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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 守護の騎士
29/33

戦慄の黒き飛竜 ④

唸れ!俺の厨二&ポエム魂!!

あ、あと、ステータスのATKをSTRに変更しました。

『常世に蔓延(はびこ)る咎の花 乱したるは人心(ひとごころ)

廃れ腐る人の世に 天より出づるは裁きの光……』


(あいつ……近付くなって言ったのに、初っ端から突っ込んで行きやがった……)


俺は魔法の詠唱をしながら内心ため息を吐いた。

……人の話を聞いていたんだろうか?


だが、任せろと言ったからには詠唱が終わるまで頑張ってもらうぞ。

あの魂が凍るような体験はしないに越した事はないが……一度体感した方が逆に緊張感を持てていいかもな。


詠唱に集中しているせいでまるで他人事のように考える俺だったが、その後起こった光景に目を剥いた。


光の翼で地面すれすれを這うように飛翔し、一気に飛竜(ワイバーン)の懐に飛び込むフレイア。

その手には、もちろん聖剣。


いつの間にか両手持ちに切り替えている。


あの剣、あんまり柄が長くないから両手持ちには向かないと思うんだけどな。

それに細剣(レイピア)であの大振りはないんじゃないか。如何に聖剣とは言え、あの細い刀身では下手したらポッキリ逝ってしまうんじゃないだろうか。


俺がそんな不安を密かに抱えていると、フレイアがボソボソと何事か呟いたのが見えた。


極少量の魔力を感知した俺は、それが詠唱を破棄した、あるいは超短文の詠唱である事に気付いた。


そして、それに呼応するように聖剣の刀身がグニャリと歪む。


俺は目を見張った。


フレイアは聖剣の切っ先を背後(こちら)に向けているため、聖剣の変化がよく見て取れる。


銀色の液体のようになった聖剣の刀身は、一瞬にしてその量を何倍にも増殖させ、新たな姿を形作る。

左右対称な巨大な肉厚の刃。それが柄の先端、先ほどまで細く美しい細剣のあった場所に出現する。

よく見れば、柄の方もギューンと伸びている。


刹那の間に姿を完全に変化させた聖剣──いや、両刃斧は、空気を切り裂き唸りを上げて飛竜(ワイバーン)に襲い掛かる。


俺はやはり、と思った。


昨日ニュース映像でフレイアの剣の形が変わったように見えたのは、見間違いなどではなかったのだ。


あの聖剣は、あらゆる武器に姿を変えられるようだ。


だが、俺が真に驚いたのはこの直後だ。


「はあぁッ!」

「グゲェアッ!?」


結果的には、下から(すく)い上げるように振られたフレイアの両刃斧は飛竜(ワイバーン)の胸にクリーンヒットした。


だが、何と言うか、その。

激突の衝撃音が……。


分かりやすく擬音語にすると、



『ボカーーーン!!!』



だった。


俺は我が目を疑った。


目の前には、二メートル近くある両刃斧を振り切った姿のフレイア。


そして、大量の土埃と共に宙を舞う飛竜(ワイバーン)


……。


……。


……ハッ!?


『……祈れ、罪人よ 汝が罪を洗い流さんが為

(ゆる)しを請え、咎人よ 神の慈悲を賜わんが為……』


危ない。

一瞬呆然として、練り上げた魔力と詠唱をおじゃんにするところだった。


焦って舌を噛むこともなく、継続して詠唱を続ける。


しかしだ。


いくら何でもシュール過ぎやしないか?


うら若い美少女が、己の十数倍はある飛竜を二メートル近くある両刃斧でかっ飛ばす。


一体どこの異世界だ。


……あ、ここ異世界だった。


まあいい。

それはともかくとしてだ。


強い強いとは思っていたが、これは強過ぎないか?STR(筋力)値どうなってるんだ。


俺は好奇心に負け、『龍の慧眼』を発動させてフレイアのステータスを覗き見る。

別に疚しい気持ちとかはない。

詠唱もちゃんと続けてる。


問題は何もない。



◆◇◆◇◆



《個人名》

フレイア ♀ Lv.89


《種族》

人族


《これ以上はステータスを閲覧できません》



◆◇◆◇◆


つっっっよ。


えっ、うそ。俺の倍以上あるんだけど。


Lv.89?

人族なのに高すぎやしませんか?


俺は基本的に我が家とあの荒野以外に外出をしないために、あまり人間と接触していない。

(おれ)の場合、人化していないととんでもない大騒ぎになってしまうからだ。


万が一に備えて人の寄り付かない荒野でも極力人の姿を取っているし、自分から接触した事など皆無だ。


だが、時たま我が家には人間がやってくる。


馬鹿な冒険者然り、欲の皮が突っ張った商人然り、FHKの給金の人然り、こないだのウェルスさんみたいな偉い人の使い然り。

なんだかんだで年に数回はやってくる。


FHKの人など、週に一度は給金にやってくる。

集めた金は教会の孤児院などに回しているらしいが、正直怪しいところである。ピチッとした七三といい難攻不落の営業スマイルといい……。

最初こそ母さんも快く寄付していたが、あまりにも給金に来る頻度が高いため、母さんも困ってしまっていた。母さんは頼まれたら断れない人なのだ。

最近は俺が少し脅かして追い返しているのだが、それでも毎週やってくるのだから本当にいい根性をしている。


ちなみに、そのセールスマンの名は『スマイル・イケザワ』さん。

最初はふざけているのかと思ったが、そのことを指摘すると「れっきとした本名だ」と笑顔のまま静かに怒られた。

ただひたすら不気味だった。


あるいは俺と同じ転生者なのかもしれないと疑ってカマをかけてみたが、これも違った。


事情を聞いてみたところ、彼は父親がイグルスの貿易商で、母親が在来していた倭ノ國の人なんだそうだ。

その後、彼の両親の馴れ初めを延々と聞かされた。


……話が逸れた。


ともかく、色んな人が来るので興味本位で毎回ステータスを覗いていたが、大体平均はLv.15くらいだ。

商人とか碌に運動をしない人種は仕事用のスキルはあれどレベルは総じてLv.5〜9程度。これが一般的な成人男性くらいだと思われる。

冒険者や騎士は練度によって多少振れ幅はあれどLv.10から30程度。

あの老練の騎士然としたウェルスさんでもLv.40強だった。


俺の知る人族はそんなものである。


なのに。


目の前の両刃斧を振るう少女は、それを軽く上回っていた。

俺は驚きを禁じ得なかった。


レベルが上過ぎて能力値や魔法などは見れなかったが、相応の値を持っているのだろう。

上級の光魔法も使っている事から、第三段階の『聖光(ホーリー)』までは至っているはずだ。


何にしろ、超強い。


両刃斧を振り切ったフレイアだが、彼女は止まらない。


『懺悔せよ 汝の過ちを 悔い改めよ 汝の愚行を

さすれば、神は救いの手を差し伸べられん』


慣性に逆らわず、回転し斧を振り回し、跳ぶ。


空を蹴った彼女は空中で踊るように回りながら未だ驚愕に目を見開いている飛竜(ワイバーン)に襲い掛かる。


慣性に捻転力を加え、全霊の力を持って振り下ろす。


フレイアは、まるでハエを叩くように飛竜(ワイバーン)を叩き落とした。


飛竜(ワイバーン)は背中から地面に激突する。


轟音、そして砕けた土の欠片と土埃が舞う。


……これ、俺いらないんじゃ。


そう思った時。


土埃を切り裂いて大量の黒い矢が撃ち出される。矢は弓形の軌道を描いてフレイアに襲い掛かる。


フレイアは人間離れした動きで両刃斧を振るい、襲い来る矢を払い、叩き落とす。


「魔法……!」


フレイアが呟く。

そう、これは魔法だった。

俺に襲い掛かってきた黒い矢、あれと同じものだろう。ならばあの黒い球も魔法のはずだ。


フレイアの両刃斧は空中に無数の銀線を描き、それに触れた矢は粉々に砕け散っていく。


だが、矢の数はあまりにも多く、次第にフレイアは劣勢になっていく。

頬を掠め、コートの裾を穿つ。フレイアの身体に浅い傷が刻まれていく。


フレイアは舌打ちすると、両刃斧を自分の前に翳した。


「モードチェンジ──」


再び、超短文詠唱。


「──大盾(タワーシールド)


瞬時に反応した両刃斧の聖剣は、液状化すると、増殖。

フレイアをすっぽり隠すくらいの巨大な長方形の白銀の大盾に変化した。


大盾は襲い来る矢にビクともせず、僅かな傷すらつかない。

フレイアはそのまま後退し、地に降り立った。


やがて黒矢の弾幕が収まると、土埃も晴れ、忌々しげに赤く光る眼を細めたワイバーンが現れる。

飛竜(ワイバーン)は、未だ無傷。


『罪を、咎を、曝け出せ 矮小なる人の子よ

神は慈悲深く 無情なり』


ワイバーンはフレイアに喰らいつかんと飛び掛かる。


「モードチェンジ、大剣(ブレイド)


主人の願いに呼応し、聖剣は変化する。


今度は、フレイアの身長と同等の厚い刀身の白銀のトゥーハンデットソード。


フレイアは両手で持った聖剣を肩に担ぐように構えると、突進してくる飛竜(ワイバーン)を見据える。


『慈悲は鉄槌 救いは浄化

人の子よ 受け容れよ

浄化の光を 断罪の鉄槌を 』


「ガアアァァアァァアア!!!」

「──ふっ!」


憤怒に染められた双眸で、フレイアを射殺さんがばかりに睨み、吼える飛竜(ワイバーン)


対するフレイアは、短く鋭い裂帛の声を上げ、地を蹴った。


交錯は一瞬。


飛竜(ワイバーン)の右翼が宙を舞う。


「ギャアァァアアァァア!!?」


フレイアは、真っ直ぐに突進すると見せかけ、僅かに左に逸れた。

そして飛竜(ワイバーン)の噛み付きを紙一重で躱し、渾身の一太刀を浴びせた。


聖剣は、今までどんな攻撃に晒されても傷一つつかなかった飛竜(ワイバーン)の鱗を砕き、右翼を断ち切ったのだ。


絶叫を上げ、勢いのまま木々を薙ぎ倒しながら倒れ込む飛竜(ワイバーン)


初めて、大きなダメージを負わせる事ができた。

その事実に、俺とフレイアの表情に喜色が浮かぶ。


だが。


「なっ!」


フレイアが眼を見開く。

その視線の先にあったのは、斬り飛ばされ地に落ちた飛竜(ワイバーン)の右翼だった。


飛竜(ワイバーン)の右翼は、まるで風に晒された砂の城のように形を崩していった。

そして、黒い粒子となって流れていく。


その先には、森の中で痛みにのたうち回っている飛竜(ワイバーン)。その斬り飛ばされた右翼の付け根。


斬り飛ばされた右翼が粒子となって小さくなっていくのに反比例して、その右肩の断面から黒い何かが盛り上がってくる。


「再生……?」


フレイアが呆然と呟く。


俺も正直絶望感を感じている。


あんな大怪我を再生するなんて、こいつは一体どうやったら死ぬのだろう?

今準備している魔法に自信はあるが、こんな光景を見せられた後ではどうにも頼りなく感じてしまう。


だが、ここまできて止めるわけにはいかない。


飛竜(ワイバーン)はいずれ再生しきってしまう。

だが、今は俊敏に動く事はあの化け物にも不可能だ。


『神に仇なす悪逆を断て!』


魔法が完成する。


フレイアへの警告も込めて、最後の一節は大きな声で叫ぶ。


はっと振り返ったフレイアは、魔法の完成を察して翼をはためかせすぐに後退してくる。


飛竜(ワイバーン)は、未だ再生しきっていない。

魔法の発動を感じ逃げようとはしているようだが、その動きは酷く緩慢だ。


座標固定、完了。


飛竜(ワイバーン)の下の地面から、僅かな光の粒子が舞い上がり始める。


魔力充填、完了。


飛竜(ワイバーン)の下で膨大な量の魔力が渦巻く。


魔法、発動。


『『裁きの神光(ジャッジメント・ライト)!』』


飛竜(ワイバーン)を中心とした直径二十メートルの地面に亀裂が入る。

亀裂はどんどん広がり、隙間からは光が溢れ出す。


やがて、地面は完全に蒸発し、光の奔流が溢れ出す。


光は木々も飛竜(ワイバーン)も、範囲内の全てを呑み込んだ。


それだけでは飽き足らず、そのまま天へ天へと昇っていく。


雲を穿ち、空を貫く。


天を衝く、光の塔が聳立(しょうりつ)した。


「すごい……これなら」


フレイアが眩しげに手を翳しながら呟く。


俺は、眼を細めて今も溢れ続ける光の塔を見つめた。


『いや、これは……』


俺は拭いきれない不安と胸のざわつきを感じ、嫌な予感がした。


その予感は的中する。


次の瞬間、神の光は黒く塗り潰された。


まるで、清い水の中に淀んだ泥水が広がるように。明るい陽光が雲で陰るように。


その『侵蝕』は一瞬にして広がっていく。


「そん、な……」


溢れども溢れども、その全てを蝕まれていく。


その様子に、フレイアは呆然と声を漏らす。


『フレイア!逃げるぞ!』

「え?」


立ち尽くす彼女と違い、俺は焦っていた。

裁きの神光(ジャッジメント・ライト)』の効力が消えてしまえば、俺達は終わる。


あれはただ光を塗り替えているのではない。

光の魔力を侵蝕し、変質させた上で吸収しているのだ。

魔力を吸収した事によるパワーアップは永続的なものではない。己の上限を超えた魔力を蓄えていても、それは時間と共に自動的に発散されてしまう。

だが、一時的とは言え、目の前の俺達を捻り潰すには十分過ぎる時間だ。


だから俺はとても焦っていた。


それ故に、生返事しか返してこないフレイアに酷く苛立った。


『このままじゃここで死ぬ!逃げるから早く乗れ!』

「え、あ……でも私も飛べ」

『俺の方が速い!急げ!』


俺はフレイアの言葉を遮った。

確かに彼女の『光の翼(ルクス・ウィング)』の速度も速いが、俺のトップスピードの方が速い上に、飛んでいる間は魔力をがんがん消費する。 先ほどまでの戦闘でもこの魔法を使いっぱなしだった彼女では、遠くに逃げる途中で魔力が枯渇してしまう。


だから早く!


俺は光の塔、改めて闇の塔に背を向け、彼女が乗り易いようにしゃがんだ。


彼女は戸惑いながらも俺の背に乗る。


よし、乗ったな。


『本気で飛ぶぞ。結界張ってしっかり掴まってろ!』


一方的に言い放つと、俺はフレイアの返事を待たずに駆け出した。


俺が墜落した時に木々を薙ぎ倒し地面を削った跡。奇しくも、それが今俺が飛び立つための滑走路の役割を果たしていた。


でこぼこしているし薙ぎ倒された木々も転がっているが、龍の踏破力を舐めてもらっては困る。


こけることもせず、翼を広げ倒れた木を踏み台にして飛び上がる。


「きゃああ!?」


背中でフレイアが悲鳴を上げているが、落ちていないなら今はそれでいい。


翼をはためかせ、風魔法で追い風を作って一気に加速する。


背中で魔力の反応を感じたので、フレイアはちゃんと結界を張ってくれたようだ。これで突風で吹き飛ばされる事はないだろう。


あまり高すぎるとフレイアが凍えてしまうので、低空をツバメのように飛ぶ。


その時。


後方で、爆発的な魔力の反応を感知した。

そして。


「ガアアァァァァァァァァァァ!!!!!」


悍しい絶叫のような大咆哮。

俺とフレイアの肩が跳ね上がる。


「いっ、急いでアル君私はまだ大丈夫だからっ!」

『あ、あたぼうよ!』


さらに追い風を強化。そして力の限り羽ばたく。


襲い来る恐怖と焦りに急き立てられ、俺はさながら弾丸のように飛んだ。

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