ナイトシアター
雨上がりの匂いは
清涼感が駆け抜ける
青春映画の始まりに
この夜は似合っている
少しずつ騒ぎ出す
虫たちの声と
金木犀の香りが渦巻く
公園の街灯は切れていた
肌寒さはこの暗闇のせい
空は未だに上映前のスクリーン
理由はそれぐらいさ
君に電話をしたのは
今から出てこられるかい
その一言で電話は切れていた
慰めを感じさせない風が
空の色を少しずつ変えていった
ぼんやりと黄色い光が
スクリーンの隙間から差し込む
欠けた心を埋めるように
寂しそうに佇んでいるようだ
コンビニで買ったサイダー
弾け飛ぶ清涼感は
青春映画の苦さも
包んでいるようだ
遠くから聞こえる
アスファルトを蹴る音
お菓子片手にやってきた君
乾杯する飲み物は切れていた
ベンチに二人で腰を掛けて
見上げた空の幕は上がっていた
欠けた月の隙間を埋めるように
星は無数に瞬いて
金木犀の香りが今を
フィクションに仕立てる
君が買ってきたお菓子は
甘酸っぱい味がした
この夜ほど青春映画に
似合う夜は無いな
読んでいただき、ありがとうございました。