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おっさん、誤解される

 サントールの街手前でバイクを降り、徒歩で街へと入ったゼロスウとルセイは、ここで大きな問題にぶつかることとなる。

 街の近くまで来た時には既に夕暮れ。サントールの街は昔のような要塞ではなく商業都市であり、宿の大半はこの時間、多くの商人か傭兵に利用され泊まる場所がない。

 こうなると必然的にルセイはゼロスの家に宿泊することになるのだが、問題は客用の寝具類が一切ない。所詮は独り身なので客を念頭にいれていなかった。


「……ベッドはナグリさん達がサービスで作ってくれましたが、シーツや布団がないんですよねぇ。とりあえず、僕が使っているベッドを利用するという事で良いですかね? 布団もありますので」

「ひゃいっ!? そんな……出会って間もない男女が一つ屋根の下で……。しかも殿方の寝具でっ!?」

「いや、僕が使っていないベッドを利用するという意味なんですが、そんな過剰な反応をされると困るんですけどねぇ。ただでさえ意識しないようにしているのに……」


 ゼロスの家は、独り身の男が住むにしては広い。

 部屋も複数空いており、使うのは寝室以外に台所とリビングが殆どだ。基本は寝起きするだけである。

 ルセイは何を勘違いしたのか顔を仮面で隠しているが、心の動揺までは無理なようである。

 むしろ普通に声を出して余計な発言をしてしまうため無駄に意識させられる。


「変に意識すると、こちらまで妙な気分にさせられるんですがね……。しかたないでしょ、今のこの時間帯で宿が空いているはずがない。覚悟を決めてください」

「覚悟っ!? 覚悟ッてぇ!?」


 脳みその中がピンク色に染まっていた。

 ルセイの本来の性格は【はわあわ将軍】である。気が小さく赤面症のあがり症で、人前どころか男女交際も不可能なほどの重症患者だ。

 素顔で対人関係を築くなど難易度が高く、仮面がなければ完全に引きこもり体質のダメ人間なのである。

 そして、良家の生まれなので世間知らずでもあった。


「僕は、出会って間もない女性に手を出すほど獣じゃありませんよ。その辺りは信用してほしいんですが……」

「だ、だが『男は皆、下半身で物事を考えている』と父上が……」

『あのおっさん……どんな教育したんだ? 箱入り娘の領域をぶっちぎってんぞ……。結婚させる気があるのか?』


 母親が行方不明になり父親の男手一つで育てられたせいか、無駄に偏見が酷い。どこかの爺馬鹿老人とどっこいである。

 だが、結婚に憧れを持っていることもあり、異性に対して興味津々のムッツリ体質にも思える。

 ときおり期待に満ちた目を向けてくるのが痛く、実に残念美人だった。そこまで婚活に追われているのかと溜息も出る。


「合意もなく関係をもとうとは思いませんよ。ハァ~……疲れる」と、本気で溜息が出た。

「し、失礼だぞ! うら若き乙女に向かって、その呆れた溜息は……」

「今更、取り繕って武人風吹かせても手遅れですよ。うちの姉とは別方向で残念な人だと知ってしまいましたから……」

「ガァ~~~ン!?」

 

 普段が『はわわ』『あわわ』でも構わないが、世間に出て人付き合いもまともにできない不憫な人だ。

 仮面があるのとないのでは性格が異なり、本来の性格もきっかけさえあれば簡単に表に出てくる。しかも育ちのせいか根本的なところで世間知らずだ。

 手練れの詐欺師、この場合は結婚詐欺だろうか。簡単に騙されそうな予感がする。


『確かに実力はあるんだろうが、それとは相反する方向で世間を知らなすぎる。よく将軍職に就けようと思ったな……。これは駄目だろ、深刻な人材不足なのか?』

「今、失礼なことを考えていなかったか?」

「そんな事はありませんよ。今まで見てきた現実を検証していただけです」

「それは……なぜかもっと失礼な気がするのだが?」

「気のせいですよ。気のせい……被害妄想が激しいですね。もしかして、自覚があるとか?」

「やはり、失礼なことを考えておったのかぁ! 斬る!!」


 ルセイは剣を抜こうとしたが、引き抜く前に柄を抑えられ、あっさりとゼロスに止められた。

 一応は武人としての矜持もあるようだが、素の状態と仮面装着時とでは人格に落差がありすぎる。

 はわあわ将軍は、仮面装着時には血の気が多かった。


「せめて、仮面なしで人と話せればいいんですがね」

「うぅ……家族とは話せるのだ。だが他人と話そうとすると、どうしても……」 

「時と場所によってはその仮面は失礼にあたりますよ。少し人に慣れたほうが良いとおもうのだが……」

「無理だ! 絶対に無理だ!!」

「断言した!? 既に諦めてたのかっ!!」


 考えてみれば、人と会話することに慣れさせようと思うのは、何もゼロスだけではない。

 当然だが彼女の父親でもあるラーフォン政武大官長が試みているはず。それでも治らなかったのだから、筋金入りの引っ込み思案なのだろう。

 引きこもりにならなかったのが不思議なくらいだ。


「客用のシーツは教会から借りますか……。もしかすると、いきなりの姉妹御対面になるかねぇ~」

「なぜ、妹といきなり対面になるのだ?」

「我が家には客用の寝具が一つもない。そうなると孤児達を面倒見ているお隣さんから借りるしかないんですよ。そこの責任者がルーセリスさんでして……」

「つまり、妹とは近所づきあいをしているという事か!? そんな話は聞いていないぞ!」

「知り合いとは言いましたよ? 家と隣同士であるとは言ってませんが」

「事前に言ってくれ! まだ、心の準備ができていないのだぞ!?」

「どうせ早いか遅いかの違いでしょう? 心の準備は既に済ませてあると思っていたんですがね」


 ルセイとルーセリスの対面することは決まっている。

 血縁があるかどうかを知るためには、どうしても二人で話し合う必要があるからだ。

 ソリステア魔法王国に来ることを承知したのだから、既に覚悟はできているものとゼロスは思っていたのだが、どうやら未だに迷っているようである。


「いつまでもここにいる訳にもいきませんし、さっさと行きましょう。シーツや枕を借りねばなりませんからねぇ」

「そうなのだが……うぅ」


 覚悟が決まっていなくとも、結局はサントールの街まで来てしまったのだからもう手遅れだ。

 色々と躊躇いに苛まれながら歩くルセイと共に、まずは孤児院を目指すのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ハァ……」


 ルーセリスは窓から見える光景を見ながら、深い溜息を吐いた。

 一ヶ月前、正確には一ヶ月と二十八日なのだが、突然にゼロスが居なくなったことに戸惑いを覚えた。

 コッコ達の話によれば、悪臭を放つドワーフに連行されたという話だが、数日前に帰ってきたジャーネ達の話ではどこかの工事現場で働いていたらしい。

 どうも領主に依頼された仕事のようなのだが、何も言わずに消えたものだから心配していたのだ。

 これもコッコからの情報なのだが、ドワーフ達はゼロスの知り合いのようで、かなり急いでい様子であったらしい。

 その工事現場では古代遺跡を発見したとか、たった一人で魔物の大軍を殲滅したとか、想像の斜め上を行くような内容の話をイリスが得意気に語っていたのを思い出す。


『無事だからよかったのですが、せめて連絡くらいをしてくれても……』


 確かに地方の工事現場では家族に手紙くらいは出す。しかし、現場は公爵家が推し進めるほどの国家事業であり、どこかの宗教国家には知らせないよう極秘裏に進められていた。

 まぁ、街道ができた時点で既に思惑は知られることになったのだが、その時点で既に勝負はついている。

 だからと言って国家事業の内容をおいそれと外部に伝える訳には行かない。何よりもルーセリスは四神教の見習神官であり、メーティス聖法神国に準ずる立場だ。

 もっとも彼女は宗教に心底傾倒している訳ではないので、手紙で無事を知らせることぐらいの許容は許される。とは言えども、中には諜報員もいる訳で、ルーセリスの身の安全のために何も語らない方が良い場合もある。

 そんな理由もあり不満とは言えないまでも、心から心配した分だけ損をした気分にさせられていた。


「しすたー……まだゼロス殿の事を考えているのか? あの御仁のことは心配するだけ損だと思うが?」

「そうそう、おっちゃんは強いからなぁ~。イリスも言ってたぞ? 最強の魔導士だってさぁ」

「恋する心は複雑なんだよ。ジョニーは分かってないなぁ~、この乙女心を」

「アンジェが言っても説得力がないぞ? まぁ、シスターもこれで自覚したかな?」

「ラディに賛成。けど、おっちゃんは土産を持ってくるかな? 肉、にく、ニク! Nikuuuuuuuu!」

「なにおぉ~~~っ! アタシはこう見えても乙女なんだぞぉ!!」


 ルーセリスの周りは騒がしかった。

 しかしその喧噪すら上の空。さすがに一ヶ月以上音沙汰がないと心配にもなるだろう。

 だが、この場合は子供達が正しい。おっさんを物理的にどうにかできる相手など限られている。


『うぅ……すでに自分の気持ちは整理がついているけど、いざ前に進もうとすると……』


 ルーセリスにとっては初恋で、しかも相手は年上である。

 幼馴染のジャーネも同じように恋をしており、一人で告白は怖いので巻き込もうかと思っていたりする。積極的に見えて弱腰だった。

 一夫多妻が認められているので、いきなり二人の妻が出来たとしても問題ではないのが、ジャーネの気持ちもはっきりせず中途半端で止まっている。

 

「こうしている間にも、おっちゃんが他の女を引っかけていたりしてな」

「えぇ~? おっちゃんには無理だよ。だって、無職だし」

「けど、金はあるぞ? 生活する分には問題はないじゃん」

「うむ。家族を養えるのであれば問題はなかろう。稼ぎ方など人それぞれであるからな」

「肉が食えれば幸せさ。贅沢は敵だ」


 意外に現実を見ているチルドレン。

 だが、別のことが気にかかり、ルーセリスには子供達の声は聞こえていない。


『他の女性? まさか、ゼロスさんにそんな甲斐性が!? 見た目が風来坊なのに、女性が惹きつけられるのでしょうか? でも、万が一と言うことも……』


 めっちゃ動揺していた。

『いい加減にくっついちまえよ』と言いたいが、どちらも歳の差を気にしており、思い切った行動がとれない状況である。

 しかも恋愛症候群の影響下にあり、気持ちばかりが先行してゆっくりと気持ちを確かめる余裕がない。相手を求める本能ばかりが徐々に大きくなる。

 感情よりも本能が先に出る自然現象なので、当人同士の心が本能的な衝動に追いつかない。これがピークに達すると暴走現象を引き起こすのだが、その危険性すら頭の中から消えてしまう。

 中々に厄介な性質を持つ生理現象なのである。

 それにしても、おっさんへの評価が何気に酷いルーセリスであった。


「ルーセリスさん、お客さんが来てるみたいだよ? いま、入り口でノックしている音が聞こえた」

「えっ? あ、ありがとうございますイリスさん。誰でしょうか?」

「声からして、おじさんみたいな気がするけど……居候だから私が出るわけにもいかないし」

「そうですね。では、私がでてみます」


 いそいそと教会正面入り口の扉に向かい、内側から掛けられた鍵を解除すると、ゆっくりと扉を開いて隙間から外を覗う。

 そこには見覚えのある灰色ローブが目に留まり、思わず一気に押し開いた。


「ゼロスさん、おかえりなさい! いきなり居なくなって心配したんですよ?」

「ただいま帰りました。いやぁ~、いきなり拉致されるとは思いませんでしたから。ご心配をおかけしたみたいで」

「話はジャーネやイリスさんから聞いています。お疲れさまでした」

「本当にお疲れでしたよ。まさか、悪魔が出現するとは思いませんでいたからねぇ~」

「えっ? あ、悪魔……ですか?」


 ジャーネ達パ-ティーはイーサランテの街門前で戦闘していたので、奥で悪魔と戦闘をしていたおっさんの事は知らない。むしろ一緒に行動していたら悪魔に殺されていただろう。

 その悪魔を単身で乗り込み魔法を連続発動し、一方的に蹂躙した話はしてはいない。

 一応報告の義務としてクレストンには教えてあるが、悪魔の存在を外部に漏らすわけにもいかないので、結果として隠蔽される事になった。

 旧時代の都市を利用する上で、悪魔が原因で職人が寄り付かなくなるのは困るからだ。たとえ倒したとしても悪魔が再び現れないとは限らず、そうした噂は今後の政治方針に支障をきたすの種となる。

 国家事業をこれ以上遅らせる訳には行かず、王都への報告はスケルトンと死霊のみとなされた。


「おっと……うっかり。これは機密事項でしたね。ご内密にお願いします」

「えぇぇぇっ!? なぜそんな重要機密をポロリと言ってしまうんですかぁ、そこは黙して語らずべきなのでは!?」

「だから『うっかり』なんですよ。久しぶりに戻ってきたので、少し浮かれていたようだ。失敗、失敗」


 おっさんは、ようやくサントールに戻って来れたことで少し浮ついていた。

 その勢いで思わず機密事項を漏らしてしまったようだ。


「まぁ、それは兎も角として、ルーセリスさんに頼みたいことがあるんですが」

「頼みたいことですか? 何でしょう。私で出来ることならお力になりますが」

「実は、客用のシーツや枕がなくて数日お借りしたいんですよ。アトルム皇国から客人を連れてきてましてね」

「お客様ですか。分かりました、それならご用意できます」

「いやぁ~、客用の布団など購入しませんでしたから参りましたよ。この時間帯は宿はどこも満席ですし、商業都市は客で繁盛してますからねぇ」

「では、直ぐにご用意を……」


 まくらなどの寝具を取りに戻ろうとしたとき、ゼロスの背後から少し離れたところで立つ第三者に気づいた。黒い翼をもつ仮面をつけた女性であった。

 その女性がルーセリスの視線に気づくと、軽く会釈をした。

 

「……ゼロスさん。お客様は……そちらの女性の事ですか?」

「えぇ、アトルム皇国のルセイ・イマーラ将軍です。うちは部屋は開いていますし、宿の代わりですね。後は毛布や枕を用意するだけです」

「いけません! 夫婦でもない男女が一つ屋根の下で一夜を過ごすなど、何かの間違いが起きたらどうするんですかぁ!」

「えっ? えぇぇぇ~~っ!?」


 どこかで見たパターンだった。


『まさか、本当に女性を連れてくるだなんて……。こんなことならもっと早く……いえ、駄目です! ふしだらな女だと思われたら死にたくなりますし、そんな真似ができるほど強くはありません!!』


 そして、かなりパニクッていた。

 そんなルーセリスの内心を知らず、おっさんは「いや、さすがにそこまでは……。間違いが起きる前に僕が斬られますからね?」と一応のフォローを入れる。

 だが――。


「偶然に、そうしたきっかけが起こるかもしれないじゃないですか! お風呂で偶然にも対面したり、着替え中にうっかりドアを開けたり……」

「そんな嬉し恥ずかし展開には、是非とも遭ってみたいですね。少し憧れるなぁ~」

「そこから激しい劣情を爆発させて、取り返しのつかない事になるかもしれないんですよ!? 司祭長様が言っていました。『野郎共は下半身で物事を考えているから、絶対に信用するな』と」

『おいおい……こっちもかい! どんだけこの世界の男は信用がないんだ……』

 

 ――フォローにならなかった。そして、ある意味で司祭長の言ったことは真理である。

 異性に対してある程度の警戒心を持たせるのは、現代社会とは異なり治安の悪いこの世界において有効な防衛手段とも言えよう。男女間の問題で発生する犯罪は意外に多いのだ。

 しかし、過度の警戒心は特定の年齢にある女性に深刻な問題となるようだ。身を守るには多少なりにも有効でも、個人の性格によっては異性同士の付き合いに嫌悪感を持つ事にもなりかねない。

 さじ加減が重要なのだが、状況によっては加減が変な方向に繋がる場合もある。

 ルーセリスとルセイの場合、神官職と国の要人である。どちらも躾けや戒律が厳しく、教育課程で周囲に対しての警戒心が微妙に悪感情になっていた。

 身持ちが固い訳ではなく、単に臆病な方向に成長してしまったようである。

 ルセイはゼロスと一つ屋根の下に寝泊まりすることに対して、結婚願望としつけからくる身持ちの硬さから恐怖心へと変わり、ルーセリスは一歩前に進むことすらできず、それでいてルセイに対して嫉妬心を顕にした。

 だが、おっさんにそんなことが分かるはずもなく、単に『二人ともどんな教育をされたんだ?』の疑問しか湧かない。

 マイペースに生きているだけに、かなり鈍かった。


「ハァ~……。僕はそんなに信用がないんですかねぇ? いくらなんでも一国の軍務職に就く要人に、手を出したりしませんよ。めんどくさい……」

「それは酷いぞ!? 私に異性としての魅力がないという事かぁ!?」

「ゼロスさん……女性に対して『めんどくさい』はないのでは? 少し失礼だと思います!」

『俺にどうしろというんだ?』


 正直に言ったのに責められた。

 思わず昔の口調で内心ぼやくほど、本気で理不尽だと思った。


「まぁ、この話はこの辺に置いておいて、毛布と枕などを借りれませんか? 家に客用の物がないんですよ」

「そうですか……。一応予備の物ならいくつかありますが、それで構わないでしょうか?」

「かまいません。僕が使っているベッドはルセイさんに使ってもらって、借りた毛布でソファーにでも寝ます。何か疲れた……」

「えっ? ベッドはこちらの方が使うのですか? 確かにシーツなどは偶に干してはいましたが……」

「今、なんか妙なことを言いませんでしたかね? シーツなどを干していた? 確か、家には鍵が掛かっていたはずですが……」

「鍵なら、教会の裏口に、手紙付きでドアノブに引っ掛けてありましたが? 『しばらく留守にするので、家の管理をお任せします』と……。ゼロスさんが置いて行ったのではないんですか?」


 ゼロスの疑問は直ぐに解けた。

 おそらく鍵を置いて行ったのはナグリ達だ。そして、拉致するのを裏で指示したのはどこぞの公爵様だろう。かなり計画的である。


『か、考えてみれば、これって国家規模の拉致じゃないんですかね? 変人だから仕方がないと思っていたが、普通に考えて組織ぐるみの犯罪ではっ!?』


 家はハンバ土木工業が建て、それを依頼したのがデルサシス公爵。やろうと思えば合鍵などいくらでも作れるわけで、土木依頼を受けたのは拉致られた後からの事後承諾。

 色々と濃い人間関係に慣れてしまったのか、やっていることが拉致と強制労働であることに今更気づく。後から給料を受け取ったら裁判では絶対に勝てないだろう。

 色々疑問に思っても直ぐに慣れて仕事をこなしてしまうあたり、環境適応力が高いのも考え物であった。


「まぁ、とりあえず毛布などあれば貸してください。このままでは平行線になりそうな気がします」

「そう……ですね。ところでお食事はもう済ませたのですか?」

「いえ、とりあえず帰ったら風呂を沸かして、その合間に夕食を作ろうかと考えていますねぇ」

「お、お風呂……」


 ルーセリスが固まった。

 風呂がある家は珍しいが、ゼロスの家の場合、キッチンの横が風呂場に繋がっている。

 場合によっては、『きゃぁぁ!? の〇太さんのエッチ!』的な展開が起こりうる可能性が大であった。


「ゼロスさん……。お風呂は、どちらが先に入るのでしょう……?」

「そりゃ~、客人が先ですよね」

「お食事の準備の最中、脱衣場の辺りは見えるのでは?」

「扉がありますから大丈夫だと思いますよ? 万が一覗こうものなら首が飛びますしねぇ~」

「その……ルセイさんがお風呂に入ったあとは?」

「僕も疲れていますし、入りますけど?」


 ルーセリスは石化した。

 ゼロスの一言は彼女にある疑念をよぎらせる。

 そして―――。


「駄目です、駄目ですぅ! 駄目なんですぅ―――っ!! ゼロスさんのしようとしている事は犯罪になります!!」

「な、なんでぇ!?」

「司祭長様が言ってました! 『女の後に風呂に入る奴は、絶対に残り香と妄想に溺れる変態だ』と、ゼロスさんに人の道から外れた事をさせる訳にはいきません!!」

「その司祭長さんとは一度、拳で語り合わなければなりませんね……。なんつーことを教えてやがるんだぁ!!」


 ――ゼロス、変態疑惑浮上。

 そんな気持ちはまったく……いや、ちょっぴり思う事はあるかもしれないが、変態とは酷い濡れ衣である。

 結局、感情を暴走させたルーセリスの監視のもと、おっさんはようやく我が家に帰りついた。

 風呂はゼロスが先に入り、夕食の準備はルーセリスが引き受ける事になった。

 その間、ルセイは何とも肩身の狭い思いをすることになるのであった。  


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