩壊魔法が叩き込まれた。

 先手必勝。彼等に躊躇いの文字はない。相手が四神である以上、そこに言葉は不要である。


「こ、こいつら……私達を殺す気よ!?」

「……遠慮がない」

「お前らぁ――――――っ!! 神様をなんだと思っているのだぁ!!」

「「あぁ~ん? ただの糞だろ!! 良くものこのこと顔が出せたな、いま始末してやるから大人しく死ねぇ!!」」


 ハモリながらも吐き捨て、怒りを爆発させる二人。

 飛んで火に入るなんとやら、ここであったが百年目。

 抹殺対象が姿を現し、嬉々として攻撃を加えたのであった。


「あんたらぁ~~~~っ、女神を敬う気がないわけぇ!?  私達は命の恩人なのよ!!」

「良くもそんなことが言えたなぁ! くたばれ、ビッチ!! 【シャイニング・ノヴァ】!!」

「厄介な粗大ゴミを押しつけた分際で、今更神気取りですか? 今度はあなた達が死んでください。【黒雷連弾】乱れ打ち」


【シャイニング・ノヴァ】の重力爆縮から逃れた三柱神を、追尾能力のある【黒雷連弾】が襲いかかる。

 しかも逃げ場を塞ぐほどの数で、更に言えば完全に死角からの容赦ない攻撃であった。


「「【爆華繚乱】!!」」


 瞬間熱量一万度を超す爆裂魔法、【爆華繚乱】。

 性質変化を起こし半ばプラズマ化した熱量魔法は、炎属性であるフレイレスの防御力を軽く吹き飛ばした。異なる属性に変化していたために防ぎきれなかったのだ。

 それでも見た目的に効果がないように見えるのは、四神が純粋な高エネルギー体に近い存在であるからだろう。

 ダメ―ジを負った傍から直ぐに再構築しており、確実に魔力を消費している。


「ナイス、爆裂」

「ナイス、爆裂」


 互いにサムズアップするゼロスとアド。

 そして、自分達に対して確実にダメージを与えてくることに戦慄する三柱神。

 厄介な敵は邪神だけだと思っていたら、予想外にも人間が洒落にならない攻撃を容赦なく叩き込んできた。このまま戦えば確実に殺されると気づく。


「こいつら、とんでもない恩知らずだぁ――――――っ!!」

「あんたら、私達が受け入れなかったら確実に死んでいたのよ!? 恩人に向かってこの仕打ちはあんまりじゃない!?」

「寝言は寝て言えや」

「あなた達は後始末を僕達の世界の神々に押しつけ、ついでに転生者全員を適当な場所に転移させましたよねぇ? そこにどう恩を感じろと? 更に付け足せば、あなた達はなんの責任も果たしていない。僕達に対しても、勇者達に対しても……。邪神はねぇ、徹底的に殲滅するべきなんですよ。ククク……」

「……ここに来るべきじゃなかった。全部……バレてる」


 断片的な情報でも、集めれば四神がどういう存在か充分に判別できる。

 何よりゼロス達は四神に対して激しい恨みを持っていた。


「俺の幸せ家族計画を潰した恨み、晴らさせてもらうぜぇ?」

「楽しみにしていた酒の恨み、死して償ってくださいねぇ。ククク……たぁ~のしいなぁ~」

「「「最初のはともかく、私達は酒の恨みで殺されるの!?」」」

「世の中はねぇ、不条理で残酷なんですよ。あなた達が行なったことのようにねぇ~? 因果応報、復讐するは我にあり。さぁ、地獄旅行の準備はOK? 片道切符は持ちましたか?」


【賢者】と【大賢者】の魔力は、怒りと復讐心により更に高まる。

 この二人の魔力量は四神を超えていた。彼女達は邪神という脅威を排除したら、更なる脅威をこの世界に呼び込んでしまったのだ。

 考えなしの行動による結果がこれである。


「お、お前達は、こんなプリチーな幼女を殺すのかぉ?」

「何を言ってんだ? 歳で言ったら俺達よりも長く生きたロリババァじゃねぇか」

「女は大切にするべきだと親に教わらなかったの!?」

「生憎、身内に腐れた女がいましてねぇ。今更同類のビッチを始末することに躊躇いなんてありませんよ。言いたいことはそれだけですか?」

「……弁護士を要求する」

「「お前達に人権も、弁護士を呼ぶことも、遺言を残す権利もない! 判決、有罪!!」」

「「「横暴だぁ―――――っ!!」」」


 最早、言葉に意味はない。

 神も横暴なら人も横暴、所詮この世は弱肉強食の摂理がものをいう。

 やられたらやり返す。食うか食われるか、或いは弱者が強者を倒す下克上。

 人間を舐めきっていたアクイラータは、逆に人間の可能性という得体の知れない力によって窮地に立たされる。

 所詮は代理神であり、真の観測者ではない。決して全能な存在ではないのだ。


「さぁ……パーティーの始まりだぁ~、ウケケケケケケケ♪」

「あなた達に慈悲はない。ただ己の愚かさを悔いて闇に消えると良い。花を手向ける者もいないですがねぇ~。ククク……」


 人の心に悪魔が宿るとはいうが、ゼロス達はまさに悪魔の化身であった。

 手には膨大な魔力が集まり、いままさに抹殺という名の裁きを加えようと狂気の笑みを浮かべていた。彼等はこの時を一日千秋の思いで待ち望んでいたのだ。

 怒りを込めた怒濤の魔法攻撃を情け容赦なく無詠唱で撃ちまくり、アクイラータ達を抹殺するべく徹底的に凶悪な攻撃を続けていた。二人は確信する『『こいつらは、逃げ足が速いだけの雑魚だ!!』』と……。 

 狂気的な意思をぶつけられ怯える三柱の神と、悪魔と化した転生者二人。そこに正義などという甘い言葉は存在していなかった。

 あるのは無慈悲な断罪だけである。


「暴食の……」

「深え……なに?」


 二人がとどめを刺そうとしたとき、突如として遠方から膨大な魔力反応が発生する。

 その方角は、丁度【グレート・ギヴリオン】が存在していた方角である。


「な、なんなんだぉ? この魔力……」

「私達を超える魔力反応……。まさか、邪神!?」

「違う……もっと、別な存在……」


 桁外れの魔力に驚愕するゼロス達。

 彼等がいる場所から少し離れたクレーター群に、完膚なきまでに破壊し尽くされた【グレート・ギヴリオン】の巨体が転がっていた。

 かろうじて原形は保っているその骸の中から、それは今目覚めた。

 硬質化した体組織に包まれた闇の中、深紅の光が輝く。

 抑えきれないほどの膨大な魔力が四肢を巡り、外側に向けて炎ごとく放出され、最早無用となったかつての器を吹き飛ばすと、天高く飛び上がった。

 頭部から生える長い触覚を動かし、目的の存在を即座に察知すると、それは定められた使命を果たすべく行動を開始した。

 猛り狂う魔力をまとい、背中から生えた二対の翅を激しく動かし、凄まじい速度で飛行する。

 本能に刻まれた【敵】と戦うために――――。


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