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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 守護の騎士
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再びの墜落

『うおぁぁぁぁ!?』

「いやぁぁぁぁ!?」


俺が叫びを上げ、背中ではフレイアも悲鳴を上げる。


今、俺は物凄いスピードで飛行──否、落下している。


耳には轟々と風を切る音が響き、景色はぐんぐん遠ざかっていく。

しかし、反対に、地面はぐんぐん近づいてきている。


『あ、ダメだこれ』

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


最早地面は目と鼻の先にまで迫っていた。

力の入らない俺の身体ではどうしようもない。


合掌。



◆◇◆◇◆



『ぐ、ふぅ……』

「あいたたた……」

『フレイア、無事か?』

「ええ、何とかね……」


俺は飛竜(ワイバーン)に撃墜された時と同じく、むしろあの時よりも速いスピードで森に突っ込んだ。

木々を薙ぎ倒し地面を削り……『デジャヴ?』と思った。


数十メートル森林破壊をして、ようやく落ち着いた俺は背中のフレイアに声を掛けると、疲労感を拭い切れない疲れた女の声が聞こえた。


正直あまり動く気になれないので、龍にしては短めの──あくまで普通の龍と比べればであって、極端に短いわけじゃない──首を回し、背中の勇者に目を向ける。


そして、目を丸くした。


『お前、何背負ってんだ?』

「へ?」


俺が思わず質問すると、フレイアも目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。ドタバタしていたせいで気が付かなかったのだろうか、背中にくっついているソレ(・・)に。


フレイアも首を回して己の背中を窺い見る。

直後、横顔からでも分かるくらい顔を真っ青、と言うか真っ白にした。


彼女の背中には、一メートルくらいの目玉模様が特徴の緑色のうねうねと蠢めく物体。

それは美しい羽根を持つ『煌々妖蝶(イルミナパピヨン)』と言う魔物……の幼体の、『目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)』と言う非常に言い辛い名前の芋虫型の魔物だった。


目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)は振り返ったフレイアと目が合うと、動きを止めた。フレイアのサファイアブルーの瞳と、目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)の深緑色の複眼が暫し見つめ合う。


やがて、目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)の額辺りから、にょにょにょっと橙色の二股の突起が生えてくる。確か、アゲハチョウの幼体も同じような突起を持っていたはずだ。突起から放たれる異臭で外敵を追い払うのだったか。


「きしゃー!」


上体を持ち上げ、威嚇のポーズを取る目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)


実はこの魔物、マニアの間では「可愛い」と人気だったりする。美しい進化後の事もあり、一部の裕福な者の中では特殊な魔法により従属させ、愛玩魔物として飼っている人は多いんだそうな。

魔物図鑑にそう記してあった。


人気の賛否の分かれる魔物だが、好意的に見ているのは「マニア」の人だけであり……ブヨブヨの身体といい、蠢めく多脚といい、臭い角といい……およそ人に好かれない容姿と生態をしている。

特に女性には大変不評で、幼い幼女からおばさんまで幅広く嫌われている。


で。


桁違いの実力を持つ勇者とは言え、フレイアは中身は普通の女の子なわけで。


「いぃぃぃやああぁぁぁああぁぁあ!!?!?!!?」


こうなるのは必然と言うか何と言うか。


飛竜(ワイバーン)から逃げた時よりも、高速で地面に落下した時よりも、甲高く鋭い絶叫ともつかない悲鳴を静かな森に響かせるフレイア。

彼女は一瞬の迷いもなく聖剣の柄に手を伸ばした。


目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)は粉微塵になった。



◆◇◆◇◆



「はあっはあっ……あっ、なんか背中濡れてる!うわっ粘ついてるぅ!いぃぃやあぁぁぁ!!って言うかくさっ!何この臭いぃぃ!?水、水ぅぅぅぅ!!」


目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)を思う存分斬りまくり、挙句「気持ち悪い!」と叫びながら光の上級魔法『陽光線(サン・レーザー)』で芋虫型魔物を跡形もなく消し飛ばした勇者は、今度は背中を(まさぐ)りながらのたうち回る。


『落ち着k』

「これが落ち着いていられるかぁぁぁ!!アル君、川!川どこ!!」


俺の言葉を遮り、絶叫しながら川を求める勇者フレイア。


彼女の深紅のコートの背面部には、謎の粘液がこびりついていた。目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)が分泌したであろうそれは少なからず、彼女の眩しい金髪にも付いているかもしれない。

そして確かに(くさ)い。

目玉芋虫(ヴェルトシュニユ)の突起から放たれた異臭が服にくっついてしまっているようだ。

龍は人間よりも嗅覚に優れているので、正直かなり不快である。


『落ちた時に、あっちにそれっぽいのがあったようn』

「よし、そこ行くわよ!どこ!案内して!」

『お、おう……』


あまりの剣幕に俺は大人しく頷いた。


俺は聖剣を振り上げながら急かしてくるフレイアに追い立てられながら、必死に川を目指した。


痛い!

刺すな!聖剣を!



◆◇◆◇◆



耳に聴こえる僅かなせせらぎの音を辿り、しばらく森の中を走っていると、ふと視界が開け、陽光が差した。

そして、目の前には陽の光を浴びてキラキラと煌めいている水面。


そう。


「川だぁぁぁぁぁ!!!」


さながら飲み水を見つけた無人島漂流者のような勢いで川に突っ込んでいくフレイア。


深紅のコートを脱ぎ去り、黒地のインナー姿になる。下は白い膝上までのスカートである。

フレイアはその勢いのままインナーを脱ごうと裾に手を掛けて──はたと動きを止めた。

そしてこちらを振り返る。


フレイアの瞳とバッチリ目が合う。


「……アル君?」

『大丈夫だ。俺は龍だから。何の問題もない』

「アル君?」

『ごめんなさい調子に乗りました』


凄まじい殺気に俺は思わずその場で土下座を敢行する。


「いいからあっち行ってなさい。覗いたら眼球抉るわよ」

『イエッサー!』


俺は返事をして、川の下流へ向かう。


「全く、少しマセ過ぎじゃないかしら」


ふとフレイアの呟きが聞こえた。

俺見た目は子供でも中身は二十代後半なんだけどなぁとは口が裂けても言えなかった。


同じ覗きでも子供と大人では裁判の判決は大分変わってくるのだ。


……まあ、それ以前に転生者云々の話を信じてもらえるかが怪しいところだが。


そこで、俺はあれっ、と首を捻った。


そう言えば俺、まだ自分が転生者だって事誰にも言ってないな。

今までそんな事を考える暇はなかったけど、いつかは話さなきゃいけないのかな。


クロナに、ローザに。そして、母さんと父さんに。


……どんな顔して言えばいいんだろう?


言ったら、どんな顔をされるんだろう?


「ほら!突っ立ってないで早く行きなさい!」


フレイアに急き立てられ、俺は歩き出す。


俺が前世の記憶を持っているなんて事知ったら、母さんと父さんはどんな気持ちになるんだろう?


俺は頭の中でぐるぐると思案しながら、歩みを進めた。

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