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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 守護の騎士
32/33

相互報告

全話に魔力欠乏症についての説明を追記しました。

『にいさまーーーっ!!』

『おにーちゃーーんっ!!』


仄かに茜色に染まり始めた空に浮かぶ二つの影。

愛しのマイエンジェル達であった。


人化を解除した状態で飛来するクロナとローザ。

胸に飛び込んでくる二人の妹を俺は暖かく抱き留めようとした。


だが、ここで少し思い出して欲しい。


クロナとローザは今、人化を解いて元の龍の姿へと戻っている。

幼龍であるクロナ達は龍の中でのサイズとしては中型くらい。数値に表すと大体全高三メートル、全長十五メートルほど。ローザは東洋龍型なのでこの尺度には収まらないが、大体そのくらい。

その大きさの龍の平均的な体重は約一〜二トンほど。

そして、彼女達の最高飛行速度は龍の中では比較的遅いローザでも時速百二十キロメートル。


何を言いたいのかと言うと。


この状況、主観抜きで客観的に見れば、龍と言う大質量が凄まじい速度で俺に突っ込んできているわけで。

その威力は計り知れないものがあるわけで。


『クロナ!ロー──ゲホォォォッ!?』


いくら俺も龍と言えど、当然吹っ飛ばされると言うわけだ。


「あ、アル君!?」


数十メートル吹っ飛ばされて、森の木々を数本叩き折ってようやく止まった俺は、やや焦ったような声を上げて駆け寄ってくるフレイアに笑って見せた。


『いや、大丈夫だ。問題ない』

「大丈夫って、君ねぇ……」


呆れたように俺に抱き付いている妹達を見るフレイア。

俺は、まあ多少吹っ飛ばされはしたが、しっかりと妹達を受け止めていた。


『にいさまぁ、よくぞご無事で……!』

『よかったよぉ〜〜』


涙ぐみながら頭を擦り付けてくる二人を撫でながら、俺は優しく声を掛けた。


『心配掛けてごめんな。でも、取り敢えず背中に乗せている方を降ろしてあげたらどうだ?』

「え?あっ、フィリアにラージス!?」


遅ればせながら二人の背に引っ付いている二人の人物に気付いたフレイアが驚いたような声を上げる。


「よ、よう、フレイア……」

「フレイアちゃん、ご無事で何よりです……」


見るからに憔悴しきった様子の二人──フレイアの仲間の壮年の神官と巻き毛の少女は弱々しい笑みを浮かべた。



◆◇◆◇◆



「で、何で二人はここが分かったんだ?」


人化の魔法で金髪碧眼の美少年に変身した俺が問う。

この問いに、同じく人化で赤髪紅眼の美少女となったローザが答えた。


「ヒラル村と言う人族の集落でお世話になっていた時、突然魔力探知ににいさまの反応が現れたのです。びっくりしてすぐに飛んできたのですが……気付きませんでしたか?」

「ん?いや、ちょっと魔力枯渇起こしちゃってな。探知範囲を狭めてたんだ」


なるほど、と得心行った様子で頷くローザ。


現在、俺達は川辺で各々適当な岩に座り、歪な円になって互いに報告をしていた。

まあ、クロナとローザに物理的に振り回されて憔悴したフレイアの仲間の二人を休めると言う事もあるが。


「へえ、無我夢中で飛んできたけど、村の近くまで来てたんだな」


何気なく呟いた俺だったが、ローザはその言葉を聞いて心配そうに眉を寄せた。


「無我夢中だなんて……魔力枯渇も起こしていたと言いますし、やはり危なかったのですか?」

「まあな。結構やばかった」


何度か死にそうになった、とは言わない。妹達をこれ以上心配させるのは気が進まないし、兄としての矜持もある。


なので、少し濁した返答を返す。


聡いローザは何となくそれを察してしまったのか、未だ心配そうに視線を向けてくる。


「そういえば、二人がフレイアに救援を頼んでくれたんだよな?助かったよ」

「いえ、私達にはそれくらいしかできませんでしたから……フレイアさん、にいさまを助けて下さって、ありがとうございます」

「ありがとうございます!」


フレイアに向き直り、深々とお辞儀をするローザ。それに倣って隣のクロナも頭を下げる。もちろん、彼女も人化を使っているので美少女状態である。


「べ、別に、いいってことよ!気にすんでねぇ!」


突然頭を下げられて驚いたのか、おかしな口調でしどろもどろに返すフレイア。


「それで、(くだん)の飛竜はどうなったのだ?討伐したのか?」


声を発したのは、フレイアの仲間の一人、神官のラージスと言う人物だ。

白髪碧眼の鋭い雰囲気の壮年の男性で、先ほどまでは青い顔をしていたが、今はもう年相応の落ち着きと言うか、威厳のようなものを放っている。

その声は意外と若々しい。


「うーん、倒せなかったわ。と言うか、アレを倒せるビジョンが全く見えない。少なくとも、今の私達じゃ到底敵わないわねー」


ラージスの問いに、落ち着きを取り戻したフレイアが答える。

素っ気なく返す彼女だったが、彼女の隣にいる巻き毛の少女は怯えたような声を上げた


「そんな!フレイアちゃんでも勝てないんですか?」


この少女、フィリアは茶髪翠眼の巻き毛が特徴で、少し垂れた目と言い、気弱そうな雰囲気と言い、小柄な体格と言い、どこか小動物を思わせる少女だ。

しかし見た目と違い魔法の技術は卓越していて、特に回復魔法や障壁魔法は頭一つ抜けているらしく、『教会』で呼ばれる機関から『聖女』と言う称号を賜っているらしい。


世情に疎い俺には『教会』とかよく分からなかったが、取り敢えず凄いと言う事は伝わった。何と言っても『聖女』だしね。


まあ、そんな凄い聖女様だが、見た目通り性格は気弱らしい。


「うん、私達で挑んでもやられちゃうだろうね。翼を斬り飛ばしても再生しちゃうし、アル君が第三段階相当の光魔法使っても、逆に吸収されちゃうし」


ため息を吐くフレイア。


「で、流石に敵わないって事で、こうして逃げ帰ってきたってわけよ」

「ぬ?少年は第三段階魔法(サード・マジック)を使えるのか?」


妙なところで反応するラージス。

それに知らない単語が出てきた。


「サード・マジック?」


思わず聞き返した俺に、ラージスは片眉を上げた。


「知らぬのか?ルミナリアが定める魔法の段階の名称だが」


また知らない単語が出てきた。

ルミナリアとはなんぞや?


頭の上にハテナを浮かべている俺に、ラージスは説明してくれた。


曰く、魔法王国ルミナリアのトップである、五人の魔導士からなる『魔導議会』と呼ばれる偉い人達が魔法の技術を体系化し、それをまとめた『基礎魔法大全』と言う本。それには、様々な魔法に関する事柄が記載されていて、つまるところ魔法の辞書だ。


その基礎魔法大全に載っている一つが、『魔法の段階』。ステータスにも表記される魔法の段階だが、基礎魔法大全では下から『第一段階魔法(ファースト・マジック)』、『第二段階魔法(セカンド・マジック)』、『第三段階魔法(サード・マジック)』、『第四段階魔法(フォース・マジック)』、『王魔法(ロード・マジック)』と定めている。


魔法を行使する者の名称も、修得している魔法の段階によって変動する。

まず、第一段階(ファースト)から第二段階(セカンド)までが、『魔法士』。次に、第三段階(サード)を修める者が、『魔術士』。第四段階(フォース)を修める者は、『魔導士』と呼ばれる。

最後に、歴史上数えるほどしかいない(ロード)を行使する英雄が、『魔導王』と呼ばれるそうな。


そして、段階を持たない特異な魔法も存在するらしい。

それらは『固有魔法(ユニーク・マジック)』と呼ばれ、どれも非常に扱いの難しい魔法だが、使いこなせばその効力は王魔法にも匹敵すると言われている。が、固有(ユニーク)と言うだけあって、その存在は極めて稀少なんだとか。

俺の『重力魔法(グラヴィティ・マジック)』はこれに分類される。

何となくすごそうだなーとしか思っていなかったが、とんでもない魔法だった事が発覚した。


他にも、基礎魔法大全には様々な事が載っているらしい。が、この本はルミナリア内でしか流通していないらしく、持ち出しも禁止されているそうな。

今度母さんに買ってきてもらおうかなと密かに考えていた俺は酷く落胆した。


「ええと、そうゆう事なら、光だけじゃなくて、雷と風も第三段階(サード)ですよ」

「なんと!?」


ラージスは目を見開いて驚く。


「すごいよねー、アル君」

「むう、すごいなどと言うレベルではないぞ。少年、いやアルバート君だったか。君はいくつなのだ?」

「十歳ですけど……」

「十歳!?」


頭を抱え始めるラージス。

一体どうしたって言うんだ。


「たかだか十歳で第三段階(サード)が三つだと……?そんなの聞いた事が……」

「でもラージス、アル君龍よ?人間の常識なんて通用しないと思うんだけど」


うんうん唸っているラージスにフレイアが声を掛ける。その言葉にラージスは僅かに顔を上げる。


「うぅ、む……そうなのか……?」

「そういう事にしときましょ。ここで考えていてもキリがないわ」

「……それもそうだな。この事は一時保留としておくとしよう」


なんかよく分からないけどそういう事になったらしい。

まあ、それは置いておくとして。


「フィリア達の方はどうだったの?」


フレイアがフィリアに問いかける。


「あっ、はい。私達はあの後、ヒラル村に帰還、村長とギルドの支部長に事の顛末を報告しました。村長からは王国へ早馬を出してもらい、ギルドからはこの事態に緊急依頼を作成して、各地のギルドに貼り出してもらうよう取り付けました。すぐに、依頼を受けた冒険者達が動き出すでしょう」

「うーん、自分達で討伐できないってのは歯痒いわねー。王国からの依頼にあった黒い龍って多分アレの事でしょ?龍じゃなくて飛竜(ワイバーン)だったけど」


フレイアの言葉に、俺は密かに納得した。

勇者である彼女がなんでこんなところにいるのかと思ったら、依頼を受けていたのか、しかも王国から。

そこで俺はふと、昨日我が家を訪れたイグルス王国の調査派遣部隊の面々を思い出した。


このフレイア達の依頼と何か関連があるのだろうか。

俺が少し思案していると、ラージスがそういえば、と口を開いた。


飛竜(ワイバーン)第三段階魔法(サード・マジック)を吸収した、と言っていたが、それは『魔力喰い(マジック・イーター)』と同じ特性を持っていると言う事か?だとすれば、緊急依頼の難度は跳ね上がるぞ。下手な冒険者が受けてしまえば、簡単に返り討ちに遭ってしまうのではないか?」

「うーん、あれは『魔力喰い(マジック・イーター)』のとはまた違うような気がしたんだけど……でもまあ、確かにそれはあるわね。私とアル君が二人で掛かっても倒せないような奴だもの」

「後でヒラル村に戻って、ギルド支部長に報告しなきゃですね」

「そうね」


フィリアの提案に、フレイアは頷く。

そして、何故か俺に顔を向けた。


「で、結局あの飛竜(ワイバーン)はなんだったの?戦闘中、アル君なんか言ってたよね?えっと……なんとかかんとかって」

「まるで覚えてないのな」

「うるさい」

「あだっ!」


俺の頭にフレイアの拳骨(ゲンコツ)が落ちる。

俺は殴られたところをさすりながら、涙目でフレイアを睨みつけた。


「いちいち殴んなよ……」

「いいから教えなさいよー」


と、今度はヘッドロックを掛けてくるフレイア。

あの、この体勢ちょっと、当たるんですが。と言うか、押し付けられるんですが。


俺はどうすればいいんだ?

楽しめばいいのか?


「?いやに静かね……」


黙り込む俺を不審に思ったのか、フレイアはふと自分の状態に気付く。

そして、一瞬の硬直の後、拘束を解き、スパァン!と俺の頬を平手で打った。


「スケベ」

「理不尽だ……」


冷ややかな視線を向けてくるフレイア。

ちょっと泣きそうになった。


頬をさする俺に、ローザが近寄ってくる。

慰めてくれるのかと思いきや。


「にいさまは、お胸の大きな女性がお好きなのですね」


なんかよく分からない事を言い出した。

しかも、俺が返答を返す前に、「そうなのですね」と自己完結させてしまった。

せめて言い訳くらいさせてくれ。


妙な黒いオーラを発するローザに、隣にいたクロナも、たらりと汗を流していた。


一方、勇者サイドでも、フィリアとラージスがフレイアに呆れたような視線を送っていた。


「フレイア、お前子供相手に……」

「フレイアちゃん……」


フレイアはバツが悪そうに目を逸らす。


「だってぇ……」

「だっても何もなかろうに」


ラージスは深々とため息を吐いた。

そして、俺に向けて頭を下げる。


「フレイアがすまんな。この娘、見た目に反して意外と幼いのだ」

「知ってます」

「ちょっとー、二人して何よー」


唇を尖らせてぶーぶー言ってくるフレイアを無視して、ラージスが続ける。


「あの飛竜(ワイバーン)について、何か知っているのであれば、教えてくれないか?冒険者達にも、敵の情報はできるだけ渡しておきたいのだ」


至極真面目な顔で頼んでくるラージス。

俺としても、特に断る理由はない。だが、


「いいですよ。ただ、あまり無闇に広めない方がいいと思います」


ラージスは片眉を上げる。


「それはどういう?」

「まあ、聞けば分かります」


苦笑しながら、皆に説明をするために俺は昨日母さんから聞いた話を思い出した。



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