プロローグ おっさん、死す
やっちまったシリーズ。
これで何作目だろうか?
今回はオッサンが主人公、でも言葉遣いが丁寧。
もしかして若く見られるかもしれないが、40代!
如何なるオッサン、どうなる自分! 首を絞めてはいないか?
そんな感じで始まります。
VRRPG【ソード・アンド・ソーサリス】。
最新ゲーム機器【ドリーム・ワークス】が発売されてからの人気の体感型RPGである。
ゲーム自体は今作で7度目のバージョンアップを果たし、その熱狂的なユーザー数は増え続けている。
脳内シナプスと電子機器による感覚同期による臨場感は他社のゲーム機器を圧倒しており、デジタルでもリアルな世界は五感の感覚も加わる事で、更にこの世界にハマり込む者達が続出し、些か販売価格が高くなるがスリルを求めるプレイヤーの心を鷲掴みにしていた。
そんなプレイヤーの一人でもある大迫 聡は、プレイヤー名【ゼロス・マーリン】と名乗りこの世界を謳歌していた。
彼のアバターは目が前髪で隠れるほどの放置ぶりで、無精ひげが生えている、何ともうだつの上がらない姿であった。
纏っている装備も最上級の物なのだが、態々目立たない様に地味なデザインで統一されている。
灰色に汚れが目立つ、いかにもな中肉中背のローブ姿な魔導士に、多くのプレイヤーが彼を五指に入るトップ・プレイヤーであるなどとは思わない。
だが、彼はこの世界ではトップクラスの殲滅者であった。
このゲームは、基本的にスキルと個人のレベルに応じて戦闘ダメージが異なる。
そして注目される拘りと呼べる要素が、装備やアイテムの創造は勿論、魔法の作成が出来る事であろう。
このデジタル世界での魔術は基本的な56音の文字と10の数字を表す記号を並べ重ねる事により、様々な魔法効果を生み出すのである。
【スペル・サーキッド】と呼ばれるこの術式は、初期魔法をプレイヤー自身の手で改造する事で威力や効果が変えられるのだが、精緻で複雑なほど威力増大と魔力消費率が低くなるおかしな状態を生み出す事にになる(なぜか魔力消費量も低くなるのだが)。
どう計算しても攻撃力が0になってしまう筈なのに、なぜか尋常では無い威力が発揮される事が頻発し、プレイヤーは挙ってそれを調べ上げる様になった。これは発売当初に混乱をもたらし、いっときはクソゲー呼ばわりされた事も有名な話だ。
設定ではアバターの保有する魔力を呼び水にし、フィールド内の魔力を使用している事が判明し、条件に合う効率的運用が可能魔法術式であればその魔法は完成とされる様だった。
何しろ、フィールドの魔力など数値として現れないので、呼び水として使う魔力消費量がどれくらい必要なのか手探りだった。
発売当時の騒ぎは、何のヒントも無く適当に魔法を改造した者達がいたために起きた、ただの偶然による産物だったのだ。
こうした裏の設定は、プレイヤー自身がフィールドやダンジョンでヒントを得て調べ上げ、それに挑むも無視するもプレイヤー自身に任せられていた。
ゲームとしては恐ろしく自由度が高いが、ハマったのはそれなりの学歴を持つような者達ばかりで、プレイヤーの大半は既存の魔法をそのまま使うようになる。
魔法作成は恐ろしく手間が掛かるため、それよりは自由に冒険を楽しんだ方が建設的に思われたのだ。
改良した魔法は、時間差におけるリキャストタイムもゼロにする事も可能で、ついでに個人の所有するスキルによっては詠唱時間も全く必要としない。
趣味の深みにハマった聡は高威力な上に省エネな魔法を無駄に作り続け、この世界でも名の知れた魔導士として有名人でもあった。
主に悪名でだが……。
そんな彼は同レベルの友人と5人でパーティーを組み、数多くの難易度の高いクエストをこなし続けている。
現在彼は、ストーリーモードで仲間と共に邪神と闘っていた。
どれだけ長い時間を戦っていたのかは分からない。
ただ言えるのは、完全にラスボスを倒すところにまで来ていた。
三段変身を遂げた邪神の禍々しい姿は、彼ら5人の手によって無残な姿を晒している。
魔導士でありながらも彼らの手には様々な武器を装備し、凶悪なまでに強大な火力と暴力によって邪神を終始圧倒し続けていた。
このゲームが発売されてから7年の歳月がたつが、上位プレイヤーは常に彼らが独占していたのである。
その大きな理由が作り出した魔法の成果であり、威力と効果の面では最強に分類され、気ままな生き方が好きな聡にとってこの世界が唯一安らげる場所となっていた。
かつては一流企業のプログラム技術者として名を馳せていた彼だが、ある理由から強制的にリストラされ、現在は孤独な田舎暮らしである。
毎日、畑の世話をしてはゲームにハマり込む、言うなればひきこもりであった。
この架空の世界では彼は【賢者】であり、誰もが羨むほどの実力者である事が、自身を更にこの世界に繋ぐモノとなっている。
既に40歳を超える身空でありながら独身な上、ついでに家族と言える者も姉以外に存在しない彼にとって、この世界は自分自身を曝け出せる世界なのである。
ちなみに彼は、現実世界で言うところの魔法使いであった。
身だしなみを整えればモテそうな見た目なのに、彼はその辺りが適当すぎた。
『さて……そろそろ、とどめと行きますか?』
『おう! さっさと殺っちまえ』
『フォローはこちらでしてあげる。感謝してよね?』
『どんなレア・アイテムが手に入るか、楽しみだぜ』
『それじゃ、最後はフォーメーションで行きますよ?』
圧倒的な魔術の波状攻撃が邪神を包み込み、HPが瞬く間に0になる。
彼等はあまりに強すぎるため、ネット上ではチート疑惑もかなりの数に及んでいる。
しかし、常軌を逸した熱意というものは、時として常識を簡単に覆し、彼らは他人の事など気にも留めずに様々な魔法を開発していた。
その魔法も異常なまでに複雑化し、攻略を目的とした他のプレイヤーはこの不可解なシステムに賛否両論の意を示していた。
傍目には相当に狡い、やり過ぎ感がハンパ無い様な、最悪なまでに高威力の魔法を生み出したのだ。
何より彼等は製作した魔法を他人に受け渡すような事は無かったため、いっそうチート疑惑が高まった。
『終わったな』
『これからどうする? 打ち上げ? アタシは今から寝落ちするけど……』
『この後、仕事があるからパス。直ぐに落ちるから』
『俺も。悪いな、また今度でも埋め合わせする』
『じゃぁ、今日はこれでおひらきだな。皆、お休みぃ~♪』
『『『『お休みぃ~♪』』』』
仲間達が次々に転移し、ログアウトして行く。
聡だけが邪神の城に残り、確保したアイテムをチェックしていた。
だが、彼がこの場にいた事が全ての始まりとなる切っ掛けとなった。
突如として動き出す邪神の躯。
禍々しい瘴気を放出しながらも、憎悪の籠った目は眼前の敵を睨みつけている。
『許さぬ……我を滅した貴様等の存在を・・・決して許さぬ!!』
『なっ?! そんな馬鹿なっ、HPは0のハズなのに……』
『呪われよ、忌々しき女神共……我を封じた奴らもそうだが、何も知らずに我に敵対した愚か者共もだっ!!』
『イベントが終わってない?! そんな筈は……』
邪神はその怒りを全ての怒りをぶつけるが如く、呪詛の籠った力を開放した。
周りが光に包まれる。
その日、日本だけで全ての電力供給が停止した。
その中で、数名ほど原因不明の遺体となって発見されたが、何が死因となったかは判明しないままであった。
大迫 聡はこの日、日本の片田舎で静かに息を引き取ったのである。