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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 守護の騎士
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説教

「何で俺が怒ってるか、分かるよな?」


憮然とした表情で、俺は目の前で正座している二人の妹達を睨む。

萎縮して俯いている二人の頭には、漫画のようなたんこぶができていた。


俯きながらも、チラチラと俺の顔色を伺ってくるクロナに、俺は話すよう目で促す。

クロナはびくっと体を震わせたが、目を泳がせながらもたどたどしく言った。

「ま、まほうのくんれんちゅうに……あたし……と、おねーちゃんが……けんかしたから……です」

「そうだな。でもお前達はいつも喧嘩していただろう。その時は俺はここまで怒らない。……では、何故俺はこんなに怒っているんだ?ローザ」


今度はローザが肩を跳ねさせる番だった。

突然話を振られた事で、珍しくあわあわしているローザ。普段だったら、俺はだらしない表情になってしまうような可愛らしさだ。


「ま、魔法は繊細で、精神の安定を損なえば、暴走して、自分や近くにいる人に危険が及ぶから……です」

「今回、魔法の暴走は起きなかったが、危険が無かったと言えるか?俺の目は、お前達の魔法が互いを巻き込んでいたのを見た気がするが?」

「そ、それは……」


涙目になって再び俯いてしまうローザ。

よく見れば、クロナも口をキッと結んで、涙を流さないよう堪えている。


二人の様子を見て、少し言い方が意地悪かったかと思い、ため息を吐いた。


「なあ、俺いつも言ってるよな?俺達はまだ子供だし、はしゃいじゃうのはしょうがない。でも、絶対に危険な真似はしないで欲しいって」


ついにぽろぽろと涙を流し始める二人だったが、続く言葉に、はっと顔を上げる。


「お前達が危険な目に遭って、俺や母さんはどんな気持ちになると思う?」


「ローザが炎に巻き込まれた時。クロナが氷漬けになった時。俺は心臓が止まりそうになったぞ」

一瞬止まっていた涙が、再び堰を切ったように流れ始める。

「「ごめんなさい……」」

流石は双子。息ぴったりだ。


俺は泣きじゃくる二人の頭を優しく撫でる。

二人は泣きながらも、「ごめんなさい」と嗚咽交じりに何度も言った。


「流石ね、お兄ちゃん」


顔を上げると、いつの間にか母さんが微笑みながら立っていた。

「甘やかしてばっかりかと思ってたけど、ちゃんと『お兄ちゃん』やれてるわね、アルバート?」

母さんは少し(かが)むと、真っ白い手で俺の頭を撫でた。

何だか顔を合わせているのが急に気恥ずかしくなり、ふいっと顔を逸らす。

「ほ、ほら、二人共!母さんにも心配かけたんだから、ちゃんと謝りな?」


顔を上げた二人は母さんの存在に気付くと、突然顔をくしゃっと歪めると、声を上げて泣きながら母さんに抱きついた。

「おかーさんごめんなさいぃぃぃ!!!」

「ぅわあぁぁぁぁかぁさまぁぁぁぁ!!!」

母さんは二人の頭をよしよしと撫でる。


やはり俺と母さんでは、『保護者』としての格が違うらしい。

あの我慢強いローザでさえも、安心しきったように顔をくしゃくしゃにして泣き喚いている。


俺は、微笑ましさと、ちょっとの悔しさが入り混じった微妙な表情で頭をがしがしと掻いた。



◆◇◆◇◆



しばらくすると泣き疲れたのか、風船がしぼむように泣き声は小さくなっていった。

何とか落ち着いた二人の目は真っ赤で、時々しゃくりあげている。


母さんはしんみりムードを払うようにパン!とひとつ柏手を打った。

「さ、そろそろ日も沈んでしまうし、お家に帰りましょ!今日の夕飯はビーフシチューよ!」

それを聞いた途端クロナが飛び上がった。

「やったーー!!」

先ほどまで沈んでいた表情はどこへやら。満面の笑みでガッツポーズを決めながら飛び跳ねている。

ローザに目を向けると、彼女もまた笑顔に戻っている。


二人の妹の笑顔を見て、ついつい俺の頬も緩んでしまう。


「ねぇねぇおかーさん、早く食べたい!早くかえろ?」

「そうね、じゃあ急いで飛んで帰りましょうか!」


そう言うと、クロナとローザの体が突然光に包まれる。

クロナは燃えるような赤、ローザは凍てつくような白。


しばらくして光が収まると、そこには二人の少女の姿は無かった。

代わりに現れたのは。




天を()く二又の一対の角。うなじには、煌めく金色(こんじき)(たてがみ)

(つや)やかな赤い鱗に覆われた強靭な身体。背には巨大な翼。

開いた瞳には新緑の光を宿す、赤き龍。


そして、その隣には。

(なめ)らかな体皮。流れるような美しい曲線を描く身体には、あちこちに水晶のような棘。

うなじ、両脚、そして尾の先端には、虹色の輝きを放つ白銀の体毛。

蛇のような長大な体躯は、水の中にいるかのように宙に浮いている。

紫水晶のような透き通った(まなこ)を持つ、白い龍。


二体の龍が、そこにはいた。

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